第47話 歪みゆく運命
ー/ー
それから数日して、王都にホーネット伯爵たちが戻ってきた。その伯爵たちも満身創痍の状態であり、すぐさま伯爵邸へ戻って治療が行われた。
そのホーネット伯爵邸には、コークロッチヌス子爵が訪れている。
「まったく、我々ときたらもはや形無しですな……」
「これはコークロッチヌス子爵。……まったくですな。我が子たちが暴走した挙句に、魔族にむざむざ殺されてしまうとは」
子爵の言葉に、ホーネット伯爵はとても悔しそうに唇をかんでいる。
ところが、コークロッチヌス子爵が発したのは、慰めの言葉ではなかった。
「伯爵、あなたは娘と同行していたそうですな。なのに、自分だけおめおめと戻ってこられたとは、イクセンの魔法の名門としていかがなものかと思われますぞ?」
コークロッチヌス子爵に言われ、ホーネット伯爵は黙り込んでしまう。
確かにその通りではある。自分は生き残り、天才といわれた娘が死んでしまったのだ。責められても仕方のない状況だった。
「……なんとでもいうといい。だが、私と娘、両方が死んでしまっては、イクセンの魔法は誰が支えるというのだ。片方が残っただけでもよしとしなくてはなるまい」
なんとも言い訳ぐるしいものだが、そうでも言わなければ、ホーネット伯爵は自分をとても許せるような状態ではなかったのだ。
娘の犠牲はつらいものだが、国の将来を思えばよかったといえる結果なのである。
「そういうことにしておきましょうか。我が家も人のことを言える状況ではありませんからな」
コークロッチヌス子爵は、あっさりと引き下がっていた。
それというのも、長男であるシュヴァルツが死に、長女であるクロナは実は魔族だったというとんでもないスキャンダラスな状況にあったからだ。
状況的に、ホーネット伯爵家と甲乙つけがたい悲惨な立場にあるといえるのである。なにせ、両家ともに子どもを一気に失ってしまったのだから。
「くそっ……、あの魔族のせいで娘は死に、我が家の権威は失墜してしまった。なんとしても討伐せねばな……」
「私もだ。そちらに比べれば、私の方が余計のこと名誉が傷ついているがな。あの魔族を聖女として、殿下の婚約者として推していたのだからな」
ホーネット伯爵もコークロッチヌス子爵も、悔しさのあまりに表情がとても険しい。
だが、互いに大きな痛手を負ったところであるために、復讐を仕掛けようにも仕掛けられない状況にある。なんとも歯がゆい状況なのだ。
「ホーネット伯爵」
「なんですかな、コークロッチヌス子爵」
コークロッチヌス子爵の呼び掛けに、ホーネット伯爵は下げていた頭を上げる。
「こうなっては、両家が手を取り合って、あの魔族を倒すしかありませんな」
「……そうですな。だが、ボロボロになってしまった我が家では、立て直しに時間をかけねばなりませぬ。整うまでには、時間がかかりそうですぞ?」
「それは仕方あるまい。それはこちらも同じだ。シュヴァルツのやつの腕前は、私に次ぐ実力だったからな」
ホーネット伯爵もコークロッチヌス子爵も、復讐を果たそうにもまずは状態の立て直しを図らなければならないようだった。
「では、密に連絡を取り合いながら、その時を待ちましょう」
「ああ。問題は王家だ。バタフィー殿下もすでにあの魔族を倒すために一度出兵なさっておられるからな」
「ふむ……。となると、戦いを持ちかけられれば、状態が整っていなくても出兵せざるを得ないというわけだな」
「そういうことですな。とにかく立て直しは急がねば……」
ホーネット伯爵とコークロッチヌス子爵は、お互いに確認をしあいながら頷く。
もう話をしている場合ではないと、コークロッチヌス子爵は自宅へと戻っていった。
一人になったホーネット伯爵は、メープルの部屋へと移動する。
そこには、きれいな状態で横になっているメープルの遺体があった。
あれから数日が経過しているというのに、腐敗すらもなくきれいな状態で保たれていた。そのあまりにもきれいな状態に、ホーネット伯爵は驚くしかなかった。
「おい、メープルの遺体は何日前に運び込まれた」
「四日前でございますね。魔族によって運ばれてきた時には、我々も驚きました。丁重ではなかったとはいえ、致命傷となる胸部の傷以外はございませんでしたからな」
「そうか……」
まるで眠っているかのような状態のメープルを見て、ホーネット伯爵は悔しくて仕方がなかった。
なぜ、娘が死ぬようなことにならねばならなかったのか。自分にもっと才能があればと、悔しがることしかできないのだから。
「あの魔族め……。必ずや倒し、娘や婚約者の無念を晴らしてくれる」
メープルの遺体を前に、ホーネット伯爵は強く誓いを立てている。
メープルの部屋を出たホーネット伯爵は、すぐさまメープルの葬儀の準備へと入る。
生半可な準備では、あの魔族たちは討てない。国が一致団結して追い込まねば、娘のような犠牲が出るのは間違いないだろうからだ。
イクセン王国とクロナとの間の対立の溝は、ますます深まるばかりである。
どちらもその死を悲しむ同士だというのに、なぜ対立をしなければならないのか。
邪神の手によって歪められた運命は、さらに歪みを強めていくのだった。
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そのホーネット伯爵邸には、コークロッチヌス子爵が訪れている。
「まったく、我々ときたらもはや形無しですな……」
「これはコークロッチヌス子爵。……まったくですな。我が子たちが暴走した挙句に、魔族にむざむざ殺されてしまうとは」
子爵の言葉に、ホーネット伯爵はとても悔しそうに唇をかんでいる。
ところが、コークロッチヌス子爵が発したのは、慰めの言葉ではなかった。
「伯爵、あなたは娘と同行していたそうですな。なのに、自分だけおめおめと戻ってこられたとは、イクセンの魔法の名門としていかがなものかと思われますぞ?」
コークロッチヌス子爵に言われ、ホーネット伯爵は黙り込んでしまう。
確かにその通りではある。自分は生き残り、天才といわれた娘が死んでしまったのだ。責められても仕方のない状況だった。
「……なんとでもいうといい。だが、私と娘、両方が死んでしまっては、イクセンの魔法は誰が支えるというのだ。片方が残っただけでもよしとしなくてはなるまい」
なんとも言い訳ぐるしいものだが、そうでも言わなければ、ホーネット伯爵は自分をとても許せるような状態ではなかったのだ。
娘の犠牲はつらいものだが、国の将来を思えばよかったといえる結果なのである。
「そういうことにしておきましょうか。我が家も人のことを言える状況ではありませんからな」
コークロッチヌス子爵は、あっさりと引き下がっていた。
それというのも、長男であるシュヴァルツが死に、長女であるクロナは実は魔族だったというとんでもないスキャンダラスな状況にあったからだ。
状況的に、ホーネット伯爵家と甲乙つけがたい悲惨な立場にあるといえるのである。なにせ、両家ともに子どもを一気に失ってしまったのだから。
「くそっ……、あの魔族のせいで娘は死に、我が家の権威は失墜してしまった。なんとしても討伐せねばな……」
「私もだ。そちらに比べれば、私の方が余計のこと名誉が傷ついているがな。あの魔族を聖女として、殿下の婚約者として推していたのだからな」
ホーネット伯爵もコークロッチヌス子爵も、悔しさのあまりに表情がとても険しい。
だが、互いに大きな痛手を負ったところであるために、復讐を仕掛けようにも仕掛けられない状況にある。なんとも歯がゆい状況なのだ。
「ホーネット伯爵」
「なんですかな、コークロッチヌス子爵」
コークロッチヌス子爵の呼び掛けに、ホーネット伯爵は下げていた頭を上げる。
「こうなっては、両家が手を取り合って、あの魔族を倒すしかありませんな」
「……そうですな。だが、ボロボロになってしまった我が家では、立て直しに時間をかけねばなりませぬ。整うまでには、時間がかかりそうですぞ?」
「それは仕方あるまい。それはこちらも同じだ。シュヴァルツのやつの腕前は、私に次ぐ実力だったからな」
ホーネット伯爵もコークロッチヌス子爵も、復讐を果たそうにもまずは状態の立て直しを図らなければならないようだった。
「では、密に連絡を取り合いながら、その時を待ちましょう」
「ああ。問題は王家だ。バタフィー殿下もすでにあの魔族を倒すために一度出兵なさっておられるからな」
「ふむ……。となると、戦いを持ちかけられれば、状態が整っていなくても出兵せざるを得ないというわけだな」
「そういうことですな。とにかく立て直しは急がねば……」
ホーネット伯爵とコークロッチヌス子爵は、お互いに確認をしあいながら頷く。
もう話をしている場合ではないと、コークロッチヌス子爵は自宅へと戻っていった。
一人になったホーネット伯爵は、メープルの部屋へと移動する。
そこには、きれいな状態で横になっているメープルの遺体があった。
あれから数日が経過しているというのに、腐敗すらもなくきれいな状態で保たれていた。そのあまりにもきれいな状態に、ホーネット伯爵は驚くしかなかった。
「おい、メープルの遺体は何日前に運び込まれた」
「四日前でございますね。魔族によって運ばれてきた時には、我々も驚きました。丁重ではなかったとはいえ、致命傷となる胸部の傷以外はございませんでしたからな」
「そうか……」
まるで眠っているかのような状態のメープルを見て、ホーネット伯爵は悔しくて仕方がなかった。
なぜ、娘が死ぬようなことにならねばならなかったのか。自分にもっと才能があればと、悔しがることしかできないのだから。
「あの魔族め……。必ずや倒し、娘や婚約者の無念を晴らしてくれる」
メープルの遺体を前に、ホーネット伯爵は強く誓いを立てている。
メープルの部屋を出たホーネット伯爵は、すぐさまメープルの葬儀の準備へと入る。
生半可な準備では、あの魔族たちは討てない。国が一致団結して追い込まねば、娘のような犠牲が出るのは間違いないだろうからだ。
イクセン王国とクロナとの間の対立の溝は、ますます深まるばかりである。
どちらもその死を悲しむ同士だというのに、なぜ対立をしなければならないのか。
邪神の手によって歪められた運命は、さらに歪みを強めていくのだった。