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第15話 強いけれど、無理はしてほしくない

ー/ー



「ホグァァァアァアアアッ!」


 振り上げられたボスコベアーの腕が吹き飛んでいた。血飛沫をあげる腕にボスコベアーはその痛みから叫んでいる。

 何が起こっているのだろうかとシャロンはくらくらする頭を上げた。


「はーーー、げっほ……大丈夫か、シャロン」

「ジークさん!」


 シャロンの目の前には剣を構えながら苦しげに息を荒げるジークハルトが立っていた。

 ボスコベアーの腕を吹き飛ばしたのは彼のようだ。


「だ、大丈夫ですか!」

「大丈夫だ、問題はない……げっほ」

「いや、息するの辛そうじゃないですか!」


 シャロンはくらくらする頭など忘れて立ち上がるとジークハルト背をさすった。

 咳をする彼を心配げに見つめれば、申し訳なさげに眉を下げる顔を向けられる。


「少し魔力を消費しただけだ、問題はない……」


 ボスコベアーの咆哮で目眩を起こしていながらも、ジークハルトはシャロンを助けるべく身体を無理に動かした。

 その結果、魔力の消費を調整しきれなかったようで息ぎれと目眩が彼を襲っていた。


「ジーク、よくやった!」


 そう声を上げるとジークハルトが作った隙をアエローは無駄にすることなく、ボスコベアーの頭上目掛けて風魔法を発動させる。

 突風、いや、竜巻がボスコベアーを包み込み、劈くような悲鳴が響く。

 竜巻が消えるとずたぼろになったボスコベアーが立っていて、ふらつく足を見るにあと一歩だ。

 アエローは素早く飛びかけると頭を鷲ような足で掴んで地面に叩きつけた。


「セザール!」

「任せろ!」


 アエローの声と共にセザールは飛びかけてボスコベアーの首根に剣を突き刺し、電撃が身体中を駆け巡りって息の根を止める。

 白目を剥いて動かなくなったボスコベアーの首に刺した剣を押し込んでセザールは切り裂いた。


「皆のもの、今日の集団狩りの獲物だ!」


 ボスコベアーの巨体に降り立ったアエローが高らかに宣言すれば、ハルピュイアたちは歓声を上げた。

 咆哮に倒れた者たちも起き上がり、勝利を祝うように手を叩いている。

 どっしりと地面に転がる頭の無くなった巨体、朽ちて折れた大木のようなその図体にハルピュイアたちが集まる。

 そんな中、シャロンはまだ気分の悪そうなジークハルトの傍にいた。

 近くの木に寄りかかりながら額を抑えるジークハルトの様子を見るに辛そうだ。咳は治まったものの、眩暈はまだあるらしい。


「無理をしなくても……」

「シャロンが傷つく姿は見たくない」


 例え、ハルピュイアが人間よりも頑丈であったとしても、目の前で傷つく姿を見たいとは思わない。

 ジークハルトはそう言ってシャロンを見つめた。曲げるつもりはないといった瞳の強さにシャロンは何を言っても無駄なのだろうと理解する。


「ありがとうございます」


 だから、それ以上は言わずに礼を口にする。ジークハルトは「気にしなくていい」と微笑み返した。


「ジーク、大丈夫かー?」


 少ししてディルクがやってくると、彼はジークハルトの様子を見て、「まだきつそうだな」と声をかける。

 ジークハルトは「少し目が回ってるだけだで問題はない」と言って、立ち上がろとしたのでそれをシャロンが止める。


「駄目ですって、もう少し休んでから!」

「しかし……」

「お兄さんもシャロンちゃんと同意見」


 シャロンの言葉にうんうんとディルクは頷く。

 あと少しぐらい休めと肩を叩かれて、ジークハルトは仕方なくといったふうに座り直した。


「アエロー様にはオレから言っとくから休んどけ。シャロンちゃんもジークに付き添っているといい」


 そう言ってディルクはアエローのもとへと歩いていった。

 ジークハルトは申し訳なさげにしているけれど、ディルクの気遣いにシャロンは安堵する。

 ジークハルトは無理をしがちだとまだ付き合いは短いけれどそれは分かっていた。

 まだ辛そうに見えてシャロンは「ディルクさんたちに任せましょう」と彼の背中をさすった。

   *

「ジークよ、よくやったぞ」


 里へと戻るとアエローがジークハルトの肩をばんばんと叩いていた。「お前の作った隙のおかげだ」とこれでもかと彼女は褒める。

 ジークハルトは「それほどのことはやっていない」と言うのだが、アエローは「そんなことはないぞ」と返していた。


「あの場で動けたのは私とセザールぐらいだ。お前が動いてボスコベアーの腕を吹き飛ばしたことによって、相手に隙ができた。だから、私とセザールで止めをさせたのだ。もっと自信を持つと良い」

「その後のことが……」

「何、気にすることはない。無理をしたのは分かる。皆も理解してくれているのだからちゃんと分け前は受け取るのだ」


 アエローの隣に立っていた夫であるセザールが言う、ちゃんと受け取れと有無を言わさぬ鋭い瞳を向けていた。

 竜人特有のその怖さを持つその眼にジークハルトは目を逸らすことができず、頷くしかなかった。


「ボスコベアーはかなり良い獲物だ。毛皮と爪、牙に肉、骨だって売れる。肉は氷魔法が使える者に凍らせれば運搬中は持つ。良い、実に良い狩りだった」


 アエローは上機嫌に話す。ボスコベアーはその巨体と凶暴さで狩りをするのが非常に難しい獲物だ。

 けれど、その素材は余すことなく売りに出せるので倒せたならばかなり得になる。

 そうは言っても強い魔物であることには変わりないので、無作法で狩るのは犠牲を増やすなために狩ることはなかなかない。

 それが狩れたのだ、素材などを売った金額はなかなかのものになるだろう。里の資金も潤うのでアエローは機嫌が良かったのだ。


「明日には商人へ売りにハルピュイアたちが飛ぶ。彼女たちが帰ってきたらその売り上げから、狩りに参加した者へ分け前を渡すからそれまで待っているといい」

「わかった」

「今日はゆっくりと休め。シャロン、お前も手伝わなくて良いからな」

「え、でも……」

「この男は放っておいて休むとは思えない、違うかい?」


 シャロンがアエローにそう言われて確かにと頷いた。ジークハルトのことだから「シャロンが働いているのに休めない」と言い出しかねない。

 彼には休んでもらいたいので、シャロンはありがたく休ませてもらうことにした。






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「ホグァァァアァアアアッ!」
 振り上げられたボスコベアーの腕が吹き飛んでいた。血飛沫をあげる腕にボスコベアーはその痛みから叫んでいる。
 何が起こっているのだろうかとシャロンはくらくらする頭を上げた。
「はーーー、げっほ……大丈夫か、シャロン」
「ジークさん!」
 シャロンの目の前には剣を構えながら苦しげに息を荒げるジークハルトが立っていた。
 ボスコベアーの腕を吹き飛ばしたのは彼のようだ。
「だ、大丈夫ですか!」
「大丈夫だ、問題はない……げっほ」
「いや、息するの辛そうじゃないですか!」
 シャロンはくらくらする頭など忘れて立ち上がるとジークハルト背をさすった。
 咳をする彼を心配げに見つめれば、申し訳なさげに眉を下げる顔を向けられる。
「少し魔力を消費しただけだ、問題はない……」
 ボスコベアーの咆哮で目眩を起こしていながらも、ジークハルトはシャロンを助けるべく身体を無理に動かした。
 その結果、魔力の消費を調整しきれなかったようで息ぎれと目眩が彼を襲っていた。
「ジーク、よくやった!」
 そう声を上げるとジークハルトが作った隙をアエローは無駄にすることなく、ボスコベアーの頭上目掛けて風魔法を発動させる。
 突風、いや、竜巻がボスコベアーを包み込み、劈くような悲鳴が響く。
 竜巻が消えるとずたぼろになったボスコベアーが立っていて、ふらつく足を見るにあと一歩だ。
 アエローは素早く飛びかけると頭を鷲ような足で掴んで地面に叩きつけた。
「セザール!」
「任せろ!」
 アエローの声と共にセザールは飛びかけてボスコベアーの首根に剣を突き刺し、電撃が身体中を駆け巡りって息の根を止める。
 白目を剥いて動かなくなったボスコベアーの首に刺した剣を押し込んでセザールは切り裂いた。
「皆のもの、今日の集団狩りの獲物だ!」
 ボスコベアーの巨体に降り立ったアエローが高らかに宣言すれば、ハルピュイアたちは歓声を上げた。
 咆哮に倒れた者たちも起き上がり、勝利を祝うように手を叩いている。
 どっしりと地面に転がる頭の無くなった巨体、朽ちて折れた大木のようなその図体にハルピュイアたちが集まる。
 そんな中、シャロンはまだ気分の悪そうなジークハルトの傍にいた。
 近くの木に寄りかかりながら額を抑えるジークハルトの様子を見るに辛そうだ。咳は治まったものの、眩暈はまだあるらしい。
「無理をしなくても……」
「シャロンが傷つく姿は見たくない」
 例え、ハルピュイアが人間よりも頑丈であったとしても、目の前で傷つく姿を見たいとは思わない。
 ジークハルトはそう言ってシャロンを見つめた。曲げるつもりはないといった瞳の強さにシャロンは何を言っても無駄なのだろうと理解する。
「ありがとうございます」
 だから、それ以上は言わずに礼を口にする。ジークハルトは「気にしなくていい」と微笑み返した。
「ジーク、大丈夫かー?」
 少ししてディルクがやってくると、彼はジークハルトの様子を見て、「まだきつそうだな」と声をかける。
 ジークハルトは「少し目が回ってるだけだで問題はない」と言って、立ち上がろとしたのでそれをシャロンが止める。
「駄目ですって、もう少し休んでから!」
「しかし……」
「お兄さんもシャロンちゃんと同意見」
 シャロンの言葉にうんうんとディルクは頷く。
 あと少しぐらい休めと肩を叩かれて、ジークハルトは仕方なくといったふうに座り直した。
「アエロー様にはオレから言っとくから休んどけ。シャロンちゃんもジークに付き添っているといい」
 そう言ってディルクはアエローのもとへと歩いていった。
 ジークハルトは申し訳なさげにしているけれど、ディルクの気遣いにシャロンは安堵する。
 ジークハルトは無理をしがちだとまだ付き合いは短いけれどそれは分かっていた。
 まだ辛そうに見えてシャロンは「ディルクさんたちに任せましょう」と彼の背中をさすった。
   *
「ジークよ、よくやったぞ」
 里へと戻るとアエローがジークハルトの肩をばんばんと叩いていた。「お前の作った隙のおかげだ」とこれでもかと彼女は褒める。
 ジークハルトは「それほどのことはやっていない」と言うのだが、アエローは「そんなことはないぞ」と返していた。
「あの場で動けたのは私とセザールぐらいだ。お前が動いてボスコベアーの腕を吹き飛ばしたことによって、相手に隙ができた。だから、私とセザールで止めをさせたのだ。もっと自信を持つと良い」
「その後のことが……」
「何、気にすることはない。無理をしたのは分かる。皆も理解してくれているのだからちゃんと分け前は受け取るのだ」
 アエローの隣に立っていた夫であるセザールが言う、ちゃんと受け取れと有無を言わさぬ鋭い瞳を向けていた。
 竜人特有のその怖さを持つその眼にジークハルトは目を逸らすことができず、頷くしかなかった。
「ボスコベアーはかなり良い獲物だ。毛皮と爪、牙に肉、骨だって売れる。肉は氷魔法が使える者に凍らせれば運搬中は持つ。良い、実に良い狩りだった」
 アエローは上機嫌に話す。ボスコベアーはその巨体と凶暴さで狩りをするのが非常に難しい獲物だ。
 けれど、その素材は余すことなく売りに出せるので倒せたならばかなり得になる。
 そうは言っても強い魔物であることには変わりないので、無作法で狩るのは犠牲を増やすなために狩ることはなかなかない。
 それが狩れたのだ、素材などを売った金額はなかなかのものになるだろう。里の資金も潤うのでアエローは機嫌が良かったのだ。
「明日には商人へ売りにハルピュイアたちが飛ぶ。彼女たちが帰ってきたらその売り上げから、狩りに参加した者へ分け前を渡すからそれまで待っているといい」
「わかった」
「今日はゆっくりと休め。シャロン、お前も手伝わなくて良いからな」
「え、でも……」
「この男は放っておいて休むとは思えない、違うかい?」
 シャロンがアエローにそう言われて確かにと頷いた。ジークハルトのことだから「シャロンが働いているのに休めない」と言い出しかねない。
 彼には休んでもらいたいので、シャロンはありがたく休ませてもらうことにした。