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第38話 リコ・ファレン

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 朝風と夕霧はラグランジュフォー拠点基地のドッキングポートに接岸した。朝風から瑠璃子、瞳に続いて士官全員がタラップを降りた。

 基地に上陸すると、悠木は他の士官たちと赤いカーペットの上を進んでいった。ブラスバンドの前をめんどうくさそうな顔で通り過ぎ、立食パーティーの会場についた。

 偉い人のあいさつがあって、ポンポンというシャンパンを開ける音がして、弦楽器の演奏がホールに響いた。

 士官の少女たちが料理やケーキをほおばる姿を、悠木は一人で眺めていた。腰のくびれが目立つ黄色いドレスを着た長身の女が近づいて、悠木の前で跪いた。

「冥界の王にして我が(あるじ)である涙の魔術師様、この下女に祝福を頂きたく存じます」と、女は顔が地面に着くほどに頭を下げた。

「リコ! リコじゃないか!」と悠木が珍しく大声をあげた。周りの視線を集める中、悠木は女の顔を持ち上げて抱きついた。

 側についていたサキが手に持っていた皿を落として、ポン、という音が響いた。

「無事だったんだね」と悠木。

「はい、ご主人様」とリコ。

「よかった。心配してたんだ」と悠木。

「一次戦争終結直後にかろうじて魔女狩りを逃れ、このラグランジュフォーコロニー群に紛れ込むことができたのです」とリコ。

「苦労を掛けたね」と悠木。

「いいえ。あなたの再臨を信じておりました」とリコ。

「こんな姿になってしまったけど」と悠木。

「許せませぬ。ご主人様にこのような扱いをなさるなど、断じて許せませぬ」とリコ。「わたくしめが参じた以上は、もう不自由をおかけいたしません」

「心強いよ。リコ」と悠木。

「その美しいご婦人を紹介していただけないでしょうか、伊沢悠木艦長」といつの間にか目の前に瑠璃子が立っていた。その両後ろに瞳と桐子がいる。

 リコが振り向いて、キッとつり上がった目を瑠璃子に向けると、すくっと立ち上がった。瑠璃子より頭一つ分背が高い。痩せた体にふさふさの赤みがかったブロンドの髪を腰まで垂らしている。

「リコ・ファレン、フォックス重工の創設者だ。今の身分はまだ聞いてない」と悠木は瑠璃子に紹介した。

「こちらはルリコ内親王殿下で防空隊地球圏第一艦隊の司令だ。ぼくの上司にあたる人だよ。その後ろにいるのがぼくの姉で、艦隊参謀長の瞳姉さんと夕霧艦長の桐子姉さんだ」

「リコさん、初めまして。お噂はかねがね聞いています」と瑠璃子がリコの前に手を伸ばした。

 リコは目をつり上げたまま瑠璃子と握手をした。それから無言のまま瞳と桐子とも握手をした。

「御社からの朝風と夕霧の供与に感謝しています」と瑠璃子。「少しお話をさせていただけませんか。お礼を述べさせてほしいし、あなたとは仲良くしたいの」

 悠木が嫌な顔をした。「リコはこれからぼくと話すんだ。二人にしてよ」と悠木はリコの手を握った。

「だめよ」と瑠璃子。「今、逢引している時間はないの。後にしてちょうだい」

「なら逃げるまでだ」と悠木。「リコは人じゃない」

「知ってるわ」と瑠璃子。「どうしてもお話しさせてほしいの。これはお願いよ」

「リコを連れて行くのかい?」と悠木。「いいえ、あなたのいるところでいいわ」

「すまないな、リコ。少しこの人たちの相手をしてくれないか?」と悠木。

「仰せの通りに、ご主人様」とリコ。

「窓際のもう少し人気がないところに行きましょう」と瑠璃子。「サキちゃん、悠木艦長のお世話はここまででいいわ」


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 朝風と夕霧はラグランジュフォー拠点基地のドッキングポートに接岸した。朝風から瑠璃子、瞳に続いて士官全員がタラップを降りた。
 基地に上陸すると、悠木は他の士官たちと赤いカーペットの上を進んでいった。ブラスバンドの前をめんどうくさそうな顔で通り過ぎ、立食パーティーの会場についた。
 偉い人のあいさつがあって、ポンポンというシャンパンを開ける音がして、弦楽器の演奏がホールに響いた。
 士官の少女たちが料理やケーキをほおばる姿を、悠木は一人で眺めていた。腰のくびれが目立つ黄色いドレスを着た長身の女が近づいて、悠木の前で跪いた。
「冥界の王にして我が|主《あるじ》である涙の魔術師様、この下女に祝福を頂きたく存じます」と、女は顔が地面に着くほどに頭を下げた。
「リコ! リコじゃないか!」と悠木が珍しく大声をあげた。周りの視線を集める中、悠木は女の顔を持ち上げて抱きついた。
 側についていたサキが手に持っていた皿を落として、ポン、という音が響いた。
「無事だったんだね」と悠木。
「はい、ご主人様」とリコ。
「よかった。心配してたんだ」と悠木。
「一次戦争終結直後にかろうじて魔女狩りを逃れ、このラグランジュフォーコロニー群に紛れ込むことができたのです」とリコ。
「苦労を掛けたね」と悠木。
「いいえ。あなたの再臨を信じておりました」とリコ。
「こんな姿になってしまったけど」と悠木。
「許せませぬ。ご主人様にこのような扱いをなさるなど、断じて許せませぬ」とリコ。「わたくしめが参じた以上は、もう不自由をおかけいたしません」
「心強いよ。リコ」と悠木。
「その美しいご婦人を紹介していただけないでしょうか、伊沢悠木艦長」といつの間にか目の前に瑠璃子が立っていた。その両後ろに瞳と桐子がいる。
 リコが振り向いて、キッとつり上がった目を瑠璃子に向けると、すくっと立ち上がった。瑠璃子より頭一つ分背が高い。痩せた体にふさふさの赤みがかったブロンドの髪を腰まで垂らしている。
「リコ・ファレン、フォックス重工の創設者だ。今の身分はまだ聞いてない」と悠木は瑠璃子に紹介した。
「こちらはルリコ内親王殿下で防空隊地球圏第一艦隊の司令だ。ぼくの上司にあたる人だよ。その後ろにいるのがぼくの姉で、艦隊参謀長の瞳姉さんと夕霧艦長の桐子姉さんだ」
「リコさん、初めまして。お噂はかねがね聞いています」と瑠璃子がリコの前に手を伸ばした。
 リコは目をつり上げたまま瑠璃子と握手をした。それから無言のまま瞳と桐子とも握手をした。
「御社からの朝風と夕霧の供与に感謝しています」と瑠璃子。「少しお話をさせていただけませんか。お礼を述べさせてほしいし、あなたとは仲良くしたいの」
 悠木が嫌な顔をした。「リコはこれからぼくと話すんだ。二人にしてよ」と悠木はリコの手を握った。
「だめよ」と瑠璃子。「今、逢引している時間はないの。後にしてちょうだい」
「なら逃げるまでだ」と悠木。「リコは人じゃない」
「知ってるわ」と瑠璃子。「どうしてもお話しさせてほしいの。これはお願いよ」
「リコを連れて行くのかい?」と悠木。「いいえ、あなたのいるところでいいわ」
「すまないな、リコ。少しこの人たちの相手をしてくれないか?」と悠木。
「仰せの通りに、ご主人様」とリコ。
「窓際のもう少し人気がないところに行きましょう」と瑠璃子。「サキちゃん、悠木艦長のお世話はここまででいいわ」