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3話 アドバンス

ー/ー



 ロケット弾の直撃を受けた凛子を見ても「便利屋コロシ部」の三人に動揺はなかった。

「おい、どういうことだ……こりゃあ。いきなり一人死んでるじゃねえか。前金、前金いくら払ったと思ってる! 俺はもう後に引けねえんだぞ!」

 失望と怒りをむき出しにした香川を無視して、ルナが凛子の様子を見る。

「うん、ちゃんと頭から治ってきてるね。まだ気絶してるみたいだからアカネちゃん、重いの一発入れてあげて」

「あいよ……っと」

 アカネが刀の鞘で凛子のみぞおちを突く。

「ゲホッ! おえっ……手間取らせちゃって、ごめんなさい……」

「謝んなよ先輩、むしろこっちが助けてくれてありがとうだって」

 いつの間にか潰れていたはずの凛子の頭部の輪郭は滑らかな曲面を取り戻していた。

 さらには膝上まで消失した両足の切断面もじわじわと肉が盛り上がり、その肉を覆うように皮膚が広がっていく。

「心配しないで、組長さん。あれがリンちゃん先輩の『アドバンス』としての力……再生能力だから。仲間を守るためなら、こんな爆発だって平気」

 ルナが慣れた口調で言う。右足が接合し、左足も骨から皮膚まで元通りになる凛子を、香川は凍りついた目で睨んだ。

 「アドバンス」能力は、少女たちに生まれつき備わった固有の超能力。

 そして香川のような大人たちはその力を恐れ、彼女らを『呪い子』と忌み嫌った。

 それはたった一人の少女が東京を崩壊させた「ヒイラギ・ヒナタ事件」の記憶が、今も大人たちを怯えさせているからだ。

 *

「再生能力……『アドバンス』と関わる機会はそれなりにあったが珍しいタイプだ」

「珍しい、か。だから大人たちは怖がって遠ざけて……その力だけ利用する。軍でも、施設でも。私たちはね、いつか利用されるだけの立場から成り上がるよ。いずれは大人だって利用する側に」

 香川の顔が一瞬強張るが、拳を握り締め平静を取り戻す。

「そうかい。精々気張るんだな。だが『極殺』はその大人たちをこき使ってるみたいだぜ。外を見ろよ」

 ルナは背を向け、窓の外を覗く。黒ずくめの兵士十数名が、爆発で穴の開いたビルに駆け寄ってくる。体格は大人の男。

「ただの傭兵。『アドバンス』の力は女の子にしか出ないから、雑魚だね」

 ルナは傭兵の男たちを「極殺小隊」傘下の兵隊崩れだと判断する。

 異能を有する『アドバンス』は女性でしか存在が確認されていないからだ。

「渚ちゃん、探知して。傭兵を指示してる『極殺』の本命がいるはず」

「りょうか~い!」

 ルナの指示に渚が身をかがめ、目を閉じた。指を大きく広げ、空気を微かな揺らぎを指先から感じ取る。

 訓練によって磨き上げた一連の動きが、瞬時に敵の本拠地を探り当てた。

「あ、いたいた~。隣のビルの陰。でっかいな……多分、指揮車! 車の周りに女の子と大人の集団。特定したよ~」

「どういうことだ……?」

 思わず香川が唸るとルナは冷たく微笑む。

「渚ちゃんの力は隠れてても逃がさない。香川さんならこの説明でわかるよね?」

「渚ちゃんが丸っとお見通し!」

 にやりと笑う渚と対象的に、状況を聞いた凛子が今にも泣きだしそうな顔になった。

「わ、私の再生に時間がかかったせいで初動が遅れちゃったんですよね……! ごめんなさい……!」

「それもあるけど……これから入ってくるのは全員雑魚だから、先輩は落ち着いて配置について。必ず第二波が来るよ」

「わ、わかりました部長!」

 両足が再生し終わった凛子は裸足のままで、爆発の中でも無傷の武器ケースを抱えてビルの階段を駆け上がっていく。

 再生能力を持つ凛子が囮となる作戦を普段から実行する関係上、武器ケースは専用の堅牢な作りとなっている。

「第二波だあ? 『極殺』が戦力を分けてくると思う理由は?」

「戦力の逐次投入は愚策……ってよく言われるけどそもそも『極殺』はあの兵隊崩れを戦力として見てないからね。様子見の捨て駒だよ。相手方には感覚共有のできる子がいるはずだから、高価な装備を持たせなくてもリアルタイム中継できるってこと」

 そう話しているうちにルナたちの耳に兵士たちが階段を上がってくる音が聞こえてきた。

 時計で時刻を確認し、懐から拳銃を取り出した香川を咎めるようにルナが言う。

「護身用に持っておくのは許可するけど撃たないでじっとしててね。誤射されたらたまらないから」

「舐められたもんだ……」

 そう香川が嘆くと事務所のドアの前で突入部隊の足音が止まる。

 そしてルナに指示されるまでもなく、いつの間にかドア脇に移動していたアカネが刀を抜いた。

 突入部隊先頭の一人がドアを蹴破ろうとした瞬間、逆にアカネの刀がドアを突き破り敵兵ごと貫く。

 響く絶叫と銃声。

 安普請のドアはたちまち一斉射撃で吹き飛び、寸前までアカネのいた場所が弾痕だらけになる。

 銃声が止んだ頃、悶絶する兵士たちの声が階段に響いていた。

 アカネが一人目を刺した後、ドアと壁を切り裂きながら部屋の隅に向かって駆け抜け、突入に備え待機していた数人を壁越しに斬ったのだった。

 何でも切ることのできる力。

 ドアや壁ごと人を斬ってみせたアカネの「アドバンス」としての能力。

 仲間が壁ごと斬られたことを察した『極殺』兵士たちが、部屋の角にいるはずの「アドバンス」……つまりは壁越しのアカネに向けて再び一斉に発砲する。

 アカネがそれまでに付けた刀による傷と大量の弾丸によって壁が崩れたが、既にそこには誰もいない。

 状況を確認すべく周囲を警戒する兵士たち。

「どっせい!」

 突然天井から落ちてきたアカネが、声に釣られて天井を見上げた兵士の背中に刀を突き立てた。

 彼女ら「アドバンス」には生まれつき特殊な異能の力と超人染みた身体能力が備わっている。

 アカネはその跳躍力を利用し天井を切り払いながら体当たりでぶち破って上の階に上がり、再び床を切り裂いて元の階へと降りてきたのだ。

「んだらぁ!」

 敵兵の背中に乗ったアカネは刀をねじりながら引き抜いて兵士に致命傷を負わせながら、その体を両足で思い切り蹴とばし隊列に突っ込ませる。

 あとはアカネによる一方的な虐殺。

 雑居ビルの階段という狭い場所で、人数の多い兵士たちは誤射を恐れて発砲の判断が遅れる。

 その間に一振り、兵士がさらに混乱する間に一振り。

 アカネが刀を一振りするごとに手足が宙を舞い、数人が倒れる。

 彼女の前では人間など豆腐も同然だった。

「うっし、準備運動終わりぃ!」

 アカネが赤いジャージを普段着としているのには、返り血が目立たないようにするという意味があるのだった。


次のエピソードへ進む 4話 極殺小隊


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 ロケット弾の直撃を受けた凛子を見ても「便利屋コロシ部」の三人に動揺はなかった。
「おい、どういうことだ……こりゃあ。いきなり一人死んでるじゃねえか。前金、前金いくら払ったと思ってる! 俺はもう後に引けねえんだぞ!」
 失望と怒りをむき出しにした香川を無視して、ルナが凛子の様子を見る。
「うん、ちゃんと頭から治ってきてるね。まだ気絶してるみたいだからアカネちゃん、重いの一発入れてあげて」
「あいよ……っと」
 アカネが刀の鞘で凛子のみぞおちを突く。
「ゲホッ! おえっ……手間取らせちゃって、ごめんなさい……」
「謝んなよ先輩、むしろこっちが助けてくれてありがとうだって」
 いつの間にか潰れていたはずの凛子の頭部の輪郭は滑らかな曲面を取り戻していた。
 さらには膝上まで消失した両足の切断面もじわじわと肉が盛り上がり、その肉を覆うように皮膚が広がっていく。
「心配しないで、組長さん。あれがリンちゃん先輩の『アドバンス』としての力……再生能力だから。仲間を守るためなら、こんな爆発だって平気」
 ルナが慣れた口調で言う。右足が接合し、左足も骨から皮膚まで元通りになる凛子を、香川は凍りついた目で睨んだ。
 「アドバンス」能力は、少女たちに生まれつき備わった固有の超能力。
 そして香川のような大人たちはその力を恐れ、彼女らを『呪い子』と忌み嫌った。
 それはたった一人の少女が東京を崩壊させた「ヒイラギ・ヒナタ事件」の記憶が、今も大人たちを怯えさせているからだ。
 *
「再生能力……『アドバンス』と関わる機会はそれなりにあったが珍しいタイプだ」
「珍しい、か。だから大人たちは怖がって遠ざけて……その力だけ利用する。軍でも、施設でも。私たちはね、いつか利用されるだけの立場から成り上がるよ。いずれは大人だって利用する側に」
 香川の顔が一瞬強張るが、拳を握り締め平静を取り戻す。
「そうかい。精々気張るんだな。だが『極殺』はその大人たちをこき使ってるみたいだぜ。外を見ろよ」
 ルナは背を向け、窓の外を覗く。黒ずくめの兵士十数名が、爆発で穴の開いたビルに駆け寄ってくる。体格は大人の男。
「ただの傭兵。『アドバンス』の力は女の子にしか出ないから、雑魚だね」
 ルナは傭兵の男たちを「極殺小隊」傘下の兵隊崩れだと判断する。
 異能を有する『アドバンス』は女性でしか存在が確認されていないからだ。
「渚ちゃん、探知して。傭兵を指示してる『極殺』の本命がいるはず」
「りょうか~い!」
 ルナの指示に渚が身をかがめ、目を閉じた。指を大きく広げ、空気を微かな揺らぎを指先から感じ取る。
 訓練によって磨き上げた一連の動きが、瞬時に敵の本拠地を探り当てた。
「あ、いたいた~。隣のビルの陰。でっかいな……多分、指揮車! 車の周りに女の子と大人の集団。特定したよ~」
「どういうことだ……?」
 思わず香川が唸るとルナは冷たく微笑む。
「渚ちゃんの力は隠れてても逃がさない。香川さんならこの説明でわかるよね?」
「渚ちゃんが丸っとお見通し!」
 にやりと笑う渚と対象的に、状況を聞いた凛子が今にも泣きだしそうな顔になった。
「わ、私の再生に時間がかかったせいで初動が遅れちゃったんですよね……! ごめんなさい……!」
「それもあるけど……これから入ってくるのは全員雑魚だから、先輩は落ち着いて配置について。必ず第二波が来るよ」
「わ、わかりました部長!」
 両足が再生し終わった凛子は裸足のままで、爆発の中でも無傷の武器ケースを抱えてビルの階段を駆け上がっていく。
 再生能力を持つ凛子が囮となる作戦を普段から実行する関係上、武器ケースは専用の堅牢な作りとなっている。
「第二波だあ? 『極殺』が戦力を分けてくると思う理由は?」
「戦力の逐次投入は愚策……ってよく言われるけどそもそも『極殺』はあの兵隊崩れを戦力として見てないからね。様子見の捨て駒だよ。相手方には感覚共有のできる子がいるはずだから、高価な装備を持たせなくてもリアルタイム中継できるってこと」
 そう話しているうちにルナたちの耳に兵士たちが階段を上がってくる音が聞こえてきた。
 時計で時刻を確認し、懐から拳銃を取り出した香川を咎めるようにルナが言う。
「護身用に持っておくのは許可するけど撃たないでじっとしててね。誤射されたらたまらないから」
「舐められたもんだ……」
 そう香川が嘆くと事務所のドアの前で突入部隊の足音が止まる。
 そしてルナに指示されるまでもなく、いつの間にかドア脇に移動していたアカネが刀を抜いた。
 突入部隊先頭の一人がドアを蹴破ろうとした瞬間、逆にアカネの刀がドアを突き破り敵兵ごと貫く。
 響く絶叫と銃声。
 安普請のドアはたちまち一斉射撃で吹き飛び、寸前までアカネのいた場所が弾痕だらけになる。
 銃声が止んだ頃、悶絶する兵士たちの声が階段に響いていた。
 アカネが一人目を刺した後、ドアと壁を切り裂きながら部屋の隅に向かって駆け抜け、突入に備え待機していた数人を壁越しに斬ったのだった。
 何でも切ることのできる力。
 ドアや壁ごと人を斬ってみせたアカネの「アドバンス」としての能力。
 仲間が壁ごと斬られたことを察した『極殺』兵士たちが、部屋の角にいるはずの「アドバンス」……つまりは壁越しのアカネに向けて再び一斉に発砲する。
 アカネがそれまでに付けた刀による傷と大量の弾丸によって壁が崩れたが、既にそこには誰もいない。
 状況を確認すべく周囲を警戒する兵士たち。
「どっせい!」
 突然天井から落ちてきたアカネが、声に釣られて天井を見上げた兵士の背中に刀を突き立てた。
 彼女ら「アドバンス」には生まれつき特殊な異能の力と超人染みた身体能力が備わっている。
 アカネはその跳躍力を利用し天井を切り払いながら体当たりでぶち破って上の階に上がり、再び床を切り裂いて元の階へと降りてきたのだ。
「んだらぁ!」
 敵兵の背中に乗ったアカネは刀をねじりながら引き抜いて兵士に致命傷を負わせながら、その体を両足で思い切り蹴とばし隊列に突っ込ませる。
 あとはアカネによる一方的な虐殺。
 雑居ビルの階段という狭い場所で、人数の多い兵士たちは誤射を恐れて発砲の判断が遅れる。
 その間に一振り、兵士がさらに混乱する間に一振り。
 アカネが刀を一振りするごとに手足が宙を舞い、数人が倒れる。
 彼女の前では人間など豆腐も同然だった。
「うっし、準備運動終わりぃ!」
 アカネが赤いジャージを普段着としているのには、返り血が目立たないようにするという意味があるのだった。