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第35話 特別攻撃作戦

ー/ー



「元の議題というのは、悠木艦長が四分割された話でしょうか」と恵子。

「そうよ。艦長の治療と地上での打ち合わせというか、交渉の話よ」と瑠璃子。「ここからは桐子さんに話してもらった方がいいかしら」

「そうだな。私が話そう」と桐子。「私たちはこれから戦争をどのように続けるか、あるいはどのように終らせるかを話し合った。話し合っても埒あかないので、片っ端から記録を調べることにした」

「作戦という意味でしょうか?」と恵子。

「そうだ。軍や大学やシンクタンクが、以前に立案した作戦を再検討した。一次戦争以来のものをすべてだ。開戦以来、五十年ほどが経つ。ほとんどの職業軍人が戦死してしまったので、資料しか残っていないのだが」と桐子。「その中に敵の母星を攻撃するプランがあった。そのための兵器を含めて説明がされていた。唯一実施可能と思われるものだった」

「その計画の立案は、涙の魔術師が率いるフォックス研究所のグループによるものだった。その研究所は第一次戦争の後、裏切りの処罰の対象となって閉鎖された」

「今では紙の上だけの作戦ということでしょうか?」

「そうではなかった。涙の魔術師は用意周到な人物だったから、自分に起こる不測の事態を検討していた」と桐子。「自分が殺されて、なおかつ地球が異星生物に占領されても計画を続行できるようにしていた」

「実はこの艦隊の朝風と夕霧は、そのフォックス研究所グループから寄付されたものだ」と桐子。「第二次戦争での奇跡の防衛戦の後で、涙の魔術師が何らかの形で生存していることを察知して、秘密裏に引き渡してくれた」

「すごいわ!」と舞。「では、母星攻撃の作戦も実施できるのですね」

「可能ではあるが、冒険作戦だ。成功する可能性が低い。しかも、このドラゴン級攻撃艦よりも大きな重力エンジンを積んだ艦船が必要になる。現在、重力エンジンをまともに動かせるのは悠木しかいないから、作戦には悠木が不可欠だ」

「同じドラゴン級の夕霧も稼働しています」と舞。

「夕霧には特殊な人工知能が組み込まれている。だから最低限の動作が可能だ。だが、朝霧が先導して魔力を供給しないと稼働しない。だから二番艦なのだ。夕霧単独では青い光は出ない」と桐子。

「もし、悠木を敵の母星に派遣して、失敗したらそれっきりだ。私たちは滅ぶのを待つだけになってしまう」と桐子。「だから、悠木を増やすことにした」

「増やすって、クローンでしょうか?」と舞。

「そういう意味ではない」と桐子。「涙の魔術師には、自分の分身を作る能力があった。だから、悠木にその技を使わせて、数を増やそうと考えた」

「それって、忍者の分身の術、みたいなものですか?」と涼子。

「そうだ。敵を攻撃するために、分身を作る。空間的に四方から取り囲んで同時に打撃する技だ」と桐子。「だが瞬間的なものだから、すぐに一体に戻ってしまう。しかし戻る前に、すばやく分身体を引き離してしまえば、分離できるはずだと考えた」

「できるのですか、そんな事?」と涼子。

「魔物をけしかけて技を使わせた。思っていたより簡単に分離できた」と桐子。「悠木はものすごく怒っていたけど」

「やる前に説明しなかったのですか?」と恵子。

「もちろんしなかった。いいと言うわけがない」と桐子。

「艦長がお姉様方を警戒する理由がわかる気がします」とサキ。

「それで、元の一体に戻らなかったのですか」と恵子。

「ああ。分身体同士を近づけないようにしている。物理的に距離を離しておけば合体は難しいはずだ。それから、ある人物に承諾を取っておいた。唯一、涙の魔術師に言うことを聞かせられる人に」と桐子。「それでなんとか悠木を説得した。元に戻らないようにと」

「その人は誰なのですか?」と恵子。

「開戦前に涙の魔術師に兵器開発を依頼した人だ。正確には人ではなくて、神だ」と桐子。

「その神様と桐子艦長とは仲がいいのですか?」と恵子。

「いや、私はかなり悪い。瞳姉さんはちょっと微妙だけど」と桐子。

「余計なことは言わないで!」と瞳。

「ともかく、私たちはその人物に会って、悠木を四分割させてほしいと頼んだ」と桐子。「そして何とか承諾してもらった。最後まで瑠璃子さんが食い下がってくれたおかげだ」

「人類に希望が残されたわけですね」と涼子。

「そういうことになる」と桐子。「悠木の第一分身体は独りですぐに敵の母星に向かってしまった。私たちが一緒に乗せろと言う前に。第二分身体はこの艦のベットで寝ている。第三分身体はスペアとして地上の家で学校に通ってる。現在改修している夕霧の艦長を務めてもらう予定だ。第四分身体は、保護者である神のもとに返した」

「保護者の神様というのは、兵器開発を依頼した神様のことでしょうか」と恵子。

「そうだ。高慢ちきで、気難しくて、悠木のことをわが夫と呼んでいる、とっても怖い神様だ」と桐子。

「神様の夫なのですか?」と恵子。

「そうらしい。詳しくは知らないが」と桐子。

「培養器に入った悠木艦長の体組織をみて激怒してたのよ。余の夫に何をしたって」と瑠璃子。「四人に分割なんて最初は言い出せる雰囲気じゃなかったわ」

「しゃべりすぎよ」と瞳。

「敵の母星に向かった悠木艦長はいつごろ帰還されるのでしょうか?」と恵子。

「悠木は帰ってこない」と桐子。「敵の母星がある惑星系に行き、恒星を爆破する。敵を根こそぎ殲滅する作戦だ。超新星爆発に巻き込まれて確実に死ぬ。そして、彼の心もこの太陽系に帰ってくることはない」

「ええ!」と士官一同は息をのんだ。

「もし第一分身体の作戦が失敗だったら、第二、第三分身体を派遣する」と桐子。

「そんなのひどいです!」と早苗が叫んだ。

「他に作戦はない」と桐子。「私たち、つまり私や瞳姉さんや瑠璃子さんは、いずれかの作戦に一人ずつ乗りこむつもりだった。だが、そんなことはお見通しで、第一次特別攻撃作戦では悠木に置いてきぼりを食ってしまった」

 会議室はしんと静まり返った。

「ごめん……、だが、もう他に地球を救う方法はない! ごめんなさい……、私だって悠木を殺したくない。私の弟なのに……。私だって大好きなのに……」と桐子は泣き崩れた。

 しばらく誰も何も言わなかった。普段は冷たい表情の桐子がすすり泣く声だけが部屋に響いていた。


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「元の議題というのは、悠木艦長が四分割された話でしょうか」と恵子。
「そうよ。艦長の治療と地上での打ち合わせというか、交渉の話よ」と瑠璃子。「ここからは桐子さんに話してもらった方がいいかしら」
「そうだな。私が話そう」と桐子。「私たちはこれから戦争をどのように続けるか、あるいはどのように終らせるかを話し合った。話し合っても埒あかないので、片っ端から記録を調べることにした」
「作戦という意味でしょうか?」と恵子。
「そうだ。軍や大学やシンクタンクが、以前に立案した作戦を再検討した。一次戦争以来のものをすべてだ。開戦以来、五十年ほどが経つ。ほとんどの職業軍人が戦死してしまったので、資料しか残っていないのだが」と桐子。「その中に敵の母星を攻撃するプランがあった。そのための兵器を含めて説明がされていた。唯一実施可能と思われるものだった」
「その計画の立案は、涙の魔術師が率いるフォックス研究所のグループによるものだった。その研究所は第一次戦争の後、裏切りの処罰の対象となって閉鎖された」
「今では紙の上だけの作戦ということでしょうか?」
「そうではなかった。涙の魔術師は用意周到な人物だったから、自分に起こる不測の事態を検討していた」と桐子。「自分が殺されて、なおかつ地球が異星生物に占領されても計画を続行できるようにしていた」
「実はこの艦隊の朝風と夕霧は、そのフォックス研究所グループから寄付されたものだ」と桐子。「第二次戦争での奇跡の防衛戦の後で、涙の魔術師が何らかの形で生存していることを察知して、秘密裏に引き渡してくれた」
「すごいわ!」と舞。「では、母星攻撃の作戦も実施できるのですね」
「可能ではあるが、冒険作戦だ。成功する可能性が低い。しかも、このドラゴン級攻撃艦よりも大きな重力エンジンを積んだ艦船が必要になる。現在、重力エンジンをまともに動かせるのは悠木しかいないから、作戦には悠木が不可欠だ」
「同じドラゴン級の夕霧も稼働しています」と舞。
「夕霧には特殊な人工知能が組み込まれている。だから最低限の動作が可能だ。だが、朝霧が先導して魔力を供給しないと稼働しない。だから二番艦なのだ。夕霧単独では青い光は出ない」と桐子。
「もし、悠木を敵の母星に派遣して、失敗したらそれっきりだ。私たちは滅ぶのを待つだけになってしまう」と桐子。「だから、悠木を増やすことにした」
「増やすって、クローンでしょうか?」と舞。
「そういう意味ではない」と桐子。「涙の魔術師には、自分の分身を作る能力があった。だから、悠木にその技を使わせて、数を増やそうと考えた」
「それって、忍者の分身の術、みたいなものですか?」と涼子。
「そうだ。敵を攻撃するために、分身を作る。空間的に四方から取り囲んで同時に打撃する技だ」と桐子。「だが瞬間的なものだから、すぐに一体に戻ってしまう。しかし戻る前に、すばやく分身体を引き離してしまえば、分離できるはずだと考えた」
「できるのですか、そんな事?」と涼子。
「魔物をけしかけて技を使わせた。思っていたより簡単に分離できた」と桐子。「悠木はものすごく怒っていたけど」
「やる前に説明しなかったのですか?」と恵子。
「もちろんしなかった。いいと言うわけがない」と桐子。
「艦長がお姉様方を警戒する理由がわかる気がします」とサキ。
「それで、元の一体に戻らなかったのですか」と恵子。
「ああ。分身体同士を近づけないようにしている。物理的に距離を離しておけば合体は難しいはずだ。それから、ある人物に承諾を取っておいた。唯一、涙の魔術師に言うことを聞かせられる人に」と桐子。「それでなんとか悠木を説得した。元に戻らないようにと」
「その人は誰なのですか?」と恵子。
「開戦前に涙の魔術師に兵器開発を依頼した人だ。正確には人ではなくて、神だ」と桐子。
「その神様と桐子艦長とは仲がいいのですか?」と恵子。
「いや、私はかなり悪い。瞳姉さんはちょっと微妙だけど」と桐子。
「余計なことは言わないで!」と瞳。
「ともかく、私たちはその人物に会って、悠木を四分割させてほしいと頼んだ」と桐子。「そして何とか承諾してもらった。最後まで瑠璃子さんが食い下がってくれたおかげだ」
「人類に希望が残されたわけですね」と涼子。
「そういうことになる」と桐子。「悠木の第一分身体は独りですぐに敵の母星に向かってしまった。私たちが一緒に乗せろと言う前に。第二分身体はこの艦のベットで寝ている。第三分身体はスペアとして地上の家で学校に通ってる。現在改修している夕霧の艦長を務めてもらう予定だ。第四分身体は、保護者である神のもとに返した」
「保護者の神様というのは、兵器開発を依頼した神様のことでしょうか」と恵子。
「そうだ。高慢ちきで、気難しくて、悠木のことをわが夫と呼んでいる、とっても怖い神様だ」と桐子。
「神様の夫なのですか?」と恵子。
「そうらしい。詳しくは知らないが」と桐子。
「培養器に入った悠木艦長の体組織をみて激怒してたのよ。余の夫に何をしたって」と瑠璃子。「四人に分割なんて最初は言い出せる雰囲気じゃなかったわ」
「しゃべりすぎよ」と瞳。
「敵の母星に向かった悠木艦長はいつごろ帰還されるのでしょうか?」と恵子。
「悠木は帰ってこない」と桐子。「敵の母星がある惑星系に行き、恒星を爆破する。敵を根こそぎ殲滅する作戦だ。超新星爆発に巻き込まれて確実に死ぬ。そして、彼の心もこの太陽系に帰ってくることはない」
「ええ!」と士官一同は息をのんだ。
「もし第一分身体の作戦が失敗だったら、第二、第三分身体を派遣する」と桐子。
「そんなのひどいです!」と早苗が叫んだ。
「他に作戦はない」と桐子。「私たち、つまり私や瞳姉さんや瑠璃子さんは、いずれかの作戦に一人ずつ乗りこむつもりだった。だが、そんなことはお見通しで、第一次特別攻撃作戦では悠木に置いてきぼりを食ってしまった」
 会議室はしんと静まり返った。
「ごめん……、だが、もう他に地球を救う方法はない! ごめんなさい……、私だって悠木を殺したくない。私の弟なのに……。私だって大好きなのに……」と桐子は泣き崩れた。
 しばらく誰も何も言わなかった。普段は冷たい表情の桐子がすすり泣く声だけが部屋に響いていた。