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第4楽章〜フィナーレ〜⑬

ー/ー



 同日 ほぼ同時刻

 〜白草四葉の想い〜

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 clover_field 今朝の朝ごはん!

 今朝もYちゃんと朝食バイキング!
 このペンションとも今日でお別れ…
 また機会があったらココに来たいな
 
 #ストロベリーファーム白咲
 #可愛らしいペンション
 #朝食バイキング
 ====================

 ほぼ、毎日のルーティーンになっている、朝の《ミンスタグラム》の投稿を終えると、わたしは、ペンションのベッドに腰掛けながら、ため息をつく。

 投稿の内容に嘘や偽りは無い。

 ただ、心踊るような気持ちで、ミンスタの更新を行った前日とは違って、今朝の更新は、自分の中でも、ルーティーンワークになってしまっている感が否めなかった。

 最初は、

「このペンションとも今日でお別れ…次は素敵な人とココに来たいな」

という自分自身の本音を投稿しようと思っていたんだけど、送信のボタンをタップする直前に、

(この内容じゃ、一緒にいる雪乃に失礼じゃない!?)

と考え直して、文面を修正していた。
 いつもなら、こんな小さなことで悩むことなんてないのに……。
 
 それくらい、昨夜の出来事は、わたしにとって、ショックが大きかったということを認めないわけにはいかない。

 ()()()()()()()()は、ただの事故であり、不可抗力であって、クロにはなんの非もないことは自分でも理解しているつもりだ。

 それでも、その事態が発生したあとのクロの表情は、なんとなく幸せそうに感じられて、腹立たしくなり、つい彼の右のほおに手が出てしまった。
 わたしの平手打ちのあとに、()()()()()()()が、続けざまにクロのほおにビンタをお見舞いしたことは、予想外だったけど、あの時のクロに腹を立てていたのは自分だけではないのだ、と感じたと同時に、その生意気な下級生も、やっぱり、彼のことを想っているのだ、ということを実感させられた。

 どうやら、彼女のそんな想いは、クロ自身には伝わっていないようだけど、そのことだけで、安心できるような状況でないことはあきらかだ。

 それは、なによりも、展望台のそばで起こったアクシデントのあとの反応が物語っている。

 そう――――――。
 
 クロの反応以上に、アクシデントの当事者である紅野さんが、ほおを赤らめ、はにかむような仕草で、クロのことを見つめていたことを、わたしは見逃さなかった。

 これまでは、彼女に対するクロの気持ちを落ち着かせたこと、そして、少しずつ、わたしの方に振り向かせることにチカラを注いでいて、実際に、自分の振る舞いに対するクロの反応からは、それなりの手応えを感じていた。

 だけど、
 
(このままの関係性を継続して発展させれば、遠くないうちに、また彼の方から告白してくるでしょ?)

と、どこか楽観的に考えていた自分の考えは、一度、動画配信のときに食べたことがある、インドの伝統的なデザートにして世界一甘いスイーツと言われている「グラブジャムン」(ボール状のドーナツを、砂糖、カルダモン、ローズウォーターなどで作った非常に甘いシロップに浸したもの)より甘かったという事実を突きつけられたのだ。

 あの生意気な下級生と違い、クロと一緒にクラス委員を務めている同級生は、表立って、自分に反抗してくることは無かったこともあって、わたしは、彼女のクロに対する感情と言うものを軽く見積もり過ぎていた。彼女が、黒田竜司という男子生徒のことを特別に意識していないのであれば、それで良かったんだけど……。

 昨夜のあの反応を見る限り、もはや、

「なんだかんだ言って、クロはわたしをいちばん意識しているハズ」

と、悠長に構えてばかりはいられない。これまでの甘く見積もっていた想定を見直し、本格的にクロとの関係を進展させるフェーズに入らないといけないことは間違いないだろう。

 ――――――と、ここまで考えて、昨夜、自分がしでかした失態にあらためて気づく。

 今回、サプライズ的にクロに会いに行った目的は、お互いの距離をさらに縮めて、あわよくば自分たちの想いを伝え合うことだった。

 それが……。

 彼に平手打ちをお見舞いしてしまったことで、わたしたちの心理的距離は縮まるどころか、溝が生まれることになってしまった。

(こんなハズじゃなかったのに……)

 有識者(?)に聞くところによると、最近の男子向けのラブコメマンガで最も嫌われるのは、ツンデレ暴力系のヒロインだと言う。わたしとしては、女子の繊細な感情を理解しない主人公サイドに問題があるんじゃないか? と抗議したいところだけど、この場合、そんな女子側の理屈を主張したところで、なんの意味も無いだろう。

 わたしが自由にストーリーを描いて良いなら、このあと、男子生徒は、

「あのビンタで目が覚めたよ。オレが本当に大切にするべき相手が誰か気付いた」

と言って、平手打ちをお見舞いした女子(もちろん、わたしのことだ)を力強く抱きしめるというシーンにするところだけど、こんな都合の良い妄想とは、しばらくお別れしないといけない。

 そのことを考慮すると、クロには早いうちに昨夜のことを謝罪したうえで、これまでの関係性を、より発展させたいと考えていることを伝えないといけない。

 そう考えたわたしは(ミンスタ)を更新したあと、脇に置いていたスマホを手にして、LANEでメッセージを作成する。

 同級生の男子生徒に完成した文面を送るため、送信ボタンを押そうとした瞬間、これまで、こちらに気を使ってくれていたのか、黙ったままで、コチラのようすをうかがっていた雪乃が、

「黒田先輩との関係に悩むヨツバちゃんの表情、うつくしいべ……」

と、つぶやいた気がしたけれど、それはきっと、わたしの気のせいだろう。


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 ほぼ、毎日のルーティーンになっている、朝の《ミンスタグラム》の投稿を終えると、わたしは、ペンションのベッドに腰掛けながら、ため息をつく。
 投稿の内容に嘘や偽りは無い。
 ただ、心踊るような気持ちで、ミンスタの更新を行った前日とは違って、今朝の更新は、自分の中でも、ルーティーンワークになってしまっている感が否めなかった。
 最初は、
「このペンションとも今日でお別れ…次は素敵な人とココに来たいな」
という自分自身の本音を投稿しようと思っていたんだけど、送信のボタンをタップする直前に、
(この内容じゃ、一緒にいる雪乃に失礼じゃない!?)
と考え直して、文面を修正していた。
 いつもなら、こんな小さなことで悩むことなんてないのに……。
 それくらい、昨夜の出来事は、わたしにとって、ショックが大きかったということを認めないわけにはいかない。
 |あ《・》|の《・》|ア《・》|ク《・》|シ《・》|デ《・》|ン《・》|ト《・》は、ただの事故であり、不可抗力であって、クロにはなんの非もないことは自分でも理解しているつもりだ。
 それでも、その事態が発生したあとのクロの表情は、なんとなく幸せそうに感じられて、腹立たしくなり、つい彼の右のほおに手が出てしまった。
 わたしの平手打ちのあとに、|生《・》|意《・》|気《・》|な《・》|下《・》|級《・》|生《・》が、続けざまにクロのほおにビンタをお見舞いしたことは、予想外だったけど、あの時のクロに腹を立てていたのは自分だけではないのだ、と感じたと同時に、その生意気な下級生も、やっぱり、彼のことを想っているのだ、ということを実感させられた。
 どうやら、彼女のそんな想いは、クロ自身には伝わっていないようだけど、そのことだけで、安心できるような状況でないことはあきらかだ。
 それは、なによりも、展望台のそばで起こったアクシデントのあとの反応が物語っている。
 そう――――――。
 クロの反応以上に、アクシデントの当事者である紅野さんが、ほおを赤らめ、はにかむような仕草で、クロのことを見つめていたことを、わたしは見逃さなかった。
 これまでは、彼女に対するクロの気持ちを落ち着かせたこと、そして、少しずつ、わたしの方に振り向かせることにチカラを注いでいて、実際に、自分の振る舞いに対するクロの反応からは、それなりの手応えを感じていた。
 だけど、
(このままの関係性を継続して発展させれば、遠くないうちに、また彼の方から告白してくるでしょ?)
と、どこか楽観的に考えていた自分の考えは、一度、動画配信のときに食べたことがある、インドの伝統的なデザートにして世界一甘いスイーツと言われている「グラブジャムン」(ボール状のドーナツを、砂糖、カルダモン、ローズウォーターなどで作った非常に甘いシロップに浸したもの)より甘かったという事実を突きつけられたのだ。
 あの生意気な下級生と違い、クロと一緒にクラス委員を務めている同級生は、表立って、自分に反抗してくることは無かったこともあって、わたしは、彼女のクロに対する感情と言うものを軽く見積もり過ぎていた。彼女が、黒田竜司という男子生徒のことを特別に意識していないのであれば、それで良かったんだけど……。
 昨夜のあの反応を見る限り、もはや、
「なんだかんだ言って、クロはわたしをいちばん意識しているハズ」
と、悠長に構えてばかりはいられない。これまでの甘く見積もっていた想定を見直し、本格的にクロとの関係を進展させるフェーズに入らないといけないことは間違いないだろう。
 ――――――と、ここまで考えて、昨夜、自分がしでかした失態にあらためて気づく。
 今回、サプライズ的にクロに会いに行った目的は、お互いの距離をさらに縮めて、あわよくば自分たちの想いを伝え合うことだった。
 それが……。
 彼に平手打ちをお見舞いしてしまったことで、わたしたちの心理的距離は縮まるどころか、溝が生まれることになってしまった。
(こんなハズじゃなかったのに……)
 有識者(?)に聞くところによると、最近の男子向けのラブコメマンガで最も嫌われるのは、ツンデレ暴力系のヒロインだと言う。わたしとしては、女子の繊細な感情を理解しない主人公サイドに問題があるんじゃないか? と抗議したいところだけど、この場合、そんな女子側の理屈を主張したところで、なんの意味も無いだろう。
 わたしが自由にストーリーを描いて良いなら、このあと、男子生徒は、
「あのビンタで目が覚めたよ。オレが本当に大切にするべき相手が誰か気付いた」
と言って、平手打ちをお見舞いした女子(もちろん、わたしのことだ)を力強く抱きしめるというシーンにするところだけど、こんな都合の良い妄想とは、しばらくお別れしないといけない。
 そのことを考慮すると、クロには早いうちに昨夜のことを謝罪したうえで、これまでの関係性を、より発展させたいと考えていることを伝えないといけない。
 そう考えたわたしは、《ミンスタ》を更新したあと、脇に置いていたスマホを手にして、LANEでメッセージを作成する。
 同級生の男子生徒に完成した文面を送るため、送信ボタンを押そうとした瞬間、これまで、こちらに気を使ってくれていたのか、黙ったままで、コチラのようすをうかがっていた雪乃が、
「黒田先輩との関係に悩むヨツバちゃんの表情、うつくしいべ……」
と、つぶやいた気がしたけれど、それはきっと、わたしの気のせいだろう。