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第2話 一先ず、里に戻ろう

ー/ー



 スハラの森の奥深く。そこは人間も入ることが無い魔物や魔族が住まう場所、そんなところにシャロンはいた。

 ぜえぜえと肩で息をしながら青年を降ろして膝をついている。

 全力疾走と言うべきか、とにかく全力で空を駆け抜けたのだから疲れないわけがない。そもそも、成人男性を持ったまま飛んだのだから体力は減る。

 呼吸をしながらシャロンは考えていた。連れてきたは良いけれど、どうしようかと。

 あの場面に遭遇してつい助けてしまったのだが、相手のことを自身は知らないのだ。

 いくらハルピュイアが亜人種寄りとはいえ、攻撃されないともかぎらない。

 シャロンがそろりと青年を見れば、彼は立ち上がって周囲を見渡していた。森の奥というのを見るのが初めてのようだ。

 森の奥は大木と草や蔦に覆われており、仄暗く獣の匂いがするので普通の人間ならば魔物や獣に警戒し、恐怖するかもしれない。


「つ、疲れた……」


 やっとのことで息を整えたシャロンの第一声はそれだった。

 いや、本当に疲れていたのだから仕方ないのだが、もっと他にあっただろうに。その声に反応してか、青年が振り返った。


「どうして、助けた」


 低い声がする。不信感というよりは警戒したような声音だった。

 シャロンはそんなもん知るかと叫びたかったのだが、それはそれで相手を混乱させそうだったのでやめておく。


「いや、困っていたみたいだから……」


 シャロンが「追われていたんでしょ?」と問えば、青年は口にはしないものの頷いた。

 理由を言わないあたり訳アリな様子なので困ったなとシャロンは考える、この後のことを自分は考えなくてはならなかった。

 こんな森の奥に連れてきてしまったのだ、人間一人を置いてさよならというわけにはいかない。

 外まで案内すればいいのだろうがスハラの森は広大で、森を抜けるのには日を跨いでしまう。

 そもそも、追われている青年が何をしたいのかも分からないのでどれがいいのかも分からず、シャロンは聞いてみることにした。


「あの、森を出ます? 案内しますよ?」


 日は跨ぐことになるけれど出ることはできるとそう伝えれば、青年は何とも言い難い表情を見せた。

 その様子は困っているように見えるたので、シャロンはなんだろうかと首を傾げる。


「出たところで行く当てがないんだ」


 なんだそれは、目的もなくただ逃げていたというのか。シャロンは驚いた、そんな状態でどうやって過ごすつもりだったのだろうかと。

 いろいろ突っ込みどころが多いが、シャロンはひとまずそれは置いておくことにした。

 シャロンが「じゃあ、どうしますか?」と問えば、青年は黙る。彼の様子に「だめだ、何も浮かんでないぞ」とシャロンは頭を抱える。

(これ、拾ったってことになる?)

 捨て猫を拾ったら、拾った人が責任持たなきゃいけないんだぞ。いや相手は人間なんだけどもとシャロンはうごごと呻った。

 助けたのは自分、拾ったことになるのも自分なので、私がどうにかするしかないのかとシャロンは考える。

(確か、ハルピュイアの里が近くに……)

 この場所に人間を一人で置いておくわけにはいかない。此処は獣だけでなく、魔物も多いので青年の強さにもよるが危険であることに変わりはない。

 里ならば治めている三姉妹の結界や、獣除けの柵が張ってあるので一先ずは安全だ。

(三姉妹に訳を話してみるべきかな、これ)

 シャロンは思う、訳を話して一日ぐらい安全を確保できないだろうかと。話ができるのだから相談ぐらいはできるだろう。

 よし、そうしようとシャロンは青年に話しかける。


「此処はかなり深い場所なんで、流石に人間を置いてはいけないというか……。この先にハルピュイアの里があるので長に一日ほど、匿ってもらえないか相談してみましょうか?」


 低姿勢で無害であることを伝えつつ、提案してみる。青年は暫く考えた後、それしかないと判断したのかわかったと頷いた。

 提案が通り、ほっと息をつく。ここで嫌がられてはどうしたらいいのか分からなくなるので大人しく受け入れてくれたことにシャロンは安堵した。

 シャロンは自分の名前を伝えると青年はジークハルトと自身のことを教えてくれた。

 詳しい事情などは話さなかったものの、諸事情で兵に追われており、行く当てがないようで、とにかく着の身着のまま逃げてきたといった様子らしい。訳アリであるのは確定した。

 ハルピュイアの里まで案内しながらシャロンはジークハルトを観察する。

 彼も逃げてくるのに必死だったのか、一先ず追手の影がない安心感で現状をやっと理解したようだ。

 どうするかと悩んでいる様子で難しい顔をしている。

 そりゃあ、そうだよなとシャロンは思う。逃げることに必死だったのだから後先など考えていなかっただろう。

 シャロンは大変そうだなぁと他人事のようにジークハルトを眺めた。


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 スハラの森の奥深く。そこは人間も入ることが無い魔物や魔族が住まう場所、そんなところにシャロンはいた。
 ぜえぜえと肩で息をしながら青年を降ろして膝をついている。
 全力疾走と言うべきか、とにかく全力で空を駆け抜けたのだから疲れないわけがない。そもそも、成人男性を持ったまま飛んだのだから体力は減る。
 呼吸をしながらシャロンは考えていた。連れてきたは良いけれど、どうしようかと。
 あの場面に遭遇してつい助けてしまったのだが、相手のことを自身は知らないのだ。
 いくらハルピュイアが亜人種寄りとはいえ、攻撃されないともかぎらない。
 シャロンがそろりと青年を見れば、彼は立ち上がって周囲を見渡していた。森の奥というのを見るのが初めてのようだ。
 森の奥は大木と草や蔦に覆われており、仄暗く獣の匂いがするので普通の人間ならば魔物や獣に警戒し、恐怖するかもしれない。
「つ、疲れた……」
 やっとのことで息を整えたシャロンの第一声はそれだった。
 いや、本当に疲れていたのだから仕方ないのだが、もっと他にあっただろうに。その声に反応してか、青年が振り返った。
「どうして、助けた」
 低い声がする。不信感というよりは警戒したような声音だった。
 シャロンはそんなもん知るかと叫びたかったのだが、それはそれで相手を混乱させそうだったのでやめておく。
「いや、困っていたみたいだから……」
 シャロンが「追われていたんでしょ?」と問えば、青年は口にはしないものの頷いた。
 理由を言わないあたり訳アリな様子なので困ったなとシャロンは考える、この後のことを自分は考えなくてはならなかった。
 こんな森の奥に連れてきてしまったのだ、人間一人を置いてさよならというわけにはいかない。
 外まで案内すればいいのだろうがスハラの森は広大で、森を抜けるのには日を跨いでしまう。
 そもそも、追われている青年が何をしたいのかも分からないのでどれがいいのかも分からず、シャロンは聞いてみることにした。
「あの、森を出ます? 案内しますよ?」
 日は跨ぐことになるけれど出ることはできるとそう伝えれば、青年は何とも言い難い表情を見せた。
 その様子は困っているように見えるたので、シャロンはなんだろうかと首を傾げる。
「出たところで行く当てがないんだ」
 なんだそれは、目的もなくただ逃げていたというのか。シャロンは驚いた、そんな状態でどうやって過ごすつもりだったのだろうかと。
 いろいろ突っ込みどころが多いが、シャロンはひとまずそれは置いておくことにした。
 シャロンが「じゃあ、どうしますか?」と問えば、青年は黙る。彼の様子に「だめだ、何も浮かんでないぞ」とシャロンは頭を抱える。
(これ、拾ったってことになる?)
 捨て猫を拾ったら、拾った人が責任持たなきゃいけないんだぞ。いや相手は人間なんだけどもとシャロンはうごごと呻った。
 助けたのは自分、拾ったことになるのも自分なので、私がどうにかするしかないのかとシャロンは考える。
(確か、ハルピュイアの里が近くに……)
 この場所に人間を一人で置いておくわけにはいかない。此処は獣だけでなく、魔物も多いので青年の強さにもよるが危険であることに変わりはない。
 里ならば治めている三姉妹の結界や、獣除けの柵が張ってあるので一先ずは安全だ。
(三姉妹に訳を話してみるべきかな、これ)
 シャロンは思う、訳を話して一日ぐらい安全を確保できないだろうかと。話ができるのだから相談ぐらいはできるだろう。
 よし、そうしようとシャロンは青年に話しかける。
「此処はかなり深い場所なんで、流石に人間を置いてはいけないというか……。この先にハルピュイアの里があるので長に一日ほど、匿ってもらえないか相談してみましょうか?」
 低姿勢で無害であることを伝えつつ、提案してみる。青年は暫く考えた後、それしかないと判断したのかわかったと頷いた。
 提案が通り、ほっと息をつく。ここで嫌がられてはどうしたらいいのか分からなくなるので大人しく受け入れてくれたことにシャロンは安堵した。
 シャロンは自分の名前を伝えると青年はジークハルトと自身のことを教えてくれた。
 詳しい事情などは話さなかったものの、諸事情で兵に追われており、行く当てがないようで、とにかく着の身着のまま逃げてきたといった様子らしい。訳アリであるのは確定した。
 ハルピュイアの里まで案内しながらシャロンはジークハルトを観察する。
 彼も逃げてくるのに必死だったのか、一先ず追手の影がない安心感で現状をやっと理解したようだ。
 どうするかと悩んでいる様子で難しい顔をしている。
 そりゃあ、そうだよなとシャロンは思う。逃げることに必死だったのだから後先など考えていなかっただろう。
 シャロンは大変そうだなぁと他人事のようにジークハルトを眺めた。