@71話
ー/ー
立ち飲み屋は混んでいた。
「ここの揚げ出し豆腐が美味しかったんだ」
「おつまみがほとんど全部300円以下だから嬉しいよね」
隣の人の皿と混ざってしまうほどおつまみが並ぶ。唐揚げ、枝豆、海藻サラダ、焼き鳥、もつ煮、だし巻き卵、お漬物……。
左利きの音色は肘が当たって居場所に困る。牛丼屋に女一人で入るより敷居が高い立ち飲み屋に、いくら『お一人様』ではないにせよ肩身が狭い。
前回は今日ほど混んでいなかったことと、瑞稀が音色の左側に立ってくれたことで守られていたことに気付く。
唾が入りそうなほど大きな声が飛び交い、ガサツな酔っぱらいたちがその身を振らつかせる。大きくない音色は度々身体を押され、何度か酒を溢した。
それでも嫌なことを忘れるようにはしゃぐ音色。酒もだいぶいい感じに回ってきているようだ。
「私さ、おじさんが『金持ちは悪党ばっかりだ』って言うから信じちゃったんだよね~。でもさ、あの人たちは悪い人じゃないよ、きっと、うん」
音色は一颯と瑞稀を思い出してしまった。誰にも言えず思い出だけが募れば、『今までしてくれたことは忘れないようにしよう』そう決意して思い出の中にサヨナラする。
『みんなに迷惑が掛かる』そうやって出てきたが、それは半分しか正解ではない。逃げ出したかった……自信がない……今まで地味に生きてきた自分がモデルとなって会社の重要な役回りを任される、そのプレッシャーから逃れたかった……自分の気持ちにすら半分しか正直でいられない。そんな自分が情けない。
小春はそんな音色を見守るように音色の話に相槌をうちながら静かに酒を飲む。小春からすれば『金持ちは悪党だなんて言ってない』のに……。
おじさんは顔見知りがいたみたいで、軽く頭を下げることが数回……。
「ねぇ、小春おじさん、聞いてるの~」
気が付くと、おじさんはさっきまでとは違い、音色の話ではなく、他の客の話に耳を欹てているようだった。
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立ち飲み屋は混んでいた。
「ここの揚げ出し豆腐が美味しかったんだ」
「おつまみがほとんど全部300円以下だから嬉しいよね」
隣の人の皿と混ざってしまうほどおつまみが並ぶ。唐揚げ、枝豆、海藻サラダ、焼き鳥、もつ煮、だし巻き卵、お漬物……。
左利きの音色は肘が当たって居場所に困る。牛丼屋に女一人で入るより敷居が高い立ち飲み屋に、いくら『|お一人様《ソロ活》』ではないにせよ肩身が狭い。
前回は今日ほど混んでいなかったことと、瑞稀が音色の左側に立ってくれたことで守られていたことに気付く。
唾が入りそうなほど大きな声が飛び交い、ガサツな酔っぱらいたちがその身を振らつかせる。大きくない音色は度々身体を押され、何度か酒を溢した。
それでも嫌なことを忘れるようにはしゃぐ音色。酒もだいぶいい感じに回ってきているようだ。
「私さ、おじさんが『金持ちは悪党ばっかりだ』って言うから信じちゃったんだよね~。でもさ、あの人たちは悪い人じゃないよ、きっと、うん」
音色は一颯と瑞稀を思い出してしまった。誰にも言えず思い出だけが募れば、『今までしてくれたことは忘れないようにしよう』そう決意して思い出の中にサヨナラする。
『みんなに迷惑が掛かる』そうやって出てきたが、それは半分しか正解ではない。逃げ出したかった……自信がない……今まで地味に生きてきた自分がモデルとなって会社の重要な役回りを任される、そのプレッシャーから逃れたかった……自分の気持ちにすら半分しか正直でいられない。そんな自分が情けない。
小春はそんな音色を見守るように音色の話に相槌をうちながら静かに酒を飲む。小春からすれば『金持ちは悪党だなんて言ってない』のに……。
おじさんは顔見知りがいたみたいで、軽く頭を下げることが数回……。
「ねぇ、小春おじさん、聞いてるの~」
気が付くと、おじさんはさっきまでとは違い、音色の話ではなく、他の客の話に耳を|欹《そばだ》てているようだった。