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第72話 財宝を持ち帰るまでが冒険です

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 よもや、コイツがここまでふざけた男だとは思っていなかった。
 今、何と言った? 勇者の仲間だった? ちゃんちゃらおかしいな。
 反論する気にもならんくらい、荒唐無稽な発言だ。

「馬鹿馬鹿しい。自称の勇者か? それならそこら辺にいくらでもいるだろうな」
 今の世の中、勇者なんておおっぴらで正式に呼ばれているものはロータスくらいのものだ。我の心臓が貫かれる前だったら勇者候補も沢山いたのだろうがな。

「ロータス。オレの知る限り、真に勇者と呼べるのはアイツだけだぜ」
「ハッ、話にならんわ。この我を無知と侮るなよ。ロータスの率いる仲間は八人のはずだ。その中でコーベ・ステラリアなんて男、聞いたこともないわ」
 さすがの我だって、勇者の仲間の名前くらいなら全員把握しているし、実際に目の前で戦ったのだから顔も忘れようがない。こんなチャラい男はいなかった。

 だったらアレか? レッドアイズ国に所属していた誰かか? 一緒に我が魔王城を攻め立ててきたから仲間だとか吹聴している口か? なら尚のこと馬鹿馬鹿しい。
 我が勇者を探していた頃にも何人もいたわ、そういう輩。

「ああ、今のオレはコーベ・ステラリアだが、そのときのオレは違うんだよ」
 などといい、徐にコーベは自分の顔に手を掛ける。するとどうしたことだろう。薄皮を剥くかのように、顔が、ベリベリとめくれ上がる。
 は? どういうこと? 下から別の顔が出てきたんですけど!

 あれ……この顔、何処かで見たことあるような……、え? マジで?

「シゲル・ナデシコ……?」
「おっと、やっぱオレっちってば有名だったかぁ~、ウッヘッヘェ」
 いやいやいやいや、そんなバカなことがあってたまるか。
 我はソイツを知っている。何故って、ソイツは勇者ロータスとともに魔王城に攻め込んできた男の一人、シゲルそのものだ。

「どうして顔を……」
「盗ませてもらったぜ」
 飄々と言う。よくもまあアッサリと言えたものだ。
 顔を盗むってどういう意味? どうすれば盗めるものなの?

「コーベってのは、行き倒れていた冒険者でさ、都合がいいからいただいたのよ。なんつっても、オレもアイツと一緒に行動してたから目立って目立ってクッソ動きづらかったもんでよ。キャッハッハ」
 コーベが――いや、シゲルがケタケタと笑ってみせる。倫理観のない笑いだ。

 シゲル・ナデシコといったら大盗賊じゃないか。優秀すぎる斥候でもあった。シゲルのせいで魔王城の周辺の情報は丸裸にされ、レッドアイズ国の軍勢の侵入を許してしまった、あのトンデモ盗賊。

 どういう経緯でロータスとなんかつるんでいたのかは知らんが、まさかこんなところで出くわしてしまうとは。あの卓越した盗みの技術にも納得してしまう。
 顔を変えて、いや、盗んで、冒険者として盗掘していたなんてな。

「さぁて、納得してもらったところで、行こうじゃあないの。遺跡のお宝、まぁだ沢山残ってるだろうしね。ほら、カシアちゃん、何ボーッとしてんの?」
 まだ全部を納得してないし、頭も追いついていないのだが、切り替え素早く、シゲルはいつの間にかまたコーベの顔をして、踵を返す。

 水浸しの遺跡の真ん前、浅瀬の川並みにザブザブと水面を蹴り、いざいざと侵入を開始していく。もう少し気持ちの整理をつかせてほしいのが本音だが、当初の目的はこの遺跡を攻略することだ。言いたいことは全部後にとっておこう。

「ま、待て、我を置いていくな。財宝は独り占めにするなよ!」

 ※ ※ ※

「カシアちゃん、そこ、トラップ」
「うおおっ!」
 何本目かの槍が壁から突き出してくる。背を仰け反らせ、鼻先を掠めた。

 遺跡の中は腐食というものを知らないのか、堅牢な石造りの形を保っており、トラップも生きている状態。
 見るだけなら湿っぽいだけの通路なのだが、床も壁も見えない仕掛けが張り巡らされていて、先導するチャラ男がいなかったら多分既に四回は死んでいる。

「気ぃつけて、落とし穴だ」
 そういって、そこらに転がっていた石ころをポイっと投げる。
 その次の瞬間、床がガコガコガコンと音を立て、ぽっかりと口を開ける。

 落とし穴という規模か? 下を見るとかなり深く、鋭いトゲトゲが沢山。餌食になってしまったのであろう骸も沢山串刺しになっていた。
 ガコガコガコンと、落とし穴は音を立てて元通りの床に戻っていった。この仕組みもよく分からんのだが、どんな技術力よ。

「これを飛び越えていけばいいのか」
「浅い、浅いってカシアちゃん。ちょい見てみ?」
 またもう一つ石を、今度は少し遠目に投げる。カツンと石が床の上に落ちた、その瞬間、左右の両壁がババーンと迫り、扉のように締まる。

 なるほど、落とし穴を飛び越えていったらあの壁に挟まれてサンドイッチか。
 なかなかにえげつない二重トラップだこと。

 それにしたって、コイツの目には一体何が見えているんだ。
 さっきからトラップ察知能力がハンパない。

「カシアちゃん。床に着地しない魔法って何か使える? 浮かぶ系な奴」
「ん? ああ、一応使えるが……」
「じゃ、それでついてきて」
 急に何を、と思ったら突然コーベの奴がビュンと跳躍。目の前の落とし穴があった床も、壁が迫ってくる地点も、軽く飛び越えて、向こう側へと行く。
 人間業か? 今、どんくらいの距離を跳んだ? バッタでもそんな跳躍無理ぞ。

「ふ、静かなる跳躍(フロウフロウ)……」
 置いていかれるのも癪なので、その呪文を唱え、風を身に纏う。
 そして足に力を込めて石の床を蹴り、フワリと飛び上がった。コーベと比べたら、ゆっくり、ゆっくりではあるものの、慎重かつ安全に床を飛び越える。

「ああ、その辺りならダイジョーブ」
 指示に従うままに、風を解いて床に着地。どうやら本当に安全のようだ。

「どうせならオレの胸に飛び込んできてもよかったのにぃ~」
 蹴り飛ばすぞ。

「よくもまあトラップの位置が分かるな。何度か入ったことがあるのか?」
「入ったことはあるけど、それで全部把握しちゃってんのとは違うってばさ。勘よ、勘。何? オレに惚れてくれちゃったりしちゃったりしたの?」
 ちゃったりちゃったりうるさいわ、チャラチャラ男。んなわけあるか!

「この遺跡は悪意のかたまりつったっしょ? それってマジ、呪いみたいなもんなんだよね。チョクでいうと、何の魔法か知らんけど入る度に内部構造もトラップの位置も変わるんだわ。へっへっへ、ガチでありえんっしょ」
 笑いながら言うなよ。それはまたとんでもない魔法もあったもんだ。

「カシアちゃん、気付いてないかもだけど、後ろみてみ?」
「あ?」
 言われるがまま、振り向いてみる。石造りの遺跡の通路が、来たときと確かに違うというか、今まさに壁がぐにゃりぐにゃりと形を変えているのが見えた。

 何あれ、空間が歪んでるのか?
 階段ができたり、分岐路ができたり、奇妙な光景だ。

「おいおい、これでは出口も分からんではないか」
「そうそう、だから大変なんだってば。行きも帰りもトラップ地獄。かなーり面倒くさいっしょ?」
 なるほどな、あのケノザとヤツリの二人も行きたがらないわけだ。

「でもま、ここでカシアちゃんに朗報。中間地点まで到着だ」
 一体何のことだ? そう思って前の方に向き直る。
 あれ、さっきまであんな大きな扉なんてあったっけ。

 コーベが扉まで平然と歩いていき、そっとその扉をグッと押して開く。
 扉の向こうには、宝、宝、宝の山。文字通りに財宝が置かれていた。

「こっからガチだから、気ぃ抜かないでね」
 当たり前だが、財宝見つけたら終わりではないようだ。


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 よもや、コイツがここまでふざけた男だとは思っていなかった。
 今、何と言った? 勇者の仲間だった? ちゃんちゃらおかしいな。
 反論する気にもならんくらい、荒唐無稽な発言だ。
「馬鹿馬鹿しい。自称の勇者か? それならそこら辺にいくらでもいるだろうな」
 今の世の中、勇者なんておおっぴらで正式に呼ばれているものはロータスくらいのものだ。我の心臓が貫かれる前だったら勇者候補も沢山いたのだろうがな。
「ロータス。オレの知る限り、真に勇者と呼べるのはアイツだけだぜ」
「ハッ、話にならんわ。この我を無知と侮るなよ。ロータスの率いる仲間は八人のはずだ。その中でコーベ・ステラリアなんて男、聞いたこともないわ」
 さすがの我だって、勇者の仲間の名前くらいなら全員把握しているし、実際に目の前で戦ったのだから顔も忘れようがない。こんなチャラい男はいなかった。
 だったらアレか? レッドアイズ国に所属していた誰かか? 一緒に我が魔王城を攻め立ててきたから仲間だとか吹聴している口か? なら尚のこと馬鹿馬鹿しい。
 我が勇者を探していた頃にも何人もいたわ、そういう輩。
「ああ、今のオレはコーベ・ステラリアだが、そのときのオレは違うんだよ」
 などといい、徐にコーベは自分の顔に手を掛ける。するとどうしたことだろう。薄皮を剥くかのように、顔が、ベリベリとめくれ上がる。
 は? どういうこと? 下から別の顔が出てきたんですけど!
 あれ……この顔、何処かで見たことあるような……、え? マジで?
「シゲル・ナデシコ……?」
「おっと、やっぱオレっちってば有名だったかぁ~、ウッヘッヘェ」
 いやいやいやいや、そんなバカなことがあってたまるか。
 我はソイツを知っている。何故って、ソイツは勇者ロータスとともに魔王城に攻め込んできた男の一人、シゲルそのものだ。
「どうして顔を……」
「盗ませてもらったぜ」
 飄々と言う。よくもまあアッサリと言えたものだ。
 顔を盗むってどういう意味? どうすれば盗めるものなの?
「コーベってのは、行き倒れていた冒険者でさ、都合がいいからいただいたのよ。なんつっても、オレもアイツと一緒に行動してたから目立って目立ってクッソ動きづらかったもんでよ。キャッハッハ」
 コーベが――いや、シゲルがケタケタと笑ってみせる。倫理観のない笑いだ。
 シゲル・ナデシコといったら大盗賊じゃないか。優秀すぎる斥候でもあった。シゲルのせいで魔王城の周辺の情報は丸裸にされ、レッドアイズ国の軍勢の侵入を許してしまった、あのトンデモ盗賊。
 どういう経緯でロータスとなんかつるんでいたのかは知らんが、まさかこんなところで出くわしてしまうとは。あの卓越した盗みの技術にも納得してしまう。
 顔を変えて、いや、盗んで、冒険者として盗掘していたなんてな。
「さぁて、納得してもらったところで、行こうじゃあないの。遺跡のお宝、まぁだ沢山残ってるだろうしね。ほら、カシアちゃん、何ボーッとしてんの?」
 まだ全部を納得してないし、頭も追いついていないのだが、切り替え素早く、シゲルはいつの間にかまたコーベの顔をして、踵を返す。
 水浸しの遺跡の真ん前、浅瀬の川並みにザブザブと水面を蹴り、いざいざと侵入を開始していく。もう少し気持ちの整理をつかせてほしいのが本音だが、当初の目的はこの遺跡を攻略することだ。言いたいことは全部後にとっておこう。
「ま、待て、我を置いていくな。財宝は独り占めにするなよ!」
 ※ ※ ※
「カシアちゃん、そこ、トラップ」
「うおおっ!」
 何本目かの槍が壁から突き出してくる。背を仰け反らせ、鼻先を掠めた。
 遺跡の中は腐食というものを知らないのか、堅牢な石造りの形を保っており、トラップも生きている状態。
 見るだけなら湿っぽいだけの通路なのだが、床も壁も見えない仕掛けが張り巡らされていて、先導するチャラ男がいなかったら多分既に四回は死んでいる。
「気ぃつけて、落とし穴だ」
 そういって、そこらに転がっていた石ころをポイっと投げる。
 その次の瞬間、床がガコガコガコンと音を立て、ぽっかりと口を開ける。
 落とし穴という規模か? 下を見るとかなり深く、鋭いトゲトゲが沢山。餌食になってしまったのであろう骸も沢山串刺しになっていた。
 ガコガコガコンと、落とし穴は音を立てて元通りの床に戻っていった。この仕組みもよく分からんのだが、どんな技術力よ。
「これを飛び越えていけばいいのか」
「浅い、浅いってカシアちゃん。ちょい見てみ?」
 またもう一つ石を、今度は少し遠目に投げる。カツンと石が床の上に落ちた、その瞬間、左右の両壁がババーンと迫り、扉のように締まる。
 なるほど、落とし穴を飛び越えていったらあの壁に挟まれてサンドイッチか。
 なかなかにえげつない二重トラップだこと。
 それにしたって、コイツの目には一体何が見えているんだ。
 さっきからトラップ察知能力がハンパない。
「カシアちゃん。床に着地しない魔法って何か使える? 浮かぶ系な奴」
「ん? ああ、一応使えるが……」
「じゃ、それでついてきて」
 急に何を、と思ったら突然コーベの奴がビュンと跳躍。目の前の落とし穴があった床も、壁が迫ってくる地点も、軽く飛び越えて、向こう側へと行く。
 人間業か? 今、どんくらいの距離を跳んだ? バッタでもそんな跳躍無理ぞ。
「ふ、|静かなる跳躍《フロウフロウ》……」
 置いていかれるのも癪なので、その呪文を唱え、風を身に纏う。
 そして足に力を込めて石の床を蹴り、フワリと飛び上がった。コーベと比べたら、ゆっくり、ゆっくりではあるものの、慎重かつ安全に床を飛び越える。
「ああ、その辺りならダイジョーブ」
 指示に従うままに、風を解いて床に着地。どうやら本当に安全のようだ。
「どうせならオレの胸に飛び込んできてもよかったのにぃ~」
 蹴り飛ばすぞ。
「よくもまあトラップの位置が分かるな。何度か入ったことがあるのか?」
「入ったことはあるけど、それで全部把握しちゃってんのとは違うってばさ。勘よ、勘。何? オレに惚れてくれちゃったりしちゃったりしたの?」
 ちゃったりちゃったりうるさいわ、チャラチャラ男。んなわけあるか!
「この遺跡は悪意のかたまりつったっしょ? それってマジ、呪いみたいなもんなんだよね。チョクでいうと、何の魔法か知らんけど入る度に内部構造もトラップの位置も変わるんだわ。へっへっへ、ガチでありえんっしょ」
 笑いながら言うなよ。それはまたとんでもない魔法もあったもんだ。
「カシアちゃん、気付いてないかもだけど、後ろみてみ?」
「あ?」
 言われるがまま、振り向いてみる。石造りの遺跡の通路が、来たときと確かに違うというか、今まさに壁がぐにゃりぐにゃりと形を変えているのが見えた。
 何あれ、空間が歪んでるのか?
 階段ができたり、分岐路ができたり、奇妙な光景だ。
「おいおい、これでは出口も分からんではないか」
「そうそう、だから大変なんだってば。行きも帰りもトラップ地獄。かなーり面倒くさいっしょ?」
 なるほどな、あのケノザとヤツリの二人も行きたがらないわけだ。
「でもま、ここでカシアちゃんに朗報。中間地点まで到着だ」
 一体何のことだ? そう思って前の方に向き直る。
 あれ、さっきまであんな大きな扉なんてあったっけ。
 コーベが扉まで平然と歩いていき、そっとその扉をグッと押して開く。
 扉の向こうには、宝、宝、宝の山。文字通りに財宝が置かれていた。
「こっからガチだから、気ぃ抜かないでね」
 当たり前だが、財宝見つけたら終わりではないようだ。