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第4楽章〜フィナーレ〜⑧

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 肝だめしコースの中間点に設定されているという展望台は、見晴らしの良い丘の上に作られていた。

 木製のデッキには、10段ほどの階段状のステップがあり、その階段を登りきったそこは、四メートル四方ほどの展望所になっていた。木々の向こうには、夜の真っ暗な海が広がり、空には満天の星が輝いている。

 シロが見つけたと言うキレイな星空には叶わないかも知れないが、この展望台から見える星たちも十分に美しく輝いて見えた。

 その吸い込まれそうになる美しい星空から意識を現実に引き寄せたオレは、木製の柵に貼られていた最後の一枚となっている御札を剥がして、肝だめしのペアに語りかける。

「これを持って帰れば、とりあえずクリアってことかな?」
 
「うん、そうだね……」

「それじゃ、さっきの話の続きをしようか? 吹奏楽部の先輩たちも、ゆっくり帰って来てもイイよ、って言ってくれてるみたいだし」

 少しだけ微笑みながら言うと、紅野は、「うん……」と言ったまま、うつむき加減になる。それでも、彼女がこちらの話を聞いてくれているだろう、と確信したオレは、自分の思いを伝えるために口を開く。

「さっき、生徒会でオレのチカラを役立ててみないか? と聞いてくれたのは、紅野自身も生徒会の役員に立候補する気持ちがある、という風に理解して良いんだよな?」

「そう、だね……寿先輩は、吹奏楽部に入部したときから、憧れの上級生だったし、生徒会長を務めるその尊敬する先輩から、『来年の生徒会をお願いね』って言われたら―――」

「まあ、責任感の強い紅野は、断れないよな……」

 苦笑しながら言うと、クラスメートは遠慮がちに首を振る。

「私は、特に責任感が強い訳じゃないよ……それに、寿先輩から頼まれたから、という理由だけでもないんだ」

「じゃあ、やっぱり、紅野自身が自分のチカラを生徒会や学校に役立てたい、と思ってる?」

「うん……私が役に立てるなら……だけど―――」

「ずい分、謙遜するんだな? 紅野なら大丈夫だよ。一緒にクラス委員をしているオレが保証するよ」

 そう言って、また微笑をたたえながら言うと、彼女はポツリと「ありがとう」と言ったあと、心細さそうに本音を語る。

「黒田くんに、そう言ってもらえるのは、とても嬉しいけど……自分で生徒会選挙に出ようと決めても、まだ、不安に感じている部分はあるんだ。本当に、自分に寿先輩たちのような役目が果たせるのかな、って……でもね、去年から一緒にクラス委員の仕事を務めてくれた黒田くんが一緒なら―――」

「そっか……」

 そうつぶやきながら、ここまでの会話の流れを整理したオレは、「いっちょかみ」な性格の生徒会長にして吹奏楽部で副部長を務める上級生の女子生徒の言葉を思い返す。こうして、あらためて、紅野の口から彼女自身の想いを聞かせてもらうと、寿先輩の言っていたことは、ほぼ的を射ているということが実感できた。

(自分のことを良く理解してくれる上級生がいて、紅野も幸せだな……)

 そんな風に感じたオレは、いま自分が考えていることを伝えるべく、慎重に口を開く。

「ありがとう……紅野にそこまで頼ってもらえるなんて、クラス委員としても、一人の男子としても嬉しい限りだよ」

「ホントに? 勝手にこんなこと考えて、黒田くんは迷惑じゃなかった?」

「迷惑なもんか! 紅野にそう思ってもらえるなんて、本当に光栄だよ。そう、とても光栄なんだけど――――――」

「……なにか、問題でもあるの?」

「ああ……そうだな――――――」

 ただの相づちと言うだけでなく、つぶやきにも、独り言にも似たオレの言葉に、彼女の表情が曇る。
 その紅野の表情に申し訳なさを感じながら、自分自身の想いを伝えようと乾いた喉から声を絞り出す。

「これは、紅野や生徒会の仕事がどう……と言うことじゃなくて、オレ自身の問題なんだ。オレは、1年の終わりの春休みに紅野に自分の想いを告白させてもらった。ただ――――――その後、2年になってから、色んなことがあって、まだ自分で自分の気持ちに決着をつけることが出来ないままでいるんだ」

 慎重に、自分の考えを伝えるオレの言葉に、紅野は、ゆっくりと「うん」とうなずく。

「さっきも言ったように、紅野がオレのことを頼って、生徒会の仕事を一緒にしないか、と言ってくれたことは、本当に嬉しく感じている。だけど、いや、それだからこそ、中途半端な気持ちで請け負ってはいけない、とも感じているんだ」

「うん……」

「だから―――二学期になったら、すぐに自分の気持ちに決着をつけようと思うから……それまで、答えを待ってくれないか?」

 オレが、そこまで言い切ると、彼女は、

「うん、わかった……」

と真剣な表情で、力強くうなずく。

「ゴメンな。せっかく、紅野が誘ってくれたのに、即答できずに優柔不断な回答で……」

 申し訳なく感じたオレが頭を下げると、紅野アザミは、恐縮したように言葉を返してきた。

「そんな、黒田くんは悪くないよ! とつぜん、こんな話をした私に原因があるんだし……それに、私や生徒会のの仕事のことを本当に真剣に考えてくれているんだなって感じられたから――――――ありがとう」

 きっと、緊張していたのだろう。ホッとしたような彼女の目元には、光るものがあるのが見て取れた。その滴を拭おうとするクラスメートにたずねる。

「大丈夫か、紅野?」

「うん、平気だよ……」

 はにかんだ表情で返答する彼女の返答に、なにかあっては申し訳ないと感じたオレは、紅野を泣かせた原因を確かめようと、その瞳をのぞき込むように顔を近づけた。


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 肝だめしコースの中間点に設定されているという展望台は、見晴らしの良い丘の上に作られていた。
 木製のデッキには、10段ほどの階段状のステップがあり、その階段を登りきったそこは、四メートル四方ほどの展望所になっていた。木々の向こうには、夜の真っ暗な海が広がり、空には満天の星が輝いている。
 シロが見つけたと言うキレイな星空には叶わないかも知れないが、この展望台から見える星たちも十分に美しく輝いて見えた。
 その吸い込まれそうになる美しい星空から意識を現実に引き寄せたオレは、木製の柵に貼られていた最後の一枚となっている御札を剥がして、肝だめしのペアに語りかける。
「これを持って帰れば、とりあえずクリアってことかな?」
「うん、そうだね……」
「それじゃ、さっきの話の続きをしようか? 吹奏楽部の先輩たちも、ゆっくり帰って来てもイイよ、って言ってくれてるみたいだし」
 少しだけ微笑みながら言うと、紅野は、「うん……」と言ったまま、うつむき加減になる。それでも、彼女がこちらの話を聞いてくれているだろう、と確信したオレは、自分の思いを伝えるために口を開く。
「さっき、生徒会でオレのチカラを役立ててみないか? と聞いてくれたのは、紅野自身も生徒会の役員に立候補する気持ちがある、という風に理解して良いんだよな?」
「そう、だね……寿先輩は、吹奏楽部に入部したときから、憧れの上級生だったし、生徒会長を務めるその尊敬する先輩から、『来年の生徒会をお願いね』って言われたら―――」
「まあ、責任感の強い紅野は、断れないよな……」
 苦笑しながら言うと、クラスメートは遠慮がちに首を振る。
「私は、特に責任感が強い訳じゃないよ……それに、寿先輩から頼まれたから、という理由だけでもないんだ」
「じゃあ、やっぱり、紅野自身が自分のチカラを生徒会や学校に役立てたい、と思ってる?」
「うん……私が役に立てるなら……だけど―――」
「ずい分、謙遜するんだな? 紅野なら大丈夫だよ。一緒にクラス委員をしているオレが保証するよ」
 そう言って、また微笑をたたえながら言うと、彼女はポツリと「ありがとう」と言ったあと、心細さそうに本音を語る。
「黒田くんに、そう言ってもらえるのは、とても嬉しいけど……自分で生徒会選挙に出ようと決めても、まだ、不安に感じている部分はあるんだ。本当に、自分に寿先輩たちのような役目が果たせるのかな、って……でもね、去年から一緒にクラス委員の仕事を務めてくれた黒田くんが一緒なら―――」
「そっか……」
 そうつぶやきながら、ここまでの会話の流れを整理したオレは、「いっちょかみ」な性格の生徒会長にして吹奏楽部で副部長を務める上級生の女子生徒の言葉を思い返す。こうして、あらためて、紅野の口から彼女自身の想いを聞かせてもらうと、寿先輩の言っていたことは、ほぼ的を射ているということが実感できた。
(自分のことを良く理解してくれる上級生がいて、紅野も幸せだな……)
 そんな風に感じたオレは、いま自分が考えていることを伝えるべく、慎重に口を開く。
「ありがとう……紅野にそこまで頼ってもらえるなんて、クラス委員としても、一人の男子としても嬉しい限りだよ」
「ホントに? 勝手にこんなこと考えて、黒田くんは迷惑じゃなかった?」
「迷惑なもんか! 紅野にそう思ってもらえるなんて、本当に光栄だよ。そう、とても光栄なんだけど――――――」
「……なにか、問題でもあるの?」
「ああ……そうだな――――――」
 ただの相づちと言うだけでなく、つぶやきにも、独り言にも似たオレの言葉に、彼女の表情が曇る。
 その紅野の表情に申し訳なさを感じながら、自分自身の想いを伝えようと乾いた喉から声を絞り出す。
「これは、紅野や生徒会の仕事がどう……と言うことじゃなくて、オレ自身の問題なんだ。オレは、1年の終わりの春休みに紅野に自分の想いを告白させてもらった。ただ――――――その後、2年になってから、色んなことがあって、まだ自分で自分の気持ちに決着をつけることが出来ないままでいるんだ」
 慎重に、自分の考えを伝えるオレの言葉に、紅野は、ゆっくりと「うん」とうなずく。
「さっきも言ったように、紅野がオレのことを頼って、生徒会の仕事を一緒にしないか、と言ってくれたことは、本当に嬉しく感じている。だけど、いや、それだからこそ、中途半端な気持ちで請け負ってはいけない、とも感じているんだ」
「うん……」
「だから―――二学期になったら、すぐに自分の気持ちに決着をつけようと思うから……それまで、答えを待ってくれないか?」
 オレが、そこまで言い切ると、彼女は、
「うん、わかった……」
と真剣な表情で、力強くうなずく。
「ゴメンな。せっかく、紅野が誘ってくれたのに、即答できずに優柔不断な回答で……」
 申し訳なく感じたオレが頭を下げると、紅野アザミは、恐縮したように言葉を返してきた。
「そんな、黒田くんは悪くないよ! とつぜん、こんな話をした私に原因があるんだし……それに、私や生徒会のの仕事のことを本当に真剣に考えてくれているんだなって感じられたから――――――ありがとう」
 きっと、緊張していたのだろう。ホッとしたような彼女の目元には、光るものがあるのが見て取れた。その滴を拭おうとするクラスメートにたずねる。
「大丈夫か、紅野?」
「うん、平気だよ……」
 はにかんだ表情で返答する彼女の返答に、なにかあっては申し訳ないと感じたオレは、紅野を泣かせた原因を確かめようと、その瞳をのぞき込むように顔を近づけた。