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第29話 彼を慕う側近と、妹君との邂逅

ー/ー



 森を抜けて平原を越えた先にアルベシュト国の王都がある。

 シャロンはジークハルトの後ろを着いていきながら門前を通り抜けて、目の前に広がる城下の町並みに目を開いた。

 煉瓦でできた家々は綺麗に並び、市場は活気づいたように人が多く、広場は大道芸などで賑わっている。

 ひと際、目立つ大きな城がこのアルベシュト国の象徴だ。真っ白な城をシャロンは「うわぁ」と声を零しながら見上げていた。

 ジークハルトの帰還に兵士たちが湧く中、彼はシャロンを連れて城に入っていく。

 煌びやかな調度品に誰が描いたかもわからぬ絵画が飾られて、赤い絨毯の敷かれた城内にシャロンは落ち着かない。

 周囲を見渡していると奥から駆けてくる者がいた。


「ジークハルト様、やっとお戻りになられました!」

「グリュムント、俺は一度だけ戻ってきただけだ」


 グリュムントと呼ばれた紫のふわふわとした髪質を持っている壮年の男はジークハルトの言葉に眉を下げる。

 そんな彼にまだ諦めていないのかと呆れたようにジークハルトはもう一度、「俺は王位継承権を放棄するし、王都を出る」と告げた。


「何故ですか! 貴方様ならば立派な王に……」

「俺は上に立つほどの器はない。兄上二人のほうが王になる素養がある」

「そんなことはっ!」

「グリュムント、いい加減にしてくれ!」


 ジークハルトは強い口調で言う、もういい加減にしてくれと。自分は王になるつもりはないのだと、兄たちと争うことはしたくなく、この城から出て行きたい。

 そう告げられる言葉にグリュムントは反論しているので、彼はまだ諦めるつもりがないうようだ。

 それでもジークハルトは意見を変えるつもりはないので、「父上に会ってくる」と彼の横を通り過ぎようとして――その腕を止められた。


「国王様は体調を崩されていますので今、面会謝絶です」

「……諦めてくれと言ったはずだが?」

「わたしは貴方様が王になるに相応しいという意見を変えるつもりはない」


 睨み合う二人をシャロンは黙って見守るしかない。

 そうやって空気になっているとグリュムントが彼女に気づいてか、「どうしてハルピュイアが」と口にする。ジークハルトは「俺が連れてきた」と答えてシャロンの手を取る。


「彼女を父上に紹介するために戻ったんだ」

「……はぁっ!」

「悪いが、俺は王都を出て彼女の住まう里で暮らす」


 ジークハルトの嘘のない言葉にグリュムントは理解したようで「そんな!」と声を上げる。


「あのどんな女性を紹介しても断り続けたという実績持ちの貴方様が!」

「……それを彼女の前で言わないでくれ」


 いろんな女性を紹介されたという事実を知られたくはなかったようでジークハルトは渋面を見せる。

 王子なのだから婚約者候補など数多くいただろうことは考えれば分かることなのでシャロン自身は気にしていなかった。

 凄いなと話を聞いていれば、ジークハルトは「こいつの話は聞かなくていい」と言われる。


「他に何を言われても俺を信じてくれ」

「わかりました」

「し、しかしハルピュイアとは……その……」

「別に問題はないはずだが?」


 この国で異種族間の婚姻は認められているだけでなく、一般化されている。

 当たり前のように異種族夫婦というのは住んでいて、町を歩きまわっているのだから何の問題もない。

 ジークハルトの言葉にグリュムントは「そうですが……」と何とも言い難い表情を見せていた。

 ハルピュイアというのが納得できないのだろうなとシャロンは察する。

 獣人やエルフなどと違って人外要素が多いのでそれが気になるというのは分からなくもない。

(足なんて、鷲の足だもんな……)

 ハルピュイアの手足は鷲の爪を持っている。普通の人間とは違っているし、腕は翼のように羽根が生えているのだから特に目立つことだった。

 顔や身体は人間と全く変わらず、美人の多い亜人種寄りの存在ではあるのだが、気になる部分というのは出てくるのは仕方ないことだ。


「文句は言わせないし、彼女に失礼なことをすればどうなるか分かるな?」

「……承知しました」


 なんとも不服そうではあったけれど、ジークハルトの眼光に本気を見たようでグリュムントは渋々それを了承した。


「ジークお兄様、帰ってきたの!」


 わっと明るい声が響く。振り返ればジークハルトと同じ葡萄色の緩く巻かれた長い髪を揺らして駆け寄ってくる少女が目に留まった。

 淡いピンクの可愛らしいドレスに身を包む彼女は真っ青な瞳をシャロンに向けている。


「ハルピュイアがいるわ!」

「マリーナ、俺が連れてきた」

「え! お兄様が! と、とういうことは!」


 マリーナと呼ばれた少女は口元に手を添えながら目を開く。

 その言葉だけで理解したようで興味津々といったふうに、シャロンをきらきらした瞳で見つめていた。


「ハルピュイアを間近で見たけれど、すっごい美人だわ!」

「え、えっとありがとうございます……」

「お名前は! わたくしはマリーナっていうの!」

「しゃ、シャロンです……」

「シャロンお姉様ね!」


 きゃっきゃと嬉しそうにマリーナはシャロンの手を取って跳ねる。どうやら彼女はハルピュイアが兄の相手でも文句はないようだ。

 むしろジークハルトが連れてきたということを喜んでいる。


「お父様に会うならその服は驚かせちゃうわ! すぐにわたくしが用意してあげる!」

「え、え?」

「マリーナ……」

「お兄様はやることをやってて! シャロンお姉様はわたくしに任せて!」


 ジークハルトの有無を言わさずにマリーナはそう言ってシャロンの手を引くと駆けだした。

 腕を引っ張られてシャロンはジークハルトのほうを見遣ると彼は「すまない」と謝っていた。

 けれど、マリーナを止めることはしなかったので着いていっても問題はないのだろう。そう判断してシャロンは抵抗するのを止めた。





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 森を抜けて平原を越えた先にアルベシュト国の王都がある。
 シャロンはジークハルトの後ろを着いていきながら門前を通り抜けて、目の前に広がる城下の町並みに目を開いた。
 煉瓦でできた家々は綺麗に並び、市場は活気づいたように人が多く、広場は大道芸などで賑わっている。
 ひと際、目立つ大きな城がこのアルベシュト国の象徴だ。真っ白な城をシャロンは「うわぁ」と声を零しながら見上げていた。
 ジークハルトの帰還に兵士たちが湧く中、彼はシャロンを連れて城に入っていく。
 煌びやかな調度品に誰が描いたかもわからぬ絵画が飾られて、赤い絨毯の敷かれた城内にシャロンは落ち着かない。
 周囲を見渡していると奥から駆けてくる者がいた。
「ジークハルト様、やっとお戻りになられました!」
「グリュムント、俺は一度だけ戻ってきただけだ」
 グリュムントと呼ばれた紫のふわふわとした髪質を持っている壮年の男はジークハルトの言葉に眉を下げる。
 そんな彼にまだ諦めていないのかと呆れたようにジークハルトはもう一度、「俺は王位継承権を放棄するし、王都を出る」と告げた。
「何故ですか! 貴方様ならば立派な王に……」
「俺は上に立つほどの器はない。兄上二人のほうが王になる素養がある」
「そんなことはっ!」
「グリュムント、いい加減にしてくれ!」
 ジークハルトは強い口調で言う、もういい加減にしてくれと。自分は王になるつもりはないのだと、兄たちと争うことはしたくなく、この城から出て行きたい。
 そう告げられる言葉にグリュムントは反論しているので、彼はまだ諦めるつもりがないうようだ。
 それでもジークハルトは意見を変えるつもりはないので、「父上に会ってくる」と彼の横を通り過ぎようとして――その腕を止められた。
「国王様は体調を崩されていますので今、面会謝絶です」
「……諦めてくれと言ったはずだが?」
「わたしは貴方様が王になるに相応しいという意見を変えるつもりはない」
 睨み合う二人をシャロンは黙って見守るしかない。
 そうやって空気になっているとグリュムントが彼女に気づいてか、「どうしてハルピュイアが」と口にする。ジークハルトは「俺が連れてきた」と答えてシャロンの手を取る。
「彼女を父上に紹介するために戻ったんだ」
「……はぁっ!」
「悪いが、俺は王都を出て彼女の住まう里で暮らす」
 ジークハルトの嘘のない言葉にグリュムントは理解したようで「そんな!」と声を上げる。
「あのどんな女性を紹介しても断り続けたという実績持ちの貴方様が!」
「……それを彼女の前で言わないでくれ」
 いろんな女性を紹介されたという事実を知られたくはなかったようでジークハルトは渋面を見せる。
 王子なのだから婚約者候補など数多くいただろうことは考えれば分かることなのでシャロン自身は気にしていなかった。
 凄いなと話を聞いていれば、ジークハルトは「こいつの話は聞かなくていい」と言われる。
「他に何を言われても俺を信じてくれ」
「わかりました」
「し、しかしハルピュイアとは……その……」
「別に問題はないはずだが?」
 この国で異種族間の婚姻は認められているだけでなく、一般化されている。
 当たり前のように異種族夫婦というのは住んでいて、町を歩きまわっているのだから何の問題もない。
 ジークハルトの言葉にグリュムントは「そうですが……」と何とも言い難い表情を見せていた。
 ハルピュイアというのが納得できないのだろうなとシャロンは察する。
 獣人やエルフなどと違って人外要素が多いのでそれが気になるというのは分からなくもない。
(足なんて、鷲の足だもんな……)
 ハルピュイアの手足は鷲の爪を持っている。普通の人間とは違っているし、腕は翼のように羽根が生えているのだから特に目立つことだった。
 顔や身体は人間と全く変わらず、美人の多い亜人種寄りの存在ではあるのだが、気になる部分というのは出てくるのは仕方ないことだ。
「文句は言わせないし、彼女に失礼なことをすればどうなるか分かるな?」
「……承知しました」
 なんとも不服そうではあったけれど、ジークハルトの眼光に本気を見たようでグリュムントは渋々それを了承した。
「ジークお兄様、帰ってきたの!」
 わっと明るい声が響く。振り返ればジークハルトと同じ葡萄色の緩く巻かれた長い髪を揺らして駆け寄ってくる少女が目に留まった。
 淡いピンクの可愛らしいドレスに身を包む彼女は真っ青な瞳をシャロンに向けている。
「ハルピュイアがいるわ!」
「マリーナ、俺が連れてきた」
「え! お兄様が! と、とういうことは!」
 マリーナと呼ばれた少女は口元に手を添えながら目を開く。
 その言葉だけで理解したようで興味津々といったふうに、シャロンをきらきらした瞳で見つめていた。
「ハルピュイアを間近で見たけれど、すっごい美人だわ!」
「え、えっとありがとうございます……」
「お名前は! わたくしはマリーナっていうの!」
「しゃ、シャロンです……」
「シャロンお姉様ね!」
 きゃっきゃと嬉しそうにマリーナはシャロンの手を取って跳ねる。どうやら彼女はハルピュイアが兄の相手でも文句はないようだ。
 むしろジークハルトが連れてきたということを喜んでいる。
「お父様に会うならその服は驚かせちゃうわ! すぐにわたくしが用意してあげる!」
「え、え?」
「マリーナ……」
「お兄様はやることをやってて! シャロンお姉様はわたくしに任せて!」
 ジークハルトの有無を言わさずにマリーナはそう言ってシャロンの手を引くと駆けだした。
 腕を引っ張られてシャロンはジークハルトのほうを見遣ると彼は「すまない」と謝っていた。
 けれど、マリーナを止めることはしなかったので着いていっても問題はないのだろう。そう判断してシャロンは抵抗するのを止めた。