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第33話 彼自身を見ているならば

ー/ー



 ジークハルトは城内を駆け巡っていた。自身に王位継承権をと唱えている派閥の人々を説き伏せ回っていたのだ。

 シャロンはそんな彼の背を見守ることしかできず、もどかしく思っていた。

 此処に来てから三日が経ち、残された期限はあと二日となっているので尚更、力になりたかった。

 とはいえ、自分にできることというのはなくてマリーナと共にいるしかない。中庭のテラスで花々に囲まれながらシャロンははぁと溜息をつく。


「やっぱり心配?」

「心配ですよ、そりゃ……」

「まだお父様とは面会できないものねぇ……」


 ジークハルトの父である王はまだ体調が悪いようで医者以外の面会はできない。

 それでも良くなってきているようで、明日明後日には顔を出せるだろうと医者は言っていたのだとマリーナは話す。

 明日明後日となると期限間近、これは何とかなるだろうかと考えながらシャロンはジークハルトのことを心配していた。

 ここ三日はまともに彼に会えていないのだが、それほどに説得というのは大変なものなのだろう。一人一人に時間をかけて話をしているのだから。


「ここにいましたか」


 声がしてシャロンは意識を浮上させながら振り返るとグリュムントがいた。彼はじっとシャロンを見つめていてなんともその視線が痛い。

 シャロンは「あの、なにか」と恐る恐る問うと、彼は「ジークハルト様のことです」と返される。


「貴女ならばあのお方を説得できるでは」

「何のですか?」

「王位継承権を放棄するのを止めることですよ」

「はぁっ!」


 何を言っているのだとシャロンが見遣れば、グリュムントは「あの方こそが相応しい」と語り出す。

 武の才能だけでなく、魔法にも才でていて、人を惹きつける人望がジークハルトにはあると。

 そんな彼だからこそ、王に相応しいのだと言うグリュムントにシャロンは顔を顰める。

 確かにジークハルトは強かったし、里のみんなともすぐに打ち解けていた。

 それは彼の人を惹きつける人望と言えるものだろうけれど、それだけではない。

 ジークハルトの優しさや、人柄など彼の良さを里の皆が見て感じたからだ。

 この男はジークハルト自身を見ていないように感じた。ただ、才能があるから王に相応しいと上っ面だけを見て勝手に決めつけているだけだと。


「嫌ですよ。私はジークさんの意思を尊重します」

「分からないと言うのですか!」

「分かってないのはあんたでしょ!」


 グリュムントの返しにシャロンは思わず大きな声を上げた。


「どうしてジークさんの気持ちを分かってあげないの! ジークさんの話を聞いて、理解してあげないの! 人を惹きつける人望が才能だって? そんなもんじゃない! ジークさんの優しさと人柄、気遣い、それは才能なんかじゃなくて、彼自身でしょ!」


 何が才能だ、そんな言葉で固めるなとシャロンは怒鳴る。アナタは今までジークの何を見てきたのだと。

 その迫力たるや、並みの人間ならば一歩、後ずさるほどでマリーナも目を開いて固まっている。

 グリュムントは怒られていると気づいて動揺しているようだった。

 誰かに怒られ慣れていないというよりは、どうして怒鳴られているのか理解できない様子だ。

 それでもシャロンは「いい加減にしなさいよ!」と声を張る。


「何が分からないのですか、よ! 分かってないのはあんたでしょうが! ジークさんは自分の力量を理解した上で、自身には王になれる器はないって判断した。それを理解してあげないほうが分かってないでしょ!」


 グリュムントは何か言い返そうとするも、シャロンに「いい加減にしなさい!」ときつく言われて黙ってしまう。

 今のシャロンはハルピュイア特有の圧を放っているためか、目が鋭くなっていた。

 何も分かっていないのは貴方のほうで、彼自身を見ていない。ジークハルトの心も、想いも。

 貴方がやっていることは自分勝手な暴走だ。シャロンははっきりと切り捨てた。


「グリュムント」


 低い声がしてグリュムントははっと振り返り――固まった。ジークハルトがその銀灰の瞳を細めて見つめている。

 その力強いその眼は怒らせてしまったとすぐに察することができた。


「シャロンには手を出すなと言ったはずだ」

「それは……」

「シャロンを怒らせているということは何かしたのだろう」

「お兄様の説得を手伝ってくれって言ってたわ!」


 黙るグリュムントの代わりにマリーナが言えば、ジークハルトは眉を寄せる。

 ますます怖くなるその表情にグリュムントは何も言えない。


「グリュムント、俺には王になる器はない」

「しかし……」

「フィルクス兄上ほどの優秀な指揮は取れないし、ハーラルト兄上ほど社交的でもなければ自信家でもない。兄二人には決断力と行動力、外交能力がきちんと備わっている。俺にはそれがないんだ」


 兄二人は世間を渡る術というのを身につけているが、ジークハルトにはそれが上手くできない。

 誰かと交流して親しくなることはできても、外交という交渉をできるほどの技量はなかった。

 それを理解して自分は上に立つ人間ではないと認めたのだ。

 これは認めたことなのだとジークハルトは話す。

 擁護もフォローも必要はない、事実であると言い切った彼にグリュムントは覚悟を見てか諦めたように俯いた。


「わたしは貴方様の元で働きたかった」

「すまないが諦めてくれ」

「……そうしましょう」


 グリュムントの落胆した様子にジークハルトは申し訳なさを感じているようで少しだけ表情を緩めた。

 彼はもう諦めたようで深い溜息を吐いている。


「なんと言いますか……貴方様に相応しい奥方ですね、彼女は」


 自分の意思をはっきりと告げて、相手のことを想い知って、相手のために声を上げることができる。

 そんな心強いシャロンはジークハルトに相応しいとグリュムントは話す。


「シャロンは素直で強い女性だからな」

「でしょうね。ハルピュイアを怒らせると恐ろしいと実感しましたよ。ジークハルト様もお気を付けください」

「あぁ、そうしよう」


 ジークハルトの「あの瞳で叱られては俺でも怯む」という言葉にシャロンははたりと気づく。

 彼に一部始終を見られていたということに。途端に恥ずかしくなったシャロンはうごごと顔を覆ってテーブルに突っ伏した。


「シャロン、どうした」

「恥ずか死ぬ……」

「気にすることはないが……俺のために怒ってくれたのだろう?」


 ジークハルトは「俺を想って怒ってくれたのだから気にすることはない」と笑む、とても嬉しかったと。

 シャロンはそろりと顔を上げてジークハルトを見遣ると彼は優しげに見つめていた。


「いやー、ジークの選んだ女は意外と気が強いな?」

「ハーラルト兄上」


 よっと手を上げてハーラルトはジークハルトの隣に立って、「見た目と違うなぁ」と感心したようにシャロンを見ている。

 彼も全部を見ていたようで「あそこまでよく言えるんだから」と拍手した。

 褒められているのか分からずシャロンは何とも言えない表情を見せた。そんな彼女にハーラルトは悪い悪いと軽く謝ってから言った。


「意外だなって思っただけで、悪く言ってるわけじゃねぇから気にしないでくれ」

「は、はぁ……」

「ハーラルト兄上は何か用があったんじゃないのか」

「あぁ、そうそう。王位継承権を決める闘技が行われることになった」


 闘技と聞いてシャロンは首を傾げる。ハーラルトは「この国で代々伝わっている王位継承権を決める方法だ」と話した。

 話し合いで決まらなかった場合、王位継承権をどちらに渡すか決めるために主張する人間が戦うのだという。

 命を奪う行為は禁止されており、どれだけの技量があるかを王が見極めて判断するようになっている。

 話を聞いてシャロンは死にはしないかもしれないけれど、怪我はするだろうなと思った。

 多少の怪我は承知の上らしく、ハーラルトは「フィルクス兄さんには負けないさ」と自信満々だ。


「闘技を行うということは父上は出てくるのか」

「あぁ、医者から明日の様態によるけど明後日には表に出てもいいだろうって。闘技も明後日を予定しているぜ」


 明後日には王に会えるかもしれないと聞いてジークハルトは眉を下げる。期限である五日目だからだ。

 その日に父を説得できなければシャロンは里に戻らねばならず、三姉妹からは「諦めろ」と宣告されるだろう。

 険しい表情を見せるジークハルトにハーラルトは「なんかあるのか?」と不思議そうに問う。

 ジークハルトは「時間がない」と自分たちの事情を話す。


「はー、ハルピュイアっていうのは厳しいんだな」

「それは彼女が此処に残ればいいのでは?」

「父親すら説得できない男に仲間は任せられないということらしい」

「……なるほど」


 グリュムントの問いにジークハルトが答えれば納得したようだ。

 実の親すら説得できない男になど、仲間を預けるなどできないという気持ちは分からなくはない。

 それにシャロンに無理を言って王宮で暮らしてもらうなどジークハルトにはできなかった。

 王宮での暮らしは里と違って自由とは言い難いのが正直な話だ。妻であっても社交の場にはでなければならないし、貴族たちとの付き合いもある。

 外に出られる時間も限られているのだから窮屈に感じることもあるだろう。

 ジークハルトは「シャロンはハルピュイアとしてありのままでいてほしい」と言った。


「里で暮らしていたように自由に飛んで、狩りをしているありのままのシャロンでいてほしいから俺は此処を出たいんだ」

「出てもきっと公務からは逃げられねぇぞ」

「許されたとしてもきっと、里と王都を行ったり来たりでしょうな……」

「それでもだ」


 ジークハルトの意思は固いようで二人はそこまで言うならばと彼の行動を止めることはしなかった。

 シャロンも自分のことを想っての行動というのもあるが、ジークハルト自身が此処にいたくないと主張している。

 なので、それを尊重しようと口出しはしない。


「まー、此処にいてもフィルクス兄さんがシャロンちゃんにちょっかいかけそうだしなぁ」

「……それだけは阻止したい」

「さっさと決まった相手を見つければいいんだよ、兄さんは」


 惚れっぽい性格をどうにかすればなとハーラルトは頭を掻く。

 どうやらフィルクスの惚れっぽい性格でかなり苦労をしたようで、「女同士の修羅場はこりごりだ」と愚痴っている。

 ジークハルトもシャロンに手を出されるは嫌なようで「絶対に阻止する」と宣言していた。

 シャロンは余程、面倒な兄なんだろうなと察して自分も気を付けようと気を引き締めた。





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 ジークハルトは城内を駆け巡っていた。自身に王位継承権をと唱えている派閥の人々を説き伏せ回っていたのだ。
 シャロンはそんな彼の背を見守ることしかできず、もどかしく思っていた。
 此処に来てから三日が経ち、残された期限はあと二日となっているので尚更、力になりたかった。
 とはいえ、自分にできることというのはなくてマリーナと共にいるしかない。中庭のテラスで花々に囲まれながらシャロンははぁと溜息をつく。
「やっぱり心配?」
「心配ですよ、そりゃ……」
「まだお父様とは面会できないものねぇ……」
 ジークハルトの父である王はまだ体調が悪いようで医者以外の面会はできない。
 それでも良くなってきているようで、明日明後日には顔を出せるだろうと医者は言っていたのだとマリーナは話す。
 明日明後日となると期限間近、これは何とかなるだろうかと考えながらシャロンはジークハルトのことを心配していた。
 ここ三日はまともに彼に会えていないのだが、それほどに説得というのは大変なものなのだろう。一人一人に時間をかけて話をしているのだから。
「ここにいましたか」
 声がしてシャロンは意識を浮上させながら振り返るとグリュムントがいた。彼はじっとシャロンを見つめていてなんともその視線が痛い。
 シャロンは「あの、なにか」と恐る恐る問うと、彼は「ジークハルト様のことです」と返される。
「貴女ならばあのお方を説得できるでは」
「何のですか?」
「王位継承権を放棄するのを止めることですよ」
「はぁっ!」
 何を言っているのだとシャロンが見遣れば、グリュムントは「あの方こそが相応しい」と語り出す。
 武の才能だけでなく、魔法にも才でていて、人を惹きつける人望がジークハルトにはあると。
 そんな彼だからこそ、王に相応しいのだと言うグリュムントにシャロンは顔を顰める。
 確かにジークハルトは強かったし、里のみんなともすぐに打ち解けていた。
 それは彼の人を惹きつける人望と言えるものだろうけれど、それだけではない。
 ジークハルトの優しさや、人柄など彼の良さを里の皆が見て感じたからだ。
 この男はジークハルト自身を見ていないように感じた。ただ、才能があるから王に相応しいと上っ面だけを見て勝手に決めつけているだけだと。
「嫌ですよ。私はジークさんの意思を尊重します」
「分からないと言うのですか!」
「分かってないのはあんたでしょ!」
 グリュムントの返しにシャロンは思わず大きな声を上げた。
「どうしてジークさんの気持ちを分かってあげないの! ジークさんの話を聞いて、理解してあげないの! 人を惹きつける人望が才能だって? そんなもんじゃない! ジークさんの優しさと人柄、気遣い、それは才能なんかじゃなくて、彼自身でしょ!」
 何が才能だ、そんな言葉で固めるなとシャロンは怒鳴る。アナタは今までジークの何を見てきたのだと。
 その迫力たるや、並みの人間ならば一歩、後ずさるほどでマリーナも目を開いて固まっている。
 グリュムントは怒られていると気づいて動揺しているようだった。
 誰かに怒られ慣れていないというよりは、どうして怒鳴られているのか理解できない様子だ。
 それでもシャロンは「いい加減にしなさいよ!」と声を張る。
「何が分からないのですか、よ! 分かってないのはあんたでしょうが! ジークさんは自分の力量を理解した上で、自身には王になれる器はないって判断した。それを理解してあげないほうが分かってないでしょ!」
 グリュムントは何か言い返そうとするも、シャロンに「いい加減にしなさい!」ときつく言われて黙ってしまう。
 今のシャロンはハルピュイア特有の圧を放っているためか、目が鋭くなっていた。
 何も分かっていないのは貴方のほうで、彼自身を見ていない。ジークハルトの心も、想いも。
 貴方がやっていることは自分勝手な暴走だ。シャロンははっきりと切り捨てた。
「グリュムント」
 低い声がしてグリュムントははっと振り返り――固まった。ジークハルトがその銀灰の瞳を細めて見つめている。
 その力強いその眼は怒らせてしまったとすぐに察することができた。
「シャロンには手を出すなと言ったはずだ」
「それは……」
「シャロンを怒らせているということは何かしたのだろう」
「お兄様の説得を手伝ってくれって言ってたわ!」
 黙るグリュムントの代わりにマリーナが言えば、ジークハルトは眉を寄せる。
 ますます怖くなるその表情にグリュムントは何も言えない。
「グリュムント、俺には王になる器はない」
「しかし……」
「フィルクス兄上ほどの優秀な指揮は取れないし、ハーラルト兄上ほど社交的でもなければ自信家でもない。兄二人には決断力と行動力、外交能力がきちんと備わっている。俺にはそれがないんだ」
 兄二人は世間を渡る術というのを身につけているが、ジークハルトにはそれが上手くできない。
 誰かと交流して親しくなることはできても、外交という交渉をできるほどの技量はなかった。
 それを理解して自分は上に立つ人間ではないと認めたのだ。
 これは認めたことなのだとジークハルトは話す。
 擁護もフォローも必要はない、事実であると言い切った彼にグリュムントは覚悟を見てか諦めたように俯いた。
「わたしは貴方様の元で働きたかった」
「すまないが諦めてくれ」
「……そうしましょう」
 グリュムントの落胆した様子にジークハルトは申し訳なさを感じているようで少しだけ表情を緩めた。
 彼はもう諦めたようで深い溜息を吐いている。
「なんと言いますか……貴方様に相応しい奥方ですね、彼女は」
 自分の意思をはっきりと告げて、相手のことを想い知って、相手のために声を上げることができる。
 そんな心強いシャロンはジークハルトに相応しいとグリュムントは話す。
「シャロンは素直で強い女性だからな」
「でしょうね。ハルピュイアを怒らせると恐ろしいと実感しましたよ。ジークハルト様もお気を付けください」
「あぁ、そうしよう」
 ジークハルトの「あの瞳で叱られては俺でも怯む」という言葉にシャロンははたりと気づく。
 彼に一部始終を見られていたということに。途端に恥ずかしくなったシャロンはうごごと顔を覆ってテーブルに突っ伏した。
「シャロン、どうした」
「恥ずか死ぬ……」
「気にすることはないが……俺のために怒ってくれたのだろう?」
 ジークハルトは「俺を想って怒ってくれたのだから気にすることはない」と笑む、とても嬉しかったと。
 シャロンはそろりと顔を上げてジークハルトを見遣ると彼は優しげに見つめていた。
「いやー、ジークの選んだ女は意外と気が強いな?」
「ハーラルト兄上」
 よっと手を上げてハーラルトはジークハルトの隣に立って、「見た目と違うなぁ」と感心したようにシャロンを見ている。
 彼も全部を見ていたようで「あそこまでよく言えるんだから」と拍手した。
 褒められているのか分からずシャロンは何とも言えない表情を見せた。そんな彼女にハーラルトは悪い悪いと軽く謝ってから言った。
「意外だなって思っただけで、悪く言ってるわけじゃねぇから気にしないでくれ」
「は、はぁ……」
「ハーラルト兄上は何か用があったんじゃないのか」
「あぁ、そうそう。王位継承権を決める闘技が行われることになった」
 闘技と聞いてシャロンは首を傾げる。ハーラルトは「この国で代々伝わっている王位継承権を決める方法だ」と話した。
 話し合いで決まらなかった場合、王位継承権をどちらに渡すか決めるために主張する人間が戦うのだという。
 命を奪う行為は禁止されており、どれだけの技量があるかを王が見極めて判断するようになっている。
 話を聞いてシャロンは死にはしないかもしれないけれど、怪我はするだろうなと思った。
 多少の怪我は承知の上らしく、ハーラルトは「フィルクス兄さんには負けないさ」と自信満々だ。
「闘技を行うということは父上は出てくるのか」
「あぁ、医者から明日の様態によるけど明後日には表に出てもいいだろうって。闘技も明後日を予定しているぜ」
 明後日には王に会えるかもしれないと聞いてジークハルトは眉を下げる。期限である五日目だからだ。
 その日に父を説得できなければシャロンは里に戻らねばならず、三姉妹からは「諦めろ」と宣告されるだろう。
 険しい表情を見せるジークハルトにハーラルトは「なんかあるのか?」と不思議そうに問う。
 ジークハルトは「時間がない」と自分たちの事情を話す。
「はー、ハルピュイアっていうのは厳しいんだな」
「それは彼女が此処に残ればいいのでは?」
「父親すら説得できない男に仲間は任せられないということらしい」
「……なるほど」
 グリュムントの問いにジークハルトが答えれば納得したようだ。
 実の親すら説得できない男になど、仲間を預けるなどできないという気持ちは分からなくはない。
 それにシャロンに無理を言って王宮で暮らしてもらうなどジークハルトにはできなかった。
 王宮での暮らしは里と違って自由とは言い難いのが正直な話だ。妻であっても社交の場にはでなければならないし、貴族たちとの付き合いもある。
 外に出られる時間も限られているのだから窮屈に感じることもあるだろう。
 ジークハルトは「シャロンはハルピュイアとしてありのままでいてほしい」と言った。
「里で暮らしていたように自由に飛んで、狩りをしているありのままのシャロンでいてほしいから俺は此処を出たいんだ」
「出てもきっと公務からは逃げられねぇぞ」
「許されたとしてもきっと、里と王都を行ったり来たりでしょうな……」
「それでもだ」
 ジークハルトの意思は固いようで二人はそこまで言うならばと彼の行動を止めることはしなかった。
 シャロンも自分のことを想っての行動というのもあるが、ジークハルト自身が此処にいたくないと主張している。
 なので、それを尊重しようと口出しはしない。
「まー、此処にいてもフィルクス兄さんがシャロンちゃんにちょっかいかけそうだしなぁ」
「……それだけは阻止したい」
「さっさと決まった相手を見つければいいんだよ、兄さんは」
 惚れっぽい性格をどうにかすればなとハーラルトは頭を掻く。
 どうやらフィルクスの惚れっぽい性格でかなり苦労をしたようで、「女同士の修羅場はこりごりだ」と愚痴っている。
 ジークハルトもシャロンに手を出されるは嫌なようで「絶対に阻止する」と宣言していた。
 シャロンは余程、面倒な兄なんだろうなと察して自分も気を付けようと気を引き締めた。