表示設定
表示設定
目次 目次




13話 キラーツインズ

ー/ー



「くたばれ『コロシ部』!」

「死にさらせ『コロシ部』!」

 二人の少女が亞矢の「Aショップ」から吹き出す粉塵を見て歓喜し、その場で右腕を組んでぐるぐると回る。

「祝『コロシ部』壊滅ということでー」

「我々『キラーツインズ』には臨時収入というわけでー」

 腕を組んだまま二人は足を高く上げる。

「お寿司!」

「焼肉!」

 彼女たちが動くごとに、それぞれ逆の位置に結んだサイドテールが揺れる。

 そして鏡合わせのような同じ顔を突き合わせた。

「え?」

「は?」

 一方は黒いスーツ、黒ネクタイに白いシャツ。

 もう一方は白いスーツ、白ネクタイに黒いシャツ。

 顔立ちからして年齢は二人ともまだ十四歳ほどで、高級そうなスーツ姿に不自然さはあったが、丈はぴったりと合っている。

「ということは? そういう時は?」

「肉寿司!」

 息の合った二人が高らかに宣言した後、彼女らは両手を挙げてハイタッチしようとする……が黒いスーツの少女の左手が空を切る。

 彼女の左腕は肘から先がなく、袖が宙でぶらぶらと揺れていた。

「お箸が持てればどうでもいいから左手のことなんか忘れてたよー」

「うん。撃ちこむのは左から、えらいえらい!」

 瓜二つどころか、二人の少女シロとクロは全く同じ笑みを浮かべていた。

 すると店の入り口を覆っていた土煙から稲妻のように金髪の少女が飛び出した。

「同じ顔でヘラヘラすんな、気持ち悪い!」

 すると白スーツが一歩下がり、黒スーツの少女が片腕で迎え撃つ体勢を取る。

 対してアカネは刀身の半ばで折れた愛刀「義理切(ギリギリ)」を抜刀。

「折れてんじゃん!」

「半分じゃん!」

 二人はアカネの刀の指差して笑う。

 短くなった刀では届かない距離で、アカネが刀を振り上げる。

「っせえ! バカが!」

 彼女は折れたばかりの愛刀に慣れず、間合いを違えたのではない。

 アカネは振り上げた刀ではなく、鞘を黒スーツの右腕に叩きつけたのだ。

 そして、残された右腕が宙を舞った。

「うっそ!?」

「マージ!?」

 アカネの「何でも切る」能力は刀だけに適用されるものではない。

 ただ相手の攻撃を防ぐため、ばら撒かれる銃弾を弾くために、硬くて振りやすいものがよかったというだけの話。

 言ってしまえば模造刀でも、鉄パイプでもよかった。

 彼女たち「アドバンス」の力は後天的に発現するものではない。が、アカネはそれを家族を始めとした全てのしがらみを断ち切るためのものだと思っていた。

「どうだバカチビども! 右腕は授業料だと思って置いて行きなぁ!」

「下がれ、バカネ!」

 後方からの切羽詰まった渚の叫び声に、思わず振り返ってしまうアカネ。

 振り向いた彼女の目には映っていなかった。

 両腕のない体で跳躍し、切り落とされた右腕を器用に蹴る黒スーツの少女の姿が。

 切断された右腕がアカネの頭部に吸い込まれるように放物線を描く。

「クロ、ナイッシュー!」

「サンキューシロ! スイッチオン!」

 そして切り落とされた右腕が爆発した。

 亞矢が廃材で組み上げた「Aショップ」の壁に、吹き飛ばされたアカネが突っ込む。

「あれ? どうしたのクロ? あの金髪、まだ頭付いてるけど」

「ええ? ホントだねシロ。まだ生きてるよ。早く殺さなきゃ」

 爆発を相殺する「念波」を放ちアカネを救ったのは渚だった。

 最初の「Aショップ」を襲った爆発。その起点となったのが人間の腕だということに、まず渚が気付いたのだ。

 そして不死性を活かして仲間を助ける行動を訓練生時代に叩き込まれた凛子が腕爆弾を抑え込んだため、店内から犠牲者は出なかった。

 しかし渚が敵の攻撃手段を伝える前にアカネが飛び出していってしまったのだ。

 白黒スーツの黒いスーツ、通称クロは「肉体を爆弾化」することができた。

 爆弾にした部位の質量が多いほど威力は高まり、爆弾としての威力も純粋な爆薬より高い。

 だが既に両腕を失ったクロの姿を見ればわかるように、この力は明らかな欠陥能力。

 故にクロは訓練生時代、教官から能力の使用を固く禁じられていた。

 身寄りも無く「アドバンス」としての力しか拠り所の無い彼女にとって、能力の否定や制限は存在そのものの否定に等しかった。

 しかしクロは、どんな「アドバンス」にも使い道を見つけると評判の軍本部から「血液を爆弾とする暗殺者」として、「東京軍」特殊部隊へスカウトされたのだ。

 そしてクロはそのスカウトを蹴った。

 それは自身の弱点を補う最高のパートナー、シロを見つけたからだった。

「じゃ、次いってみましょーかー」

「どっちから行く? 右? 左?」

「右ー!」

 クロは子供の靴を飛ばす遊びのように、ぷらぷらと足を振る。

 だが彼女が飛ばすのは靴ではなく、爆弾だ。

 右足の根本で爆発を起こし、アカネ目がけて勢いよく右足そのものを発射した。

「はいはいはいはい! 死ーね! はい! 死ーね!」

「はい! 死ね死ね死ね死ね! うりゃうりゃうりゃうりゃ!」

 爆発の反動で倒れ、左足しか残っていないクロはというと、寝転びながらシロと大騒ぎ。

 腕のないクロの代わりにシロが手拍子を打つ。

 そして二人は残った左足で店を完全に吹き飛ばすつもりだった。

 しかし、その右足を掴んで一人の少女が店から出てくる。

 漆黒の髪にセーラー服の少女。ルナ。

 彼女の「引き寄せ」る力で爆弾と化したクロの足をキャッチしたのだ。

「スイッチオン!」

 予想外の事態ではあったが、クロはすがさず右足を起爆して敵であるルナの抹殺を図る。

 次の瞬間。

 ルナが手を振ると、足がクロとシロの間に引き戻され爆発した。

 ルナはただ足を「引き寄せ」るために縮めた空間を元に戻して「反発」させただけ。

「こっちの双子問題が解決してないのに、新しい双子なんか出てこないでよ」

 ルナは焼け焦げた肉片と化した刺客に向けて、うんざりとした様子で言うのだった。

 *

「いやーやるねー! Cランクのくせに! ねえシロ?」

「敵をランクで判断しちゃいけないって何度も言われてるでしょ? クロ?」

 自らの爆弾で爆死したと思われたシロとクロであったが、そこから百メートルほど離れた物陰で何事もなかったかのように会話する二人。

 シロは言うまでもなく、クロも手足が戻り五体満足で、纏ったスーツにも汚れ一つない。

「またここに戻れるように、置いていくから」

「地味に痛いんだよなー。これ」

 シロとクロは自らの小指をナイフ切り落とし、互いに絡ませるようにして地面に置いた。

 それがシロの能力発動の起点となる。

「手足を爆発させる方が痛いでしょー」

「自分で切り取るってなんか嫌でしょー」

 能力は発動さえすればいいと考える無頓着なクロに対して、シロは自身の能力を「赤い糸」と名付けていた。

 それは自らの一部を切り離した場所をチェックポイントとし、死んだ際に自身ともう一人までその地点に復活することのできる能力。

 つまりシロの力は自然の法則を捻じ曲げる「アドバンス」としての力の極致だった。

 そのため彼女と組むクロは後先考えずに手足を爆弾にすることができたのだ。

 そしてシロとクロは、当初の計画である「正面から一度派手に負けて、手の内を晒した敵を殺す」作戦を実行に移すため動き出す。

 敵の前でふざけていたのは二人の素の性格でもあるが、敵を打って出てこさせるための挑発行為。

 シロとクロの前に、爆発音を聞きつけて集まったボロを着た地下鉄の現地民……に見せかけた傭兵たちが銃器を手に整列した。

「この任務に参加した以上、あんたたちの命はもうないものと思ってねー」

「でも成功したら大金だよ。そこらで命張ったくらいじゃ手に入らないくらいのねー」

 ふざけた調子の少女二人に絶句する傭兵たち。

「じゃあカラレスの計画通りに行こうか!」

「嬢ちゃん。カラレスって『色鬼』カラレスのことか? あんな無茶振り野郎からの依頼なんて聞いてねえぞ」

 一人の傭兵が口を出すと、シロとクロは顔を見合わせる。

「うるせーなー。作戦直前じゃなかったら殺してたところだったよー。ねえシロ」

「ホントだよねクロ。あんたたちの命は私たちが買ったの。しゃべんな」

 殺気を露わにした「アドバンス」の少女たちに思わず気圧されてしまう、歴戦の傭兵たち。

「じゃあ今度こそカラレスの計画を伝えるから、傾聴するよーに」

「次こそなんか口答えしたら殺すから。黙って聞くよーに」

 何度死んでもやり直せるが故に、命に対する意識が希薄な二人の少女に与えられた計画はこの上なく人命を軽視したものだった。

 計画立案者は彼女たちの上役であるカラレス。

 無色の名を冠するその人物は柊陽向の信奉者であり、泳がせていた陽向の元研究員・香川に接触したルナたちを排除しにかかったのである。


次のエピソードへ進む 14話 お仕舞


みんなのリアクション

「くたばれ『コロシ部』!」
「死にさらせ『コロシ部』!」
 二人の少女が亞矢の「Aショップ」から吹き出す粉塵を見て歓喜し、その場で右腕を組んでぐるぐると回る。
「祝『コロシ部』壊滅ということでー」
「我々『キラーツインズ』には臨時収入というわけでー」
 腕を組んだまま二人は足を高く上げる。
「お寿司!」
「焼肉!」
 彼女たちが動くごとに、それぞれ逆の位置に結んだサイドテールが揺れる。
 そして鏡合わせのような同じ顔を突き合わせた。
「え?」
「は?」
 一方は黒いスーツ、黒ネクタイに白いシャツ。
 もう一方は白いスーツ、白ネクタイに黒いシャツ。
 顔立ちからして年齢は二人ともまだ十四歳ほどで、高級そうなスーツ姿に不自然さはあったが、丈はぴったりと合っている。
「ということは? そういう時は?」
「肉寿司!」
 息の合った二人が高らかに宣言した後、彼女らは両手を挙げてハイタッチしようとする……が黒いスーツの少女の左手が空を切る。
 彼女の左腕は肘から先がなく、袖が宙でぶらぶらと揺れていた。
「お箸が持てればどうでもいいから左手のことなんか忘れてたよー」
「うん。撃ちこむのは左から、えらいえらい!」
 瓜二つどころか、二人の少女シロとクロは全く同じ笑みを浮かべていた。
 すると店の入り口を覆っていた土煙から稲妻のように金髪の少女が飛び出した。
「同じ顔でヘラヘラすんな、気持ち悪い!」
 すると白スーツが一歩下がり、黒スーツの少女が片腕で迎え撃つ体勢を取る。
 対してアカネは刀身の半ばで折れた愛刀「|義理切《ギリギリ》」を抜刀。
「折れてんじゃん!」
「半分じゃん!」
 二人はアカネの刀の指差して笑う。
 短くなった刀では届かない距離で、アカネが刀を振り上げる。
「っせえ! バカが!」
 彼女は折れたばかりの愛刀に慣れず、間合いを違えたのではない。
 アカネは振り上げた刀ではなく、鞘を黒スーツの右腕に叩きつけたのだ。
 そして、残された右腕が宙を舞った。
「うっそ!?」
「マージ!?」
 アカネの「何でも切る」能力は刀だけに適用されるものではない。
 ただ相手の攻撃を防ぐため、ばら撒かれる銃弾を弾くために、硬くて振りやすいものがよかったというだけの話。
 言ってしまえば模造刀でも、鉄パイプでもよかった。
 彼女たち「アドバンス」の力は後天的に発現するものではない。が、アカネはそれを家族を始めとした全てのしがらみを断ち切るためのものだと思っていた。
「どうだバカチビども! 右腕は授業料だと思って置いて行きなぁ!」
「下がれ、バカネ!」
 後方からの切羽詰まった渚の叫び声に、思わず振り返ってしまうアカネ。
 振り向いた彼女の目には映っていなかった。
 両腕のない体で跳躍し、切り落とされた右腕を器用に蹴る黒スーツの少女の姿が。
 切断された右腕がアカネの頭部に吸い込まれるように放物線を描く。
「クロ、ナイッシュー!」
「サンキューシロ! スイッチオン!」
 そして切り落とされた右腕が爆発した。
 亞矢が廃材で組み上げた「Aショップ」の壁に、吹き飛ばされたアカネが突っ込む。
「あれ? どうしたのクロ? あの金髪、まだ頭付いてるけど」
「ええ? ホントだねシロ。まだ生きてるよ。早く殺さなきゃ」
 爆発を相殺する「念波」を放ちアカネを救ったのは渚だった。
 最初の「Aショップ」を襲った爆発。その起点となったのが人間の腕だということに、まず渚が気付いたのだ。
 そして不死性を活かして仲間を助ける行動を訓練生時代に叩き込まれた凛子が腕爆弾を抑え込んだため、店内から犠牲者は出なかった。
 しかし渚が敵の攻撃手段を伝える前にアカネが飛び出していってしまったのだ。
 白黒スーツの黒いスーツ、通称クロは「肉体を爆弾化」することができた。
 爆弾にした部位の質量が多いほど威力は高まり、爆弾としての威力も純粋な爆薬より高い。
 だが既に両腕を失ったクロの姿を見ればわかるように、この力は明らかな欠陥能力。
 故にクロは訓練生時代、教官から能力の使用を固く禁じられていた。
 身寄りも無く「アドバンス」としての力しか拠り所の無い彼女にとって、能力の否定や制限は存在そのものの否定に等しかった。
 しかしクロは、どんな「アドバンス」にも使い道を見つけると評判の軍本部から「血液を爆弾とする暗殺者」として、「東京軍」特殊部隊へスカウトされたのだ。
 そしてクロはそのスカウトを蹴った。
 それは自身の弱点を補う最高のパートナー、シロを見つけたからだった。
「じゃ、次いってみましょーかー」
「どっちから行く? 右? 左?」
「右ー!」
 クロは子供の靴を飛ばす遊びのように、ぷらぷらと足を振る。
 だが彼女が飛ばすのは靴ではなく、爆弾だ。
 右足の根本で爆発を起こし、アカネ目がけて勢いよく右足そのものを発射した。
「はいはいはいはい! 死ーね! はい! 死ーね!」
「はい! 死ね死ね死ね死ね! うりゃうりゃうりゃうりゃ!」
 爆発の反動で倒れ、左足しか残っていないクロはというと、寝転びながらシロと大騒ぎ。
 腕のないクロの代わりにシロが手拍子を打つ。
 そして二人は残った左足で店を完全に吹き飛ばすつもりだった。
 しかし、その右足を掴んで一人の少女が店から出てくる。
 漆黒の髪にセーラー服の少女。ルナ。
 彼女の「引き寄せ」る力で爆弾と化したクロの足をキャッチしたのだ。
「スイッチオン!」
 予想外の事態ではあったが、クロはすがさず右足を起爆して敵であるルナの抹殺を図る。
 次の瞬間。
 ルナが手を振ると、足がクロとシロの間に引き戻され爆発した。
 ルナはただ足を「引き寄せ」るために縮めた空間を元に戻して「反発」させただけ。
「こっちの双子問題が解決してないのに、新しい双子なんか出てこないでよ」
 ルナは焼け焦げた肉片と化した刺客に向けて、うんざりとした様子で言うのだった。
 *
「いやーやるねー! Cランクのくせに! ねえシロ?」
「敵をランクで判断しちゃいけないって何度も言われてるでしょ? クロ?」
 自らの爆弾で爆死したと思われたシロとクロであったが、そこから百メートルほど離れた物陰で何事もなかったかのように会話する二人。
 シロは言うまでもなく、クロも手足が戻り五体満足で、纏ったスーツにも汚れ一つない。
「またここに戻れるように、置いていくから」
「地味に痛いんだよなー。これ」
 シロとクロは自らの小指をナイフ切り落とし、互いに絡ませるようにして地面に置いた。
 それがシロの能力発動の起点となる。
「手足を爆発させる方が痛いでしょー」
「自分で切り取るってなんか嫌でしょー」
 能力は発動さえすればいいと考える無頓着なクロに対して、シロは自身の能力を「赤い糸」と名付けていた。
 それは自らの一部を切り離した場所をチェックポイントとし、死んだ際に自身ともう一人までその地点に復活することのできる能力。
 つまりシロの力は自然の法則を捻じ曲げる「アドバンス」としての力の極致だった。
 そのため彼女と組むクロは後先考えずに手足を爆弾にすることができたのだ。
 そしてシロとクロは、当初の計画である「正面から一度派手に負けて、手の内を晒した敵を殺す」作戦を実行に移すため動き出す。
 敵の前でふざけていたのは二人の素の性格でもあるが、敵を打って出てこさせるための挑発行為。
 シロとクロの前に、爆発音を聞きつけて集まったボロを着た地下鉄の現地民……に見せかけた傭兵たちが銃器を手に整列した。
「この任務に参加した以上、あんたたちの命はもうないものと思ってねー」
「でも成功したら大金だよ。そこらで命張ったくらいじゃ手に入らないくらいのねー」
 ふざけた調子の少女二人に絶句する傭兵たち。
「じゃあカラレスの計画通りに行こうか!」
「嬢ちゃん。カラレスって『色鬼』カラレスのことか? あんな無茶振り野郎からの依頼なんて聞いてねえぞ」
 一人の傭兵が口を出すと、シロとクロは顔を見合わせる。
「うるせーなー。作戦直前じゃなかったら殺してたところだったよー。ねえシロ」
「ホントだよねクロ。あんたたちの命は私たちが買ったの。しゃべんな」
 殺気を露わにした「アドバンス」の少女たちに思わず気圧されてしまう、歴戦の傭兵たち。
「じゃあ今度こそカラレスの計画を伝えるから、傾聴するよーに」
「次こそなんか口答えしたら殺すから。黙って聞くよーに」
 何度死んでもやり直せるが故に、命に対する意識が希薄な二人の少女に与えられた計画はこの上なく人命を軽視したものだった。
 計画立案者は彼女たちの上役であるカラレス。
 無色の名を冠するその人物は柊陽向の信奉者であり、泳がせていた陽向の元研究員・香川に接触したルナたちを排除しにかかったのである。