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第34話 諦めが悪いというのは恐ろしい

ー/ー



「転生してよかったんだろうか」


 ベッドに寝そべりながらシャロンは呟く。自分は違う世界から転生してきた存在で、それを今は受け入れている。

 けれど、転生してよかったのだろうかと思わなくもない。そう思わなくもないが、転生してよかったなと思っている自分もいる。

 だって、ジークハルトという存在に出逢えたのだから。

 出逢い方はなんともムードも欠片も無いものだったけれど、彼と過ごして恋をしてよかったと思っている。

 恋愛初心者だった自分でも愛するということができて、一緒にいたいと思えることができた。

 いろいろと文句は言ったけれど、この出逢いには神様に感謝してもいい。

 もし、転生に意味があるというのならば、自分はきっとジークハルトの傍にいるために此処にいるのだ。

 それならば転生してよかったのだと思える、ポジティブな思考ではあるのだけれど。


「なら、私はジークさんのためにもお父上様の説得を手伝わないと……」


 彼と共にいるために。シャロンはよしっと気合を入れて起き上がるとベッドから下りた。


「あのおじさん? は何か知ってそうだし、ちょっと聞いてみようかな」


 この前の夜に出逢った老年の男は王のことを知っているような口ぶりだったので、何かアドバイスがもらえないかとシャロンは考えた。

 眠れない夜はいつもあの場所で月を見ていると言っていたのでまたいるかもしれない。シャロンは見てこようとそっと部屋を出た。

 部屋を出て巡回の兵士がいないか周囲を警戒しつつ通路を歩いていく。空を見上げれば今日も月が出ており、星の瞬きと共に煌めいている。


「シャロンさん」


 月をぼんやりと眺めていたシャロンは背後からの声にびくりと肩を跳ねさせて慌てて振り返る。

 声の主はフィルクスで、彼はその端整な顔立ちによく似合う笑みを浮かべていた。

 シャロンは「まずい」と思った。ジークハルトもハーラルトも警戒している相手であるフィルクスに見つかってしまったからだ。

 彼はなんとも嬉しそうにしている様子にシャロンはそろりと一歩、下がる。


「こんな時間にどうしたんだ?」

「え、ちょっと月を見ていただけで……も、もう部屋に戻るので!」


 シャロンはそう返事をして駆けだそうとして――手を掴まれた。


「逃げることないと思うが?」

「に、逃げるだなんて……も、もう部屋に戻りますから……」

「やはり、美しい」

「は、はぁ……」


 フィルクスはシャロンの言葉など聞くこともなくじっと見つめてくる。

 シャロンはなんとか離れようと腕を引くも、離してくれるどころか強く握られてしまった。


「ジークよりもわたしのほうが良いと思うのだが?」

「お断りさせていただきます」

「あの逃げ出した男の何処が良いと……」

「ジークさんにはジークさんの良さがあります!」


 近寄ってくるフィルクスの胸を押してシャロンは声高く答える。

 明らかな拒絶にフィルクスは眉を寄せているが、手を離すつもりはないようで、「次期王の妃のほうが良いだろう」と言ってくる。

 そういうことじゃないんだよなと突っ込みたかったけれど、相手には通用しないようだ。

 なので、シャロンは「ジークさん以外に興味はありません!」と強く返した。


「いい加減にしてください!」

「何が嫌だという」

「そういう話を聞かないところですかね!」


 シャロンがぎっと睨みながら答えれば、フィルクスはますます不機嫌そうにする。

流石に扱い方を間違えたかもしれないとシャロンの背がひやりと冷たくなるが、言ってしまった言葉はなかったことにできない。

 だから、相手への姿勢を変えなかった。

 そんなシャロンにフィルクスが何か言おうとして、ぐんっと後ろに引っ張られる。


「兄上、止めていただきたい」


 フィルクスを引っ張り放ったのはジークハルトだった。

 その勢いに掴まれていた手は離れて、シャロンは慌ててジークハルトの背に隠れた。


「何故、お前が此処にいる」

「フィルクス兄上がシャロンの部屋へと向かっているのを見かけたからだ」

「……誰かに見張らせていたな」

「何のことでしょうかね」


 ジークハルトの返しにフィルクスは小さく舌打ちをすると一つ睨んで歩いていってしまう。

 彼の背が遠のいたのを確認してから、ジークハルトははぁと息を吐いてシャロンに「大丈夫か」と声をかけた。


「だ、大丈夫です」

「それなら良かった。でも、どうして部屋から出ているんだ」

「えっと、寝付けなかったんで外でも眺めようかなーって……」


 なんとなくあのおじさんのことは内緒にしておいた方がいい気がしてシャロンは誤魔化す。

 ジークハルトは少しばかり不思議そうにしていたが、「寝付けないのは無理もないか」と納得したようだ。


「フィルクス兄上が何かするのではと思って兵士に見張らせていたが……間に合ってよかった」

「えっと、その……勝手に部屋からでちゃってすみません……」

「いや、シャロンは悪くない。部屋にいれば押し入られていたかもしれない」

「な、なるほど……」


 部屋に押し入られてはシャロンもどうなっていたか分からないなと思った。

 外ならば声を上げれば兵がやってきてくれるかもしれないので、その点では部屋から出ていて正解だった。

 ジークハルトはまた何かあるといけないからなと少し考える素振りを見せる。


「マリーナの部屋にいてもらうか……」

「マリーナ様ですか……大丈夫ですかね?」

「俺と一緒のほうが一番いいが、出ていくところを見られて余計な話が広がっては……」

「あー、なるほど」


 男女が同じ部屋に一夜となると想像してしまうことはあるだろう。

 父との交渉前にそんな話が広がっては印象が悪くなってしまうので、それは避けなければならない。

 ジークハルトは「マリーナに頼んでみよう」と言ってシャロンの手を引いた。

   *

 マリーナの部屋はそれほど遠くはなく、すぐにたどり着くことができた。

 まだ眠っていなかったようで出てきたマリーナはジークハルトから話を聞いて、「わたくしに任せて!」と胸を張る。

 シャロンは「ご迷惑を」と頭を下げれば、「いいのよ、お姉様!」と笑みをみせてマリーナは迎え入れる。

 ジークハルトは頼むと言って、もう夜も更けているからと早々に部屋を出て行った。


「さ! お姉様も寝ましょう!」

「そ、そうですね」

「もっと軽く話してくださっていいのよ?」

「それは、その……」


 軽くと言われるけれど相手はこの国の姫君であるわけで。とてもじゃないがそうはできないのだが、マリーナはむーっと頬を膨らませている。

 これは仕方ない、マリーナが許可を出しているのだと言い聞かせてシャロンは「わ、わかったよ」と返事をした。


「でも、人前では無理だからね?」

「いいわ! わたくしとジークお兄様の前ではそれでいて」

「え、ジークさんの前でも?」

「だって、お姉様の本来の喋り方でしょう?」


 グリュムントを怒った時の口調というのが本来の話し方ではないのかとマリーナは問う。

 あの時はカノアと話す時のような崩した口調になっていた気がしなくもなくて、シャロンは「そ、そうだね」と笑うしかない。


「ジークお兄様だってその方が嬉しいと思うわ!」

「そ、そうかな……」

「そうよ!」


 マリーナは「大丈夫よ!」と笑みを見せる。彼女が言うならばきっと大丈夫なのだろうなとシャロンはなんとなく思った。




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「転生してよかったんだろうか」
 ベッドに寝そべりながらシャロンは呟く。自分は違う世界から転生してきた存在で、それを今は受け入れている。
 けれど、転生してよかったのだろうかと思わなくもない。そう思わなくもないが、転生してよかったなと思っている自分もいる。
 だって、ジークハルトという存在に出逢えたのだから。
 出逢い方はなんともムードも欠片も無いものだったけれど、彼と過ごして恋をしてよかったと思っている。
 恋愛初心者だった自分でも愛するということができて、一緒にいたいと思えることができた。
 いろいろと文句は言ったけれど、この出逢いには神様に感謝してもいい。
 もし、転生に意味があるというのならば、自分はきっとジークハルトの傍にいるために此処にいるのだ。
 それならば転生してよかったのだと思える、ポジティブな思考ではあるのだけれど。
「なら、私はジークさんのためにもお父上様の説得を手伝わないと……」
 彼と共にいるために。シャロンはよしっと気合を入れて起き上がるとベッドから下りた。
「あのおじさん? は何か知ってそうだし、ちょっと聞いてみようかな」
 この前の夜に出逢った老年の男は王のことを知っているような口ぶりだったので、何かアドバイスがもらえないかとシャロンは考えた。
 眠れない夜はいつもあの場所で月を見ていると言っていたのでまたいるかもしれない。シャロンは見てこようとそっと部屋を出た。
 部屋を出て巡回の兵士がいないか周囲を警戒しつつ通路を歩いていく。空を見上げれば今日も月が出ており、星の瞬きと共に煌めいている。
「シャロンさん」
 月をぼんやりと眺めていたシャロンは背後からの声にびくりと肩を跳ねさせて慌てて振り返る。
 声の主はフィルクスで、彼はその端整な顔立ちによく似合う笑みを浮かべていた。
 シャロンは「まずい」と思った。ジークハルトもハーラルトも警戒している相手であるフィルクスに見つかってしまったからだ。
 彼はなんとも嬉しそうにしている様子にシャロンはそろりと一歩、下がる。
「こんな時間にどうしたんだ?」
「え、ちょっと月を見ていただけで……も、もう部屋に戻るので!」
 シャロンはそう返事をして駆けだそうとして――手を掴まれた。
「逃げることないと思うが?」
「に、逃げるだなんて……も、もう部屋に戻りますから……」
「やはり、美しい」
「は、はぁ……」
 フィルクスはシャロンの言葉など聞くこともなくじっと見つめてくる。
 シャロンはなんとか離れようと腕を引くも、離してくれるどころか強く握られてしまった。
「ジークよりもわたしのほうが良いと思うのだが?」
「お断りさせていただきます」
「あの逃げ出した男の何処が良いと……」
「ジークさんにはジークさんの良さがあります!」
 近寄ってくるフィルクスの胸を押してシャロンは声高く答える。
 明らかな拒絶にフィルクスは眉を寄せているが、手を離すつもりはないようで、「次期王の妃のほうが良いだろう」と言ってくる。
 そういうことじゃないんだよなと突っ込みたかったけれど、相手には通用しないようだ。
 なので、シャロンは「ジークさん以外に興味はありません!」と強く返した。
「いい加減にしてください!」
「何が嫌だという」
「そういう話を聞かないところですかね!」
 シャロンがぎっと睨みながら答えれば、フィルクスはますます不機嫌そうにする。
流石に扱い方を間違えたかもしれないとシャロンの背がひやりと冷たくなるが、言ってしまった言葉はなかったことにできない。
 だから、相手への姿勢を変えなかった。
 そんなシャロンにフィルクスが何か言おうとして、ぐんっと後ろに引っ張られる。
「兄上、止めていただきたい」
 フィルクスを引っ張り放ったのはジークハルトだった。
 その勢いに掴まれていた手は離れて、シャロンは慌ててジークハルトの背に隠れた。
「何故、お前が此処にいる」
「フィルクス兄上がシャロンの部屋へと向かっているのを見かけたからだ」
「……誰かに見張らせていたな」
「何のことでしょうかね」
 ジークハルトの返しにフィルクスは小さく舌打ちをすると一つ睨んで歩いていってしまう。
 彼の背が遠のいたのを確認してから、ジークハルトははぁと息を吐いてシャロンに「大丈夫か」と声をかけた。
「だ、大丈夫です」
「それなら良かった。でも、どうして部屋から出ているんだ」
「えっと、寝付けなかったんで外でも眺めようかなーって……」
 なんとなくあのおじさんのことは内緒にしておいた方がいい気がしてシャロンは誤魔化す。
 ジークハルトは少しばかり不思議そうにしていたが、「寝付けないのは無理もないか」と納得したようだ。
「フィルクス兄上が何かするのではと思って兵士に見張らせていたが……間に合ってよかった」
「えっと、その……勝手に部屋からでちゃってすみません……」
「いや、シャロンは悪くない。部屋にいれば押し入られていたかもしれない」
「な、なるほど……」
 部屋に押し入られてはシャロンもどうなっていたか分からないなと思った。
 外ならば声を上げれば兵がやってきてくれるかもしれないので、その点では部屋から出ていて正解だった。
 ジークハルトはまた何かあるといけないからなと少し考える素振りを見せる。
「マリーナの部屋にいてもらうか……」
「マリーナ様ですか……大丈夫ですかね?」
「俺と一緒のほうが一番いいが、出ていくところを見られて余計な話が広がっては……」
「あー、なるほど」
 男女が同じ部屋に一夜となると想像してしまうことはあるだろう。
 父との交渉前にそんな話が広がっては印象が悪くなってしまうので、それは避けなければならない。
 ジークハルトは「マリーナに頼んでみよう」と言ってシャロンの手を引いた。
   *
 マリーナの部屋はそれほど遠くはなく、すぐにたどり着くことができた。
 まだ眠っていなかったようで出てきたマリーナはジークハルトから話を聞いて、「わたくしに任せて!」と胸を張る。
 シャロンは「ご迷惑を」と頭を下げれば、「いいのよ、お姉様!」と笑みをみせてマリーナは迎え入れる。
 ジークハルトは頼むと言って、もう夜も更けているからと早々に部屋を出て行った。
「さ! お姉様も寝ましょう!」
「そ、そうですね」
「もっと軽く話してくださっていいのよ?」
「それは、その……」
 軽くと言われるけれど相手はこの国の姫君であるわけで。とてもじゃないがそうはできないのだが、マリーナはむーっと頬を膨らませている。
 これは仕方ない、マリーナが許可を出しているのだと言い聞かせてシャロンは「わ、わかったよ」と返事をした。
「でも、人前では無理だからね?」
「いいわ! わたくしとジークお兄様の前ではそれでいて」
「え、ジークさんの前でも?」
「だって、お姉様の本来の喋り方でしょう?」
 グリュムントを怒った時の口調というのが本来の話し方ではないのかとマリーナは問う。
 あの時はカノアと話す時のような崩した口調になっていた気がしなくもなくて、シャロンは「そ、そうだね」と笑うしかない。
「ジークお兄様だってその方が嬉しいと思うわ!」
「そ、そうかな……」
「そうよ!」
 マリーナは「大丈夫よ!」と笑みを見せる。彼女が言うならばきっと大丈夫なのだろうなとシャロンはなんとなく思った。