その後、レインは勉強机の上を見た。
勉強机には棚があって、そこに時計が置いてある。
時刻は午後一時四十五分。クエンティン達は、二時頃にアレンが来ると言っていた。
「そろそろアレン団長が来ると思うが……もう少し話すか。質問はあるか?」
プラグは考えた。今の所は、質問は無い。しかし首を傾げる。
「うーん。でも、聞いた感じ悪くないよね……? アレンさんが困るってどういうことだろう……?」
精鋭を『近衛候補生』として育てていき、残った貴族は『貴族学校』にて、勉強をする。
――そこまで悪く無い仕組みに思えるが……。
ゼラトも頷いた。
「だよな? 別に困って無さそう」
「うん。アレンさんが言っていた、風紀の乱れってどの辺り?」
何となく予想は付いたが聞いてみた。
「もちろん、近衛候補生だ。中々に荒れている」
レインが頷いて、少し改まった様子で話し始めた。
「近衛採用の、上限年齢の変更に伴って貴族学校も二十歳までいられるようになったが、次男や庶子は家を継がない場合もあるから、そちらは大抵、成人と共に十七歳で辞める」
「いつでも卒業はできるの?」
プラグは尋ねた。
「ああ。五学年、十七歳の学年末。つまり成人までいれば、退学は自由だが……」
そこでレインは溜息を吐いて、首を振った。
「貴族学校では、領主試験が十八歳から受けられるので、十七歳、または十八歳まで勉強して、その後、試験に受かったら辞める場合が多い。試験目的の場合は対策してくれるから、金があれば十八歳までいる事が多い……いや、多かったらしいが。その後は領地で勉強した方が安上がりだ。一応、貴族学校に通うのは貴族の義務だが……先輩達は本当に可愛そうだ」
「もしかして、変更で凄く混乱してる……?」
プラグは言ってみた。
「ああ……この棟はまだましだ。上の先輩はもっと混乱している」
レインが頷いた。
――六学年になると希望者は、ほぼ採用され、規定に達しなかった者で、来年以降、採用される見込みのある者が残っている、のだが……。
「採用と言っているが、第四大隊――つまり事務方での採用もある。だったら上級生は全て採用して、研修して、駄目なら後で首にすればいいのに、と言われていた。騎士採用の見込みありとして、残す意味が分からないと。いっそ、さっさとやめて『エルステ騎士団』、つまり首都騎士に行ければいいのだが、平民が多いので貴族には難しい。つまり、上に行くほど不満だらけだ」
『首都騎士』というのは近衛騎士団とは別の、首都キルトの領土騎士団を言う。
首都騎士団は首都の西隣にある『エルステ市』に広大な駐屯地や農地を持っていて、街を一つ形成している。
エルステ市にあるので『エルステ騎士団』とも呼ばれる。実質の国王軍だ。
近衛騎士団とは別の組織だが、研修などで頻繁に行き来があると言う。
近衛騎士団は城内に宿舎があるが、そこに泊まるのはごく一部の精鋭で、当然、妻帯者、通いなどもいるので、近衛騎士団の宿舎に入りきらない分は全てエルステ市に住んでいる。
確か、首都騎士団には、各地から来た幹部を育てる為の学校があって、そちらでも若手騎士の育成をしていたはずだ。首都騎士になって経験を積み、近衛に栄転、と言う例もある。
垣根は低く交流は盛んらしいが平民出身が多いので、身分を誇る貴族には辛いだろう。気にしなければいいのだが、近衛学校から入ると、落ちこぼれ……と言われてしまうかもしれない。
貴族でも、十五歳くらい……つまり若ければ歓迎されるだろうが、年が上がるほど近衛学校の癖が付いてくる。おそらく、あまり歓迎されないのだろう。
レインが立ち上がって、窓の側に移動した。
ちょっとしたベランダがあって外に出られそうなのだが、レインは「外には出ない方がいい。普段はレースを閉めておけ」と言って窓を開けずに、逆にレースのカーテンを閉めてしまい、レースカーテンの間から指をさした。
一見普通なのだが……良く見るとおかしい。
「良く見ろ。北棟はあんな感じだ」
一部の部屋の窓硝子が割れ、カーテンが外に放り出され。壁には落書きがある。
板で補修してある部屋もあったが、半分ほどはそのまま放置されている。
レインが最上階、三階の、窓硝子のない二部屋を指さした。
「あそこが六年のギルジス先輩、ジョージ先輩の部屋だ。特部屋だが、この二人は見事にグレている。そう言えば、ここ一年、授業で見た事が無いな。試験にはいたが……後はあそこ、そこ、そこもカーテンが無い、壁に落書きがあるのもグレた先輩の部屋だな。怒ってカーテンを引きちぎったり、窓に物を投げつけたりするんだ」
レインが指差したのは六学年、三階の半分程度だった。
「うわ……」
プラグとゼラトはぞっとした。部屋の内装に気を取られていたが……セルヒが行きたくない、と言う訳だ。
「試験の後は酷かった。まあ、毎年の事らしいが。一晩中、奇声や叫び声が聞こえ、硝子の割れる音がしていた。俺も暴れて硝子を割ったが、特部屋なので無料で付け替えた」
「ひぇっ……」
プラグとゼラトは口を押さえた。恐すぎる。レインは「まともな部屋を教えた方が早いな」と呟いて三階の綺麗な部屋を指さしていく。
「六学年、十八歳でまともなのは、コンスタン先輩、ケント先輩とリオス先輩達か。コンスタン先輩とケント先輩は近衛候補生ではなく領主志望だし、リオス先輩、オーザ先輩、デニアラ先輩、ベネディクト先輩は第五大隊志望だ。この四人は目的を持って頑張っている。第五大隊は厳しいので、志望すると、通常より学ぶ事が増えて採用されにくいらしい。即戦力を育てているようだ」
六学年は一番荒れている特部屋のギルジス、ジョージが滅多に出てこないので、その分、他の生徒は平和らしい。
六学年はコンスタンとケント、リオスやその他の先輩にも求心力があり、皆でまともな生活をしようと頑張っている。一部の荒れている生徒以外は仲は良いと言う。
レインは二階の右側を指さした。
「二階は、七学年、十九歳のリッキー先輩とマウロ先輩も駄目の筆頭だな。七学年はリッキー先輩が一番うるさい。まともな方ではニコロス先輩、ジェット先輩達は第五大隊志望で、勉強の為に残っているらしい。七学年には他にも第五大隊目当ての候補生が数名残っているが、皆、優秀だ」
次に、レインは二階の左側を示す。
「ちなみに二階には最終、八学年もいる。しかし残った八学年は皆、第五大隊か事務志望だな。『多感な時期に再編のあおりを受けた初代』――『あおり初代』と言われる悲惨な学年だ――教官は、あおり初代は学費と寮費が補助されるから、しっかり学んで、二十歳で入れば十分と仰っていた。ちなみに八学年は、今学期末に特別試験があって、全員採用では無いか、と言われている。まあ……住環境は良くないが、皆、あと一年の我慢だと言って、その分、必死で勉強している。『タダだから安い、何でも身に着ける。将来は最低でも大隊長補佐、いっそ団長になって騎士団を変えてやる』が八年生の合い言葉だ。実際、学費は一番浮いているな」
レイン曰く。ある八学年の生徒は、五年前、十五歳から学費を全く払わずに済んでいるらしい。他の八学年も、そう言えばここ三、四年くらいは格安で、今は学費も寮費も免除で学んでいるという。
……アレンが言っていた無駄が多いというのは、料金体系を含めてかもしれない。
上級生を学費と寮費免除にしても運営ができるというのは……おそらく、取り過ぎなのだ。
聞くだけで壮絶なので、プラグはサリーの助言を聞いて精霊騎士を目指して良かったと思った。
まあ、元々国に仕える気持ちは薄いので目指すつもりは無かったが……。
人ごとでは無かったゼラトは「あっぶねー……受かって良かった~」と呟いている。
精霊騎士課程ならたった一年で終わる。むしろ近衛の騎士課程が長すぎではないか?
しかし、十三、四歳の貴族令息を鍛えるのだから、それくらいは掛かるのかもしれない。
レインは「問題はそのくらいか……? ああ、自殺はまだ出ていない。飛び降りたやつもいたが、治療が間に合い無事だった。試験後は精霊が見張りをしていたのだ」と呟いて、しばらく考えた。
「後は。そうだな。この服を着られるのは、近衛候補生だけ。先程の妖精セルヒは私服だっただろう。だから近衛候補生は貴族学校生徒に色々と威張っている。例えば風呂の時間。規則は無いのだが、伝統的に候補生が優先されている」
「ああ、そういう感じか……」
プラグは呟いた。
つまり近衛候補生になれるのは優れた者だけで、そこが増長して、問題になっている……と言う事だ。
「特に、下級生イジメが横行しているな。年齢、身分による上限関係がとにかく厳しい。後は爵位や家名による差別。侯爵、伯爵、子爵、男爵での差別だな。他にも寄付金、後は評議員やら、愛国派と独立派やら。領主の家系であるかそうでないか。――身分が低いのに成績が良いと、上級生に呼び出されて『教育』と言う名の制裁を受ける」
「うわ、制裁!? 恐っ……!」
ゼラトが言った。
教育と言う名の制裁……聞くだけで恐ろしい――絶対、使われるのはあの北棟だ。
……と言うか、もはや問題しか無い。
ここまで来ると、生徒の心境としては『誰でも良いから何とかしてくれ!』だろう。
レインがゼラトを見た。
「妖精ゼラトの家は、伯爵家だな?」
「うん……えっ、やばいの?」
「いや。伯爵なら大丈夫だ。伯爵は一番多い。後は領主の家系も悪くない。子爵は誰かの派閥に入る必要があって、男爵は良い成績を取ると怒られる。そんな状況だ。三年生で受かった内の一人は男爵だったが、かなり素質はあったから、さっさと騎士団に上げよう、と言う事だったのだろうな」
これにはプラグもゼラトも声を上げた。
「ええ? でも男爵も立派な貴族だし……爵位も継いでいないのに」
プラグは言った。
爵位としては別に、どれも同じくらいと言うか……男爵でも金持ちはいるし、伯爵でも貧乏はいる。そして、まだ彼等が爵位を持っているわけでも無い。爵位を持っているのは彼らの親だ。
レインが深く頷いた。
「そうなのだ。どれも同じ――俺も家が侯爵だからそう思うが、伝統的に、何年やっているかは知らないが。代々そうしているから逆らえない。この格付けは細かいぞ。後は評議員の息子、侯爵達がいてそいつらは威張っているな。他には王族縁者。三級ばかりだがこれも鬱陶しい。領主の息子も名家であれば威張り放題だ」
そこでプラグはふと思った。
「庶子は? 差別されるの?」
「ああ、しっかり差別されるな。だが、俺はさほどではなかった。特別室だからというのもある――」
――そこで、扉がノックされた。
「アレンです」
「あ。はい、どうぞ」
プラグは声を掛けた。
扉が開いて、アレン・ル・フォーガス近衛騎士団長が入って来た。
レインがさっと立ち上がって脇に避けて、拳を握り、右手を胸の前に掲げた。騎士の敬礼だ。
プラグも勉強机の椅子から立ち上がって迎えた。
「わざわざ、ありがとうございます。どうぞ。座って下さい」
「すまないね。レイン君もありがとう」
レインは無言で首を振った。
アレンが椅子に腰掛けた。プラグは再び勉強机の椅子に腰掛けた。
アレンの正面になってしまったゼラトは恐縮して「どうも……」と言った。
「俺、退くか?」
ゼラトがプラグに尋ねた。
「ううん、いいよ。――そのままで良いですよね?」
プラグの言葉にアレンが頷く。
そこでシオウが起き上がって、あくびをして、伸びをした。
「ふぁ。寝てた。話、終わったか?」
「うん、だいたい」
プラグが答えると、立ち上がって近くに来た。シオウが机の上にある、レインが書いた紙を一瞥する。
アレンも紙に目を留めて、手に取った。
「これは、学校について説明をしていたのかな」
「ええ。近衛候補生と、貴族学校の違いについて聞いていました。後は進級問題や差別についても少し。イジメがあるとか?」
プラグは尋ねた。
「ああ、そうなんだよ。伝統的に……威張る人が入ってくると、そこで荒れてしまうのが問題だ。でも四学年――レイン君の学年は、比較的大人しかった。レイン君は気性は荒かったけど、他人にはあまり興味がないみたいだったから」
アレンの言葉にプラグは頷いた。
「なるほど。それで、アレンさんは俺達に何をして欲しいのですか? ただ過ごすだけで構いませんか? 期間は一週間ですが、何かした方が良いでしょうか?」
するとアレンが、持っていた物を差し出した。
「君達にはこれを着けて、一週間過ごして欲しい」
それは『監査』と書かれた簡素な木札に、赤いリボンがついたものだった。
見ただけで意図が分かった。
「なるほど、そういうことですか。俺達が、問題のある候補生を処罰できるのですか?」
「ああ、権限は強い。君達が駄目と言った候補生は、即、退学させられる。今後も精霊騎士課程の候補生達には、この札をつけてもらう。それなら問題も起きないはずだ」
……どうやらアレンは本気らしい。
プラグは頷き、微笑んだ。
「分かりました。でも、持たせる相手が違います。今思いついたんですけど。この学年より下の全員に持たせてはどうでしょうか。今年一年、あるいはもっと長く。下級生に上級生を査定してもらうんです。いきなり退学ではなく、意見として。問題行動が発覚した候補生は退学またはそれなりの罰則を与える。――アレンさんから言いにくいなら、俺から言いますから。後は、シオウとゼラトに元凶を見つけてもらって、殴って改心させましょう。それなら一週間でできると思います」
■ ■ ■
場所は貴族学校にある、大講堂だ。全候補生が集められている。
ここは舞台があって、座席もある。講義や全校集会の他、年末に有志の生徒達が劇をするという。
シオウ達は贅沢の極みだと呆れていたが、本当にただの学校なのだ。
いきなり集められた全校生徒、四百六十七人は、壇上に歩いて来たプラグを見てざわついた。
アレンと副団長二人も来ているが、シオウ、ゼラトと共に壇の下にいる。
舞台には音のプレートが設置され、声が響くようになっている。
プラグは教壇に立ち、軽く頭を下げた。
「はじめまして。俺は精霊騎士候補生の、プラグ・カルタです」
周囲は、何事かと静まりかえっている。
「今回、精霊騎士候補生は、近衛騎士団長から、ある依頼を受けました。それは皆様の――特に近衛騎士候補生の、風紀の乱れが激しいので、候補生を査定して欲しいと言う物です。先発として、俺とそこの二人が来ています。まず、この札を見て下さい。後ろの方には、見えるかわかりませんが――はっきり『監査』と書かれています」
プラグは微笑んで、札を見せた。
「この札の権限は強く、俺が気に入らない生徒を一発で退学にできます」
退学、の言葉に生徒達がざわついて『何だそれは!』と叫ぶ者もいた。
プラグは微笑んで一人を指さした。
「今、叫んで下さった、そこの方。うるさいので退学にします。今すぐ退場してください」
プラグの言葉に、指をさされた金髪の生徒が固まった。
「――という、恐ろしい権限を持った札です。退場はしなくて良いので、少し静かに聞いて下さい」
プラグの言葉に、皆が静まり返った。
「ですが俺達はずっといるわけでも、ここの事情に明るい訳でもありません。外部から来たばかりで、人間関係や、上下関係、イジメの実体など全く分かりません。そこは安心して下さい。――なので、騎士団長にお願いをしました。――四学年より下の、下級生の皆さん。――学校は楽しいですか? 思ったのと違った、と言う方もいたと思います。素敵な先輩もいたでしょう。でも、気に入らない、超ムカツク先輩も居ませんでしたか? 殴られた事はありませんか? 嫌味を言われたり、身分で差別をされた事は無かったですか? ただの道を通るなと言われたり。酷い事を言われて、こいつだけは絶対近衛にさせてたまるか、と思った事はありませんか?」
プラグは下級生に配ったのと同じ紙を手に取ってみせた。
「四年より下の方は。まず、この小さい紙に、ペンで『監査』と書いて下さい。木札が良かったんですが、準備ができなくて。その紙がこの木札の代わりになります。首から提げてもいいし、ポケットに入れてもいいです。無くしてもまた適当な紙で作ればいいです。一発退学させる権限はさすがにないですが、貴方がた下級生の票が一定数集まった先輩には罰則があり、罪状――特に素行が悪いと判断された先輩は、近衛で会議の上、退学になります」
下級生、上級生もまたざわつき始める。プラグは手を叩いた。
「ほらほら、静かに。うるさいですよ? ――そしてもう一枚の紙。これは全員に配られています。ここに皆さんは、気に入らないヤツの名前、今までの恨み辛みを全部書いて、記名で提出してください。自分が書かなくても他の誰かが書いてくれるので、隠す意味はありません。ただ、正直に書くと、近衛候補生の場合は人格審査で有利になるかもしれません。『こいつは正直で信頼できる』という感じです。ここで一つ、お願いがあります」
プラグは声の調子を、少し変えて気楽に話した。
「この紙には『むかつくけど、まあ、ちょっとは手加減してやって欲しい』とか、『この人は凄く良い人だから、必ず近衛になってほしい』とかそういうことも書いて構いません。優れた人材は評価されるべきです。――とにかく、近衛騎士団は情報がなくて困っているのです。ぜひ、皆様の力を貸して頂きたい。これはアレン団長が直々に、俺達なんかに頭を下げて下さいました。そちらの、副団長お二人もです」
プラグは舞台の下にいるアレンと、副団長二人を見た。
プラグからは頭が見えている状態だ。副団長二人はアレンが呼んで、わざわざ来てくれた。
「アレン団長は御年五十二歳なのに全然そんな風に見えない方です。ちょっと頼りない風に見えますが、これでも、今こうして俺に発言を任せてくれたように、いざという時は頼りになって、きちんと決断もできる方です。皆さんは本来なら頭を下げる必要がない団長達にここまでさせてしまった。その責任を考えて、しっかりと本音でぶつかって下さい。なお、下級生による監査の仕組みは今年一年続きます。改善が見られなかったら、来年も、再来年もずっと続きます。頑張って変えていきましょう。楽しく青春できる場所になるといいですね。……あ。そうだ、上手く改善できたら、貴族学校の共学化を検討しているそうです。貴族の可愛い女子が入って来るかもしれません。上手く行けばですが――では。俺からは以上です。ご静聴ありがとうございました。アレン団長、後はお願いします」
最後に共学、と言ったせいで、皆がそちらで騒いでいる。
「共学!?」「うわまじ!?」「女子が入る!?」「嘘!」
そこでアレンが壇上に上がった。
「――静かに! 諸君、男女共学は、この今の腐った、身分主義が無くなってからだ! いいな。実際に誰か退学になる場合もあるだろう。しっかり書いて、下級生は今年一年、先輩をよく見ておけ! 今までの恨みがあるならそれも書け! 不満や、進路の不安があるなら教師に相談しろ! 紙の提出期限は一ヶ月後、今年は追加でいくら出してもいい! これからしらばく、精霊騎士課程の男子や女子が査定に来るが、失礼のないように! わかったな! 以上、解散!」
アレンの言葉に、歓声が上がり騒がしくなる。
席を立って喜ぶ者、興奮する者、中には本気で泣いている者もいた。
プラグは袖から苦笑していた。
■ ■ ■
プラグ、ゼラト、シオウ、レインは夕食を同学年が集まる食堂で食べたのだが、食べ始めてからも質問攻めにあった。
「プラグさん、これほんと、マジで?」
「何でも書いていいの!? 道を通れないとか、あいつムカツク、とかそんな事も!?」
「意味なく殴られたとかも!?」
レインと同じ四年生達は、早速、監査の札を服にピンで留めていたり、ポケットに入れていたり、手で持っていたりする。近衛候補生だけではなく、貴族学校の生徒達も同様に話しかけて来た。
プラグは微笑んだ。
「うん、いいよ。全部、騎士団の人達が読んでくれるから。団長は本気だよ。後は、この人が女性関係がだらしないとか、賭博が好きだとか、外面は良くても性格はクズだとか、裏でヤバイ事やってるとか、そんな事も書いて良いってさ。これは退学にはならないかもだけど」
この場にはレインの一つ上、五年生もいるのだが、五年生は戸惑っているようだ。
一人が聞いてきた。
「これ、君……が考えたのか?」
プラグは首を振った。
「いいえ。俺は手伝っただけです。ほとんどアレン団長が動いて下さって。あまりにも血統主義が酷いから、元々考えていたそうです」
「あのー俺、ちょっと苛めた気がするんだけど、それって、退学になる? いや悪気があったわけじゃ無く、皆やってるから……俺も仕方無く」
別の一人がビクビクしながら言ってきた。
「いえ、そこは近衛ですから。きちんと調査してくれますよ。一応、事情は聞かれますし。今から改心すれば問題ありません」
プラグは微笑んだ。
そこでシオウが笑った。シオウは豪華な料理に満面の笑みだ。
「そうそう、んで、どーしようもねーやつは、俺達が殴って改心させる作戦! いやー、早く済んで助かった。のんびりしよっと。さっすがアレン団長様様だ、な、ゼラト!」
ゼラトは食事作法をレインに教えて貰いながら、笑顔で食べている。
「ほんと、分かりやすくて助かったよ! 食事も美味いし、風呂も楽しみだな、な。ホタル!」
ゼラトの隣にはホタルがいて、ケーキを食べている。
ホタルの首にも『監査』の札が掛かっていた。
〈おわり〉