表示設定
表示設定
目次 目次




第19話 貴族学校 ③お泊まり会 -3/4-

ー/ー



プラグ達はセルヒと一緒にトイレを出て、プラグの使う部屋、九号室に移動した。

部屋は正方形で、横幅六メルト、奥行きも六メルト程あった。
正面に大きめの窓があって、右奥に天蓋付きのベッドがあり、部屋の中央に高足のテーブルが置かれていて、椅子が手前と奥に二客あった。
入って左手にクローゼットと本棚があり、左側に格調高い勉強机がある。
明かりは当然のように精霊灯で、部屋の真ん中と、壁の数カ所にある。

「おお、すげー立派だ!」
ゼラトが言った。

「ここが妖精プラグの部屋になる。存分に使え」
「うん」
既にプラグの荷物が運び込んである。早速、プラグは部屋を見回した。ベッドも豪華だし、気分はただのお泊まりだ。
最低限の物だけなので、鞄は宿舎の空き部屋に置いて来た。
教科書は一週間分に加え、予習したい物も全て持って来たので、二十冊ほどになる。
筆記具や紙、小物も袋ごと置いてある。
シオウが入って左側、すぐにあったクローゼットを開けた。入り口の壁に沿うように配置されている。
「お、クローゼットもある。へぇ」
プラグものぞいた。幅は一メルトほどで、上部は服掛け、下部は引き出しになっている。装飾は控え目だがしっかりした造りだった。

そしてレインがセルヒに向き合う。
「妖精よ。改めて紹介する。こちらが俺の妖精達だ」
何も分からない紹介に、セルヒは戸惑っているようだ。
「あの……名前は?」
「各自、自己紹介を頼む」
レインが言った。
まず手を挙げたのは、奥にいたシオウだ。
「じゃ、俺からー。俺、シオウ・ル・レガン。よろしくなー」
「……えッ」
気軽な自己紹介に、セルヒがぎょっとした。
「ナールーンならレガンと結構近いなってことで、仲良くしてくれよー」
シオウは笑顔だ。セルヒが深く頷いた。
次は真ん中にいたゼラトだ。
「えーと、俺は。ゼラト・ル・ピアです……よろしくお願いします」
「ル・ピア? ……失礼ですけど、どこ出身で?」
セルヒが尋ねた。
「エスタードの端っこです」
「ああ……わかった。よろしく」
セルヒが最後のプラグを見た。
「プラグ・カルタです。よろしくお願いします」
プラグは頭を下げた。
「ああ、うん。……カルタのどこ? 君、貴族だよね?」
「いえ、領主の家で、平民からの養子です」
「……ああ、そういう……ふうん……よろしくね。じゃあ、俺は行くから」
「待て、今日は休みで暇だろう。付き合ってくれ」
出て行こうとするセルヒをレインが捕まえた。
「いや……俺、君に関わりたくないんだけど」
セルヒが言った。
するとレインが、ははは、と笑った。
「そうか、俺は関わりたい。と言う訳で、連れて行く。これから部屋を紹介して、その後は上級生の棟へ行く。一緒に行こう」
「えッ……えええ……!? ちょっと待って、行くのあそこに? やだよ!」
セルヒは顔が引きつっている。
「心配するな、アレン騎士団長がついてくる」
「ええッ!? えええ!? ……もっと嫌なんだけど……! 無理だって!」
とても嫌がるので、プラグは少し心配になった。
「レイン、無理に連れて行くのは良くないよ。忙しいかもしれないし」
「そうか? 忙しいのか?」
「――うん、一応、いや凄く忙しい。予習があるし。もう行くよ」
セルヒがほっとした様子で答えた。
「では仕方無いな。また後で」
「うん……じゃあ」
セルヒは暗いまま、猫背気味で出て行った。

「あいつ腹でも痛いのか?」
シオウが首を傾げた。
「妖精セルヒは常にあんな感じだ」
レインが答えた。
プラグは部屋を見回して、首を傾げた。
「結構、立派な部屋だけど……この部屋って……元は誰かの部屋だったんだよね?」
退いてもらったのか、と思ったのだがレインは首を振った。
「いや、この部屋と妖精ゼラト、妖精シオウの部屋は空き部屋だ。この学年には侯爵以上が俺しかいないから『特別室』が空いている。この階の端には王族用の部屋が二つあるが、そちらも空だ」
「ああ、なるほど」
「だから俺は存分に威張れる。実際の所、侯爵以上となるとあまりいない。それに多少狭くなって、テーブルが無くなる程度で大差はない。他も全て個室だし、寮費が十倍、となると選ばない家の方が多い」
「……十倍?」
プラグは驚いた。
寮費にとんでもなく差がある。
「ああ、何故そうなっているのかは謎だが。十倍なので威張る。そういう仕組みだ。勿論、部屋だけで無く、個室風呂も自由に使えるし、部屋に料理を運んでもらえたり、フルコースを頼めたり、他にも様々な特権がつく。面倒な授業の免除や、休みが自由に取れるとか。特別室には過去、エアリ公爵がいたらしいが、領地にいてほどんと宿舎にいなかったと聞いている」
レインの言葉にシオウが呆れた。
「はぁ。なるほど、あのルネ級の待遇って事か。お前んち、金持ちなんだな、一年、いくらくらいだ?」

「ちょうど二千万グランだな。普通の部屋は十分の一で、二百万グランだ」

レインはこともなげに言ったが、プラグは驚いた。
「えっ!? この部屋、二千万なの!?」
レインが頷いた。
「ああ――二千万グランにしては狭いだろう? だから皆、選ばないんだ。特権も領地に戻らなければ必要ない。俺は見栄だな。庶子だから、さすがに反対されたが」

一年で二千万グラン……。貴族だとしても、子供の寮費に使うには相当な金額だ。
プラグは唸ってしまった。
「普通なら二百万か……一年で……少し高くないか? いやでも、食費もあるし、寮も豪華だし、妥当な所か……?」
プラグは呟いた。
ゼラトが肩を落として溜息を吐いた。
「俺、これが払えないから、近衛はあきらめたんだよ。勉強して、大学に入るか本気で迷った。でも勉強は微妙で……諦めて来た。そう言う田舎の貴族、たぶん多いぜ。せめて下宿ができればなぁ……」
シオウも唸っている。
「しっかし二千万か。特権があるにしろ、この部屋でそれは相当なぼったくりって気もするな。足りてない部分を補ってるとか?」

「寮費については、成績優秀者、つまり『生徒会役員』と、あとは『近衛候補生』も大幅に免除される」
レインが補足したのだが。
プラグはあれ、と思った。
「え? ちょっと待って『近衛候補生』って、ここにいる全員じゃないの? 五百人全員」
プラグはてっきりそうだと思っていたのだが……。

「いいや。各年で実技試験があって、規定の点数が取れなければ近衛候補からは外される。以後は退学か、勉強に励んで領主や官僚を目指すか、近衛には事務もあるから、そちらを目指す事もできる。一応、裁判官もあるがその場合は他の大学に編入する」

レインの言葉にプラグは首を傾げた。
「それって、つまり、最初は全部、近衛を目指すってことでいいの? ――無理なら落ちて別の道へ行くって言うこと?」
プラグの言葉にレインが頷いた。
「ああ、つまり『近衛学校』に集めた貴族の中から、毎年試験をして、より抜きを集めて『近衛候補生』として鍛えていく。残りはまとめて『貴族学校』で学ぶと言う事だな。初めの試験はさほどきつくない。徐々にきつくなり『近衛候補生』が減っていく……という仕組みだ」

レイン曰く。
貴族の令息は、初めは全員、近衛になるための『近衛候補生』として『近衛学校』に入ってくる。
しかし毎年の試験で規定に達しないと落とされ『近衛候補生』は減っていく。
毎年、入ってくる人数はかなり違い、入る年齢もそれぞれ違う。しかし十五歳までに入るのが普通で、十六を過ぎて入る例は聞かない。学年は年齢で分けられている。
ちなみに年齢は誕生日が来る前の年齢で計算する。

一学年、十三歳は全員が『近衛候補生』として貴族学校に入る。
そして皆、プラグ達と、縁取りの色が違うだけの青い訓練着を身に着ける。
精霊騎士候補生は縁取りの色が銀色だが、近衛候補生は金色だ。形は全く同じなのでそこで見分ける。
二学年、十四歳はまだ八、九割程度が『近衛候補生』のままだ。
これは一年目で明らかに無理、という者が落とされた結果で、試験は毎年、五月の頭にある。
試験に落ちて『近衛候補生』でなくなったら、先程のセルヒのように私服を身に着ける。

「入る年齢は自由だが、二学年、十四歳から入る者が多いな。俺も十四歳から入ったが、入ってすぐに試験があって、通れば良し、通らなければ――初年では聞いた事は無いが……近衛候補生ではなく『ただの貴族学校の生徒』になる。逆に最初から近衛を目指さない者もいて、そういうのは、早々に外れて貴族学校だけに通う。家業を継ぐ場合や、領主試験が目当ての場合だな。ただし、外れても三学年までは基礎訓練を受ける。基礎訓練は十四歳の二学年が一番厳しいと言われている」
「なるほど」
プラグは頷いた。貴族も色々複雑らしい。
ちなみに領主になるには、ラヴェル大学、ほか領主課程のある大学に行くという手もある。こちらは貴族、一般人共に通えるが、入学試験があるし『最低五年』と在学期間も長くて大変だ。
一口に領主、と言っても全てがシオウのような、領地丸ごとではない。
村一つ、街一つ、市一つ、家の周辺少し、と言う場合も『領主』だ。
こちらは『小領主』『貴族領主』『市長貴族』『街長貴族』『村長貴族』などと呼ばれる事もある。
ラヴェル大学は『大領主』『ナントカ領全体の領主』向けなので、一般教養、学問、政治、経済、果ては経理も学ぶ。
ゼラトのように領地が実家の周囲に少しだけ、と言う場合は、入学試験のない『貴族学校』の方が便利だろう。おそらく、若い頃からゆっくり学んで、卒業辺りで試験、と言う流れだ。
大抵は領地の場所と規模で志望が分かれるが、カルタ伯爵のような委任領主は貴族ではないので、委任領主の令息は、主にラヴェル大学を目指す事になる。
領主の資格は女性でも取れるのだが、女性が跡を継ぐのは珍しい。
……これは領民や評議会の支持が得にくいからだ。領主の子供が女性のみの場合、大抵は優れた貴族の男性と結婚するか、できる男を養子に迎え、跡を継いでもらう。そして女性の子供を次代の領主に育てていく。
女性領主で有名なのはモンティス公爵だろう。公爵くらいであれば女性でも問題は少ない。
領主課程のある学校はいくつかあるので、大学へ行かずに、領地で教育を受ける場合もある。既に官僚である場合は、試験だけ受ける事もある。
遠方での受験制度もあったはずだが、試験は容赦なし、大学で学ぶ内容が出る。領主、と言う性質上、年齢制限はないので何歳でも受験可能だ。頭が良ければ十代で受かってしまう場合もあるし、五十代になってようやく合格、と言う場合もある。

(あれ……? そう言えば……五歳で受かった誰かがいるって聞いたけど、まさか?)
プラグはシオウを見た。
カルタ伯爵が『領主試験は領地でも受ける事ができて、受験の最年少は五歳。レガン領、領主の孫で、しかも受かったと言うから、聞いた時には驚いた』と語っていた。
レガンの領主が、領主会議で孫の出来を自慢していたのだという。その孫は、数いる孫の中でも飛び抜けていると。
プラグは友人ながらぞっとした。本人だったら凄すぎる。とりあえず聞かない事にした。
ちなみにプラグは領主になる必要は無いので、そちらの勉強はしていない。
けれどシオウが資格を持っているなら、やった方がいい気がしてきた。シオウは優秀すぎるので、プラグは度々、意識している。シオウに勝たなければ一番にはなれないのだ。アドニスもいるし、アルスも頭がいいし。気を抜くと上位五人に入れない。
別に一番に拘る必要はないのだが、最強を目指すのだから頑張りたい。
今ならちょうど、三年間タダで勉強できるし試験も受けられる。折角だからやってみようか……? その場合は『目』を使わずやるべきか、どうするべきか。
人間『プラグ』の悩みは尽きない。しかしシオウがバケモノなので、ずいぶん助かっている。

レインが続ける。
「明らかに運動が苦手な場合は、十四歳を避けて十五歳、三年生から入る事が多い。そして三学年になってすぐ、五月に『候補生の残留試験』と『近衛の採用試験』がある」

「近衛採用試験……?」
ゼラトが呟いた。

「ああ。これに受かれば、その時点で『近衛騎士団』に入れる。しかしここで受かることは稀だ。能力はあっても、精霊の血が濃いとか、余程の傑物でなければ、様子見で落とされる場合が多い。だが、剣技、実技がそこそこでも、何故か受かる者もいる。人格、能力、将来性を見込まれて、と言う事らしいが。そう言う者は、先に騎士団に入って下積みをして、後々かなり出世をする」
レインが溜息を吐いた。
「そして、近衛候補生の残留試験もある。つまり二ヶ月前、五月に二つの実技試験があったと言う事だ。試験は五月だが、学年末と、学年上がってすぐの三月、四月は丸ごと授業無しで対策、自習になる。そして五月の頭に試験があり、もちろん、実技と学科がそれぞれの試験にある……結果、近衛候補生は絞られるが、近衛になりたい者は必死でやる」

試験の結果、三学年、十五歳は七、八割程度が『近衛候補生』。となる。
四学年に上がったレインは、二ヶ月前の五月頭、ちょうどプラグ達に会った頃に試験を受けたと言う。

レインが目に憂いを浮かべ、溜息を吐いた。
「俺は今年、実技も学科も首席を取ったが、採用試験は『人格審査』で落ちた。俺と同年で受かったのは三名だった。運動はできないが二番目に頭のいいやつ。成績も良くて真面目なやつ。剣技はまだまだだが精霊の血の強いやつが受かっていた。間違い無く人格重視だな。……今思えば、納得はできる……」
「レインは首席だったんだ?」
プラグは驚いて尋ねた。
「ああ、だから結果を聞いて、信じられなかった。苛立っていて……本当に悪いことをした」
レインの様子を見ていると、すっかり素直になったというか『彼が落ちる……?』と言う気分になる。
「もう気にすんなよ。ホタルも覚えてないし」
ゼラトが奇妙な顔をして言った。同じ事を思ったのかもしれない。
ホタルはプレートの中なので今はいない。
しかし今まで『以前』の調子でいたなら……確かに、落とされるかもしれない。

「あ、どうぞ、レイン、皆も座って。椅子が一つ足りないけど……」
長くなりそうなので、プラグはテーブルの椅子を引き出して、レインに勧めた。
「ああ、すまん。椅子はまた言っておく」
レインが言った。
「あ。俺、その辺でいい。良いベッドだな」
シオウが言って、ベッドに腰掛け、仰向けに寝転んだ。ベッドには天蓋と青いカーテンがついている。シオウは起き上がってカーテンを引っ張りはじめた。カーテンは天蓋の左右から広げていく形で、閉め終わりは足元になる。レールの始点に引っかけ金具があり、そこを外せば、枕元からも中に入れる。裾には金色の房がついていた。
プラグは勉強机の椅子を引いて腰掛けて、ゼラトはレインの向かい側に座って聞いた。

「俺は今、十六歳で、誕生日が来れば十七歳。今年は四学年、来年は五年生になる」
レインのいる四学年、十六歳は五割ほどが『近衛候補生』だと言う。
三学年で受かることは稀なので、来年の採用試験に向けて一年頑張るわけだ。
――おそらく、三学年で受かった者達は騎士団でもっと厳しい訓練を受けていることだろう。

(段々、この国のやり方が分かって来たかも……)
プラグは思った。
ストラヴェル王国のやり方は『間口は広く、訓練は厳しく』に違いない。

剣術や体術は身分が高ければ強い、と言う訳では無い。
『精霊の血』の濃さ、霊力の強さ、本人の才能、努力、遺伝など多くの要素が関わっている。
一口に『精霊の血』と言っているが、精霊大戦――アルケルムの戦いは歴史上、五百年前の出来事だ。精霊の血が入っているか否かは、伝わっていなければ家系図からは判断できないし『聖女ティアスの恩寵』により霊力を得た例もある。

『霊力』を全く持っていない人間はいないのだが、総量にはばらつきがある。
近衛騎士にしようと思うなら、鍛える前に、プラグ達が受けたプレートに手をかざす審査で霊力の総量を調べた方がいい。
ただし近衛は『強い兵士』であって『強い精霊騎士』ではないので、プレートの扱い以外にも『剣術』『戦術』『身分』『外見』『学力』も重視されるのだろう。捜査部隊も事務部隊もあるので、数を確保する、質を上げる、という意味では、乱暴だがこれが最善かもしれない。
(いや、やっぱり乱暴だよな……? 巫女の時も思ったけど……)
巫女の訓練も大変だった。弓や短剣、長剣――精霊剣の訓練まであったのだ。
巫女になろうとしたことを五回くらい後悔したし、アメルはともかく、ミーアは本当に頑張った。最終試験を思い出すと……今でも身震いする。

「四学年になると、皆、それなりに優秀な者が残る。そうでないやつは貴族学校に行っているからな」
レインの言葉にプラグ達は頷いた。四年生で当初の半分、となれば厳選されてきているだろう。

「そしてここから毎年『採用試験』と残留試験――これは通称だから正式名『進級試験』がある。この四学年、五学年……つまり、十六、十七歳くらいで受かることが多いらしいが。最近は特に人格審査が厳しく、十八、十九歳で受かる例が多いようだ」

「なるほど」
レインは割合を教えてくれた。
五学年、十七歳は二百五十人が更に減って、そのうち三割が『近衛候補生』。
六学年、十八歳は更に減った数が『近衛候補生』……。

「俺の四学年で受かるのが理想か、優秀と言われる。しかし受かるのは多くても一割程度だ。だが、今年は特に少なくて三人。上級生を多く取るために落としたと言われているな。今の五年は二十人ほど採用されたが。採用が遅れればその分、学費がかかる。不満を持つ者は大勢いて、退学者も出かけたが特例で学費、寮費の補助が入っていた。教官が説得して、全員もう一年鍛える、となったが、再試験を求める動きもあって未だ落ち着かない」
レインは言ったが、割合だけでは実際に何人がいるのか分かりにくい。
「うーん。なるほど。今、各学年に何人いて、候補生が何学年に何人ずつか、具体的な数字って分かる?」
レインはかなり詳しそうなので、プラグは紙と万年筆を差し出した。
「ああ。覚えている」
するとレインはすらすらと書いた。

七月三日時点。
一学年、十三歳。在学八十五人。うち近衛候補生は――全員。
二学年、十四歳。在学七十四人。――うち、候補生は、六十人。ほぼ全員。
三学年、十五歳。在学八十二人。――うち、候補生は五十六人。七から八割程度。
ここで受かるのは珍しい。レインにとっては去年の事。
四学年、十六歳。在学七十七人、――うち、候補生は四十人で、約半分。レインの学年。今年採用されたのは三名のみ。
五学年、十七歳。在学六十二人、――うち、候補生は二十一名。今年採用された者が二十名。つまり試験前まで、五学年の近衛候補生は四十一人いて、五学年は合計八十二人いた。
六学年、十八歳。在学三十六人、――うち、候補生は十一名。今年採用された者が二十五名。つまり試験前は七十二人だった。
七学年、十九歳。在学二十二人、――うち、候補生は九名。大分減っている。
八学年、二十歳。在学十人、――うち、近衛候補生は十一人全員。貴族学校生徒は無し。ここが限界。学期末に特別試験あり。今年は全て受かるのでは無いか、と言われている。

在学者の合計……四六七人。ほぼ五百人。
近衛候補生の合計……二百三十六人。つまり全体の約半分が近衛候補生。

数字を見てゼラトが声を上げた。
「ああ、なるほど! 候補生の割合とか意味不明だったけど、そういうことか。毎年そんなに入る人がいなくて、全学年の合計が五百人だったってことなんだ。その中で近衛候補生と、貴族学校に行ってる人がいるってことなんだ?」
「ああ、そうだ。すまないな。上手く説明できなくて。全体の約半分が近衛候補生だな」
レインが苦笑した。
プラグは数字を見て改めて驚いた。
「貴族の男子ってこんなにいるんだな。毎年八十人くらい入ってくるんだ?」
――女子はいないので、男子のみでこの数字だ。
「ああ。ストラヴェル全土から来るからな。稼業が無い限り……後は『領主試験』目当てでも、とりあえず来るのが普通だ。ただ、家が貧しい場合はかなり大変らしい。安全の問題で、下宿や通学は禁止されているからな。だが、領主から補助金が出るはずだ」
するとゼラトが項垂れて、盛大に溜息を吐いた。
「そう、寮費は半分の百万ね。学費も半分補助してくれるって。全額免除じゃないところがなんとも……エスタードは良い方らしいけど。あと半分は自分で用意するって感じ。でも俺の家、貴族だけど、本当に小さな村の貴族、って感じで。……でも一応、領主の資格が無いと跡が継げないんだよ。だから貴族学校に入って、勉強するか近衛になるのが普通だけど、ウチの場合はそれも厳しい……ってなったんだ。本当に貧乏だから」

ゼラトのピア伯爵家は山一つ持っているが、その中で人が住んでいる村はハジコ村だけらしい。
しかもハジコ村は十数世帯が暮らす小さな村だという。
基本、自給自足。収入は狩りや、採集、養蚕、養蜂、薬草の栽培、販売等。
女性は織物もするが大した量では無い。となるとどう頑張っても寮費は払えない。
「でも伯爵だよね? 結構、古い家なの……? 貴族税は?」
「それがよく分からない。税金はエスタードが裕福だから、かなり免除されてるんだけど、親父は山が多いエスタード地方ならでは……だって言ってた。小さな村が結構あって、僻地で山や道の管理をしているところは、税金を減らして貰えるんだって。たぶん管理人みたいな感じで、村長だったご先祖様が貴族にされたんだろうって」
「なるほど。『領土法』だね。でも立派な貴族じゃないか」
「うん……立派、なのかなぁ……?」
ゼラトは首を傾げて苦笑し、続けた。

「そんな風だから、いっそ貴族を辞めようか、って話もしてるくらいなんだ。隣の領地との合併話も出てたし。でも村人もいるし、貴族の方が土地も管理しやすいし、ちょっと田舎すぎて、そのままになってる感じ。エスタードはそんなの多いだろうな」
ゼラトの言葉にプラグは微笑んだ。
「山が多いからね。ゼラトの所は素石は出ないの? えっと……ニエブラ山だっけ?」
エスタード領は精霊石の元となる『精霊素石(せいれいそせき)』の出る鉱山――いわゆる『結晶鉱山』が多くある。土地全体が鉱脈と言われるくらい、山によってはよく採れる。
するとゼラトは首を振った。
「よく覚えてるな。まあ、掘ればあるかもしれないけど、険しいからとてもじゃないけど無理。木ばっかだし。道具も無いし、人もいないし。どこを掘るの? って感じだよ。盗掘もない位の田舎で、皆迷うから」
エスタードが小さな村にも貴族を置いているのは、盗掘対策でもあるらしいのだが、田舎すぎると盗掘者も来ないらしい。
「あ、でもたまに、畑を耕してると『精霊白鉄(せいれいはくてつ)』が出る事があって、そん時は売りに行ってる。エスタードじゃ二束三文だけど」
「……それって凄い事じゃない?」
『精霊白鉄』は白プレートの原料となる鉄で、名前の通り、白色をしている。
白い砂鉄や白い鉄鉱石と言えば分かりやすいだろうか。採れる場所は限られているし、鉄より高値で取り引きされるので、普通は出てきたら大喜びなのだが……。
「ええ? ふつーだよ。それに大した量じゃ無いし。小遣い稼ぎみたいな感じ。それに取り過ぎると枯渇するから、あんまり良く無いって。それより自然を大切にしろって、聖典にもあるし。優秀な鉱山とか採掘計画とか色々あるらしいし。よく分かんない。俺のとこは、素石より白鉄が多いから、あんまり儲からないって」

加工品はともかく、採掘したままの状態なら、精霊白鉄より、精霊素石の方が値が高い。
これは加工のしやすさにある。
精霊素石は磨けばすぐに使えるのだが、精霊白鉄は不純物の混じった白い砂鉄、または不純物の混じった白い鉄鉱石なので、加工までにかなりの手間と時間、人出、設備を要する。
精錬については、以前、カルタでエスタードの領主に聞いた事があったが、彼も『領主の小遣い稼ぎは認めている』と言っていた。これはエスタード領が裕福な理由でもある。もちろん、制限量までだが……。
製鉄所に土や鉄ごと持っていき、一山いくら、と言った感じらしい。その他にも宝石も出て来るので、ストラヴェル一の金持ち領、と言われている。

――ちなみに、プレートは紅玉鳥なら創造できる。
それなのに、なぜ『精霊白鉄』があるのか。
これはカド=ククナがプレートを作ったときに、調整の神達が上手くやってくれたからだ。
カド=ククナは手土産とプレートの説明書きを持って、二百以上ある異次元の一つ『ラ・フィナ界』へ向かって、調整の神、六柱を順に訪ねたのだが……。
初めのカイサに『では原料も必要だな。採れるようにしておく』とあっさり言われ、他の神には『ああ、聞いているぞ。お主がククナちゃんか。遠い所を良く来たな。小さいのう。土産は何だ?』などと歓迎された。
ちなみに帰る時は『まだ一年だぞ。もっとゆっくりしていけ』と言う感じだった。
そして六柱との契約の後、この大陸で原料が採れるようになった。
どの神が何を担当するかはこれから調整する、と言っていたが、彼等はとても上手くやってくれている。
プラグは調整の神達を思い出して微笑んだ。皆、身長が五十メルトほどある、巨大で優しい神様だった。

気が付くと、黙り込んでしまったプラグを見てゼラトが首を傾げていた。
「どうした? 何、笑ってんだ?」
「あ、いや。何でもない。何の話だっけ? 精霊白鉄?」
「うん。それはもう終わったから。後は――俺も近衛学校に入ろうとしていたって話くらい。貴族学校って言うのは、通称なのかな。知らなかった。で――近衛学校は一回入ると資格を取るまで何年もいなきゃいけないし。学費は寮費と別で、半額でも毎年八十万グランもかかるし……。だからもし、精霊騎士課程に入れなかった場合は、補助金をもらって学校に行こう、って感じで。それも良いらしいから。でも受かっちゃって逆にどうしようってなってるところ。レインは試験に行かなかったのか?」
ゼラトが言った。
――『駄目だったら貴族学校』プラグもそれは聞いた事があった。
精霊騎士課程は寮費も学費も無料だし、近衛になるには近道なので、貴族もたくさん審査を受けていた。
プラグが受けた時は、貴族は男女合わせて四十名はいたと思う。

十四歳になったら、希望者はとりあえず精霊騎士課程の入学審査を受けてみて、駄目なら近衛課程に入る。というのが一般的だ。精霊騎士課程の試験は三月頭にあるので、その後に申し込みでも間に合うとカルタ伯爵やサリーが言っていた。
カルタ伯爵は、精霊騎士課程の試験が『近衛学校』に合わせてあるのだろうと言っていた。

精霊騎士課程の試験はプレートに手を置いて『ル・フィーラ』と唱えただけだが……霊力の基準は『最低でも精霊剣』と高めに設定してあった。その為、貴族はほとんど落ちていた。
受かった貴族の令息はフィニー、アラーク、マシル、ゼラト。
令嬢はナージャ、リルカ。カトリーヌ、リアンナ。と辞めてしまった女子三人。
つまり男女合わせてたった十二人だ。
霊力は成長で増える事もあるが、最低量は生まれた時にほぼ決まっている。
……貴族が多いか、平民が多いか。誰が受かるかは毎年ばらつきがあるのだろう。

ゼラトの言葉にレインが頷いた。
「俺の場合は、家の指示だな。サルザット家は拷問の家系だから、第五大隊目当てだった」
プラグは尋ねた。
「精霊騎士に興味はなかったの?」
「ああ。尋問官になるとしか考えていなかったな……そうか、妖精達と学ぶ道もあったのか……」
「興味があるんだったら、今から頼めば変われるかもよ?」
プラグは言ってみた。
するとレインは瞬きをした。
「それは無理だろう?」
「どうだろう。アレン団長に聞いてみて、団長と、リズ隊長が良いって言えば入れるんじゃない?」
するとレインは困惑した様子で首を傾げた。
「しかし、俺はもう十六だぞ? そちらは十四歳限定だろう?」
「あ、そうか年齢か……でも別に、こだわる事は無い、と思うけど……? ゼラトはどう思う?」
「どうって。俺には分からないよ。でも折角、こっちに入ったんだし。そもそも、そんな簡単に代われる物なの?」
「さあ。でも、組織の再編をしたいみたいだし、選択肢の一って言う事で、聞くくらいなら良いんじゃ無いかな。後で来るなら聞いてみよう」

そこでゼラトが何度か咳き込んだ。
「んん。ゲホ、なあ、いっぱい喋って、喉が渇いたんだけど、お茶ってどこ? つか、あの紐、ずっと気になってるんだけど……」
彼の目線の先――入り口の左側には木札の付いた三本の紐があって『茶』『食事』『その他』と書いてある。
プラグも実は気になっていた。
「ああ。そうだ。説明を忘れていた。そこの紐を引けば使用人が来る。茶、と書いてある紐だな」
「え。上からお茶が出るんじゃ無くて?」
プラグは天井を見て言った。てっきり、紐を引くと天井か、どこかからお茶や食事が降って来る……と思ったのだが。
レインが笑って首を振る。
「はは。それだと火傷する。二千万だからな。ただ、逆に面倒だから、俺は部屋に茶器を持って来ている。プレートを使えるのも特別室の特権だから、水はプレートで充分だ。ただし火気厳禁だから紅茶の場合は人を呼んでいる。食事は部屋で食べていたが、最近は下に降りている。妖精は好きにするといい」


スタンプを贈って作者を応援しよう!



みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



プラグ達はセルヒと一緒にトイレを出て、プラグの使う部屋、九号室に移動した。
部屋は正方形で、横幅六メルト、奥行きも六メルト程あった。
正面に大きめの窓があって、右奥に天蓋付きのベッドがあり、部屋の中央に高足のテーブルが置かれていて、椅子が手前と奥に二客あった。
入って左手にクローゼットと本棚があり、左側に格調高い勉強机がある。
明かりは当然のように精霊灯で、部屋の真ん中と、壁の数カ所にある。
「おお、すげー立派だ!」
ゼラトが言った。
「ここが妖精プラグの部屋になる。存分に使え」
「うん」
既にプラグの荷物が運び込んである。早速、プラグは部屋を見回した。ベッドも豪華だし、気分はただのお泊まりだ。
最低限の物だけなので、鞄は宿舎の空き部屋に置いて来た。
教科書は一週間分に加え、予習したい物も全て持って来たので、二十冊ほどになる。
筆記具や紙、小物も袋ごと置いてある。
シオウが入って左側、すぐにあったクローゼットを開けた。入り口の壁に沿うように配置されている。
「お、クローゼットもある。へぇ」
プラグものぞいた。幅は一メルトほどで、上部は服掛け、下部は引き出しになっている。装飾は控え目だがしっかりした造りだった。
そしてレインがセルヒに向き合う。
「妖精よ。改めて紹介する。こちらが俺の妖精達だ」
何も分からない紹介に、セルヒは戸惑っているようだ。
「あの……名前は?」
「各自、自己紹介を頼む」
レインが言った。
まず手を挙げたのは、奥にいたシオウだ。
「じゃ、俺からー。俺、シオウ・ル・レガン。よろしくなー」
「……えッ」
気軽な自己紹介に、セルヒがぎょっとした。
「ナールーンならレガンと結構近いなってことで、仲良くしてくれよー」
シオウは笑顔だ。セルヒが深く頷いた。
次は真ん中にいたゼラトだ。
「えーと、俺は。ゼラト・ル・ピアです……よろしくお願いします」
「ル・ピア? ……失礼ですけど、どこ出身で?」
セルヒが尋ねた。
「エスタードの端っこです」
「ああ……わかった。よろしく」
セルヒが最後のプラグを見た。
「プラグ・カルタです。よろしくお願いします」
プラグは頭を下げた。
「ああ、うん。……カルタのどこ? 君、貴族だよね?」
「いえ、領主の家で、平民からの養子です」
「……ああ、そういう……ふうん……よろしくね。じゃあ、俺は行くから」
「待て、今日は休みで暇だろう。付き合ってくれ」
出て行こうとするセルヒをレインが捕まえた。
「いや……俺、君に関わりたくないんだけど」
セルヒが言った。
するとレインが、ははは、と笑った。
「そうか、俺は関わりたい。と言う訳で、連れて行く。これから部屋を紹介して、その後は上級生の棟へ行く。一緒に行こう」
「えッ……えええ……!? ちょっと待って、行くのあそこに? やだよ!」
セルヒは顔が引きつっている。
「心配するな、アレン騎士団長がついてくる」
「ええッ!? えええ!? ……もっと嫌なんだけど……! 無理だって!」
とても嫌がるので、プラグは少し心配になった。
「レイン、無理に連れて行くのは良くないよ。忙しいかもしれないし」
「そうか? 忙しいのか?」
「――うん、一応、いや凄く忙しい。予習があるし。もう行くよ」
セルヒがほっとした様子で答えた。
「では仕方無いな。また後で」
「うん……じゃあ」
セルヒは暗いまま、猫背気味で出て行った。
「あいつ腹でも痛いのか?」
シオウが首を傾げた。
「妖精セルヒは常にあんな感じだ」
レインが答えた。
プラグは部屋を見回して、首を傾げた。
「結構、立派な部屋だけど……この部屋って……元は誰かの部屋だったんだよね?」
退いてもらったのか、と思ったのだがレインは首を振った。
「いや、この部屋と妖精ゼラト、妖精シオウの部屋は空き部屋だ。この学年には侯爵以上が俺しかいないから『特別室』が空いている。この階の端には王族用の部屋が二つあるが、そちらも空だ」
「ああ、なるほど」
「だから俺は存分に威張れる。実際の所、侯爵以上となるとあまりいない。それに多少狭くなって、テーブルが無くなる程度で大差はない。他も全て個室だし、寮費が十倍、となると選ばない家の方が多い」
「……十倍?」
プラグは驚いた。
寮費にとんでもなく差がある。
「ああ、何故そうなっているのかは謎だが。十倍なので威張る。そういう仕組みだ。勿論、部屋だけで無く、個室風呂も自由に使えるし、部屋に料理を運んでもらえたり、フルコースを頼めたり、他にも様々な特権がつく。面倒な授業の免除や、休みが自由に取れるとか。特別室には過去、エアリ公爵がいたらしいが、領地にいてほどんと宿舎にいなかったと聞いている」
レインの言葉にシオウが呆れた。
「はぁ。なるほど、あのルネ級の待遇って事か。お前んち、金持ちなんだな、一年、いくらくらいだ?」
「ちょうど二千万グランだな。普通の部屋は十分の一で、二百万グランだ」
レインはこともなげに言ったが、プラグは驚いた。
「えっ!? この部屋、二千万なの!?」
レインが頷いた。
「ああ――二千万グランにしては狭いだろう? だから皆、選ばないんだ。特権も領地に戻らなければ必要ない。俺は見栄だな。庶子だから、さすがに反対されたが」
一年で二千万グラン……。貴族だとしても、子供の寮費に使うには相当な金額だ。
プラグは唸ってしまった。
「普通なら二百万か……一年で……少し高くないか? いやでも、食費もあるし、寮も豪華だし、妥当な所か……?」
プラグは呟いた。
ゼラトが肩を落として溜息を吐いた。
「俺、これが払えないから、近衛はあきらめたんだよ。勉強して、大学に入るか本気で迷った。でも勉強は微妙で……諦めて来た。そう言う田舎の貴族、たぶん多いぜ。せめて下宿ができればなぁ……」
シオウも唸っている。
「しっかし二千万か。特権があるにしろ、この部屋でそれは相当なぼったくりって気もするな。足りてない部分を補ってるとか?」
「寮費については、成績優秀者、つまり『生徒会役員』と、あとは『近衛候補生』も大幅に免除される」
レインが補足したのだが。
プラグはあれ、と思った。
「え? ちょっと待って『近衛候補生』って、ここにいる全員じゃないの? 五百人全員」
プラグはてっきりそうだと思っていたのだが……。
「いいや。各年で実技試験があって、規定の点数が取れなければ近衛候補からは外される。以後は退学か、勉強に励んで領主や官僚を目指すか、近衛には事務もあるから、そちらを目指す事もできる。一応、裁判官もあるがその場合は他の大学に編入する」
レインの言葉にプラグは首を傾げた。
「それって、つまり、最初は全部、近衛を目指すってことでいいの? ――無理なら落ちて別の道へ行くって言うこと?」
プラグの言葉にレインが頷いた。
「ああ、つまり『近衛学校』に集めた貴族の中から、毎年試験をして、より抜きを集めて『近衛候補生』として鍛えていく。残りはまとめて『貴族学校』で学ぶと言う事だな。初めの試験はさほどきつくない。徐々にきつくなり『近衛候補生』が減っていく……という仕組みだ」
レイン曰く。
貴族の令息は、初めは全員、近衛になるための『近衛候補生』として『近衛学校』に入ってくる。
しかし毎年の試験で規定に達しないと落とされ『近衛候補生』は減っていく。
毎年、入ってくる人数はかなり違い、入る年齢もそれぞれ違う。しかし十五歳までに入るのが普通で、十六を過ぎて入る例は聞かない。学年は年齢で分けられている。
ちなみに年齢は誕生日が来る前の年齢で計算する。
一学年、十三歳は全員が『近衛候補生』として貴族学校に入る。
そして皆、プラグ達と、縁取りの色が違うだけの青い訓練着を身に着ける。
精霊騎士候補生は縁取りの色が銀色だが、近衛候補生は金色だ。形は全く同じなのでそこで見分ける。
二学年、十四歳はまだ八、九割程度が『近衛候補生』のままだ。
これは一年目で明らかに無理、という者が落とされた結果で、試験は毎年、五月の頭にある。
試験に落ちて『近衛候補生』でなくなったら、先程のセルヒのように私服を身に着ける。
「入る年齢は自由だが、二学年、十四歳から入る者が多いな。俺も十四歳から入ったが、入ってすぐに試験があって、通れば良し、通らなければ――初年では聞いた事は無いが……近衛候補生ではなく『ただの貴族学校の生徒』になる。逆に最初から近衛を目指さない者もいて、そういうのは、早々に外れて貴族学校だけに通う。家業を継ぐ場合や、領主試験が目当ての場合だな。ただし、外れても三学年までは基礎訓練を受ける。基礎訓練は十四歳の二学年が一番厳しいと言われている」
「なるほど」
プラグは頷いた。貴族も色々複雑らしい。
ちなみに領主になるには、ラヴェル大学、ほか領主課程のある大学に行くという手もある。こちらは貴族、一般人共に通えるが、入学試験があるし『最低五年』と在学期間も長くて大変だ。
一口に領主、と言っても全てがシオウのような、領地丸ごとではない。
村一つ、街一つ、市一つ、家の周辺少し、と言う場合も『領主』だ。
こちらは『小領主』『貴族領主』『市長貴族』『街長貴族』『村長貴族』などと呼ばれる事もある。
ラヴェル大学は『大領主』『ナントカ領全体の領主』向けなので、一般教養、学問、政治、経済、果ては経理も学ぶ。
ゼラトのように領地が実家の周囲に少しだけ、と言う場合は、入学試験のない『貴族学校』の方が便利だろう。おそらく、若い頃からゆっくり学んで、卒業辺りで試験、と言う流れだ。
大抵は領地の場所と規模で志望が分かれるが、カルタ伯爵のような委任領主は貴族ではないので、委任領主の令息は、主にラヴェル大学を目指す事になる。
領主の資格は女性でも取れるのだが、女性が跡を継ぐのは珍しい。
……これは領民や評議会の支持が得にくいからだ。領主の子供が女性のみの場合、大抵は優れた貴族の男性と結婚するか、できる男を養子に迎え、跡を継いでもらう。そして女性の子供を次代の領主に育てていく。
女性領主で有名なのはモンティス公爵だろう。公爵くらいであれば女性でも問題は少ない。
領主課程のある学校はいくつかあるので、大学へ行かずに、領地で教育を受ける場合もある。既に官僚である場合は、試験だけ受ける事もある。
遠方での受験制度もあったはずだが、試験は容赦なし、大学で学ぶ内容が出る。領主、と言う性質上、年齢制限はないので何歳でも受験可能だ。頭が良ければ十代で受かってしまう場合もあるし、五十代になってようやく合格、と言う場合もある。
(あれ……? そう言えば……五歳で受かった誰かがいるって聞いたけど、まさか?)
プラグはシオウを見た。
カルタ伯爵が『領主試験は領地でも受ける事ができて、受験の最年少は五歳。レガン領、領主の孫で、しかも受かったと言うから、聞いた時には驚いた』と語っていた。
レガンの領主が、領主会議で孫の出来を自慢していたのだという。その孫は、数いる孫の中でも飛び抜けていると。
プラグは友人ながらぞっとした。本人だったら凄すぎる。とりあえず聞かない事にした。
ちなみにプラグは領主になる必要は無いので、そちらの勉強はしていない。
けれどシオウが資格を持っているなら、やった方がいい気がしてきた。シオウは優秀すぎるので、プラグは度々、意識している。シオウに勝たなければ一番にはなれないのだ。アドニスもいるし、アルスも頭がいいし。気を抜くと上位五人に入れない。
別に一番に拘る必要はないのだが、最強を目指すのだから頑張りたい。
今ならちょうど、三年間タダで勉強できるし試験も受けられる。折角だからやってみようか……? その場合は『目』を使わずやるべきか、どうするべきか。
人間『プラグ』の悩みは尽きない。しかしシオウがバケモノなので、ずいぶん助かっている。
レインが続ける。
「明らかに運動が苦手な場合は、十四歳を避けて十五歳、三年生から入る事が多い。そして三学年になってすぐ、五月に『候補生の残留試験』と『近衛の採用試験』がある」
「近衛採用試験……?」
ゼラトが呟いた。
「ああ。これに受かれば、その時点で『近衛騎士団』に入れる。しかしここで受かることは稀だ。能力はあっても、精霊の血が濃いとか、余程の傑物でなければ、様子見で落とされる場合が多い。だが、剣技、実技がそこそこでも、何故か受かる者もいる。人格、能力、将来性を見込まれて、と言う事らしいが。そう言う者は、先に騎士団に入って下積みをして、後々かなり出世をする」
レインが溜息を吐いた。
「そして、近衛候補生の残留試験もある。つまり二ヶ月前、五月に二つの実技試験があったと言う事だ。試験は五月だが、学年末と、学年上がってすぐの三月、四月は丸ごと授業無しで対策、自習になる。そして五月の頭に試験があり、もちろん、実技と学科がそれぞれの試験にある……結果、近衛候補生は絞られるが、近衛になりたい者は必死でやる」
試験の結果、三学年、十五歳は七、八割程度が『近衛候補生』。となる。
四学年に上がったレインは、二ヶ月前の五月頭、ちょうどプラグ達に会った頃に試験を受けたと言う。
レインが目に憂いを浮かべ、溜息を吐いた。
「俺は今年、実技も学科も首席を取ったが、採用試験は『人格審査』で落ちた。俺と同年で受かったのは三名だった。運動はできないが二番目に頭のいいやつ。成績も良くて真面目なやつ。剣技はまだまだだが精霊の血の強いやつが受かっていた。間違い無く人格重視だな。……今思えば、納得はできる……」
「レインは首席だったんだ?」
プラグは驚いて尋ねた。
「ああ、だから結果を聞いて、信じられなかった。苛立っていて……本当に悪いことをした」
レインの様子を見ていると、すっかり素直になったというか『彼が落ちる……?』と言う気分になる。
「もう気にすんなよ。ホタルも覚えてないし」
ゼラトが奇妙な顔をして言った。同じ事を思ったのかもしれない。
ホタルはプレートの中なので今はいない。
しかし今まで『以前』の調子でいたなら……確かに、落とされるかもしれない。
「あ、どうぞ、レイン、皆も座って。椅子が一つ足りないけど……」
長くなりそうなので、プラグはテーブルの椅子を引き出して、レインに勧めた。
「ああ、すまん。椅子はまた言っておく」
レインが言った。
「あ。俺、その辺でいい。良いベッドだな」
シオウが言って、ベッドに腰掛け、仰向けに寝転んだ。ベッドには天蓋と青いカーテンがついている。シオウは起き上がってカーテンを引っ張りはじめた。カーテンは天蓋の左右から広げていく形で、閉め終わりは足元になる。レールの始点に引っかけ金具があり、そこを外せば、枕元からも中に入れる。裾には金色の房がついていた。
プラグは勉強机の椅子を引いて腰掛けて、ゼラトはレインの向かい側に座って聞いた。
「俺は今、十六歳で、誕生日が来れば十七歳。今年は四学年、来年は五年生になる」
レインのいる四学年、十六歳は五割ほどが『近衛候補生』だと言う。
三学年で受かることは稀なので、来年の採用試験に向けて一年頑張るわけだ。
――おそらく、三学年で受かった者達は騎士団でもっと厳しい訓練を受けていることだろう。
(段々、この国のやり方が分かって来たかも……)
プラグは思った。
ストラヴェル王国のやり方は『間口は広く、訓練は厳しく』に違いない。
剣術や体術は身分が高ければ強い、と言う訳では無い。
『精霊の血』の濃さ、霊力の強さ、本人の才能、努力、遺伝など多くの要素が関わっている。
一口に『精霊の血』と言っているが、精霊大戦――アルケルムの戦いは歴史上、五百年前の出来事だ。精霊の血が入っているか否かは、伝わっていなければ家系図からは判断できないし『聖女ティアスの恩寵』により霊力を得た例もある。
『霊力』を全く持っていない人間はいないのだが、総量にはばらつきがある。
近衛騎士にしようと思うなら、鍛える前に、プラグ達が受けたプレートに手をかざす審査で霊力の総量を調べた方がいい。
ただし近衛は『強い兵士』であって『強い精霊騎士』ではないので、プレートの扱い以外にも『剣術』『戦術』『身分』『外見』『学力』も重視されるのだろう。捜査部隊も事務部隊もあるので、数を確保する、質を上げる、という意味では、乱暴だがこれが最善かもしれない。
(いや、やっぱり乱暴だよな……? 巫女の時も思ったけど……)
巫女の訓練も大変だった。弓や短剣、長剣――精霊剣の訓練まであったのだ。
巫女になろうとしたことを五回くらい後悔したし、アメルはともかく、ミーアは本当に頑張った。最終試験を思い出すと……今でも身震いする。
「四学年になると、皆、それなりに優秀な者が残る。そうでないやつは貴族学校に行っているからな」
レインの言葉にプラグ達は頷いた。四年生で当初の半分、となれば厳選されてきているだろう。
「そしてここから毎年『採用試験』と残留試験――これは通称だから正式名『進級試験』がある。この四学年、五学年……つまり、十六、十七歳くらいで受かることが多いらしいが。最近は特に人格審査が厳しく、十八、十九歳で受かる例が多いようだ」
「なるほど」
レインは割合を教えてくれた。
五学年、十七歳は二百五十人が更に減って、そのうち三割が『近衛候補生』。
六学年、十八歳は更に減った数が『近衛候補生』……。
「俺の四学年で受かるのが理想か、優秀と言われる。しかし受かるのは多くても一割程度だ。だが、今年は特に少なくて三人。上級生を多く取るために落としたと言われているな。今の五年は二十人ほど採用されたが。採用が遅れればその分、学費がかかる。不満を持つ者は大勢いて、退学者も出かけたが特例で学費、寮費の補助が入っていた。教官が説得して、全員もう一年鍛える、となったが、再試験を求める動きもあって未だ落ち着かない」
レインは言ったが、割合だけでは実際に何人がいるのか分かりにくい。
「うーん。なるほど。今、各学年に何人いて、候補生が何学年に何人ずつか、具体的な数字って分かる?」
レインはかなり詳しそうなので、プラグは紙と万年筆を差し出した。
「ああ。覚えている」
するとレインはすらすらと書いた。
七月三日時点。
一学年、十三歳。在学八十五人。うち近衛候補生は――全員。
二学年、十四歳。在学七十四人。――うち、候補生は、六十人。ほぼ全員。
三学年、十五歳。在学八十二人。――うち、候補生は五十六人。七から八割程度。
ここで受かるのは珍しい。レインにとっては去年の事。
四学年、十六歳。在学七十七人、――うち、候補生は四十人で、約半分。レインの学年。今年採用されたのは三名のみ。
五学年、十七歳。在学六十二人、――うち、候補生は二十一名。今年採用された者が二十名。つまり試験前まで、五学年の近衛候補生は四十一人いて、五学年は合計八十二人いた。
六学年、十八歳。在学三十六人、――うち、候補生は十一名。今年採用された者が二十五名。つまり試験前は七十二人だった。
七学年、十九歳。在学二十二人、――うち、候補生は九名。大分減っている。
八学年、二十歳。在学十人、――うち、近衛候補生は十一人全員。貴族学校生徒は無し。ここが限界。学期末に特別試験あり。今年は全て受かるのでは無いか、と言われている。
在学者の合計……四六七人。ほぼ五百人。
近衛候補生の合計……二百三十六人。つまり全体の約半分が近衛候補生。
数字を見てゼラトが声を上げた。
「ああ、なるほど! 候補生の割合とか意味不明だったけど、そういうことか。毎年そんなに入る人がいなくて、全学年の合計が五百人だったってことなんだ。その中で近衛候補生と、貴族学校に行ってる人がいるってことなんだ?」
「ああ、そうだ。すまないな。上手く説明できなくて。全体の約半分が近衛候補生だな」
レインが苦笑した。
プラグは数字を見て改めて驚いた。
「貴族の男子ってこんなにいるんだな。毎年八十人くらい入ってくるんだ?」
――女子はいないので、男子のみでこの数字だ。
「ああ。ストラヴェル全土から来るからな。稼業が無い限り……後は『領主試験』目当てでも、とりあえず来るのが普通だ。ただ、家が貧しい場合はかなり大変らしい。安全の問題で、下宿や通学は禁止されているからな。だが、領主から補助金が出るはずだ」
するとゼラトが項垂れて、盛大に溜息を吐いた。
「そう、寮費は半分の百万ね。学費も半分補助してくれるって。全額免除じゃないところがなんとも……エスタードは良い方らしいけど。あと半分は自分で用意するって感じ。でも俺の家、貴族だけど、本当に小さな村の貴族、って感じで。……でも一応、領主の資格が無いと跡が継げないんだよ。だから貴族学校に入って、勉強するか近衛になるのが普通だけど、ウチの場合はそれも厳しい……ってなったんだ。本当に貧乏だから」
ゼラトのピア伯爵家は山一つ持っているが、その中で人が住んでいる村はハジコ村だけらしい。
しかもハジコ村は十数世帯が暮らす小さな村だという。
基本、自給自足。収入は狩りや、採集、養蚕、養蜂、薬草の栽培、販売等。
女性は織物もするが大した量では無い。となるとどう頑張っても寮費は払えない。
「でも伯爵だよね? 結構、古い家なの……? 貴族税は?」
「それがよく分からない。税金はエスタードが裕福だから、かなり免除されてるんだけど、親父は山が多いエスタード地方ならでは……だって言ってた。小さな村が結構あって、僻地で山や道の管理をしているところは、税金を減らして貰えるんだって。たぶん管理人みたいな感じで、村長だったご先祖様が貴族にされたんだろうって」
「なるほど。『領土法』だね。でも立派な貴族じゃないか」
「うん……立派、なのかなぁ……?」
ゼラトは首を傾げて苦笑し、続けた。
「そんな風だから、いっそ貴族を辞めようか、って話もしてるくらいなんだ。隣の領地との合併話も出てたし。でも村人もいるし、貴族の方が土地も管理しやすいし、ちょっと田舎すぎて、そのままになってる感じ。エスタードはそんなの多いだろうな」
ゼラトの言葉にプラグは微笑んだ。
「山が多いからね。ゼラトの所は素石は出ないの? えっと……ニエブラ山だっけ?」
エスタード領は精霊石の元となる『精霊素石(せいれいそせき)』の出る鉱山――いわゆる『結晶鉱山』が多くある。土地全体が鉱脈と言われるくらい、山によってはよく採れる。
するとゼラトは首を振った。
「よく覚えてるな。まあ、掘ればあるかもしれないけど、険しいからとてもじゃないけど無理。木ばっかだし。道具も無いし、人もいないし。どこを掘るの? って感じだよ。盗掘もない位の田舎で、皆迷うから」
エスタードが小さな村にも貴族を置いているのは、盗掘対策でもあるらしいのだが、田舎すぎると盗掘者も来ないらしい。
「あ、でもたまに、畑を耕してると『精霊白鉄(せいれいはくてつ)』が出る事があって、そん時は売りに行ってる。エスタードじゃ二束三文だけど」
「……それって凄い事じゃない?」
『精霊白鉄』は白プレートの原料となる鉄で、名前の通り、白色をしている。
白い砂鉄や白い鉄鉱石と言えば分かりやすいだろうか。採れる場所は限られているし、鉄より高値で取り引きされるので、普通は出てきたら大喜びなのだが……。
「ええ? ふつーだよ。それに大した量じゃ無いし。小遣い稼ぎみたいな感じ。それに取り過ぎると枯渇するから、あんまり良く無いって。それより自然を大切にしろって、聖典にもあるし。優秀な鉱山とか採掘計画とか色々あるらしいし。よく分かんない。俺のとこは、素石より白鉄が多いから、あんまり儲からないって」
加工品はともかく、採掘したままの状態なら、精霊白鉄より、精霊素石の方が値が高い。
これは加工のしやすさにある。
精霊素石は磨けばすぐに使えるのだが、精霊白鉄は不純物の混じった白い砂鉄、または不純物の混じった白い鉄鉱石なので、加工までにかなりの手間と時間、人出、設備を要する。
精錬については、以前、カルタでエスタードの領主に聞いた事があったが、彼も『領主の小遣い稼ぎは認めている』と言っていた。これはエスタード領が裕福な理由でもある。もちろん、制限量までだが……。
製鉄所に土や鉄ごと持っていき、一山いくら、と言った感じらしい。その他にも宝石も出て来るので、ストラヴェル一の金持ち領、と言われている。
――ちなみに、プレートは紅玉鳥なら創造できる。
それなのに、なぜ『精霊白鉄』があるのか。
これはカド=ククナがプレートを作ったときに、調整の神達が上手くやってくれたからだ。
カド=ククナは手土産とプレートの説明書きを持って、二百以上ある異次元の一つ『ラ・フィナ界』へ向かって、調整の神、六柱を順に訪ねたのだが……。
初めのカイサに『では原料も必要だな。採れるようにしておく』とあっさり言われ、他の神には『ああ、聞いているぞ。お主がククナちゃんか。遠い所を良く来たな。小さいのう。土産は何だ?』などと歓迎された。
ちなみに帰る時は『まだ一年だぞ。もっとゆっくりしていけ』と言う感じだった。
そして六柱との契約の後、この大陸で原料が採れるようになった。
どの神が何を担当するかはこれから調整する、と言っていたが、彼等はとても上手くやってくれている。
プラグは調整の神達を思い出して微笑んだ。皆、身長が五十メルトほどある、巨大で優しい神様だった。
気が付くと、黙り込んでしまったプラグを見てゼラトが首を傾げていた。
「どうした? 何、笑ってんだ?」
「あ、いや。何でもない。何の話だっけ? 精霊白鉄?」
「うん。それはもう終わったから。後は――俺も近衛学校に入ろうとしていたって話くらい。貴族学校って言うのは、通称なのかな。知らなかった。で――近衛学校は一回入ると資格を取るまで何年もいなきゃいけないし。学費は寮費と別で、半額でも毎年八十万グランもかかるし……。だからもし、精霊騎士課程に入れなかった場合は、補助金をもらって学校に行こう、って感じで。それも良いらしいから。でも受かっちゃって逆にどうしようってなってるところ。レインは試験に行かなかったのか?」
ゼラトが言った。
――『駄目だったら貴族学校』プラグもそれは聞いた事があった。
精霊騎士課程は寮費も学費も無料だし、近衛になるには近道なので、貴族もたくさん審査を受けていた。
プラグが受けた時は、貴族は男女合わせて四十名はいたと思う。
十四歳になったら、希望者はとりあえず精霊騎士課程の入学審査を受けてみて、駄目なら近衛課程に入る。というのが一般的だ。精霊騎士課程の試験は三月頭にあるので、その後に申し込みでも間に合うとカルタ伯爵やサリーが言っていた。
カルタ伯爵は、精霊騎士課程の試験が『近衛学校』に合わせてあるのだろうと言っていた。
精霊騎士課程の試験はプレートに手を置いて『ル・フィーラ』と唱えただけだが……霊力の基準は『最低でも精霊剣』と高めに設定してあった。その為、貴族はほとんど落ちていた。
受かった貴族の令息はフィニー、アラーク、マシル、ゼラト。
令嬢はナージャ、リルカ。カトリーヌ、リアンナ。と辞めてしまった女子三人。
つまり男女合わせてたった十二人だ。
霊力は成長で増える事もあるが、最低量は生まれた時にほぼ決まっている。
……貴族が多いか、平民が多いか。誰が受かるかは毎年ばらつきがあるのだろう。
ゼラトの言葉にレインが頷いた。
「俺の場合は、家の指示だな。サルザット家は拷問の家系だから、第五大隊目当てだった」
プラグは尋ねた。
「精霊騎士に興味はなかったの?」
「ああ。尋問官になるとしか考えていなかったな……そうか、妖精達と学ぶ道もあったのか……」
「興味があるんだったら、今から頼めば変われるかもよ?」
プラグは言ってみた。
するとレインは瞬きをした。
「それは無理だろう?」
「どうだろう。アレン団長に聞いてみて、団長と、リズ隊長が良いって言えば入れるんじゃない?」
するとレインは困惑した様子で首を傾げた。
「しかし、俺はもう十六だぞ? そちらは十四歳限定だろう?」
「あ、そうか年齢か……でも別に、こだわる事は無い、と思うけど……? ゼラトはどう思う?」
「どうって。俺には分からないよ。でも折角、こっちに入ったんだし。そもそも、そんな簡単に代われる物なの?」
「さあ。でも、組織の再編をしたいみたいだし、選択肢の一って言う事で、聞くくらいなら良いんじゃ無いかな。後で来るなら聞いてみよう」
そこでゼラトが何度か咳き込んだ。
「んん。ゲホ、なあ、いっぱい喋って、喉が渇いたんだけど、お茶ってどこ? つか、あの紐、ずっと気になってるんだけど……」
彼の目線の先――入り口の左側には木札の付いた三本の紐があって『茶』『食事』『その他』と書いてある。
プラグも実は気になっていた。
「ああ。そうだ。説明を忘れていた。そこの紐を引けば使用人が来る。茶、と書いてある紐だな」
「え。上からお茶が出るんじゃ無くて?」
プラグは天井を見て言った。てっきり、紐を引くと天井か、どこかからお茶や食事が降って来る……と思ったのだが。
レインが笑って首を振る。
「はは。それだと火傷する。二千万だからな。ただ、逆に面倒だから、俺は部屋に茶器を持って来ている。プレートを使えるのも特別室の特権だから、水はプレートで充分だ。ただし火気厳禁だから紅茶の場合は人を呼んでいる。食事は部屋で食べていたが、最近は下に降りている。妖精は好きにするといい」