4話 極殺小隊
ー/ー 端的に「極殺小隊」を表すなら、それは大人への復讐者だった。
二十年前、一人の少女の暴走によって破壊された東京。
そこに遺された資源を独占して成り上がった「大東京連合」という組織は、戦力として「アドバンス」の少女たちを拉致し軍事組織を設立した。
通称「東京軍」である。
少女たちは「東京軍」の大人の下で幼い頃から徹底した軍事教練を受ける。
その後の人生は軍へ正式に所属するか、除隊し荒廃した旧市街地で「東京軍」の仕事を受けて生きていくかの二択しかない。
そんな境遇の中で育った「極殺小隊」の面々は大人を強く憎んでいた。
元「東京軍」の脱走兵。傭兵として稼ぐ兵隊崩れ。「大東京連合」に加入することすらできないヤクザ。
彼女ら「極殺小隊」は、そういった大人の武装勢力のリーダーを殺しては脅迫し、「極殺」傘下に入ることを強要した。
「極殺」リーダーのザクロは、部下となった大人たちを危険な任務の捨て駒として送り込んでは見殺しにしていった。
それが彼女たちなりの大人への復讐。
ザクロたちにとって今回のターゲットについた護衛はふざけた名前の新米チームであり、部下ごと潰して一稼ぎするにはちょうどいい相手だった。
彼女が受領したのはヤクザ香川の殺害と「金庫」を強奪するという依頼。
ザクロ、アンズ、オリーブ、スモモの四名からなるチーム……「極殺小隊」正規メンバーにとっては簡単な仕事のはずだった。
ものの数分で第一波である捨て駒が全滅するまでは。
*
「ザクロ姉、みんな死んじゃったよ。やっぱ大人って使えないね」
敵が指揮車を急襲してきた場合に備えて、車から離れて待機していたザクロたち。
その中でもピンク色に染めた髪が目を引くツインテールの少女、スモモが赤髪の女に向かって楽しげに声をかけた。
そんなスモモの表情は死んでいった部下たちを嘲笑うかのようだ。
対して口元を覆ったガスマスクが特徴的な、ザクロと呼ばれた赤髪の二十歳前後の女がスモモに応じる。
「そうだな。でも少しスカッとしたろ? それにあの人数で『アドバンス』に勝てるような大人たちだったら、私だってもっと上手い使い方をするさ」
「それもそうかも! ザクロ姉あたまいいね!」
軍を除隊した「アドバンス」の少女たちは「東京軍」から依頼を受けて日銭を稼ぐ。
仕事を効率よく、安全に遂行できるよう徒党を組む「アドバンス」の集団はそのまま「チーム」と呼ばれた。
「スモモ、お前は無理して前線にまで着いてこなくていいんだぞ。指揮車でオリーブを守ってくれていればいい」
ザクロは前屈みになり、彼女の派手な髪色に憧れて染めたスモモの髪を撫でながら、優しい声で告げた。
つい先ほど部下を使い捨て、全滅させるための命令を下したのと同じ口から発せられた言葉。
「やだ! スモモ行くよ! オリーブ姉を護衛する戦力は残してあるんでしょ? ならスモモも行く!」
地団駄を踏むスモモという少女は、かつての基準で表すならばまだ小学生か中学生の境目ほどの年代に見えた。
まだあどけなさを残した彼女もまた「アドバンス」であり、何より「極殺小隊」の正規メンバーだった。
「そうか。なら来るといい。オリーブの邪魔をしてもいけないからな。いるんだろ? アンズ。そろそろ動くぞ」
突如としてザクロとスモモの後ろにオレンジ色のレインコートをフードまで被った人影が出現した。
「うん……」
突然現れたサイズの合っていない大きめのレインコートに身を包んだ気怠げな声の主。
能力によって姿を隠していたアンズと呼ばれた少女。
彼女のフードの陰から見える顔は病的に青白かった。
*
ザクロはスモモの装備を整えてやると共に組事務所のあるビルに向かう。アンズは能力によって姿を消していた。
するとそれぞれが片耳に付けたイヤホンが音声を受信する。
「こちらオリーブ。相手方の能力が大体出そろった。まず探知能力の小柄の子。指揮車の居場所は割れてると思っていいな。それを叩く余力はないだろうけど……。次に再生能力。見た限り脅威ではなさそう。刀を持った三人目が多分一番厄介。遮蔽物とか防具越しに人を斬れるから防御はできないものと思って。あと黒髪リーダー格の能力はまだ不明。以上」
三人の耳に聞こえた中年男の低い声は、その早口で軽快な口調とは違和感のあるものだった。
四人目の「極殺小隊」正規メンバー、オリーブ。
彼女は感覚共有……他人の体を乗っ取ることのできる能力の持ち主だった。
オリーブは傘下の兵士の一人から体を奪い「便利屋コロシ部」が組事務所にやってくる前から屋上に潜伏していたのだ。
窓からロケット弾を撃ち込んだのも彼女だった。
そして攻撃と突入部隊への対応を見て「便利屋コロシ部」メンバーの能力を観察し、仲間たちへ報告した。それがオリーブの役割。
大人たちへの八つ当たり染みた復讐と、戦力の分析という一石二鳥のこの作戦は「極殺小隊」の常套手段でもあった。
ただ能力の代償としてオリーブが他人を操っている間は、本体……オリーブ自身は体を動かすことができない。
よって彼女らは忌み嫌う大人の中でも有能な護衛をオリーブに付け、ターゲットのいるビルから離れた死角に停めた車を拠点としている。
そして現在オリーブは、兵士の体をビル屋上にある物置へと身を隠し、敵側の出方を伺っていた。
「こちらザクロ。今そちらに向かっている。可能な限り敵の能力を探ってくれ」
「それは難しいな。ちょうど再生能力の子が屋上に上がってきたから。あの武器ケースは……狙撃銃? ザクロには無意味な心配だろうけど、気を付けて」
ザクロとスモモ、二人が「アドバンス」としての優れた五感……視覚によって穴の開いたビル内部を目視できるようになったとき、突然轟音が響いた。
対物ライフルによる狙撃。
狙いは正確無比。「アドバンス」として強化された肉体でも即死を免れない致命の一撃。
しかしザクロは彼女に死をもたらそうとしていた弾丸を難なく掴み、握りしめた。
無造作に潰れた弾丸を捨て、臆することなく突き進むザクロ。
ザクロに絶大な信頼を寄せているスモモと同じく歩を進める。
「止まれ」
崩れかかった組事務所の中を見て、ザクロがスモモを制止する。
「どうも初めまして。業界の先輩たちに『便利屋コロシ部』からのプレゼント、受け取ってくれると嬉しいな」
砕けた口調とは裏腹に、力強い眼光をした少女を崩れかかった床の際に見たザクロ。
セーラー服の少女とザクロの目が合う。
すると後ろから小柄なセーラー服の少女と赤いジャージの少女、最後にヤクザが進み出てそれぞれ手にしたものを落とした。
赤黒い血で地面を汚すそれは、ザクロが捨て駒にした突入部隊たちの“一部”だった。
「……スモモ、この商売をしていく上で一番重要なものはなんだと思う?」
そうスモモに問いかけながら、ザクロの目に強い殺意が宿る。
部下の末路をザクロに見せつけると、「便利屋コロシ部」のセーラー服の少女たちは奥に引っ込んだ。
「えっと能力とか、強さとか?」
「メンツだよ。舐められたら殺す……それができない奴は東京じゃ生きていけない」
無名の新米チームが明らかにザクロを含む「極殺小隊」を挑発していた。
ザクロは「便利屋コロシ部」のメンバーを「極殺」に歯向かった成れの果てとして、思いつく限り無惨な姿にすることを決めた。
この時点で彼女は自らルナの手のひらの上に乗った、いや乗ってしまったのだ。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
端的に「極殺小隊」を表すなら、それは大人への復讐者だった。
二十年前、一人の少女の暴走によって破壊された東京。
そこに遺された資源を独占して成り上がった「大東京連合」という組織は、戦力として「アドバンス」の少女たちを拉致し軍事組織を設立した。
通称「東京軍」である。
少女たちは「東京軍」の大人の下で幼い頃から徹底した軍事教練を受ける。
その後の人生は軍へ正式に所属するか、除隊し荒廃した旧市街地で「東京軍」の仕事を受けて生きていくかの二択しかない。
そんな境遇の中で育った「極殺小隊」の面々は大人を強く憎んでいた。
元「東京軍」の脱走兵。傭兵として稼ぐ兵隊崩れ。「大東京連合」に加入することすらできないヤクザ。
彼女ら「極殺小隊」は、そういった大人の武装勢力のリーダーを殺しては脅迫し、「極殺」傘下に入ることを強要した。
「極殺」リーダーのザクロは、部下となった大人たちを危険な任務の捨て駒として送り込んでは見殺しにしていった。
それが彼女たちなりの大人への復讐。
ザクロたちにとって今回のターゲットについた護衛はふざけた名前の新米チームであり、部下ごと潰して一稼ぎするにはちょうどいい相手だった。
彼女が受領したのはヤクザ香川の殺害と「金庫」を強奪するという依頼。
ザクロ、アンズ、オリーブ、スモモの四名からなるチーム……「極殺小隊」正規メンバーにとっては簡単な仕事のはずだった。
ものの数分で第一波である捨て駒が全滅するまでは。
*
「ザクロ姉、みんな死んじゃったよ。やっぱ大人って使えないね」
敵が指揮車を急襲してきた場合に備えて、車から離れて待機していたザクロたち。
その中でもピンク色に染めた髪が目を引くツインテールの少女、スモモが赤髪の女に向かって楽しげに声をかけた。
そんなスモモの表情は死んでいった部下たちを嘲笑うかのようだ。
対して口元を覆ったガスマスクが特徴的な、ザクロと呼ばれた赤髪の二十歳前後の女がスモモに応じる。
「そうだな。でも少しスカッとしたろ? それにあの人数で『アドバンス』に勝てるような大人たちだったら、私だってもっと上手い使い方をするさ」
「それもそうかも! ザクロ姉あたまいいね!」
軍を除隊した「アドバンス」の少女たちは「東京軍」から依頼を受けて日銭を稼ぐ。
仕事を効率よく、安全に遂行できるよう徒党を組む「アドバンス」の集団はそのまま「チーム」と呼ばれた。
「スモモ、お前は無理して前線にまで着いてこなくていいんだぞ。指揮車でオリーブを守ってくれていればいい」
ザクロは前屈みになり、彼女の派手な髪色に憧れて染めたスモモの髪を撫でながら、優しい声で告げた。
つい先ほど部下を使い捨て、全滅させるための命令を下したのと同じ口から発せられた言葉。
「やだ! スモモ行くよ! オリーブ姉を護衛する戦力は残してあるんでしょ? ならスモモも行く!」
地団駄を踏むスモモという少女は、かつての基準で表すならばまだ小学生か中学生の境目ほどの年代に見えた。
まだあどけなさを残した彼女もまた「アドバンス」であり、何より「極殺小隊」の正規メンバーだった。
「そうか。なら来るといい。オリーブの邪魔をしてもいけないからな。いるんだろ? アンズ。そろそろ動くぞ」
突如としてザクロとスモモの後ろにオレンジ色のレインコートをフードまで被った人影が出現した。
「うん……」
突然現れたサイズの合っていない大きめのレインコートに身を包んだ気怠げな声の主。
能力によって姿を隠していたアンズと呼ばれた少女。
彼女のフードの陰から見える顔は病的に青白かった。
*
ザクロはスモモの装備を整えてやると共に組事務所のあるビルに向かう。アンズは能力によって姿を消していた。
するとそれぞれが片耳に付けたイヤホンが音声を受信する。
「こちらオリーブ。相手方の能力が大体出そろった。まず探知能力の小柄の子。指揮車の居場所は割れてると思っていいな。それを叩く余力はないだろうけど……。次に再生能力。見た限り脅威ではなさそう。刀を持った三人目が多分一番厄介。遮蔽物とか防具越しに人を斬れるから防御はできないものと思って。あと黒髪リーダー格の能力はまだ不明。以上」
三人の耳に聞こえた中年男の低い声は、その早口で軽快な口調とは違和感のあるものだった。
四人目の「極殺小隊」正規メンバー、オリーブ。
彼女は感覚共有……他人の体を乗っ取ることのできる能力の持ち主だった。
オリーブは傘下の兵士の一人から体を奪い「便利屋コロシ部」が組事務所にやってくる前から屋上に潜伏していたのだ。
窓からロケット弾を撃ち込んだのも彼女だった。
そして攻撃と突入部隊への対応を見て「便利屋コロシ部」メンバーの能力を観察し、仲間たちへ報告した。それがオリーブの役割。
大人たちへの八つ当たり染みた復讐と、戦力の分析という一石二鳥のこの作戦は「極殺小隊」の常套手段でもあった。
ただ能力の代償としてオリーブが他人を操っている間は、本体……オリーブ自身は体を動かすことができない。
よって彼女らは忌み嫌う大人の中でも有能な護衛をオリーブに付け、ターゲットのいるビルから離れた死角に停めた車を拠点としている。
そして現在オリーブは、兵士の体をビル屋上にある物置へと身を隠し、敵側の出方を伺っていた。
「こちらザクロ。今そちらに向かっている。可能な限り敵の能力を探ってくれ」
「それは難しいな。ちょうど再生能力の子が屋上に上がってきたから。あの武器ケースは……狙撃銃? ザクロには無意味な心配だろうけど、気を付けて」
ザクロとスモモ、二人が「アドバンス」としての優れた五感……視覚によって穴の開いたビル内部を目視できるようになったとき、突然轟音が響いた。
対物ライフルによる狙撃。
狙いは正確無比。「アドバンス」として強化された肉体でも即死を免れない致命の一撃。
しかしザクロは彼女に死をもたらそうとしていた弾丸を難なく掴み、握りしめた。
無造作に潰れた弾丸を捨て、臆することなく突き進むザクロ。
ザクロに絶大な信頼を寄せているスモモと同じく歩を進める。
「止まれ」
崩れかかった組事務所の中を見て、ザクロがスモモを制止する。
「どうも初めまして。業界の先輩たちに『便利屋コロシ部』からのプレゼント、受け取ってくれると嬉しいな」
砕けた口調とは裏腹に、力強い眼光をした少女を崩れかかった床の際に見たザクロ。
セーラー服の少女とザクロの目が合う。
すると後ろから小柄なセーラー服の少女と赤いジャージの少女、最後にヤクザが進み出てそれぞれ手にしたものを落とした。
赤黒い血で地面を汚すそれは、ザクロが捨て駒にした突入部隊たちの“一部”だった。
「……スモモ、この商売をしていく上で一番重要なものはなんだと思う?」
そうスモモに問いかけながら、ザクロの目に強い殺意が宿る。
部下の末路をザクロに見せつけると、「便利屋コロシ部」のセーラー服の少女たちは奥に引っ込んだ。
「えっと能力とか、強さとか?」
「メンツだよ。舐められたら殺す……それができない奴は東京じゃ生きていけない」
無名の新米チームが明らかにザクロを含む「極殺小隊」を挑発していた。
ザクロは「便利屋コロシ部」のメンバーを「極殺」に歯向かった成れの果てとして、思いつく限り無惨な姿にすることを決めた。
この時点で彼女は自らルナの手のひらの上に乗った、いや乗ってしまったのだ。