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第1話 ガチャのピックアップ排出率の如く、死んで、出逢う

ー/ー



 それは不運だった。人間が交通事故で死ぬ確率をソーシャルゲームのガチャ排出率の如く引いてしまった。そう、そうして命を落としたのだ。

 死んだ時の記憶などなく、意識を失って。
 苦痛を味わうことも、怒りを、悲しみを抱くことなく。


「って、えぇぇえぇぇぇっ!」


 その瞬間だった。はっと目が覚めて異変に気づく。真っ先に目に留まったのは、自分の身体だ。何もかもが変わっていた。


「腕が翼みたいになってる! あ、でも手はある。じゃなくて、足の先が鷲の足みたいになってる!」


 綺麗な白い翼というのだろうか、それが腕に。足先は鷲の足のようになっている。ただ、胴体は人間の女性の身体をしていた。

 黒いレオタードのような服を身に着けており、胸があるので女であるのは分かった。

恐る恐る顔を触ってみる。人間っぽい感触に周囲をきょろきょろと見渡してみると、此処は森の中のようで木々に覆われていた。

 何かないか、そうして見渡して泉のように水が湧いているのが目に留まる。澄んだその水に「そうだ、水面を覗けば顔が見える!」と思い、勢いよく覗き込んだ。


「うっわ! なんだ、この美人!」


 水面に映ったのは綺麗に整った顔立ちの若い女だった。すっと通った鼻筋に青く澄んだ瞳が白い肌によく映えている。頬がきゅっと締まった小顔がそこにあった。

 肩よりも少し長い銀髪はくるくるとウェーブがかかっていて、癖っ毛のようにもみえるその姿に暫く見入る。


「……これ、私かっ!」


 水面に映された姿を自分だと認識するのにかなりの時間を要した。何度、確認しても変わることがない。

 どうやらこの姿は本当に自分自身らしい。そう理解してから「じゃあ此処はどこだ」と考える。

 すると、記憶の中にスハラの森というのが浮かんだ。森というと此処のことだろうから、今度は自分は何者なのかを考える。そこで、今度はハルピュイアというのが浮かぶ。


「ハルピュイアって、ハーピーっていうやつだっけ」


 確か、そんな亜人だったか魔族だったかが出る小説とか漫画を読んだことがある。

 あ、なるほど自分はそのハルピュイアなのか。と、そこまで考えに至り、えっと声を上げた。


「これ、異世界転生ってやつ?」


 そうだよな、それしかないよなと一人納得するも、いやいやいやと首を振った。


「どうして人間じゃないの! こういうのって人間に転生するもんなんじゃないの! ほら、あるでしょ! 聖女様とかお姫様とか、勇者様とかさ!」


 だんだんと地面を叩く。

 よくある話だと聖女に転生して勇者と共に魔王を倒したり、お姫様になって王族恋愛模様を描いたり、いろいろあるはずだ。

 それが、それがまさかの人外。人間でないという現実。


「転生するなら美人聖女様がよかったぁぁ。いや、今もかなり美人なんだけど。てか、美人すぎない私?」


 転生前の顔はもうよく覚えていないが、美人でも可愛らしくもなかったのだけは記憶にあるので、今の顔というのは理想である。

 だって、化粧無しでこの美貌なのだから最高なのではないだろうか。水面に映る自分の姿に見惚れながらえへへと笑う。


「いや、ナルシストか、私!」


 落ち着け私と一人、突っ込む。寂しいけれど、突っ込んでくれる相手がいないのだから仕方ない。

 冷静になろうと他に何を知っているのかと考えると、頭の中にはいくつかの記憶があった。

 一つは自分がスハラの森にあるハルピュイアの里で暮らしていること。
 一つは自分がハルピュイアのシャロンということ。
 一つはこの世界でのハルピュイアは魔族と言うよりは亜人種寄りであること。
 一つは人間とは比較的、友好関係であること。

 だいたいそんな感じのことが頭に入っていた。スハラの森を越えたラージュ平原の先に王都があるとか、近くに人間の村があるとかそんな細かいことも。

 この世界のことと言えば、剣と魔法、魔族に魔物が住まうファンタジーな場所という知識だ。なんと曖昧なことだろうか。


「神様さー、もう少し情報くれてもよくない?」


 転生したんだよ、もう少し情報とかさ、チートスキルとかくれてもよくないかとそうは思うものの、それらしいものはない。

 自分の名前がシャロンであることを思い出しただけでもいいかと現状を受け止める。

(ハルピュイアってことは飛べるのかな?)

 気になったので試しにぴょんっとジャンプして腕というか翼をはためかせてみる。すると、ふわりと宙を浮いて低空飛行した。


「うっわ! 飛べるー!」


 すっごーいとシャロンはぐるぐる飛んでみる。「空飛べるとか最高かよ!」とテンションが上がっていた。

 暫く飛行を楽しんでから地面に着地すると、今度は魔法とか使えるのかなと考える。

 そう思えば頭の中に使い方が浮かんだので、その通りに翼を思いっきり払ってみると小さな竜巻が現れて木々を吹き飛ばした。


「えっ、すっご……」


 シャロンは「私、魔法使えるじゃん」と呟きながらなぎ倒された木々を見つめる。


「てか、私どうして此処にいるの?」


 転生してきたのはいいとしても、記憶が戻る前は何をしていたのだ。うーんと頭の中の引き出しを探ると、ぱっと浮かんだ。

 それはハルピュイアの里でのことだ。その里は三姉妹によって治められており、その日は成人した者たちが広場に集められた。

 紅く長い髪が似合う美しい三姉妹の長女――アエローが高らかに声を上げる。

『麗しきハルピュイアの女たちよ! この時がやってきた!』

 ピンクの巻き髪が似合う可愛らしい三姉妹の次女――オーキュペテーが言った。

『我らハルピュイアの晴れの舞台よ!』

 短い水色の髪が似合う凛々しい三姉妹の三女――ケライノーが叫ぶ。

『成人の儀、婿探しの時だ!』

 ハルピュイアは成人を迎えると婿を探しに旅に出る。それはハルピュイアが女性種族だからだ。子孫を残すために男を他種族から迎えねばならない。

 婿を見つけてくるまで里に帰ってくることは許されないという掟があった。男であれば種族は問わず、人間だろうと魔族だろうと魔物だろうと良いことになっている。

 アエローの合図で成人したハルピュイアたちは空を飛んで里を出ていった、それが二日ほど前のことだ。

 そこまで思い出して、シャロンははぁっと声を上げた。


「私、旦那見つけないといけないのっ!」


 記憶が戻るの遅くないかと、突っ込みたいことが沢山あるのだが今は婿探しだ。右も左も分からない異世界で一人というのは寂しいとかよりも恐怖だ。

 魔法が使えるけれどそれだけで、資金もそれほど持ってはいないのだから人間の国に行くのは難しい。

 いくら、亜人種寄りで人間と比較的、友好関係であっても人目というのはあるだろう。


「待って、待って! どうやって見つけるの?」


 シャロンは「私、恋愛経験とか無いよ!」と焦った。そう、記憶にある前世では恋愛などこれっぽちも経験していないのだ。

 好きな人すらできたことが無いというのに異世界で見つけろというのだ。


「魔族ってどんなの? せめて人間寄りがいいんだけど!」


 イケメンとは言わないからせめて、人間寄りがいい。そのほうが親しみやすいし、話しやすい。一応、ハルピュイアは人語も話せるようなので、人間もありなのではないだろうか。

 人間がハルピュイアを恋愛対象にしてくれるかにもよるのだがと、シャロンは考える。


「ま、まずは婿になってくれそうな存在を探して、さっさと里に戻ろう」


 ひとまずは婿探しだとシャロンはまず森を出ることにして、空でも飛ぼうと翼をはためかせた時だ。

 がざりと茂みが揺れて思わずびくりと肩を跳ねさせると勢いよく振り返った。


「……はぁ?」


 目の前に現れたのは一人の青年だった。

 綺麗な長い葡萄色の髪を馬の尾尻のように結い、黒を基調にした金の装飾がされたコートを身に纏っている。目を惹く端整な顔立ちによく映えた銀灰の瞳と目が合った。

 走ってきたのか青年は息が上がっているようで、何か言いたげにしているが息を整えるのに必死の様子だ。


「ポニテ、男子だとっ……」


 シャロンは衝撃を受けていた。前世では希少価値だった長髪男子、その選ばれた存在だけが似合う髪形であるポニーテール。そんな男が目の前に現れたのだ。

 似合っていた。いや、似合いすぎているあまりにシャロンは膝から崩れ落ちた。イケメン+ポニーテールという組み合わせを見てしまい。


「おい、お前」


 青年はやっと口を開いて、うごごと悶えるシャロンに声をかける。


「な、なんでしょうか……」

「お前……」

「いたぞ!」


 その声を遮るように声が響く。なんだと顔を上げてみると青年がいつの間にか目の前に立っていた。

 その目線の先には数人の兵士の姿をした人間らしき人が武器を向けている。

 これは何事だとシャロンは困惑した様子で青年と兵士を交互に見遣る。彼は追いつかれたことに焦っているようだった。


「さぁ! 御戻りください!」

「断る!」


 青年は「俺は降りると言っただろう」と声を上げて剣を抜いた。兵士たちは「手荒な真似はしたくないのですが」と呟きながら武器を振り上げる。

 青年はそれを避けながら兵士たちをいなしていく姿を見てシャロンは慌てて離れた。そろりと様子を見遣れば兵士は五人、それを彼は相手にしていた。

 青年の腕はそこそこあるらしく、五人相手でも引けを取らない。けれど、走ってきたために体力の消費があったのか動きは鈍かった。

(これ、助けたほうがいいの?)

 様子を見るにポニーテールの青年は兵士に追いかけらているようだった。悪者だったらどうしようかとも思ったが、会話を聞くかぎりそうは思えない。

 悪者にお戻りくださいなどと丁寧な言葉は使わないだろう。なら、何かしら問題をかかえた人物なのか。

 シャロンが思案していると青年が兵士に囲まれていた。このままでは捕まってしまう、考えている余裕はなかった。

 シャロンは翼で思いっきり仰いだ――複数の竜巻が兵士を襲う。

 巻き込まれた兵士が陣形を崩した瞬間にシャロンは飛び蹴りする勢いで青年を鷲の足で掴んだ。


「なっ!」

「ちょっとだけ我慢してくださいっ!」


 ぐるんとその勢いで空を飛び上がる。足で掴んだ青年を持ち上げてシャロンは翼をはためかせて駆け飛んだ。



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次のエピソードへ進む 第2話 一先ず、里に戻ろう


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 それは不運だった。人間が交通事故で死ぬ確率をソーシャルゲームのガチャ排出率の如く引いてしまった。そう、そうして命を落としたのだ。
 死んだ時の記憶などなく、意識を失って。
 苦痛を味わうことも、怒りを、悲しみを抱くことなく。
「って、えぇぇえぇぇぇっ!」
 その瞬間だった。はっと目が覚めて異変に気づく。真っ先に目に留まったのは、自分の身体だ。何もかもが変わっていた。
「腕が翼みたいになってる! あ、でも手はある。じゃなくて、足の先が鷲の足みたいになってる!」
 綺麗な白い翼というのだろうか、それが腕に。足先は鷲の足のようになっている。ただ、胴体は人間の女性の身体をしていた。
 黒いレオタードのような服を身に着けており、胸があるので女であるのは分かった。
恐る恐る顔を触ってみる。人間っぽい感触に周囲をきょろきょろと見渡してみると、此処は森の中のようで木々に覆われていた。
 何かないか、そうして見渡して泉のように水が湧いているのが目に留まる。澄んだその水に「そうだ、水面を覗けば顔が見える!」と思い、勢いよく覗き込んだ。
「うっわ! なんだ、この美人!」
 水面に映ったのは綺麗に整った顔立ちの若い女だった。すっと通った鼻筋に青く澄んだ瞳が白い肌によく映えている。頬がきゅっと締まった小顔がそこにあった。
 肩よりも少し長い銀髪はくるくるとウェーブがかかっていて、癖っ毛のようにもみえるその姿に暫く見入る。
「……これ、私かっ!」
 水面に映された姿を自分だと認識するのにかなりの時間を要した。何度、確認しても変わることがない。
 どうやらこの姿は本当に自分自身らしい。そう理解してから「じゃあ此処はどこだ」と考える。
 すると、記憶の中にスハラの森というのが浮かんだ。森というと此処のことだろうから、今度は自分は何者なのかを考える。そこで、今度はハルピュイアというのが浮かぶ。
「ハルピュイアって、ハーピーっていうやつだっけ」
 確か、そんな亜人だったか魔族だったかが出る小説とか漫画を読んだことがある。
 あ、なるほど自分はそのハルピュイアなのか。と、そこまで考えに至り、えっと声を上げた。
「これ、異世界転生ってやつ?」
 そうだよな、それしかないよなと一人納得するも、いやいやいやと首を振った。
「どうして人間じゃないの! こういうのって人間に転生するもんなんじゃないの! ほら、あるでしょ! 聖女様とかお姫様とか、勇者様とかさ!」
 だんだんと地面を叩く。
 よくある話だと聖女に転生して勇者と共に魔王を倒したり、お姫様になって王族恋愛模様を描いたり、いろいろあるはずだ。
 それが、それがまさかの人外。人間でないという現実。
「転生するなら美人聖女様がよかったぁぁ。いや、今もかなり美人なんだけど。てか、美人すぎない私?」
 転生前の顔はもうよく覚えていないが、美人でも可愛らしくもなかったのだけは記憶にあるので、今の顔というのは理想である。
 だって、化粧無しでこの美貌なのだから最高なのではないだろうか。水面に映る自分の姿に見惚れながらえへへと笑う。
「いや、ナルシストか、私!」
 落ち着け私と一人、突っ込む。寂しいけれど、突っ込んでくれる相手がいないのだから仕方ない。
 冷静になろうと他に何を知っているのかと考えると、頭の中にはいくつかの記憶があった。
 一つは自分がスハラの森にあるハルピュイアの里で暮らしていること。
 一つは自分がハルピュイアのシャロンということ。
 一つはこの世界でのハルピュイアは魔族と言うよりは亜人種寄りであること。
 一つは人間とは比較的、友好関係であること。
 だいたいそんな感じのことが頭に入っていた。スハラの森を越えたラージュ平原の先に王都があるとか、近くに人間の村があるとかそんな細かいことも。
 この世界のことと言えば、剣と魔法、魔族に魔物が住まうファンタジーな場所という知識だ。なんと曖昧なことだろうか。
「神様さー、もう少し情報くれてもよくない?」
 転生したんだよ、もう少し情報とかさ、チートスキルとかくれてもよくないかとそうは思うものの、それらしいものはない。
 自分の名前がシャロンであることを思い出しただけでもいいかと現状を受け止める。
(ハルピュイアってことは飛べるのかな?)
 気になったので試しにぴょんっとジャンプして腕というか翼をはためかせてみる。すると、ふわりと宙を浮いて低空飛行した。
「うっわ! 飛べるー!」
 すっごーいとシャロンはぐるぐる飛んでみる。「空飛べるとか最高かよ!」とテンションが上がっていた。
 暫く飛行を楽しんでから地面に着地すると、今度は魔法とか使えるのかなと考える。
 そう思えば頭の中に使い方が浮かんだので、その通りに翼を思いっきり払ってみると小さな竜巻が現れて木々を吹き飛ばした。
「えっ、すっご……」
 シャロンは「私、魔法使えるじゃん」と呟きながらなぎ倒された木々を見つめる。
「てか、私どうして此処にいるの?」
 転生してきたのはいいとしても、記憶が戻る前は何をしていたのだ。うーんと頭の中の引き出しを探ると、ぱっと浮かんだ。
 それはハルピュイアの里でのことだ。その里は三姉妹によって治められており、その日は成人した者たちが広場に集められた。
 紅く長い髪が似合う美しい三姉妹の長女――アエローが高らかに声を上げる。
『麗しきハルピュイアの女たちよ! この時がやってきた!』
 ピンクの巻き髪が似合う可愛らしい三姉妹の次女――オーキュペテーが言った。
『我らハルピュイアの晴れの舞台よ!』
 短い水色の髪が似合う凛々しい三姉妹の三女――ケライノーが叫ぶ。
『成人の儀、婿探しの時だ!』
 ハルピュイアは成人を迎えると婿を探しに旅に出る。それはハルピュイアが女性種族だからだ。子孫を残すために男を他種族から迎えねばならない。
 婿を見つけてくるまで里に帰ってくることは許されないという掟があった。男であれば種族は問わず、人間だろうと魔族だろうと魔物だろうと良いことになっている。
 アエローの合図で成人したハルピュイアたちは空を飛んで里を出ていった、それが二日ほど前のことだ。
 そこまで思い出して、シャロンははぁっと声を上げた。
「私、旦那見つけないといけないのっ!」
 記憶が戻るの遅くないかと、突っ込みたいことが沢山あるのだが今は婿探しだ。右も左も分からない異世界で一人というのは寂しいとかよりも恐怖だ。
 魔法が使えるけれどそれだけで、資金もそれほど持ってはいないのだから人間の国に行くのは難しい。
 いくら、亜人種寄りで人間と比較的、友好関係であっても人目というのはあるだろう。
「待って、待って! どうやって見つけるの?」
 シャロンは「私、恋愛経験とか無いよ!」と焦った。そう、記憶にある前世では恋愛などこれっぽちも経験していないのだ。
 好きな人すらできたことが無いというのに異世界で見つけろというのだ。
「魔族ってどんなの? せめて人間寄りがいいんだけど!」
 イケメンとは言わないからせめて、人間寄りがいい。そのほうが親しみやすいし、話しやすい。一応、ハルピュイアは人語も話せるようなので、人間もありなのではないだろうか。
 人間がハルピュイアを恋愛対象にしてくれるかにもよるのだがと、シャロンは考える。
「ま、まずは婿になってくれそうな存在を探して、さっさと里に戻ろう」
 ひとまずは婿探しだとシャロンはまず森を出ることにして、空でも飛ぼうと翼をはためかせた時だ。
 がざりと茂みが揺れて思わずびくりと肩を跳ねさせると勢いよく振り返った。
「……はぁ?」
 目の前に現れたのは一人の青年だった。
 綺麗な長い葡萄色の髪を馬の尾尻のように結い、黒を基調にした金の装飾がされたコートを身に纏っている。目を惹く端整な顔立ちによく映えた銀灰の瞳と目が合った。
 走ってきたのか青年は息が上がっているようで、何か言いたげにしているが息を整えるのに必死の様子だ。
「ポニテ、男子だとっ……」
 シャロンは衝撃を受けていた。前世では希少価値だった長髪男子、その選ばれた存在だけが似合う髪形であるポニーテール。そんな男が目の前に現れたのだ。
 似合っていた。いや、似合いすぎているあまりにシャロンは膝から崩れ落ちた。イケメン+ポニーテールという組み合わせを見てしまい。
「おい、お前」
 青年はやっと口を開いて、うごごと悶えるシャロンに声をかける。
「な、なんでしょうか……」
「お前……」
「いたぞ!」
 その声を遮るように声が響く。なんだと顔を上げてみると青年がいつの間にか目の前に立っていた。
 その目線の先には数人の兵士の姿をした人間らしき人が武器を向けている。
 これは何事だとシャロンは困惑した様子で青年と兵士を交互に見遣る。彼は追いつかれたことに焦っているようだった。
「さぁ! 御戻りください!」
「断る!」
 青年は「俺は降りると言っただろう」と声を上げて剣を抜いた。兵士たちは「手荒な真似はしたくないのですが」と呟きながら武器を振り上げる。
 青年はそれを避けながら兵士たちをいなしていく姿を見てシャロンは慌てて離れた。そろりと様子を見遣れば兵士は五人、それを彼は相手にしていた。
 青年の腕はそこそこあるらしく、五人相手でも引けを取らない。けれど、走ってきたために体力の消費があったのか動きは鈍かった。
(これ、助けたほうがいいの?)
 様子を見るにポニーテールの青年は兵士に追いかけらているようだった。悪者だったらどうしようかとも思ったが、会話を聞くかぎりそうは思えない。
 悪者にお戻りくださいなどと丁寧な言葉は使わないだろう。なら、何かしら問題をかかえた人物なのか。
 シャロンが思案していると青年が兵士に囲まれていた。このままでは捕まってしまう、考えている余裕はなかった。
 シャロンは翼で思いっきり仰いだ――複数の竜巻が兵士を襲う。
 巻き込まれた兵士が陣形を崩した瞬間にシャロンは飛び蹴りする勢いで青年を鷲の足で掴んだ。
「なっ!」
「ちょっとだけ我慢してくださいっ!」
 ぐるんとその勢いで空を飛び上がる。足で掴んだ青年を持ち上げてシャロンは翼をはためかせて駆け飛んだ。