気がつけば、私は知らない大広間の中央に立っていた。
大理石の床に魔法陣、周りにはローブ姿の人々、そして祭壇の上には煌びやかな剣。
……あ、これ絶対に異世界召喚だわ。
ついさっきまで、都内のくたびれたオフィスで深夜残業をしていたはずなのに。
ふとした眠気に負けて、気がつけばこのありさま。
ありさまっていうか……。
「よくぞ参られました、勇者様!」
すごいド直球で勇者って呼んでくるなぁこの人たち。
「……えっと、勇者って私のことですか?」
「はい!女神の導きにより、我が国を救うべく召喚されたお方!どうか、魔王討伐の旅に出てくださいませ!」
いやいやいや、待って、いきなりハードル高いな!?
魔王討伐とか、もっとソフトなやつから始めさせてよ。せめてゴブリン討伐とかさ。
「……あの、その前に確認したいことがあるんですが」
「何でもお答えしますぞ、勇者様!」
「勇者って……結婚してなくてもいいんですか?」
「は?」
ローブのおじさんたちが一斉に固まった。
そりゃそうだろう、でも大事なことなんだってば。
「だって私、異世界でぽっくり死んだりしたら家族も誰もいないし……。あ、子孫とか残した方がいいんじゃないかなって思って……。」
「……なるほど?」
「勇者様、まさかの第一声が婚活関連とは……。」
いやいや、そうでしょ?
せっかく召喚されたんだし、勇者の血筋を絶やすわけにはいかないじゃない?
ほら、勇者の血とかそういうの、だいたい後の世でありがたがられるでしょ?
「……女勇者リサラ様。婚活の件、承りました。」
「え、承認早くない?」
後ろで控えていた宰相っぽい人がこめかみを押さえながらも真剣な顔をしている。
いや、真剣になるところそこ?
「それでは早急に勇者様のお供となる優秀な男性を――。」
「それなら既に選ばれております。」
玉座の後ろから、三人の男が進み出てきた。
一人目、分かりやすくゴツい剣士。
肩幅がやたら広くて、いかにも「体力が取り柄です!」って顔をしている。
髪は短く切り揃えられ、鎧は新品同様の輝き。
「俺は剣士のガルド。魔王討伐に命を懸ける!」
うん、命より先に結婚を懸けてくれない?
二人目、細身で眼鏡をかけた賢者。
手には分厚い魔導書。
魔法陣を背負って歩いてきそうなオーラを放っている。
「我が名はユリエル。知識こそが力だと信じている。」
いや知識よりも実践しようよ、恋愛経験とかさ……。
三人目、猫のような軽やかさを感じさせる盗賊。
身軽そうな革鎧をまとい、腰には小型の短剣をいくつも差している。
が、その笑顔はどこかぎこちない。
「お、俺はリッド……盗賊だけど、役には立つと思う……た、多分……。」
……なんだこの三人。
勇者のパーティ、どころか、合コンに来た人選っぽくない?
そして察した。
彼らの後ろで、何やら小声で騒いでいる若い神官たちの会話が聞こえたのだ。
「……全員、まだその……だよな?」
「ええ、童貞三勇士ですよ。選抜条件に入ってましたから。」
「女勇者様なら、むしろお似合いでは……?」
ちょっと待って今さらっとすごい情報を聞いた気がする。
童貞三勇士?
何そのオプション。
いや、もしかして私の初体験も守れる的なやつ?
……あれ、これ案外悪くない?
思わず私は彼らを見回した。
ガルドは真っ赤な顔で剣を握りしめ、ユリエルは視線を逸らして眼鏡を直し、リッドは耳まで赤くして帽子をいじっている。
……なるほど、全員初心か……。
「……よし、じゃあ行こうか!魔王を倒す旅と、私の婚活の旅!」
「え?」
「婚活、ですか?」
「お、俺たち、勇者様の……?」
私が堂々と宣言した瞬間、玉座の間にどよめきが走った。
「よし、早く出発しましょう!ほら、婚活ってのはスピードが命よ!」
こうして、女勇者リサラと童貞三勇士の奇妙で前途多難な冒険兼婚活の旅が、異世界の大地にその第一歩を刻んだのであった……。