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SCENE069 ダンジョンでコーヒーを

ー/ー



 配信から二日後のことだった。衣織お姉さんが誰かを連れてダンジョンを訪れてきた。

「やあ、瞬。元気そうだな」

「衣織お姉さん。……と、そちらの方はどなたですか?」

 衣織お姉さんに普通に挨拶をした後、僕は隣にいた男性のことが気になってしまった。衣織お姉さんってばギルドに所属しているけど、基本的にはソロらしい。なので、誰かを連れているというのは珍しいんだ。

「ああ、こいつか? ちょっと試したいことがあって、連れてきただけだよ。ほら、自己紹介しな」

「あたたた……。衣織さん、乱暴すぎですよ」

 強く背中を押されたせいか、男性はとても痛そうにしている。手加減がないみたいだね、衣織お姉さん。

「えっと、君がこのダンジョンのマスターのウィンクちゃんか。俺は影家色っていって、衣織さんと同じギルド『百鬼夜行』に所属している探索者なんだ。今日は挨拶に来ただけなんでよろしく」

「あっ、こちらこそよろしくお願いします。ダンジョンマスターのウィンクです」

 右手を差し出されたので、僕は同じように右手を差し出して握手を交わす。何かをされるんじゃないかって警戒したけど、特になんともなかったみたいだ。

「おい、色。今、瞬に何もしなかっただろうな? してたらぼこぼこにしてやるからな?」

「い、衣織さん。なにをそこまで怒っているんですか。普通に握手しただけですよ、ね?」

「うん、衣織お姉さん。その人の言う通りだよ。僕はなんともないから、その手を離してあげてよ」

 衣織お姉さんは胸ぐらをつかんでいたけど、その手をおとなしく離していた。本当に僕のこととなると見境がなくなるんだから……。直してほしいなぁ。
 それはそれとして、僕は改めて二人にここにやってきた理由を聞くことにした。

「ああ、来た理由か。理由はこれだ」

 衣織お姉さんがかばんから何かを取り出している。何かと思ったら、ドリップコーヒーだった。

「えっと……? 衣織お姉さん、まさかダンジョンにコーヒーを飲みに来たの?」

「うん? ダメか?」

 どうやら本当にそれだけみたいだ。僕は言葉もなかった。

「衣織さん、さすがに呆れられますよ。トップクラスの探索者であるあなたが、コーヒーを飲むためだけにダンジョンに潜ったって聞いたら、みんながみんな驚きますって」

「なぜだ? 瞬が水魔法を使えるというから、その水でコーヒーが飲みたくなっただけじゃないか。何が問題だというのだ」

 ……。えっ、それだけのために?
 僕はさらに固まってしまう。どうやら、おとといに配信した内容を見て、僕の水魔法でコーヒーが飲みたくなったんだという。
 確かにお茶が飲みたいとか言っている視聴者さんがいたからなぁ。衣織お姉さんってば、対抗心を燃やしてしまったみたいだ。

「おやおや、これはプリンセスのお知り合いの方ではありませんか。それは何ですかな?」

 僕が対応しているところに、バトラーがやってきた。僕が事情を説明すると、バトラーはすぐさま小部屋に向かっていって、何かを取って戻ってくる。

「飲みたいというのであれば、茶器なしには何もできますまい。ささっ、どうぞお使いください」

 バトラーはそう言いながら、ちゃっかりテーブルと椅子まで用意してくれちゃってる。さすが執事の名を持つだけのことはあるよ。

「悪いな」

 衣織お姉さんはそう言いながら、早速椅子に座っていた。

「瞬、これに水を入れてくれないか? もちろん、あの魔法でな」

「わ、分かったよ。ウォーターボール!」

 僕は衣織お姉さんの頼みで、ケトルに水を入れる。

「色、お前の火魔法で温めてくれ」

「ちょっと待って下さいよ。俺ってただのコンロ役ですか?!」

「ああ、だから連れてきたんだよ。瞬と一緒にコーヒーが飲めるだけでもありがたく思え」

 色さんの困惑にも、衣織お姉さんはガツンとこの言葉。まったく、どこまで僕中心なんだよ、この人……。
 それで、さらにはこの光景を配信しろとまで迫ってくる始末。もうここまでくるとただの厄介な人だよ、衣織お姉さん。

「まったく困りますな。プリンセスを困らせては困りますぞ。プリンセスに害を及ぼすおつもりでしたら、我とて手加減はありませんぞ」

「なにをいうか! 私にとって瞬は大事だ。私が瞬の一番で何が悪いというのだ」

「やれやれ、これは行き過ぎた愛情ですな。プリンセスの顔をご覧ください」

「うん?」

 バトラーに言われた衣織お姉さんは、僕の顔をじっと見つめてくる。眉をよせて困った顔をする僕の顔を見て、衣織お姉さんは慌てているようだった。

「ああ、瞬。そ、そんなに迷惑だったか?」

「う、うん。頼むから、小さい頃くらいの距離感でいてほしいかな? 衣織お姉さん、きっと僕の魅了に深く染まっちゃってるみたいだから」

「ああ……、なんということだ」

 衣織お姉さんはかなりショックを受けていたようだ。これで少しはおとなしくなってくれるといいんだけどな。
 5000ポイントの代償がこれかと思うと、なんかむなしくなってくる。
 それでも衣織お姉さんの要望通りに、僕はコーヒーを飲むだけの配信をしたよ。
 視聴者のみなさんが羨ましがったのはいうまでもない話。
 衣織お姉さんの暴走は困るけれど、こういう配信もたまにはいいのかな?


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 配信から二日後のことだった。衣織お姉さんが誰かを連れてダンジョンを訪れてきた。
「やあ、瞬。元気そうだな」
「衣織お姉さん。……と、そちらの方はどなたですか?」
 衣織お姉さんに普通に挨拶をした後、僕は隣にいた男性のことが気になってしまった。衣織お姉さんってばギルドに所属しているけど、基本的にはソロらしい。なので、誰かを連れているというのは珍しいんだ。
「ああ、こいつか? ちょっと試したいことがあって、連れてきただけだよ。ほら、自己紹介しな」
「あたたた……。衣織さん、乱暴すぎですよ」
 強く背中を押されたせいか、男性はとても痛そうにしている。手加減がないみたいだね、衣織お姉さん。
「えっと、君がこのダンジョンのマスターのウィンクちゃんか。俺は影家色っていって、衣織さんと同じギルド『百鬼夜行』に所属している探索者なんだ。今日は挨拶に来ただけなんでよろしく」
「あっ、こちらこそよろしくお願いします。ダンジョンマスターのウィンクです」
 右手を差し出されたので、僕は同じように右手を差し出して握手を交わす。何かをされるんじゃないかって警戒したけど、特になんともなかったみたいだ。
「おい、色。今、瞬に何もしなかっただろうな? してたらぼこぼこにしてやるからな?」
「い、衣織さん。なにをそこまで怒っているんですか。普通に握手しただけですよ、ね?」
「うん、衣織お姉さん。その人の言う通りだよ。僕はなんともないから、その手を離してあげてよ」
 衣織お姉さんは胸ぐらをつかんでいたけど、その手をおとなしく離していた。本当に僕のこととなると見境がなくなるんだから……。直してほしいなぁ。
 それはそれとして、僕は改めて二人にここにやってきた理由を聞くことにした。
「ああ、来た理由か。理由はこれだ」
 衣織お姉さんがかばんから何かを取り出している。何かと思ったら、ドリップコーヒーだった。
「えっと……? 衣織お姉さん、まさかダンジョンにコーヒーを飲みに来たの?」
「うん? ダメか?」
 どうやら本当にそれだけみたいだ。僕は言葉もなかった。
「衣織さん、さすがに呆れられますよ。トップクラスの探索者であるあなたが、コーヒーを飲むためだけにダンジョンに潜ったって聞いたら、みんながみんな驚きますって」
「なぜだ? 瞬が水魔法を使えるというから、その水でコーヒーが飲みたくなっただけじゃないか。何が問題だというのだ」
 ……。えっ、それだけのために?
 僕はさらに固まってしまう。どうやら、おとといに配信した内容を見て、僕の水魔法でコーヒーが飲みたくなったんだという。
 確かにお茶が飲みたいとか言っている視聴者さんがいたからなぁ。衣織お姉さんってば、対抗心を燃やしてしまったみたいだ。
「おやおや、これはプリンセスのお知り合いの方ではありませんか。それは何ですかな?」
 僕が対応しているところに、バトラーがやってきた。僕が事情を説明すると、バトラーはすぐさま小部屋に向かっていって、何かを取って戻ってくる。
「飲みたいというのであれば、茶器なしには何もできますまい。ささっ、どうぞお使いください」
 バトラーはそう言いながら、ちゃっかりテーブルと椅子まで用意してくれちゃってる。さすが執事の名を持つだけのことはあるよ。
「悪いな」
 衣織お姉さんはそう言いながら、早速椅子に座っていた。
「瞬、これに水を入れてくれないか? もちろん、あの魔法でな」
「わ、分かったよ。ウォーターボール!」
 僕は衣織お姉さんの頼みで、ケトルに水を入れる。
「色、お前の火魔法で温めてくれ」
「ちょっと待って下さいよ。俺ってただのコンロ役ですか?!」
「ああ、だから連れてきたんだよ。瞬と一緒にコーヒーが飲めるだけでもありがたく思え」
 色さんの困惑にも、衣織お姉さんはガツンとこの言葉。まったく、どこまで僕中心なんだよ、この人……。
 それで、さらにはこの光景を配信しろとまで迫ってくる始末。もうここまでくるとただの厄介な人だよ、衣織お姉さん。
「まったく困りますな。プリンセスを困らせては困りますぞ。プリンセスに害を及ぼすおつもりでしたら、我とて手加減はありませんぞ」
「なにをいうか! 私にとって瞬は大事だ。私が瞬の一番で何が悪いというのだ」
「やれやれ、これは行き過ぎた愛情ですな。プリンセスの顔をご覧ください」
「うん?」
 バトラーに言われた衣織お姉さんは、僕の顔をじっと見つめてくる。眉をよせて困った顔をする僕の顔を見て、衣織お姉さんは慌てているようだった。
「ああ、瞬。そ、そんなに迷惑だったか?」
「う、うん。頼むから、小さい頃くらいの距離感でいてほしいかな? 衣織お姉さん、きっと僕の魅了に深く染まっちゃってるみたいだから」
「ああ……、なんということだ」
 衣織お姉さんはかなりショックを受けていたようだ。これで少しはおとなしくなってくれるといいんだけどな。
 5000ポイントの代償がこれかと思うと、なんかむなしくなってくる。
 それでも衣織お姉さんの要望通りに、僕はコーヒーを飲むだけの配信をしたよ。
 視聴者のみなさんが羨ましがったのはいうまでもない話。
 衣織お姉さんの暴走は困るけれど、こういう配信もたまにはいいのかな?