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第67話 ジメジメ洞窟に陽キャを添えて

ー/ー



「あっれ~? 人がいんじゃ~ん」

 この声に何よりも意表を突かれたのは我の方だった。
 角を曲がった先の通路は少し広い空間になっており、そこには何人かの冒険者が焚き火を囲って休憩しているようだった。

 変な生き物ではなくて一安心……でもないか。まだ警戒は解けない。

「うっひゃ~、しかも可愛い女だぜぇ!」

 ナイフを構えていた男が気障ったらしくシュッシュと手遊びしながら腰のナイフケースへとしまい込む。一目見た感想、キモい。

「ねぇねぇ、キミも冒険者ぁ? ってか、そうだよなぁ。こんな洞窟の奥まで散歩とかねぇーよなぁ。あひゃひゃ悪い悪い」

 うっわぁ~……直前まで警戒態勢だったのに我のことを女と認識してナンパモードに切り替えてきた。しかもなんだこのチャラッチャラな喋り方は。

 補足しとくと、我の容姿はミモザの作った瞬間的人違い(スルーポーズ)によって大人の冒険者となっているから、まさかパエデロスの令嬢フィーだとバレることは早々にないだろう。
 その代わり、我の美貌によって目の前の男がこれでもかというくらいに絡んできているのは誤算だったが。フン、仕方ないな。我の美しさは隠し通せぬのだからな。

「コーベ、どした? 何がいたの?」

 そこに座っていた別の男が振り向きざまに声を掛ける。

「女、女だよ。女がいたんだよ」

 コーベと呼ばれた男がニヤケっ面全開で答える。
 というか、我を指して女と呼ぶな、失礼な奴め!

「あ、オレ、オレね、コーベ。コーベ・ステラリアね。見ての通り、熟練の冒険者だよ~ん。キミは? キミの名前、なんてゆうのかな~?」

 もう既に印象最悪なのだが、これ、答えなきゃダメなのか?
 こんな奴に名乗りたくなどないぞ。
 でも、下手に不審がられても面倒なことになりそうだ。

「ええと、ぁー……、カシア・アレフヘイムだ」
「カシアちゃんかぁー! いいね! 可愛い名前だねっ!」
 キモイ。急にテンション上げて手を握ってくるな。

 答えたのは無論、偽名だ。
 フィテウマ・サタナムーンと言ってしまえばどうなるかも分かったものではないし、フィーと名乗ってしまうならそもそも姿など変えていない。

 このカシア・アレフヘイムという名前は前々から考えていたものになる。ミモザと一緒にな。ミモザと一緒に、ミモザの姉を想定した名前を考えて付けたものだ。
 いつか名乗るときに使おうとは思っていたが、まさかこんなチャラい冒険者相手に名乗ることになろうとは。

「よろしく、カシアさん。僕はケノザ・ラミウム」
「俺はヤツリ・シペラスだ。君は一人でここまで来たのかい? 度胸があるんだね」

 冒険者の男どもが次々に自己紹介してくる。正直覚える気もしないのだが……。

 最初にナイフで警戒してきたチャラい男がコーベ・ステラリア。見た感じ、細身で装備自体は軽装だが、コイツ自身の言葉並みに身軽に動き回れそうだ。

 ケノザ・ラミウムと名乗った男は、大きな鞄を背負い、かなりガッシリとした風貌をしている。荷物持ちだろうか。剥き出しの筋肉は隠し切れていない。
 焚き火の前で腰を下ろして、ナイフを磨いていた。

 最後にヤツリ・シペラスとかいう男。コーベほどではないが、危険でないと判断してか我の元に駆け寄って距離を詰めてきた。コイツもチャラ男か。
 丈夫そうな鎧を身に纏い、腰に何本かのナイフをぶら下げている辺り、ヤツリが一番の戦闘要員なのかもしれない。

「ここまで歩いてきて疲れたでしょ。ケノザ~、カシアちゃんに何か食べ物ちょうだいよ」
 ヤツリがクルッと振り向いて、ケノザに声を掛ける。やれやれといった様子で、ケノザは地面に置いていた方の荷物の中からパンと水を取り出す。

「ほらよ」
 ケノザのところまで駆け寄ったヤツリがそれを受け取り、我のもとに戻ってこようとしたところで、コーベが半ば奪うようにしてパンと水をかすめとり、我に差し出す。なんだ、今の意味のないリレーは。

「ほい、カシアちゃん。こんなもんしかないけど召し上がれ」
「あっ、おい、コーベてめぇ!」

 よくは分からんが、食料を分けてもらえるのならありがたく受け取ろう。
 ……だが、毒とか入っていないだろうな。いくらチャラチャラのチャラだからといってそう簡単に貴重な食料を渡すなんて緊張感の欠片もなさすぎだろう。

 痺れ毒か、眠り薬か。身動きをとれなくしてから身ぐるみ剥がれる危険性も十分に考えられる。初対面の人間を信用できるほど我はお人好しではないぞ。
 特に何も言わず、さりげなく食料を鞄の中にしまい込む。

「食料、感謝しよう。だが、こちらの食料も大分余っている。噂ではもっと危険な洞窟だとは聞いていたが、案外そうでもなかったのでな」
「あはは、あはははははっ、カシアちゃん、まぁだだよ。ここ、まだ洞窟の入り口よ。やっべぇのはもっと奥の方だからさ」
 コーベのやかましい笑い声が洞窟内に反響する。
 そんなことは分かりきっているが、ここまで振り切って笑い飛ばされると我が世間知らずみたいなことをぼやいたみたいじゃないか。

「丁度この先から吸血蛭の巣や、酸の池みたいな自然のトラップの目白押しだしな。うっかりの一歩が地獄行きの階段っつーわけよ」
 ヤツリも合わせて絡んでくる。キサマら、距離が近すぎるぞ。

「二人とも。絡みすぎ。カシアさんが困ってるでしょ」
 はぁー、と溜め息まじりに語調強めてケノザが言う。
 この中ではコイツが一番まともそうだな。

 ヤツリの方は「おっと」という様子で一歩引いたが、ニヤケ面のコーベは悪びれもせず、我の顔をじろじろと遠慮無しに眺める。品定めでもしてるのか?

「ねぇねぇねぇ、カシアちゃん。こっからが危険なわけよぉ~。だからどう? オレはこの洞窟も慣れてるんだけどさ、カシアちゃん、なんか初めてっぽいじゃん?」
 顔近いわ、ボケ。一発くらい殴った方がいいのか、この場合。

「初めてなら手取り足取りシてやってもいいんだぜぇ~? ひゃひゃひゃひゃ」
「おーい、コーベ、その辺にしとけよなぁ」
 背後からヤツリがコーベを羽交い締めにして我の目の前から引きはがす。

「でも、どうかな。よかったらでいいんだけど、ここから俺たちと同行するっていうの。悪い話じゃないと思うぜ。実際さ、本気でヤベェルートなら俺らのがよく分かってるし、初見の単独はキチィよ」
 コーベを拘束したままヤツリがニッコリと言う。
 危険を回避できるというのなら、有難い話だ。

 我もこの洞窟の情報は伝聞くらいのもの。危険なあれやこれやの回避方法、対処方法だけなら十分に熟知してきたつもりだが、肝心のルートは把握できていない。

 これだけ入り組んだ洞窟で分かりやすいガイドがついてくれるというのなら心強い。断る理由もない。ただ、問題があるとすれば――

「うひひひひっ」
 こんな奴と同行する方がよっぽど危険のような気がしないでもない。
 難しい天秤だ。足手まといにならなければいいのだが。

 コーベたちの実力がどれだけのものかは分からない。何度も潜ったというのも実は見栄で、低層を散策していただけの可能性すらある。
 小遣い稼ぎ程度の収穫を持ち帰り、時折小遣い稼ぎ代わりに他の冒険者に道案内という理由付けして金をたかっていると考えればしっくりくるか。

 人間なんて早々信じられるものではないしな。
 保証がないことのリスクを考えねばならん。
 こんな今初めて会ったばかりで得体の知れないチャラチャラなチャラ男と危険な洞窟を共にすることでどれだけのメリットが得られようか。

 というか、そんなん置いといたとしても、フツーに気色悪い。


次のエピソードへ進む 第68話 血溜まりを駆け抜けて


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「あっれ~? 人がいんじゃ~ん」
 この声に何よりも意表を突かれたのは我の方だった。
 角を曲がった先の通路は少し広い空間になっており、そこには何人かの冒険者が焚き火を囲って休憩しているようだった。
 変な生き物ではなくて一安心……でもないか。まだ警戒は解けない。
「うっひゃ~、しかも可愛い女だぜぇ!」
 ナイフを構えていた男が気障ったらしくシュッシュと手遊びしながら腰のナイフケースへとしまい込む。一目見た感想、キモい。
「ねぇねぇ、キミも冒険者ぁ? ってか、そうだよなぁ。こんな洞窟の奥まで散歩とかねぇーよなぁ。あひゃひゃ悪い悪い」
 うっわぁ~……直前まで警戒態勢だったのに我のことを女と認識してナンパモードに切り替えてきた。しかもなんだこのチャラッチャラな喋り方は。
 補足しとくと、我の容姿はミモザの作った|瞬間的人違い《スルーポーズ》によって大人の冒険者となっているから、まさかパエデロスの令嬢フィーだとバレることは早々にないだろう。
 その代わり、我の美貌によって目の前の男がこれでもかというくらいに絡んできているのは誤算だったが。フン、仕方ないな。我の美しさは隠し通せぬのだからな。
「コーベ、どした? 何がいたの?」
 そこに座っていた別の男が振り向きざまに声を掛ける。
「女、女だよ。女がいたんだよ」
 コーベと呼ばれた男がニヤケっ面全開で答える。
 というか、我を指して女と呼ぶな、失礼な奴め!
「あ、オレ、オレね、コーベ。コーベ・ステラリアね。見ての通り、熟練の冒険者だよ~ん。キミは? キミの名前、なんてゆうのかな~?」
 もう既に印象最悪なのだが、これ、答えなきゃダメなのか?
 こんな奴に名乗りたくなどないぞ。
 でも、下手に不審がられても面倒なことになりそうだ。
「ええと、ぁー……、カシア・アレフヘイムだ」
「カシアちゃんかぁー! いいね! 可愛い名前だねっ!」
 キモイ。急にテンション上げて手を握ってくるな。
 答えたのは無論、偽名だ。
 フィテウマ・サタナムーンと言ってしまえばどうなるかも分かったものではないし、フィーと名乗ってしまうならそもそも姿など変えていない。
 このカシア・アレフヘイムという名前は前々から考えていたものになる。ミモザと一緒にな。ミモザと一緒に、ミモザの姉を想定した名前を考えて付けたものだ。
 いつか名乗るときに使おうとは思っていたが、まさかこんなチャラい冒険者相手に名乗ることになろうとは。
「よろしく、カシアさん。僕はケノザ・ラミウム」
「俺はヤツリ・シペラスだ。君は一人でここまで来たのかい? 度胸があるんだね」
 冒険者の男どもが次々に自己紹介してくる。正直覚える気もしないのだが……。
 最初にナイフで警戒してきたチャラい男がコーベ・ステラリア。見た感じ、細身で装備自体は軽装だが、コイツ自身の言葉並みに身軽に動き回れそうだ。
 ケノザ・ラミウムと名乗った男は、大きな鞄を背負い、かなりガッシリとした風貌をしている。荷物持ちだろうか。剥き出しの筋肉は隠し切れていない。
 焚き火の前で腰を下ろして、ナイフを磨いていた。
 最後にヤツリ・シペラスとかいう男。コーベほどではないが、危険でないと判断してか我の元に駆け寄って距離を詰めてきた。コイツもチャラ男か。
 丈夫そうな鎧を身に纏い、腰に何本かのナイフをぶら下げている辺り、ヤツリが一番の戦闘要員なのかもしれない。
「ここまで歩いてきて疲れたでしょ。ケノザ~、カシアちゃんに何か食べ物ちょうだいよ」
 ヤツリがクルッと振り向いて、ケノザに声を掛ける。やれやれといった様子で、ケノザは地面に置いていた方の荷物の中からパンと水を取り出す。
「ほらよ」
 ケノザのところまで駆け寄ったヤツリがそれを受け取り、我のもとに戻ってこようとしたところで、コーベが半ば奪うようにしてパンと水をかすめとり、我に差し出す。なんだ、今の意味のないリレーは。
「ほい、カシアちゃん。こんなもんしかないけど召し上がれ」
「あっ、おい、コーベてめぇ!」
 よくは分からんが、食料を分けてもらえるのならありがたく受け取ろう。
 ……だが、毒とか入っていないだろうな。いくらチャラチャラのチャラだからといってそう簡単に貴重な食料を渡すなんて緊張感の欠片もなさすぎだろう。
 痺れ毒か、眠り薬か。身動きをとれなくしてから身ぐるみ剥がれる危険性も十分に考えられる。初対面の人間を信用できるほど我はお人好しではないぞ。
 特に何も言わず、さりげなく食料を鞄の中にしまい込む。
「食料、感謝しよう。だが、こちらの食料も大分余っている。噂ではもっと危険な洞窟だとは聞いていたが、案外そうでもなかったのでな」
「あはは、あはははははっ、カシアちゃん、まぁだだよ。ここ、まだ洞窟の入り口よ。やっべぇのはもっと奥の方だからさ」
 コーベのやかましい笑い声が洞窟内に反響する。
 そんなことは分かりきっているが、ここまで振り切って笑い飛ばされると我が世間知らずみたいなことをぼやいたみたいじゃないか。
「丁度この先から吸血蛭の巣や、酸の池みたいな自然のトラップの目白押しだしな。うっかりの一歩が地獄行きの階段っつーわけよ」
 ヤツリも合わせて絡んでくる。キサマら、距離が近すぎるぞ。
「二人とも。絡みすぎ。カシアさんが困ってるでしょ」
 はぁー、と溜め息まじりに語調強めてケノザが言う。
 この中ではコイツが一番まともそうだな。
 ヤツリの方は「おっと」という様子で一歩引いたが、ニヤケ面のコーベは悪びれもせず、我の顔をじろじろと遠慮無しに眺める。品定めでもしてるのか?
「ねぇねぇねぇ、カシアちゃん。こっからが危険なわけよぉ~。だからどう? オレはこの洞窟も慣れてるんだけどさ、カシアちゃん、なんか初めてっぽいじゃん?」
 顔近いわ、ボケ。一発くらい殴った方がいいのか、この場合。
「初めてなら手取り足取りシてやってもいいんだぜぇ~? ひゃひゃひゃひゃ」
「おーい、コーベ、その辺にしとけよなぁ」
 背後からヤツリがコーベを羽交い締めにして我の目の前から引きはがす。
「でも、どうかな。よかったらでいいんだけど、ここから俺たちと同行するっていうの。悪い話じゃないと思うぜ。実際さ、本気でヤベェルートなら俺らのがよく分かってるし、初見の単独はキチィよ」
 コーベを拘束したままヤツリがニッコリと言う。
 危険を回避できるというのなら、有難い話だ。
 我もこの洞窟の情報は伝聞くらいのもの。危険なあれやこれやの回避方法、対処方法だけなら十分に熟知してきたつもりだが、肝心のルートは把握できていない。
 これだけ入り組んだ洞窟で分かりやすいガイドがついてくれるというのなら心強い。断る理由もない。ただ、問題があるとすれば――
「うひひひひっ」
 こんな奴と同行する方がよっぽど危険のような気がしないでもない。
 難しい天秤だ。足手まといにならなければいいのだが。
 コーベたちの実力がどれだけのものかは分からない。何度も潜ったというのも実は見栄で、低層を散策していただけの可能性すらある。
 小遣い稼ぎ程度の収穫を持ち帰り、時折小遣い稼ぎ代わりに他の冒険者に道案内という理由付けして金をたかっていると考えればしっくりくるか。
 人間なんて早々信じられるものではないしな。
 保証がないことのリスクを考えねばならん。
 こんな今初めて会ったばかりで得体の知れないチャラチャラなチャラ男と危険な洞窟を共にすることでどれだけのメリットが得られようか。
 というか、そんなん置いといたとしても、フツーに気色悪い。