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同室者

ー/ー



僕の毎日は退屈で同じことの繰り返しだ。
食事、排泄、採血諸々。
病院にいれば当たり前の日々かもしれないが、あまりにも変わり映えのしない毎日は、監獄で過ごしているかのような気分にさせる。
監獄にいた経験は無いけれど。
そんな日々の中でも、たまにはあるイベントがある。
人が増えることだ。
僕のベットの横のベットに新しい人が横たわる。
最初は色んな人がその人を訪ねて騒々しいけど、1ヶ月もすれば大概の人は落ち着く。静かになればまたいつもと同じだ。
その人もそのうち僕と同じように、日々の退屈を味わうだろう。
ぼんやりそんな事を思う。
「ブー!」
けたたましくナースコールが鳴った。
そうだった。
イベントと言うのは不謹慎だが、たまに人が減ることがある。それは人が死ぬこと。
周りの人は騒然として、間も無くして走る足音が聞こえてきた。
こちらに向かってきた。
どうやらナースコールはこの部屋から鳴らされたようだ。
最近同室になった若い女性の周りに人が集まっている。
彼女のお見舞いに来ていた家族が、青ざめた顔つきでナースコールを握りしめている。
カーテンを閉めていなかったのでこちらからは女性の様子が見えた。
彼女が入ってきたのは、数日前だ。
話しているところをたまたま聞いただけだが、仕事終わりの帰宅路でバイクに轢き逃げをされ意識不明になってしまったそうだ。
人通りがない道でバイクは猛スピードで走っていたとも言っていた。
家族、彼氏らしき男性などが彼女に会いにきていたが、目を覚さなかった。
「ご臨終です」
何度か聞いたことがある言葉を医者が口にした。
彼女を取り囲んでいた人たちには、泣いている人、呆然としている人、色んな人がいる。
彼氏らしき人は戸惑ったような、何とも言えない表情で病室を出ていった。
なんだか不穏な後ろ姿をしていた。
 
彼女は亡くなってしまった。

また数日していつものように変わり映えのしない日々になった。
人が死ぬのを見るのは初めてではないし、彼女と話したこともなかったので、これといって感じるものもない。
そう思っていたが、そんなこともないらしい。
年が近いように見えたからかな。
僕は30歳になる前に死ぬ。
5年前に診断されて、最初は絶望こそしたけれど仕事も人間関係もうまくいってなかったから、なんだか他人事のようにすんなり受け入れてしまった。
あまりにも退屈な病院の生活に監獄なんて例えをしたが、そうしていたのは自分かもしれない。なんて思い始めた。
人の死なんて現実味がないし、家族の死さえ骨を見るまで自覚しないこともあるだろう。
その上、自分の死なんて有り得ない。実際死んだら自分が死んだことに気が付かないかもしれない。
だけど人はいつか死ぬ。それが早いか遅いかだけだ。
周りには誰かがいて、何かを思っている。
何かの影響を与えるだろう。
僕は彼女を見て少し羨ましかった。
彼女は望んで亡くなったわけじゃないことは分かってる。
彼女の死に対してではなくて、誰かが彼女を大切に思っていたことに対してだ。
それはきっと彼女が誰かを大切に思っていたからで、お互いに思いあっていたのだろう。
彼女の家族はいつ泣き止むのだろうか。
彼女の彼氏らしき男性はあの後どうしたのだろうか。生きているだろうか。
もういいやと諦めていた僕の残りの人生も大切にしたら、彼女たちのようになれるかな。
誰かの何かになれるのかな。
彼女の死は僕の考え方を変えた。
ただの同室者である僕にすら影響を与えてしまうんだと思ったらなんだか笑ってしまった。
「笑ったの久しぶりだなあ」
もう冬が近づきだいぶ寒くなってきたが、今日は何だか暖かい気がする。



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僕の毎日は退屈で同じことの繰り返しだ。
食事、排泄、採血諸々。
病院にいれば当たり前の日々かもしれないが、あまりにも変わり映えのしない毎日は、監獄で過ごしているかのような気分にさせる。
監獄にいた経験は無いけれど。
そんな日々の中でも、たまにはあるイベントがある。
人が増えることだ。
僕のベットの横のベットに新しい人が横たわる。
最初は色んな人がその人を訪ねて騒々しいけど、1ヶ月もすれば大概の人は落ち着く。静かになればまたいつもと同じだ。
その人もそのうち僕と同じように、日々の退屈を味わうだろう。
ぼんやりそんな事を思う。
「ブー!」
けたたましくナースコールが鳴った。
そうだった。
イベントと言うのは不謹慎だが、たまに人が減ることがある。それは人が死ぬこと。
周りの人は騒然として、間も無くして走る足音が聞こえてきた。
こちらに向かってきた。
どうやらナースコールはこの部屋から鳴らされたようだ。
最近同室になった若い女性の周りに人が集まっている。
彼女のお見舞いに来ていた家族が、青ざめた顔つきでナースコールを握りしめている。
カーテンを閉めていなかったのでこちらからは女性の様子が見えた。
彼女が入ってきたのは、数日前だ。
話しているところをたまたま聞いただけだが、仕事終わりの帰宅路でバイクに轢き逃げをされ意識不明になってしまったそうだ。
人通りがない道でバイクは猛スピードで走っていたとも言っていた。
家族、彼氏らしき男性などが彼女に会いにきていたが、目を覚さなかった。
「ご臨終です」
何度か聞いたことがある言葉を医者が口にした。
彼女を取り囲んでいた人たちには、泣いている人、呆然としている人、色んな人がいる。
彼氏らしき人は戸惑ったような、何とも言えない表情で病室を出ていった。
なんだか不穏な後ろ姿をしていた。
彼女は亡くなってしまった。
また数日していつものように変わり映えのしない日々になった。
人が死ぬのを見るのは初めてではないし、彼女と話したこともなかったので、これといって感じるものもない。
そう思っていたが、そんなこともないらしい。
年が近いように見えたからかな。
僕は30歳になる前に死ぬ。
5年前に診断されて、最初は絶望こそしたけれど仕事も人間関係もうまくいってなかったから、なんだか他人事のようにすんなり受け入れてしまった。
あまりにも退屈な病院の生活に監獄なんて例えをしたが、そうしていたのは自分かもしれない。なんて思い始めた。
人の死なんて現実味がないし、家族の死さえ骨を見るまで自覚しないこともあるだろう。
その上、自分の死なんて有り得ない。実際死んだら自分が死んだことに気が付かないかもしれない。
だけど人はいつか死ぬ。それが早いか遅いかだけだ。
周りには誰かがいて、何かを思っている。
何かの影響を与えるだろう。
僕は彼女を見て少し羨ましかった。
彼女は望んで亡くなったわけじゃないことは分かってる。
彼女の死に対してではなくて、誰かが彼女を大切に思っていたことに対してだ。
それはきっと彼女が誰かを大切に思っていたからで、お互いに思いあっていたのだろう。
彼女の家族はいつ泣き止むのだろうか。
彼女の彼氏らしき男性はあの後どうしたのだろうか。生きているだろうか。
もういいやと諦めていた僕の残りの人生も大切にしたら、彼女たちのようになれるかな。
誰かの何かになれるのかな。
彼女の死は僕の考え方を変えた。
ただの同室者である僕にすら影響を与えてしまうんだと思ったらなんだか笑ってしまった。
「笑ったの久しぶりだなあ」
もう冬が近づきだいぶ寒くなってきたが、今日は何だか暖かい気がする。