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プロローグ:黎明の新しき導き手、そして救済の刃

ー/ー



黒い靄が村を覆い、人々の悲鳴が夜空を裂いた。
風も息を潜め、空気が悲鳴そのもののように震えている。
形を持たぬまま渦巻くそれは、獣の咆哮にも似た音を立てていた。
――ファントマ。


 その正体は、巫女の感情が実体化した存在。
怨嗟、哀しみ、祈り。救いを求める心そのものが、歪んだ形でこの世に現れたものだった。
封印騎士団の一団が泥濘を蹴立てて進み、光を帯びた剣を構える。
彼らはファントマを退けながらも、巫女を破壊しようとしていた。
その眼には、任務に徹する兵の冷徹と、どこか祈るような苦悶が同居していた。


 本来、巫女はコアと共鳴し、限定的ながらも超自然的な力を行使できる。
それは神の奇跡にも等しく、飢饉の際には雨を呼び、洪水のときは土砂で川を封じることも可能だった。
だが、その力の代償は命そのもの。
力を使えば使うほど、巫女の体内でコアが蝕みを進め、やがて彼女の心を奪う。
一定の期間を過ぎれば、彼女たちはファントマを産み、やがてコア化して膨大なエネルギーと共に消滅する。
消滅する前に、封印騎士団がコア化した巫女を破壊すれば、コアを失わずに済む――それが巫女の宿命だった。
その掟の重さを理解しながらも、誰一人、それに疑問を挟むことは許されなかった。
 今まさに、十六にも満たぬ少女が断罪の刃を前に立たされていた。
少女は震える唇を結び、静かに空を見上げていた。
空は重く、月の光すら靄に呑まれている。


 「もう持たない……!」
 ひとりの騎士が叫ぶ。声には恐怖よりも焦燥が滲んでいた。
団長はそれを聞き流し、剣を振り上げる。
その動きには迷いがなかった。
命を絶つという行為に慣れきった者の冷たさではなく、
“守るために何かを失う覚悟”を知る者の重さがあった。


夜気を裂く叫びが響く。
封印騎士団には二つの使命がある。
それは――「巫女を守る者」でありながら、「巫女を殺す者」という、
残酷な矛盾を背負った使命だった。


「聖女の慈悲があらんことを!」


 村人たちはただ抱き合い、震えながらその光景を見つめるしかなかった。
祈りも、涙も、何の力にもならない。
ただ、風の中に自分達の存在が消えていくような感覚だけが残っていた。


 そのとき、地鳴りのような足音が夜を揺らした。
靄の奥から、整然と列を成した兵士たちが現れる。
彼らの胸甲には淡く光る紋章――円環と断ち切られた鎖が刻まれていた。
まるで束縛を砕き、新たな時代の夜明けを告げる光の象徴のようだった。


 村人たちは息を呑む。
その紋章が何を意味するかは分からなくても、
直感で「古い掟を断ち切る者たち」だと悟った。


 兵士たちの手には、騎士団の剣や槍とは異なる奇妙な武器が握られていた。
刃や銃身の中心に組み込まれたのは、淡く脈打つ結晶――コアの欠片。
本来なら適合者の精神との共鳴でしか発動できぬ力を、
機械仕掛けによって強制的に引き出す装置。


 黎明機関はそれを「共鳴炉兵装(エコー・リアクター)」と呼んでいた。


 指揮官の短い号令が響く。
青白い光が一斉に放たれ、奔流のようにファントマを絡め取り、
逃げ場を塞いでいく。空気が振動し、空間そのものが軋む。
その中心に、一歩、影が踏み込む。


 鋼の刃が閃き、コアの力でで強化された一撃が、
黒い靄を切り裂いた。
耳を劈く轟音。
次の瞬間、ファントマは光に呑まれ、悲鳴をあげながら霧散した。


 静寂が訪れる。
夜風が戻り、遠くの森から虫の声がかすかに聞こえた。
村人たちはその場に崩れ落ち、涙を流し、ただ「助かった」と繰り返した。


 しかし――巫女の胸元では、なおコアの光が脈動していた。
負の残響が体内を蝕み、生命を奪おうとしていた。


 「……もう終わりだ」
 騎士団の者たちが顔を歪め、剣に手をかける。


 そのとき、霧の奥から一人の男が歩み出る。
 黒髪を風になびかせた二十八歳の男――カイ。

カイ

長い戦場で鍛えられた眼差しは鋭く、しかしその奥には消えぬ悔恨の影があった。
歩くたびに靴底が土を踏みしめ、その音が夜の静寂を割る。


 カイの手には、古代の遺物を改良した小型装置が握られていた。
彼は巫女の首にかけられたコアにそれをかざし、静かに起動する。


低い振動音が夜気を震わせ、光が一点に収束していく。
暴走しかけていたコアの濁りが、ゆっくりと澄んでいった。
やがて巫女の胸から黒い霧が抜け落ち、
それは風に乗って空へと溶け、消えていく。


少女は気を失ったが、その胸は確かに上下していた。
そのわずかな動きに、村人たちは息をのむ。


――ひとつの命が、まだそこにある。
 「見ただろう」
カイの声は、若さゆえの熱を帯びながらも、どこか確信に満ちていた。
「巫女が血を流す時代は終わった。
 人は、自らの手で未来を創れる」


 その言葉に歓声は上がらなかった。
しかし、村人たちの胸には、
“次も助けてくれるのか?”という淡い希望が、
小さな灯のようにともった。


 封印騎士団には宗教的権威があった。
だが、実際に救ったのは黎明機関だった。
誰もが、どちらに感謝を示せばよいのか分からなかった。
沈黙が村を包む。


 その静けさを破ったのは、ひとりの子供の声だった。
「……ありがとう」
幼い瞳がまっすぐにカイを見上げる。
その純粋な響きに、カイの瞳がわずかに揺れた。
彼は子供の頭に手を置き、ほんの一瞬だけ微笑む。


 次の瞬間、彼は兵士たちと共に馬車へ乗り込み、
黎明機関の紋章を背に、夜の霧の中へと消えていった。


――俺が、この世界を救う。
妹を守れなかったこの手で、必ず。




🤖【AI×心の共鳴】👤
このコンセプトのもと、
感性と理性のあいだに生まれる対話を、静かに紡いでいきます。
動画版はYoutubeで!


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みんなのリアクション

黒い靄が村を覆い、人々の悲鳴が夜空を裂いた。
風も息を潜め、空気が悲鳴そのもののように震えている。
形を持たぬまま渦巻くそれは、獣の咆哮にも似た音を立てていた。
――ファントマ。
 その正体は、巫女の感情が実体化した存在。
怨嗟、哀しみ、祈り。救いを求める心そのものが、歪んだ形でこの世に現れたものだった。
封印騎士団の一団が泥濘を蹴立てて進み、光を帯びた剣を構える。
彼らはファントマを退けながらも、巫女を破壊しようとしていた。
その眼には、任務に徹する兵の冷徹と、どこか祈るような苦悶が同居していた。
 本来、巫女はコアと共鳴し、限定的ながらも超自然的な力を行使できる。
それは神の奇跡にも等しく、飢饉の際には雨を呼び、洪水のときは土砂で川を封じることも可能だった。
だが、その力の代償は命そのもの。
力を使えば使うほど、巫女の体内でコアが蝕みを進め、やがて彼女の心を奪う。
一定の期間を過ぎれば、彼女たちはファントマを産み、やがてコア化して膨大なエネルギーと共に消滅する。
消滅する前に、封印騎士団がコア化した巫女を破壊すれば、コアを失わずに済む――それが巫女の宿命だった。
その掟の重さを理解しながらも、誰一人、それに疑問を挟むことは許されなかった。
 今まさに、十六にも満たぬ少女が断罪の刃を前に立たされていた。
少女は震える唇を結び、静かに空を見上げていた。
空は重く、月の光すら靄に呑まれている。
 「もう持たない……!」
 ひとりの騎士が叫ぶ。声には恐怖よりも焦燥が滲んでいた。
団長はそれを聞き流し、剣を振り上げる。
その動きには迷いがなかった。
命を絶つという行為に慣れきった者の冷たさではなく、
“守るために何かを失う覚悟”を知る者の重さがあった。
夜気を裂く叫びが響く。
封印騎士団には二つの使命がある。
それは――「巫女を守る者」でありながら、「巫女を殺す者」という、
残酷な矛盾を背負った使命だった。
「聖女の慈悲があらんことを!」
 村人たちはただ抱き合い、震えながらその光景を見つめるしかなかった。
祈りも、涙も、何の力にもならない。
ただ、風の中に自分達の存在が消えていくような感覚だけが残っていた。
 そのとき、地鳴りのような足音が夜を揺らした。
靄の奥から、整然と列を成した兵士たちが現れる。
彼らの胸甲には淡く光る紋章――円環と断ち切られた鎖が刻まれていた。
まるで束縛を砕き、新たな時代の夜明けを告げる光の象徴のようだった。
 村人たちは息を呑む。
その紋章が何を意味するかは分からなくても、
直感で「古い掟を断ち切る者たち」だと悟った。
 兵士たちの手には、騎士団の剣や槍とは異なる奇妙な武器が握られていた。
刃や銃身の中心に組み込まれたのは、淡く脈打つ結晶――コアの欠片。
本来なら適合者の精神との共鳴でしか発動できぬ力を、
機械仕掛けによって強制的に引き出す装置。
 黎明機関はそれを「共鳴炉兵装(エコー・リアクター)」と呼んでいた。
 指揮官の短い号令が響く。
青白い光が一斉に放たれ、奔流のようにファントマを絡め取り、
逃げ場を塞いでいく。空気が振動し、空間そのものが軋む。
その中心に、一歩、影が踏み込む。
 鋼の刃が閃き、コアの力でで強化された一撃が、
黒い靄を切り裂いた。
耳を劈く轟音。
次の瞬間、ファントマは光に呑まれ、悲鳴をあげながら霧散した。
 静寂が訪れる。
夜風が戻り、遠くの森から虫の声がかすかに聞こえた。
村人たちはその場に崩れ落ち、涙を流し、ただ「助かった」と繰り返した。
 しかし――巫女の胸元では、なおコアの光が脈動していた。
負の残響が体内を蝕み、生命を奪おうとしていた。
 「……もう終わりだ」
 騎士団の者たちが顔を歪め、剣に手をかける。
 そのとき、霧の奥から一人の男が歩み出る。
 黒髪を風になびかせた二十八歳の男――カイ。
長い戦場で鍛えられた眼差しは鋭く、しかしその奥には消えぬ悔恨の影があった。
歩くたびに靴底が土を踏みしめ、その音が夜の静寂を割る。
 カイの手には、古代の遺物を改良した小型装置が握られていた。
彼は巫女の首にかけられたコアにそれをかざし、静かに起動する。
低い振動音が夜気を震わせ、光が一点に収束していく。
暴走しかけていたコアの濁りが、ゆっくりと澄んでいった。
やがて巫女の胸から黒い霧が抜け落ち、
それは風に乗って空へと溶け、消えていく。
少女は気を失ったが、その胸は確かに上下していた。
そのわずかな動きに、村人たちは息をのむ。
――ひとつの命が、まだそこにある。
 「見ただろう」
カイの声は、若さゆえの熱を帯びながらも、どこか確信に満ちていた。
「巫女が血を流す時代は終わった。
 人は、自らの手で未来を創れる」
 その言葉に歓声は上がらなかった。
しかし、村人たちの胸には、
“次も助けてくれるのか?”という淡い希望が、
小さな灯のようにともった。
 封印騎士団には宗教的権威があった。
だが、実際に救ったのは黎明機関だった。
誰もが、どちらに感謝を示せばよいのか分からなかった。
沈黙が村を包む。
 その静けさを破ったのは、ひとりの子供の声だった。
「……ありがとう」
幼い瞳がまっすぐにカイを見上げる。
その純粋な響きに、カイの瞳がわずかに揺れた。
彼は子供の頭に手を置き、ほんの一瞬だけ微笑む。
 次の瞬間、彼は兵士たちと共に馬車へ乗り込み、
黎明機関の紋章を背に、夜の霧の中へと消えていった。
――俺が、この世界を救う。
妹を守れなかったこの手で、必ず。
🤖【AI×心の共鳴】👤
このコンセプトのもと、
感性と理性のあいだに生まれる対話を、静かに紡いでいきます。
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