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第16話 母はタイミングを選んではくれない

ー/ー



 二人と別れて家へと戻ったシャロンはテーブルの椅子に腰を下ろした。

 ジークハルトは部屋へと戻ったので、休むのだろうと思ったのも束の間、彼は戻ってきた。


「休むのでは?」

「休むと言っても何もしないのも落ち着かないんだ」


 部屋に戻ったのは剣を置きにいっただけだったようで、シャロンの隣に座るとジークは困ったように眉を下げる。


「こう、落ち着いてる場所というのにあまり慣れていないのもある」

「そうなんですね。家では忙しかったとか?」

「……あそこは自由なんてなかったからな」


 目を細めて答えるジークハルトにシャロンは聞いてはいけなかったことなのではと気づく。言ってしまったものは取り返しがつかないので、シャロンはどう話を続ければいいのか悩ませた。それに気づいてか、ジークハルトは「気にしなくていい」と笑った。


「面倒な家ではあったっけれど、嫌いではないから」
「……そのー、色々あったんですよね?」


 シャロンは聞くならば今だと思った。ここで聞かねばいつタイミングがあるか分からない。

 シャロンの問いにジークハルトは少し考えるような素振りを見せてから頷いた。


「兄弟仲は良くなくてな」

「それは……」

「我が、愛しの娘よ!」


 話を遮るようにばんっと扉が開け放たれる。にこにことした表情を浮かべながら母、ナタリーが父、アノンを連れて入ってきた。

 なんというタイミングだとシャロンは母を見つめるも、そんな気持ちを彼女は察しない。

 ナタリーはジークハルトの隣に座ると彼の肩に腕を回した。


「いやー、見ていたぞ! 流石は娘が選んだ男だ!」

「は、はぁ……」

「身を挺して守るというのはそう簡単にできるものではない!」

「待って、お母さん集団狩りに参加してたの!」


 母の言葉にシャロンは突っ込む。見ていたと言うのだから狩りに参加していたのは間違いない。

 娘の突っ込みに「何もせずに里にいるわけがないだろう」とナタリーは返した。

 ナタリーは里にいる間、長たちの手伝いをしていたらしく、集団狩りもアエローからお願いされて参加した。

 ボスコベアーには驚いたものの、狩ったことがないわけではないけれど、あの咆哮を受けて動きが遅れてしまった。

 視線の先に娘がいて襲われそうになっているのも見えていた。

 急いで駆けつけようとしたところに、ジークハルトが飛び込んで、技をボスコベアーに叩き込んだのを見たのだという。

 魔力を放出し、その勢いで腕を吹き飛ばすその技は並の人間では訓練なしで発動させることはできない。

 ナタリーは「お前は余程、訓練を積んだのだろう」とジークハルトを褒めた。


「俺はその……」

「謙遜することはない。訓練を積み、己を磨き上げたのだから。その努力は褒めるべきだ。それがあったからこそ、あたしの娘は助かったんだからね。娘を助けてくれてありがとう」


 そっと微笑んで礼をいうナタリーの表情は母が子を想うように優しげで。続くようにアノンも「ありがとう」と声をかけた。


「あの時は肝が冷えたよ。助けてくれてありがとう」

「いや、あぁ……」


 礼を言われ慣れていないのか、ジークハルトはどう反応すればいいのか分からないといった様子だった。


「いやー、これなら大丈夫だね! 婿にして問題ない!」

「え、いや、お母さん。それはまだ……」

「あたしは安心だよ!」

「だから、お母さん!」

「何を言ってるの、シャロン! こんな良い男を逃したら、後にも先にも彼のような存在なんて見つけられっこないよ!」


 それはそうかもしれないとシャロンは思ってしまった。ジークハルトのような存在というのは稀だ。

 適応力が高くて優しく強い男などそういない。このハルピュイアの里に馴染める人間というのも珍しいのだ。

 だからと言ってジークハルトの意見を聞かずに決めるのは良くはない。シャロンは「そういうのはお互いをよく理解してからで」と言ってみる

 だが、ナタリーには通用しなかった。彼に絡むように「お前もよく考えてくれよ?」と圧をかけている。


「おかーさん!」

「ナタリー、その辺にしとこう?」

「仕方ないねぇ。まぁ、よく考えることだよ。あたしはお前さんを歓迎するから!」


 それそれは素敵な笑みを見せながらナタリーは「じゃあね」と、手を振ってアノンと共に家を出ていった。

 嵐のように去っていく両親にシャロンはげんなりとする。


「ジークさん、すみません」

「大丈夫だ。シャロンの母は元気だな」

「元気ですみますかね、あれ?」

「……まぁ、少々強引ではあるけれど、悪いハルピュイアではない」


 ジークハルトは「俺は別に気にしない」と返す。彼の表情を見るに嘘はついていないなので気分を害してはいないようだった。


「まぁ、母のことはこの辺にしといて、今日は休みましょう。お食事作りますからその間、お部屋で……」

「此処で十分だが?」

「ベットに横になるのも休めると思うけどなー」


 そう返すのだがジークハルトは「此処で問題ない」と笑むものだから、シャロンはそれ以上は言えず。

 仕方ないと夕食を作るために炊事場へと立った。





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 二人と別れて家へと戻ったシャロンはテーブルの椅子に腰を下ろした。
 ジークハルトは部屋へと戻ったので、休むのだろうと思ったのも束の間、彼は戻ってきた。
「休むのでは?」
「休むと言っても何もしないのも落ち着かないんだ」
 部屋に戻ったのは剣を置きにいっただけだったようで、シャロンの隣に座るとジークは困ったように眉を下げる。
「こう、落ち着いてる場所というのにあまり慣れていないのもある」
「そうなんですね。家では忙しかったとか?」
「……あそこは自由なんてなかったからな」
 目を細めて答えるジークハルトにシャロンは聞いてはいけなかったことなのではと気づく。言ってしまったものは取り返しがつかないので、シャロンはどう話を続ければいいのか悩ませた。それに気づいてか、ジークハルトは「気にしなくていい」と笑った。
「面倒な家ではあったっけれど、嫌いではないから」
「……そのー、色々あったんですよね?」
 シャロンは聞くならば今だと思った。ここで聞かねばいつタイミングがあるか分からない。
 シャロンの問いにジークハルトは少し考えるような素振りを見せてから頷いた。
「兄弟仲は良くなくてな」
「それは……」
「我が、愛しの娘よ!」
 話を遮るようにばんっと扉が開け放たれる。にこにことした表情を浮かべながら母、ナタリーが父、アノンを連れて入ってきた。
 なんというタイミングだとシャロンは母を見つめるも、そんな気持ちを彼女は察しない。
 ナタリーはジークハルトの隣に座ると彼の肩に腕を回した。
「いやー、見ていたぞ! 流石は娘が選んだ男だ!」
「は、はぁ……」
「身を挺して守るというのはそう簡単にできるものではない!」
「待って、お母さん集団狩りに参加してたの!」
 母の言葉にシャロンは突っ込む。見ていたと言うのだから狩りに参加していたのは間違いない。
 娘の突っ込みに「何もせずに里にいるわけがないだろう」とナタリーは返した。
 ナタリーは里にいる間、長たちの手伝いをしていたらしく、集団狩りもアエローからお願いされて参加した。
 ボスコベアーには驚いたものの、狩ったことがないわけではないけれど、あの咆哮を受けて動きが遅れてしまった。
 視線の先に娘がいて襲われそうになっているのも見えていた。
 急いで駆けつけようとしたところに、ジークハルトが飛び込んで、技をボスコベアーに叩き込んだのを見たのだという。
 魔力を放出し、その勢いで腕を吹き飛ばすその技は並の人間では訓練なしで発動させることはできない。
 ナタリーは「お前は余程、訓練を積んだのだろう」とジークハルトを褒めた。
「俺はその……」
「謙遜することはない。訓練を積み、己を磨き上げたのだから。その努力は褒めるべきだ。それがあったからこそ、あたしの娘は助かったんだからね。娘を助けてくれてありがとう」
 そっと微笑んで礼をいうナタリーの表情は母が子を想うように優しげで。続くようにアノンも「ありがとう」と声をかけた。
「あの時は肝が冷えたよ。助けてくれてありがとう」
「いや、あぁ……」
 礼を言われ慣れていないのか、ジークハルトはどう反応すればいいのか分からないといった様子だった。
「いやー、これなら大丈夫だね! 婿にして問題ない!」
「え、いや、お母さん。それはまだ……」
「あたしは安心だよ!」
「だから、お母さん!」
「何を言ってるの、シャロン! こんな良い男を逃したら、後にも先にも彼のような存在なんて見つけられっこないよ!」
 それはそうかもしれないとシャロンは思ってしまった。ジークハルトのような存在というのは稀だ。
 適応力が高くて優しく強い男などそういない。このハルピュイアの里に馴染める人間というのも珍しいのだ。
 だからと言ってジークハルトの意見を聞かずに決めるのは良くはない。シャロンは「そういうのはお互いをよく理解してからで」と言ってみる
 だが、ナタリーには通用しなかった。彼に絡むように「お前もよく考えてくれよ?」と圧をかけている。
「おかーさん!」
「ナタリー、その辺にしとこう?」
「仕方ないねぇ。まぁ、よく考えることだよ。あたしはお前さんを歓迎するから!」
 それそれは素敵な笑みを見せながらナタリーは「じゃあね」と、手を振ってアノンと共に家を出ていった。
 嵐のように去っていく両親にシャロンはげんなりとする。
「ジークさん、すみません」
「大丈夫だ。シャロンの母は元気だな」
「元気ですみますかね、あれ?」
「……まぁ、少々強引ではあるけれど、悪いハルピュイアではない」
 ジークハルトは「俺は別に気にしない」と返す。彼の表情を見るに嘘はついていないなので気分を害してはいないようだった。
「まぁ、母のことはこの辺にしといて、今日は休みましょう。お食事作りますからその間、お部屋で……」
「此処で十分だが?」
「ベットに横になるのも休めると思うけどなー」
 そう返すのだがジークハルトは「此処で問題ない」と笑むものだから、シャロンはそれ以上は言えず。
 仕方ないと夕食を作るために炊事場へと立った。