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SCENE073 ある日の管理局職員

ー/ー



 私はダンジョン管理局の職員の谷地だ。
 今日も同僚の日下と一緒に、例のダンジョンでのダンジョン体験プログラムの計画を練っている。
 時々ダンジョンに出向いて、ウィンクと名乗るダンジョンマスターとバトラーと名乗る部下の二人と話をしている。
 バトラーというモンスターの方は時々話が通じないが、かなり合理的な考え方をしているので、話は参考になる。
 一方のダンジョンマスターのウィンクの方は、もともと私たちと同じ人間ということもあってか、感性が近い。ただ、まだ子どもなので世間知らずなところがありそうだった。

「谷地さん、体験学習について、結構応募が来ているようですよ」

 同僚の日下がメールをチェックしながら、私に話しかけてくる。

「おお、そうか。どれどれ……」

 私もそのメールボックスを見させてもらう。
 対象年齢は二十未満ということにしてあるのだが、よく見ると対象年齢以外からも応募が来ている。中には、現役バリバリの探索者からの応募もあった。

「これがウィンクちゃんの人気なんでしょうね」

「かもな。だが、彼女はラミアプリンセスで魅了持ちだ。そうやって魅了された人物も混ざっているだろうから、慎重に選ばないとな」

「そうですね」

 このウィンクというダンジョンマスターは、元人間ということもあって、なぜか配信用のドローンを所持している。そのドローンを使用して、時折ダンジョンから配信をしているのだ。
 かくいう私たちも、それで彼女の存在を知った口なのだが……。

「ルールはルールだから、二十歳以上の申し込みは一律で蹴ってくれ。普通にダンジョンに来てもらえれば、入口で手続きをした上で中には入れるという旨の返信をつけてな」

「承知しました。では、早速返信をしますね」

「ああ、頼む。私は十五歳から十九歳の応募者を抽選する手続きに入るよ。施設の広さ上、数名ずつしか受け入れられないからな」

「ですね。早く拡張できるといいのですけれど……」

「まあ、ダンジョンポイントっていうのが必要らしいからな。そう簡単にはいかんのだろう」

 私たちは話をしながら、対応に苦慮していた。

「あっ、そうだ、谷地さん」

「なんだ?」

 抽選に入ろうとしたところで、私は日下に再び声をかけられる。

「横浜ダンジョンが、探索者育成の場となるみたいですよ。今来たお知らせに書いてありますよ」

「また急な話だな。横浜ダンジョンといえば、復活できるとかいうダンジョンだったな。どういう経緯でそういうことになったんだ?」

「とりあえずお知らせを読んでみましょうよ」

「……そうだな」

 私たちは一緒にお知らせに目を通していく。
 どうやら、横浜ダンジョンのマスターであるセイレーンというモンスターとの間で協定が結ばれたらしい。死んでも復活できるという、現状横浜ダンジョン以外ではあまり聞かないシステムを利用して、探索者を育成するらしい。

「横浜ダンジョンは六階層までしか攻略されていませんからね。暇を持て余したダンジョンマスターの戯れっていうところでしょうかね」

「どうなんだろうな。というか、どうやってダンジョンマスターとコンタクトを取ったのだろうか。気になるところだな……」

「そうですね。地球規模の大災害に見舞われてから、もう十数年経ちますが、ダンジョンはいまだに多くの謎に包まれていますからね。こういうわけの分からないことも、起きうるのでしょうね」

「かも知れない。とりあえずは続報を黙って待つことにしようか。私たちには私たちのやらなければならないことがあるからな」

「はい」

 私たちは話を終えて、抽出した体験希望者たちを抽選にかける。
 選ばれた四人の探索者見習いに対して、私はメールを送っていく。応募に際して日付や注意事項は書いてあったのだが、この当選メールにもそれをもう一回しっかりと明記しておく。
 それにしても、ダンジョン管理局までの交通費は自費負担だというのに、よくこれだけ応募が集まるものだ。ウィンクというモンスターの魅力が、それだけあるということなのだろうな。
 このおかげで、私たちダンジョン管理局というものの存在が、さらに重要性を増してきているのだから、こちらとしてもありがたいことだ。ダンジョンから連れ出せるのなら、お礼にどこかに食事に誘ってやりたいものだな。

「……何をにやけているんですか、谷地さん」

「な、何でもない。私の顔、そんなに緩んでいたか?」

「ええ、それはとても。なんかやましいことでも考えていたんですか?」

「そんなわけないだろうが。ただ、このダンジョン体験を通じて、私たちダンジョン管理局の存在が重要度を増してきているだろう。ちょっとくらいお礼をしてやりたいなと思ってな」

「なるほどですね。それは私も賛成ですね。どうです、今度の訪問の際に何か持っていきませんか?」

「ああ、そういう方法もあるのか」

 私は日下の意見に感心していた。そうだよ。連れ出せないのなら、こちらからごちそうを持ち込めばいいのだ。

「次の訪問に際に、ケーキでも持っていくか?」

「それはいいですね。私、いいお店を知っていますよ」

「そうか。なら、頼んだぞ」

「任せて下さい」

 お礼の差し入れという話を済ませた私たちは、済ませるべき仕事をさっさと片付ける。

 探索者適性はあったものの、過去に断念してこの仕事に就いたのだが、今が一番楽しくてたまらないようだ。
 本当に、ウィンクには感謝しかないというものだよ。


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 私はダンジョン管理局の職員の谷地だ。
 今日も同僚の日下と一緒に、例のダンジョンでのダンジョン体験プログラムの計画を練っている。
 時々ダンジョンに出向いて、ウィンクと名乗るダンジョンマスターとバトラーと名乗る部下の二人と話をしている。
 バトラーというモンスターの方は時々話が通じないが、かなり合理的な考え方をしているので、話は参考になる。
 一方のダンジョンマスターのウィンクの方は、もともと私たちと同じ人間ということもあってか、感性が近い。ただ、まだ子どもなので世間知らずなところがありそうだった。
「谷地さん、体験学習について、結構応募が来ているようですよ」
 同僚の日下がメールをチェックしながら、私に話しかけてくる。
「おお、そうか。どれどれ……」
 私もそのメールボックスを見させてもらう。
 対象年齢は二十未満ということにしてあるのだが、よく見ると対象年齢以外からも応募が来ている。中には、現役バリバリの探索者からの応募もあった。
「これがウィンクちゃんの人気なんでしょうね」
「かもな。だが、彼女はラミアプリンセスで魅了持ちだ。そうやって魅了された人物も混ざっているだろうから、慎重に選ばないとな」
「そうですね」
 このウィンクというダンジョンマスターは、元人間ということもあって、なぜか配信用のドローンを所持している。そのドローンを使用して、時折ダンジョンから配信をしているのだ。
 かくいう私たちも、それで彼女の存在を知った口なのだが……。
「ルールはルールだから、二十歳以上の申し込みは一律で蹴ってくれ。普通にダンジョンに来てもらえれば、入口で手続きをした上で中には入れるという旨の返信をつけてな」
「承知しました。では、早速返信をしますね」
「ああ、頼む。私は十五歳から十九歳の応募者を抽選する手続きに入るよ。施設の広さ上、数名ずつしか受け入れられないからな」
「ですね。早く拡張できるといいのですけれど……」
「まあ、ダンジョンポイントっていうのが必要らしいからな。そう簡単にはいかんのだろう」
 私たちは話をしながら、対応に苦慮していた。
「あっ、そうだ、谷地さん」
「なんだ?」
 抽選に入ろうとしたところで、私は日下に再び声をかけられる。
「横浜ダンジョンが、探索者育成の場となるみたいですよ。今来たお知らせに書いてありますよ」
「また急な話だな。横浜ダンジョンといえば、復活できるとかいうダンジョンだったな。どういう経緯でそういうことになったんだ?」
「とりあえずお知らせを読んでみましょうよ」
「……そうだな」
 私たちは一緒にお知らせに目を通していく。
 どうやら、横浜ダンジョンのマスターであるセイレーンというモンスターとの間で協定が結ばれたらしい。死んでも復活できるという、現状横浜ダンジョン以外ではあまり聞かないシステムを利用して、探索者を育成するらしい。
「横浜ダンジョンは六階層までしか攻略されていませんからね。暇を持て余したダンジョンマスターの戯れっていうところでしょうかね」
「どうなんだろうな。というか、どうやってダンジョンマスターとコンタクトを取ったのだろうか。気になるところだな……」
「そうですね。地球規模の大災害に見舞われてから、もう十数年経ちますが、ダンジョンはいまだに多くの謎に包まれていますからね。こういうわけの分からないことも、起きうるのでしょうね」
「かも知れない。とりあえずは続報を黙って待つことにしようか。私たちには私たちのやらなければならないことがあるからな」
「はい」
 私たちは話を終えて、抽出した体験希望者たちを抽選にかける。
 選ばれた四人の探索者見習いに対して、私はメールを送っていく。応募に際して日付や注意事項は書いてあったのだが、この当選メールにもそれをもう一回しっかりと明記しておく。
 それにしても、ダンジョン管理局までの交通費は自費負担だというのに、よくこれだけ応募が集まるものだ。ウィンクというモンスターの魅力が、それだけあるということなのだろうな。
 このおかげで、私たちダンジョン管理局というものの存在が、さらに重要性を増してきているのだから、こちらとしてもありがたいことだ。ダンジョンから連れ出せるのなら、お礼にどこかに食事に誘ってやりたいものだな。
「……何をにやけているんですか、谷地さん」
「な、何でもない。私の顔、そんなに緩んでいたか?」
「ええ、それはとても。なんかやましいことでも考えていたんですか?」
「そんなわけないだろうが。ただ、このダンジョン体験を通じて、私たちダンジョン管理局の存在が重要度を増してきているだろう。ちょっとくらいお礼をしてやりたいなと思ってな」
「なるほどですね。それは私も賛成ですね。どうです、今度の訪問の際に何か持っていきませんか?」
「ああ、そういう方法もあるのか」
 私は日下の意見に感心していた。そうだよ。連れ出せないのなら、こちらからごちそうを持ち込めばいいのだ。
「次の訪問に際に、ケーキでも持っていくか?」
「それはいいですね。私、いいお店を知っていますよ」
「そうか。なら、頼んだぞ」
「任せて下さい」
 お礼の差し入れという話を済ませた私たちは、済ませるべき仕事をさっさと片付ける。
 探索者適性はあったものの、過去に断念してこの仕事に就いたのだが、今が一番楽しくてたまらないようだ。
 本当に、ウィンクには感謝しかないというものだよ。