第28話 彼の為に王都へと

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 商人がハルピュイアの里を訪れて旅芸人の一団は食料などを買い込んで旅立つ準備を整えた。

 アエローと交渉したようで道案内兼護衛のハルピュイアたちが数人選ばれている。彼らが里を出ていくとき、マーシェが駄々をこねていた。


「どうして、ダメなんですか!」


 マーシェはジークハルトを見つめながら、「逃げるなら旅芸人はもってこいじゃないですか!」と言う。

 ジークハルトは「俺は此処を離れるつもりはない」と返すが、彼女は納得していない様子だった。

 どうしてとしつこく問われてジークハルトははっきりと言ってやらないといけないと察したようで一つ息を吐いた。


「俺はシャロン以外に興味はないし、彼女の傍から離れるつもりはない」


 きっぱりと言い切ったジークハルトにマーシェは目を見開いた。

 彼の瞳に嘘はなく、真剣な表情に本心からの言葉だと理解したのか、彼女はぎゅっと拳を握って唇を噛む。

 少し後ろにいたシャロンをぎろりと睨みつけて、マーシェは悔しそうに顔を歪めながら団長の元へと走っていってしまった。

 団長の男は「お世話になりました」とアエローたちに挨拶をしてから、旅芸人たちを連れて里を出て行った。

 それを見送ってやっと解放されたジークハルトは溜息を吐く。


「なんだい、やっと認めたのか!」

「……あぁ、その……」

「お前たちならきっと夫婦になれると思っていたよ」


 嬉しそうにアエローは「次はお前たちの番だな」とジークハルトの背を叩いていた。

 確かに想いが通じ合ったのでそうなるのだが、ジークハルトは事情を抱えている。このまま放置していいものなのかと彼は悩んでいるようだった。

 追手から見つかっていないということは、気づかれていないと判断してもいい。

 だが、見つかった時のことを考えてはやはりこのまま黙っているのはよくない。そう判断して、ジークハルトは長に「話しがしたい」と申し出た。

 アエローはジークハルトの雰囲気で察してか、「いいだろう」と、彼を自分の家へと迎え入れた。


 里のひと際、そそり立つ大樹に寄り添うように建てられているのがハルピュイアたちの長、三姉妹夫婦が暮らす家だ。

 周囲のハルピュイアたちの家よりも大きいだけあり、室内も広かった。

 凝った調度品などはなく割とさっぱりとした内装で飾りっけはあまりない。

 そんな一室でジークハルトは三姉妹に自分が何者なのか、どうして此処に流れ着いたのかを隠すことなく話した。

 話を聞いた三姉妹たちはなるほどと訳を理解したように頷く。


「なるほど。訳アリだと思っていたが、まさかこの国の王子だったとはね」

「……申し訳ない」

「あらあら~気にしないでいいのよー」


 オーキュペテーが「細かいこと気にしないのがハルピュイアだから」と笑う。

 アエローも、ケライノーもジークハルトが王子であることを気にしてないようで、それよりも追手について心配しているようだ。


「シャロンを愛した以上、お前はもうこの里の仲間だ。私たち長は仲間を守る義務がある。が、王族相手は厳しいな」

「そうねぇ。いくら亜人種寄りとはいえ、魔族には変わりないしぃ。下級兵士ぐらいならあたしたちでどうにかできそうだけど、魔導士出されたら困るわね~」

「此処が見つかるのも時間の問題だな」


 三姉妹の見解は同じようで近々、見つかるだろうということだった。

 ジークハルトが此処に来てからふた月を越えているので、王都周辺の町村から森の捜索に移っているのならば見つかる頃間だと判断したようだ。

 それに旅芸人たちが王都へと向かっているので、彼らの口からジークハルトの名が出ればすぐにでも駆け付けてくるだろう。

 それは覚悟しなければならないとアエローは現実を突きつける。


「見つかれば俺は王都に戻ることになる。此処に迷惑をかけたくはない」

「断れそうにはないのよね?」

「無理だろうな。はっきりと王の前で宣言してくるしかない」


 自分は王位継承権を放棄すると父である王の前で宣言する。

 何度もそうしようとして側近の、派閥の連中たちに阻止されてきたけれど、そうしなければ何も解決はしないとジークハルトは話した。

 逃げたことで多少の理解は得たかもしれないとは思うけれど、それでも不安がないわけではないようだ。


「これは父を説得するためなのだが……」

「なんだろうか」

「シャロンを連れて行きたい」


 王に父に自分はシャロンと生涯を共にしたいと報告し、王都を出たいことを伝えるのだとジークハルトは話す。

 長からしたら里の仲間を何があるか分からない場所に連れていくのは不安だろうけれどと彼は頭を下げた。

 三姉妹は顔を合わせてふむと頷くと「いいだろう」と答えた。


「シャロン、お前もいいね?」

「えっと、私で説得できるかはわかりませんけど……はい」

「ただし、期限を設ける」


 アエローは「お前はこの里に残りたいのだな?」と再度、問う。ジークハルトが残りたいと答えたのを見て「五日だ」と彼女は告げた。


「この森から王都までは一日半もあればつく、それを除いた五日間で解決してこい」

「五日間……」

「シャロンは大事な仲間だ。仲間を何があるか分からない場所に送るのだから私たちも心配だからな」


 五日経つ頃に私たち長三姉妹が直々にシャロンを迎えに行くとアエローは言った。

 王都へとそれも王城へと向かうのだから、生半可なハルピュイアでは任せられないからと。

 五日で解決しなければシャロンのことは諦めろとアエローは残酷なことを告げる。

 何も解決できない男に大切な仲間を任せることはできないということを言いたいようで、それはオーキュペテーもケライノーも同じようだった。

 シャロンは長の決めたことには言い返すことができないのでそれを受け入れるしかなかった。

 ジークハルトも異論はないようで、「五日で解決してみせる」とアエローに約束する。


「アエロー、どうやら時間が来たようだ」


 アエローの夫、セザールが外を指さした。長の家を出て遠目から見える門の前に人間の兵士らしき男たちが数人ほど立っている。

 ジークハルトは「アルベシュト国の兵士だ」と言って、とうとう来たかと息を吐いた。

 ジークハルトはゆっくりと門前のほうまで歩いていくので、シャロン達もそれに着いていく。

 兵士がジークハルトに気づいてか、「ジークハルト様!」と声を上げていた。


「ジークハルト様、ご無事で!」

「俺は無事だ。ハルピュイアたちには手を出すな、彼女たちは恩人だ」


 ジークハルトの言葉に兵士たちは持っていた武器を下げる。

 ジークハルトは彼らに「王位継承権はどうなった」と問うと、「まだ争っていて……」と気まずげに兵士が答えた。

 だろうなとジークハルトは頷いてから「俺の意思は変わらない」と兵士たちに告げた。


「俺は王位継承権を放棄するし、王都に戻るつもりはない」

「しかし、それをわたしたちに言われましても……」

「分かっている。俺は一度、城に戻ろう。だが、それは父に王位継承権を放棄することを伝えるのと、彼女のことを報告するためだ」


 ジークハルトはそう言ってシャロンを呼んだ。シャロンは彼の後ろから顔を覗かせると、兵士たちが目を白黒させながら動揺していた。

 中には、「まさか、あのジークハルト様が!」と声を出して驚いている。


「ジ、ジークハルト様その……」

「彼女を手荒く扱えば首が飛ぶと思え」

「は、はい!」


 たったその一言で全てを把握したようで兵士たちはぴしりと姿勢を正す。

 何か物騒なことを言ったなとシャロンが不安げに見つめれば、ジークハルトは「すまないが堪えてくれ」と囁いた。

 どうやら、こうはっきりと告げないと彼らには伝わらないということらしい。そういうことならばとシャロンは気にしないようにすることにした。


「ジークよ、他の里の皆には私から説明しておくから行くといい」

「すまない、長」

「何、気にするな。だが、約束は守るのだぞ。私たちは一日半を除いた五日後にシャロンを迎えにいく。それまでに事を片付けるんだ」


 鋭い眼を向けてアエローは言う。ジークハルトはそれに「わかっている」と返事をして、兵士たちに準備をするように指示を出した。

 シャロンはそんな彼の後ろに着いていく。ちらりと振り返れば、アエローたちが「気を付けて」と身を案じながら見送ってくれていた。

 シャロンは兵士たちに連れられながら里を出て、王都へと向かうことになった。



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 アエローと交渉したようで道案内兼護衛のハルピュイアたちが数人選ばれている。彼らが里を出ていくとき、マーシェが駄々をこねていた。
「どうして、ダメなんですか!」
 マーシェはジークハルトを見つめながら、「逃げるなら旅芸人はもってこいじゃないですか!」と言う。
 ジークハルトは「俺は此処を離れるつもりはない」と返すが、彼女は納得していない様子だった。
 どうしてとしつこく問われてジークハルトははっきりと言ってやらないといけないと察したようで一つ息を吐いた。
「俺はシャロン以外に興味はないし、彼女の傍から離れるつもりはない」
 きっぱりと言い切ったジークハルトにマーシェは目を見開いた。
 彼の瞳に嘘はなく、真剣な表情に本心からの言葉だと理解したのか、彼女はぎゅっと拳を握って唇を噛む。
 少し後ろにいたシャロンをぎろりと睨みつけて、マーシェは悔しそうに顔を歪めながら団長の元へと走っていってしまった。
 団長の男は「お世話になりました」とアエローたちに挨拶をしてから、旅芸人たちを連れて里を出て行った。
 それを見送ってやっと解放されたジークハルトは溜息を吐く。
「なんだい、やっと認めたのか!」
「……あぁ、その……」
「お前たちならきっと夫婦になれると思っていたよ」
 嬉しそうにアエローは「次はお前たちの番だな」とジークハルトの背を叩いていた。
 確かに想いが通じ合ったのでそうなるのだが、ジークハルトは事情を抱えている。このまま放置していいものなのかと彼は悩んでいるようだった。
 追手から見つかっていないということは、気づかれていないと判断してもいい。
 だが、見つかった時のことを考えてはやはりこのまま黙っているのはよくない。そう判断して、ジークハルトは長に「話しがしたい」と申し出た。
 アエローはジークハルトの雰囲気で察してか、「いいだろう」と、彼を自分の家へと迎え入れた。
 里のひと際、そそり立つ大樹に寄り添うように建てられているのがハルピュイアたちの長、三姉妹夫婦が暮らす家だ。
 周囲のハルピュイアたちの家よりも大きいだけあり、室内も広かった。
 凝った調度品などはなく割とさっぱりとした内装で飾りっけはあまりない。
 そんな一室でジークハルトは三姉妹に自分が何者なのか、どうして此処に流れ着いたのかを隠すことなく話した。
 話を聞いた三姉妹たちはなるほどと訳を理解したように頷く。
「なるほど。訳アリだと思っていたが、まさかこの国の王子だったとはね」
「……申し訳ない」
「あらあら~気にしないでいいのよー」
 オーキュペテーが「細かいこと気にしないのがハルピュイアだから」と笑う。
 アエローも、ケライノーもジークハルトが王子であることを気にしてないようで、それよりも追手について心配しているようだ。
「シャロンを愛した以上、お前はもうこの里の仲間だ。私たち長は仲間を守る義務がある。が、王族相手は厳しいな」
「そうねぇ。いくら亜人種寄りとはいえ、魔族には変わりないしぃ。下級兵士ぐらいならあたしたちでどうにかできそうだけど、魔導士出されたら困るわね~」
「此処が見つかるのも時間の問題だな」
 三姉妹の見解は同じようで近々、見つかるだろうということだった。
 ジークハルトが此処に来てからふた月を越えているので、王都周辺の町村から森の捜索に移っているのならば見つかる頃間だと判断したようだ。
 それに旅芸人たちが王都へと向かっているので、彼らの口からジークハルトの名が出ればすぐにでも駆け付けてくるだろう。
 それは覚悟しなければならないとアエローは現実を突きつける。
「見つかれば俺は王都に戻ることになる。此処に迷惑をかけたくはない」
「断れそうにはないのよね?」
「無理だろうな。はっきりと王の前で宣言してくるしかない」
 自分は王位継承権を放棄すると父である王の前で宣言する。
 何度もそうしようとして側近の、派閥の連中たちに阻止されてきたけれど、そうしなければ何も解決はしないとジークハルトは話した。
 逃げたことで多少の理解は得たかもしれないとは思うけれど、それでも不安がないわけではないようだ。
「これは父を説得するためなのだが……」
「なんだろうか」
「シャロンを連れて行きたい」
 王に父に自分はシャロンと生涯を共にしたいと報告し、王都を出たいことを伝えるのだとジークハルトは話す。
 長からしたら里の仲間を何があるか分からない場所に連れていくのは不安だろうけれどと彼は頭を下げた。
 三姉妹は顔を合わせてふむと頷くと「いいだろう」と答えた。
「シャロン、お前もいいね?」
「えっと、私で説得できるかはわかりませんけど……はい」
「ただし、期限を設ける」
 アエローは「お前はこの里に残りたいのだな?」と再度、問う。ジークハルトが残りたいと答えたのを見て「五日だ」と彼女は告げた。
「この森から王都までは一日半もあればつく、それを除いた五日間で解決してこい」
「五日間……」
「シャロンは大事な仲間だ。仲間を何があるか分からない場所に送るのだから私たちも心配だからな」
 五日経つ頃に私たち長三姉妹が直々にシャロンを迎えに行くとアエローは言った。
 王都へとそれも王城へと向かうのだから、生半可なハルピュイアでは任せられないからと。
 五日で解決しなければシャロンのことは諦めろとアエローは残酷なことを告げる。
 何も解決できない男に大切な仲間を任せることはできないということを言いたいようで、それはオーキュペテーもケライノーも同じようだった。
 シャロンは長の決めたことには言い返すことができないのでそれを受け入れるしかなかった。
 ジークハルトも異論はないようで、「五日で解決してみせる」とアエローに約束する。
「アエロー、どうやら時間が来たようだ」
 アエローの夫、セザールが外を指さした。長の家を出て遠目から見える門の前に人間の兵士らしき男たちが数人ほど立っている。
 ジークハルトは「アルベシュト国の兵士だ」と言って、とうとう来たかと息を吐いた。
 ジークハルトはゆっくりと門前のほうまで歩いていくので、シャロン達もそれに着いていく。
 兵士がジークハルトに気づいてか、「ジークハルト様!」と声を上げていた。
「ジークハルト様、ご無事で!」
「俺は無事だ。ハルピュイアたちには手を出すな、彼女たちは恩人だ」
 ジークハルトの言葉に兵士たちは持っていた武器を下げる。
 ジークハルトは彼らに「王位継承権はどうなった」と問うと、「まだ争っていて……」と気まずげに兵士が答えた。
 だろうなとジークハルトは頷いてから「俺の意思は変わらない」と兵士たちに告げた。
「俺は王位継承権を放棄するし、王都に戻るつもりはない」
「しかし、それをわたしたちに言われましても……」
「分かっている。俺は一度、城に戻ろう。だが、それは父に王位継承権を放棄することを伝えるのと、彼女のことを報告するためだ」
 ジークハルトはそう言ってシャロンを呼んだ。シャロンは彼の後ろから顔を覗かせると、兵士たちが目を白黒させながら動揺していた。
 中には、「まさか、あのジークハルト様が!」と声を出して驚いている。
「ジ、ジークハルト様その……」
「彼女を手荒く扱えば首が飛ぶと思え」
「は、はい!」
 たったその一言で全てを把握したようで兵士たちはぴしりと姿勢を正す。
 何か物騒なことを言ったなとシャロンが不安げに見つめれば、ジークハルトは「すまないが堪えてくれ」と囁いた。
 どうやら、こうはっきりと告げないと彼らには伝わらないということらしい。そういうことならばとシャロンは気にしないようにすることにした。
「ジークよ、他の里の皆には私から説明しておくから行くといい」
「すまない、長」
「何、気にするな。だが、約束は守るのだぞ。私たちは一日半を除いた五日後にシャロンを迎えにいく。それまでに事を片付けるんだ」
 鋭い眼を向けてアエローは言う。ジークハルトはそれに「わかっている」と返事をして、兵士たちに準備をするように指示を出した。
 シャロンはそんな彼の後ろに着いていく。ちらりと振り返れば、アエローたちが「気を付けて」と身を案じながら見送ってくれていた。
 シャロンは兵士たちに連れられながら里を出て、王都へと向かうことになった。