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第三百十一話

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 一行とは完全に離れ、先遣隊同然となった男。たった一人、けじめをつけるための戦いを挑みにかかろうとしていたのだ。
 その名も、丙良慎介。大剣を背負い、裏切り者としての汚名を敢えて被った男である。
「……信玄」
 信玄に指定された場所に向かった結果、幹部と大幹部が集っていた集会場に呼ばれた。丙良は基本的にここに来ることは一回きりであったのだが、決して慣れたくない心が内にあった。
 指定場所手前にやってきた丙良は、ある場所にデバイスにて連絡を取った。そこは、他でもない協力先である千葉支部であった。
「――和井内さんは、居ますか」
『……はい、丙良くん。どうかしたかな』
 二人の間に生まれる空気感は非常に重苦しく、これから迎えるだろう結末も容易に理解できる。
『来栖が奪った記憶に関しては……私の力でほぼ復元終了、プログラムデータとして今しがた送りました。これで……丙良くんも、信玄くんも……君たちの関係者に関しては、正しい記憶が埋め込み(インストール)されることだろう』
「――ありがとうございます、和井内さん」
 だが、きっとこれだけでは彼は困惑したまま戦いに発展してしまう。何とかして『生きて帰す』手段を、この土壇場でもどうにか思案していたのだ。しかし、行き着く結論は不可能ばかり。
 これまでの経験上、彼が満足に戻ってくる可能性は……限りなく低い。死亡する可能性すら孕んでいる。もし生きて帰ってきたとしても……一度でも名を汚した存在に居場所が存在するかと言われればそれは実に厳しいもの。
 合同演習会で学園長のケアがあったからこそ真の裏切り者たちは元気でやれているが……洗脳されたとはいえ自分の意志で向かった者に、世間での居場所は少なくなってしまう。信頼回復に重きを置かない限り、プロにすらなれずに終わる。そうして元に戻ったとしても……冷遇する一般人に絶望して洗脳抜きに教会に入信する、だなんてこともあり得るだろう。
『――君は、信玄くんを救いたいんだよね。幼馴染同然の彼を』
「……幼馴染というには、少々出会うのが遅れた気はしますが……そうですね。腐れ縁という表現が一番近い気がします」
 多くの辛いことを経験した信玄が、最も精神が脆弱だったタイミングに出会った存在こそ、丙良。ねじ曲がった心根を、図らずも矯正した存在である。
「――僕は、正直アイツの……ノッブのためなら死んだって構いません。それほどに……連れ戻したい存在なんです」
『――そうか。いい友達を持ったものだね』
 健闘を祈る、とだけ呟くと、和井内は電話を切った。その先に待つ未来がどうであれ、丙良慎介という男の意志を尊重する。例え学生だろうが何だろうが、抱く意志の強さに年齢は関係ない。彼自身をいち大人として、そして英雄として認め背中を押したのだ。

(貴方が居ながらこの様は何です)
 過去受けた心無い言葉も、
(忌々しい疫病神め)
 全て、信玄に降りかかる可能性が孕んでいる。
(私の子供を酷い目に遭わせて、詫びは無いのか)
 だから、自分がこの窮地に手を差し伸べてやらなかったらその先に未来はないのだ。

 きっと、ここで丙良の心のままに従わなかったら、一生後悔するだろう。世間の無責任な『殺害』を望む声に耳を傾けすぎて、心を病む未来は目に見えている。自分たちという存在が居なかったら、そんな暢気することなど出来ないだろうに。
 身勝手な声に、身勝手な態度に振り回された存在同士、分かるものがあるのだ。
 だからこそ、その扉を開ける。

「――久しぶりだね、ノッブ」
「……ああ、丙良……慎介か」

 あだ名などで呼び合う状況でないことは、お互い重々承知している。だが、丙良だけは救う存在として手を差し伸べ続けなければ、彼がどこか遠くへ行ってしまいそうな気がしたから、そう名を呼んだのだ。



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 一行とは完全に離れ、先遣隊同然となった男。たった一人、けじめをつけるための戦いを挑みにかかろうとしていたのだ。
 その名も、丙良慎介。大剣を背負い、裏切り者としての汚名を敢えて被った男である。
「……信玄」
 信玄に指定された場所に向かった結果、幹部と大幹部が集っていた集会場に呼ばれた。丙良は基本的にここに来ることは一回きりであったのだが、決して慣れたくない心が内にあった。
 指定場所手前にやってきた丙良は、ある場所にデバイスにて連絡を取った。そこは、他でもない協力先である千葉支部であった。
「――和井内さんは、居ますか」
『……はい、丙良くん。どうかしたかな』
 二人の間に生まれる空気感は非常に重苦しく、これから迎えるだろう結末も容易に理解できる。
『来栖が奪った記憶に関しては……私の力でほぼ復元終了、プログラムデータとして今しがた送りました。これで……丙良くんも、信玄くんも……君たちの関係者に関しては、正しい記憶が|埋め込み《インストール》されることだろう』
「――ありがとうございます、和井内さん」
 だが、きっとこれだけでは彼は困惑したまま戦いに発展してしまう。何とかして『生きて帰す』手段を、この土壇場でもどうにか思案していたのだ。しかし、行き着く結論は不可能ばかり。
 これまでの経験上、彼が満足に戻ってくる可能性は……限りなく低い。死亡する可能性すら孕んでいる。もし生きて帰ってきたとしても……一度でも名を汚した存在に居場所が存在するかと言われればそれは実に厳しいもの。
 合同演習会で学園長のケアがあったからこそ真の裏切り者たちは元気でやれているが……洗脳されたとはいえ自分の意志で向かった者に、世間での居場所は少なくなってしまう。信頼回復に重きを置かない限り、プロにすらなれずに終わる。そうして元に戻ったとしても……冷遇する一般人に絶望して洗脳抜きに教会に入信する、だなんてこともあり得るだろう。
『――君は、信玄くんを救いたいんだよね。幼馴染同然の彼を』
「……幼馴染というには、少々出会うのが遅れた気はしますが……そうですね。腐れ縁という表現が一番近い気がします」
 多くの辛いことを経験した信玄が、最も精神が脆弱だったタイミングに出会った存在こそ、丙良。ねじ曲がった心根を、図らずも矯正した存在である。
「――僕は、正直アイツの……ノッブのためなら死んだって構いません。それほどに……連れ戻したい存在なんです」
『――そうか。いい友達を持ったものだね』
 健闘を祈る、とだけ呟くと、和井内は電話を切った。その先に待つ未来がどうであれ、丙良慎介という男の意志を尊重する。例え学生だろうが何だろうが、抱く意志の強さに年齢は関係ない。彼自身をいち大人として、そして英雄として認め背中を押したのだ。
(貴方が居ながらこの様は何です)
 過去受けた心無い言葉も、
(忌々しい疫病神め)
 全て、信玄に降りかかる可能性が孕んでいる。
(私の子供を酷い目に遭わせて、詫びは無いのか)
 だから、自分がこの窮地に手を差し伸べてやらなかったらその先に未来はないのだ。
 きっと、ここで丙良の心のままに従わなかったら、一生後悔するだろう。世間の無責任な『殺害』を望む声に耳を傾けすぎて、心を病む未来は目に見えている。自分たちという存在が居なかったら、そんな暢気することなど出来ないだろうに。
 身勝手な声に、身勝手な態度に振り回された存在同士、分かるものがあるのだ。
 だからこそ、その扉を開ける。
「――久しぶりだね、ノッブ」
「……ああ、丙良……慎介か」
 あだ名などで呼び合う状況でないことは、お互い重々承知している。だが、丙良だけは救う存在として手を差し伸べ続けなければ、彼がどこか遠くへ行ってしまいそうな気がしたから、そう名を呼んだのだ。