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SCENE074 差し入れをどうぞ

ー/ー



「はあ、僕がダンジョンマスターになってからもうひと月以上経ってるのかぁ……」

 携帯電話の画面を見ながら、僕はついつぶやいてしまう。

「もうそんなに経ちましたかな。時の流れというものは分からぬものですなぁ」

 僕のつぶやきに対して、バトラーはとてものんきなことを言っていた。
 だけど、僕がこのダンジョンにやってくるまでの約十年間くらいずっとこのダンジョンにいたらしいから、時間の経過なんてどうでもいいことなんだろうなって思う。こういうところは人間とは違うんだなって思うな。

 ~♪

 突然、携帯電話から音楽が流れ始める。画面を見たら、発信元は衣織お姉さんだった。

「どうしたの、衣織お姉さん」

『瞬、管理局の人とダンジョンの入口まで来てるんだ。出迎えに来てもらっていいか?』

「それは構わないよ。バトラーも一緒でいい?」

『問題ない。それじゃ待ってるぞ』

 電話に出て会話をしたんだけど、なんともよく分からない。どことなく声が嬉しそうだったんだけど、どういうことなんだろうかな。
 とりあえず、僕はバトラーと一緒に出迎えに行くことにした。

 ダンジョンの入口までやってくると、衣織お姉さん以外にも谷地さんと日下さんの二人が一緒にいた。ダンジョン管理局の人と一緒って言ってたけど、いつものメンバーだった。
 ……衣織お姉さん、もしかして名前覚えてないんじゃ?
 僕はつい勘ぐってしまう。

「谷地さん、日下さん。今日はどうされたんですか?」

 衣織お姉さんとはさっき話をしたので、僕は管理局の人たちと話をする。

「ダンジョン体験の第二回が決まりました。当選者にはメールを送りましたので、次の次の土日に、このダンジョンにやってくるかと思います」

「ああ、体験の第二弾がいよいよなんですね。僕も張り切っちゃいますよ」

 谷地さんからの話に、僕は両腕で力こぶを作るような動作をする。
 前回のダンジョン体験から思ったよりも日数が経っているからね。本当に楽しみでしょうがない。

「とりあえず、差し入れを持ってきましたので、食べながらお話ということでいいでしょうか」

「わぁ、それはいいですね。バトラー、お茶を用意してもらってもいい?」

「かしこまりました、プリンセス」

 どんな差し入れなのか楽しみにしながら、僕たちはボス部屋へと戻っていく。

 ボス部屋に到着して、丸いテーブルに椅子を四脚並べて、僕たちは早速差し入れを見せてもらうことにする。

「バトラーは座らなくていいの?」

「執事とは常に主のそばで立っているものでございます。我には椅子はもったいのうございます」

 僕の質問に、バトラーはそう答えていた。そういえば、執事ってそういうものだったね。
 でも、正直言って僕の方が椅子が要らない気がするんだよね。今はだいぶ慣れたけれど、この蛇の下半身のおかげで、最初は椅子に座っても違和感がすごかった。
 まっ、今はそれよりも谷地さんたちの差し入れの方が気になる。一体どんなものが出てくるんだろう。
 テーブルの上に並べられたのは、なんともおいしそうなフルーツタルトだった。

「日下がわざわざ車で出かけていって買ってきました。人気のお店のデザートでしたので、人数分の購入は大変だったそうですよ」

「これってジュクシン堂のフルーツタルトだよね? これ、食べてみたかったんだぁ」

 僕は目の前のフルーツタルトに感動してしまう。
 その僕の姿を見た衣織お姉さんは、満足そうに微笑んでいる。

「衣織お姉さん?」

「いや。どんな姿でも瞬は可愛いなと思ってな」

「もう……。こんな姿でも僕は男の子だったんだから、可愛いって言わないでくれる?」

 揺るがない衣織お姉さんに、僕はつい文句を言ってしまう。でも、プリンセスって日々言われ続けているせいか、可愛いって言われて嬉しくなったのは事実なんだよね。
 はあ、僕はだんだんと女の子になっていっちゃってるみたいだ。困ったなぁ。

「いっただきまーす」

 僕は両手を合わせて挨拶をすると、早速一口すくって口に入れる。
 口に入れた瞬間、なんとも言い難い別世界が広がった気がした。

「う~ん、甘い、おいしい」

 スプーンを持っていない手の方で頬を押さえながら、つい感想を漏らしていしまう。

「お口に合ったようでなによりです」

「モンスターになったことで味覚が変わってないかと思いましたが、大して違わないのかもしれないですね」

 管理局の二人は、僕の姿と感想でほっと安心したようだ。
 って、なんで衣織お姉さんは携帯電話を構えているのかな。

「衣織お姉さん、写真撮らないでよ」

「なにをいう。瞬の可愛い姿は残しておいてこそだろう。ええい、怒った顔も可愛いぞ、瞬!」

「もう、魅了が解けてもまったく変わらないんだから!」

 衣織お姉さんの僕に対する態度は、魅了が有無に関係なくまったく変わらない。もう、なんなんだよ、これ。
 そもそも、衣織お姉さんたちは第二回のダンジョン体験の話をしに来たはず。なんでこうなっちゃってんだよ。
 結局、僕と衣織お姉さんのこのごたごたしたやり取りは、フルーツタルトを食べ終わるまで続けられることになってしまった。
 ようやく話をする雰囲気になった頃には、衣織お姉さんの相手で僕は疲れ果ててしまっていたのだった。


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「はあ、僕がダンジョンマスターになってからもうひと月以上経ってるのかぁ……」
 携帯電話の画面を見ながら、僕はついつぶやいてしまう。
「もうそんなに経ちましたかな。時の流れというものは分からぬものですなぁ」
 僕のつぶやきに対して、バトラーはとてものんきなことを言っていた。
 だけど、僕がこのダンジョンにやってくるまでの約十年間くらいずっとこのダンジョンにいたらしいから、時間の経過なんてどうでもいいことなんだろうなって思う。こういうところは人間とは違うんだなって思うな。
 ~♪
 突然、携帯電話から音楽が流れ始める。画面を見たら、発信元は衣織お姉さんだった。
「どうしたの、衣織お姉さん」
『瞬、管理局の人とダンジョンの入口まで来てるんだ。出迎えに来てもらっていいか?』
「それは構わないよ。バトラーも一緒でいい?」
『問題ない。それじゃ待ってるぞ』
 電話に出て会話をしたんだけど、なんともよく分からない。どことなく声が嬉しそうだったんだけど、どういうことなんだろうかな。
 とりあえず、僕はバトラーと一緒に出迎えに行くことにした。
 ダンジョンの入口までやってくると、衣織お姉さん以外にも谷地さんと日下さんの二人が一緒にいた。ダンジョン管理局の人と一緒って言ってたけど、いつものメンバーだった。
 ……衣織お姉さん、もしかして名前覚えてないんじゃ?
 僕はつい勘ぐってしまう。
「谷地さん、日下さん。今日はどうされたんですか?」
 衣織お姉さんとはさっき話をしたので、僕は管理局の人たちと話をする。
「ダンジョン体験の第二回が決まりました。当選者にはメールを送りましたので、次の次の土日に、このダンジョンにやってくるかと思います」
「ああ、体験の第二弾がいよいよなんですね。僕も張り切っちゃいますよ」
 谷地さんからの話に、僕は両腕で力こぶを作るような動作をする。
 前回のダンジョン体験から思ったよりも日数が経っているからね。本当に楽しみでしょうがない。
「とりあえず、差し入れを持ってきましたので、食べながらお話ということでいいでしょうか」
「わぁ、それはいいですね。バトラー、お茶を用意してもらってもいい?」
「かしこまりました、プリンセス」
 どんな差し入れなのか楽しみにしながら、僕たちはボス部屋へと戻っていく。
 ボス部屋に到着して、丸いテーブルに椅子を四脚並べて、僕たちは早速差し入れを見せてもらうことにする。
「バトラーは座らなくていいの?」
「執事とは常に主のそばで立っているものでございます。我には椅子はもったいのうございます」
 僕の質問に、バトラーはそう答えていた。そういえば、執事ってそういうものだったね。
 でも、正直言って僕の方が椅子が要らない気がするんだよね。今はだいぶ慣れたけれど、この蛇の下半身のおかげで、最初は椅子に座っても違和感がすごかった。
 まっ、今はそれよりも谷地さんたちの差し入れの方が気になる。一体どんなものが出てくるんだろう。
 テーブルの上に並べられたのは、なんともおいしそうなフルーツタルトだった。
「日下がわざわざ車で出かけていって買ってきました。人気のお店のデザートでしたので、人数分の購入は大変だったそうですよ」
「これってジュクシン堂のフルーツタルトだよね? これ、食べてみたかったんだぁ」
 僕は目の前のフルーツタルトに感動してしまう。
 その僕の姿を見た衣織お姉さんは、満足そうに微笑んでいる。
「衣織お姉さん?」
「いや。どんな姿でも瞬は可愛いなと思ってな」
「もう……。こんな姿でも僕は男の子だったんだから、可愛いって言わないでくれる?」
 揺るがない衣織お姉さんに、僕はつい文句を言ってしまう。でも、プリンセスって日々言われ続けているせいか、可愛いって言われて嬉しくなったのは事実なんだよね。
 はあ、僕はだんだんと女の子になっていっちゃってるみたいだ。困ったなぁ。
「いっただきまーす」
 僕は両手を合わせて挨拶をすると、早速一口すくって口に入れる。
 口に入れた瞬間、なんとも言い難い別世界が広がった気がした。
「う~ん、甘い、おいしい」
 スプーンを持っていない手の方で頬を押さえながら、つい感想を漏らしていしまう。
「お口に合ったようでなによりです」
「モンスターになったことで味覚が変わってないかと思いましたが、大して違わないのかもしれないですね」
 管理局の二人は、僕の姿と感想でほっと安心したようだ。
 って、なんで衣織お姉さんは携帯電話を構えているのかな。
「衣織お姉さん、写真撮らないでよ」
「なにをいう。瞬の可愛い姿は残しておいてこそだろう。ええい、怒った顔も可愛いぞ、瞬!」
「もう、魅了が解けてもまったく変わらないんだから!」
 衣織お姉さんの僕に対する態度は、魅了が有無に関係なくまったく変わらない。もう、なんなんだよ、これ。
 そもそも、衣織お姉さんたちは第二回のダンジョン体験の話をしに来たはず。なんでこうなっちゃってんだよ。
 結局、僕と衣織お姉さんのこのごたごたしたやり取りは、フルーツタルトを食べ終わるまで続けられることになってしまった。
 ようやく話をする雰囲気になった頃には、衣織お姉さんの相手で僕は疲れ果ててしまっていたのだった。