ep65 酒場

ー/ー



  【4】


 夜になると、俺はシヒロを連れて街へ繰り出していた。もっと正確に言えば、いわゆる夜の街にだ。
 
「つ、次はその店ですか?」

「ああ」

「またいちだんと…」

「ガラ悪そうだろ?」

 すでに酒場も三軒目。俺たちは街のゴロツキどもがたむろしていそうな店を狙ってはしごしている。〔フリーダム〕や〔ダムド〕に繋がる何かを求めての行動だ。

「こ、怖そうな人たちがいますね」

「そうか? その気になればシヒロの方が怖いんじゃないか?」

「は、はい?」

「お前の魔法で人を焼き殺すぐらいわけないだろ」

「な、ななななにを言ってるんですか! 人に対して攻撃魔法を撃ったことなんか一度もないですから!」

「せっかく使えるのにもったいないな」

「魔物に襲われそうになった時に使ったことはありますけど、人に向けてはありません!」

 俺たちが席に着くと街のゴロツキらしき客たちは、それとなくこちらの様子をうかがうような視線をチラリと運んできた。しかしそれ以上のことは何もない。
 俺は周囲を気にしつつ、体裁で頼んだ酒のグラスを口に運ぶ素振りをする。
 小一時間ばかり過ぎると……。

「く、クローさん。あの…」

「ああ。客がやけに少なくなったな」

「な、なんかちょっと不自然じゃないですか?」

「少し妙だな」

 俺たちが入店して席に着いてから、店内の客が徐々に減っていっているのには気づいていた。だが、極めて自然とそうなっていたので、問題視はしなかった。どんな店でも客入りが悪い日はある。

「な、なんか不気味です……」

「オバケの仕業かもな」

「ちょっ! いきなり何を言うんですか!」

「苦手なのか?」

「だって怖いじゃないですか!」

「むしろオバケの仕業の方がよっぽどマシかもな」

「それはつまり……」

「まだわからない。もう少し様子をみよう」

 シヒロは小さく頷いた。
 しばらくして……。

「か、完全にぼくたちだけになりましたね」

「いつの間にか店員もいない。どうやら当たりってところだな」

「く、クローさんて」

「?」

「なんでそんなに躊躇なく危険に突っ込んでいけるんですか? 強いのはわかりますけど」

「俺には時間がないからな」

「時間? それってどういう…….」

「シヒロ。立て」

「えっ」

 まるで寝静まったような静けさに包まれる。明らかに夜の酒場とは思えない。店内から外は見えない構造になっており、より不気味さをかきたてる。
 俺はシヒロを促して立ち上がると「〔グラディウス〕」魔導剣を握った。

 それからほんの数秒後だ。
 ドガァァァァン!
 突如として凄まじい轟音が鬼のように降り注ぐ。吹き飛ぶ椅子、跳ねかえる机。酒場全体に地殻変動の如き激震が走る。

「うわぁっ!!」
「シヒロ!」

 天井および壁が息を合わせて滝のようにドドドドッと崩れ落ちてくる。
 ほどなくして……。

「……く、クローさん」
「大丈夫だ」

 俺はシヒロを抱き寄せて酒場の外に立っていた。背後には無惨にも瓦礫の山と化した酒場の残骸があった。

「テロか!?」
「あぶねーぞ!」
「に、逃げろ!」

 周辺は突然の脅威に混乱していた。
 
『今のは魔法ですね』
 
 謎の声が言う。俺も同意見だ。

『ああ。しかも明らかに俺たちを狙ってたな』

『薄々勘づいていたのでしょう?』

『お前の〔空間転移〕で何とかなると思っていたからな』

『お分かりでしょうが乱発はできませんので無駄な使用はお控えに』

『無駄ではないさ。おかげで敵さんのお出ましだ』
 前方の建物の屋根を見上げた。
「すいぶんな挨拶だな。〔フリーダム〕」

「魔剣使い! 貴様、時空魔法も操れるのか!?」

「さあな。で、なんの用だ?」

「何の用だ? だと? フザケけるな!」

 無機質な人面をかたどった仮面を顔面にへばり付け、つなぎのような服を着た輩どもが武器を持ってゾロゾロと不穏に佇んでいた。俺に応答したヤツは手に杖を持っている。

「く、クローさん! もしかしてあの人、ぼくとクローさんがはじめて出会った日に出くわした魔術師と同一人物なんじゃ……」

「あの時の魔術師か」

「チッ! 今度こそ貴様を殺せるはずだったんだ! クソ!」

 仮面の魔術師が怒りと悔しさを露わにした。


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  【4】
 夜になると、俺はシヒロを連れて街へ繰り出していた。もっと正確に言えば、いわゆる夜の街にだ。
「つ、次はその店ですか?」
「ああ」
「またいちだんと…」
「ガラ悪そうだろ?」
 すでに酒場も三軒目。俺たちは街のゴロツキどもがたむろしていそうな店を狙ってはしごしている。〔フリーダム〕や〔ダムド〕に繋がる何かを求めての行動だ。
「こ、怖そうな人たちがいますね」
「そうか? その気になればシヒロの方が怖いんじゃないか?」
「は、はい?」
「お前の魔法で人を焼き殺すぐらいわけないだろ」
「な、ななななにを言ってるんですか! 人に対して攻撃魔法を撃ったことなんか一度もないですから!」
「せっかく使えるのにもったいないな」
「魔物に襲われそうになった時に使ったことはありますけど、人に向けてはありません!」
 俺たちが席に着くと街のゴロツキらしき客たちは、それとなくこちらの様子をうかがうような視線をチラリと運んできた。しかしそれ以上のことは何もない。
 俺は周囲を気にしつつ、体裁で頼んだ酒のグラスを口に運ぶ素振りをする。
 小一時間ばかり過ぎると……。
「く、クローさん。あの…」
「ああ。客がやけに少なくなったな」
「な、なんかちょっと不自然じゃないですか?」
「少し妙だな」
 俺たちが入店して席に着いてから、店内の客が徐々に減っていっているのには気づいていた。だが、極めて自然とそうなっていたので、問題視はしなかった。どんな店でも客入りが悪い日はある。
「な、なんか不気味です……」
「オバケの仕業かもな」
「ちょっ! いきなり何を言うんですか!」
「苦手なのか?」
「だって怖いじゃないですか!」
「むしろオバケの仕業の方がよっぽどマシかもな」
「それはつまり……」
「まだわからない。もう少し様子をみよう」
 シヒロは小さく頷いた。
 しばらくして……。
「か、完全にぼくたちだけになりましたね」
「いつの間にか店員もいない。どうやら当たりってところだな」
「く、クローさんて」
「?」
「なんでそんなに躊躇なく危険に突っ込んでいけるんですか? 強いのはわかりますけど」
「俺には時間がないからな」
「時間? それってどういう…….」
「シヒロ。立て」
「えっ」
 まるで寝静まったような静けさに包まれる。明らかに夜の酒場とは思えない。店内から外は見えない構造になっており、より不気味さをかきたてる。
 俺はシヒロを促して立ち上がると「〔グラディウス〕」魔導剣を握った。
 それからほんの数秒後だ。
 ドガァァァァン!
 突如として凄まじい轟音が鬼のように降り注ぐ。吹き飛ぶ椅子、跳ねかえる机。酒場全体に地殻変動の如き激震が走る。
「うわぁっ!!」
「シヒロ!」
 天井および壁が息を合わせて滝のようにドドドドッと崩れ落ちてくる。
 ほどなくして……。
「……く、クローさん」
「大丈夫だ」
 俺はシヒロを抱き寄せて酒場の外に立っていた。背後には無惨にも瓦礫の山と化した酒場の残骸があった。
「テロか!?」
「あぶねーぞ!」
「に、逃げろ!」
 周辺は突然の脅威に混乱していた。
『今のは魔法ですね』
 謎の声が言う。俺も同意見だ。
『ああ。しかも明らかに俺たちを狙ってたな』
『薄々勘づいていたのでしょう?』
『お前の〔空間転移〕で何とかなると思っていたからな』
『お分かりでしょうが乱発はできませんので無駄な使用はお控えに』
『無駄ではないさ。おかげで敵さんのお出ましだ』
 前方の建物の屋根を見上げた。
「すいぶんな挨拶だな。〔フリーダム〕」
「魔剣使い! 貴様、時空魔法も操れるのか!?」
「さあな。で、なんの用だ?」
「何の用だ? だと? フザケけるな!」
 無機質な人面をかたどった仮面を顔面にへばり付け、つなぎのような服を着た輩どもが武器を持ってゾロゾロと不穏に佇んでいた。俺に応答したヤツは手に杖を持っている。
「く、クローさん! もしかしてあの人、ぼくとクローさんがはじめて出会った日に出くわした魔術師と同一人物なんじゃ……」
「あの時の魔術師か」
「チッ! 今度こそ貴様を殺せるはずだったんだ! クソ!」
 仮面の魔術師が怒りと悔しさを露わにした。