表示設定
表示設定
目次 目次




SCENE065 踏み台プリンセス

ー/ー



 その日の僕は暇を持て余していた。
 ダンジョンには衣織お姉さんもダンジョン管理局の人たちもやって来ない。
 ダンジョンマスターをしている以上は、ダンジョンから外にも出られないので、僕はただただ暇を持て余している状況だった。

「まったく、プリンセスはちょっとだらけすぎておりませぬか?」

 バトラーのお小言が飛んでくる。

「うん、分かっているよ。でも、こうもすべての時間が自由に使えるとなると、勉強にも身が入らないんだなって思ってね」

 僕は隠し部屋の方をじっと見つめる。この間持ってきてもらった勉強道具があの部屋の中には置かれているからだ。
 だけど、視線を向けた僕は、大きくため息をついて視線をダンジョンの外の方向へと向けた。

 その時だった。

 いきなり僕の携帯電話の着信音が鳴り始めた。
 一体誰からなんだろうか。
 液晶画面を見てみると、それはセイレーンさんからの着信だった。お互いに携帯電話を手にしてからというもの、時々こうやって連絡をやり取りするようになっていた。セイレーンさんもきっと暇なんだろうな。

「はい、ウィンクです」

 通話を押して、僕は電話に出る。

『ようやく出ましたわね。ウィンクさん、お話、よろしいかしら?』

「はい、いいですよ。僕のダンジョン、探索者の出入りを管理局が完全にコントロールしちゃっているので、誰も来なくて暇なんですよ」

『あらあら、それは大変ですわね。そんなことでポイント稼げますのかしら』

 僕が暇な理由を答えていると、セイレーンさんってば心配してくれちゃっている。ダンジョンマスターとはいっても、やっぱり交流がないと寂しいのかな。

「一応、僕は定期的に配信してますので、それでポイントは稼げていますね。さすがにセイレーンさんのように大きなポイントは稼げませんけれど、僕みたいな弱いマスターはそれでもいいと思うんです」

『まったく、向上心のないことですわね。まあ、あなたがそう仰られるのでしたら、それでもいいのでしょうけれど』

 セイレーンさんは、ずいぶんと僕のことを心配しているような言い方をしている気がする。
 とはいっても、探索者が入ってこない以上は、本当に配信でどうにかするわけしかない。ダンジョンの拡張をどうにかして行わないとなぁ。

『そうそう、あたしのダンジョンでは新たな取り組みを始めることにしましたわ』

「なにを始めるつもりなんですか?」

 セイレーンさんがいきなり楽しそうに話し始めたので、僕は思い切りそれに食いついてしまう。ちょうど暇で仕方なかったこともあるとはいえ、ちょっと過剰に反応し過ぎたかもしれない。

『聞いて驚きなさい。あたしのダンジョンも、探索者育成のために第一階層を育成用に開放しましたのよ』

「えっ、ええ?!」

 セイレーンさんの話に、僕はものすごく驚いてしまった。

「あ、でも、そうか……。セイレーンさんのダンジョンって、復活機能があるんだっけか」

 僕は、バトラーから聞いていた不死機能のことを思い出した。セイレーンさんのダンジョンでは、戦闘で死んでも罠で死んでも復活できるようになっているって話だったね。

『そうですわよ。ダンジョンのどこで死んでも、一階層の入口で復活できますからね。しばらくデバフがつきますけれど』

「あ、そうなんだ。復活してすぐ突撃できないんだ」

『そうですわね。本来なら死んだところで終わりですもの。復活できるからといって、あんまり無茶はして欲しくありませんもの。命あってこそですわ』

「意外と、セイレーンさんって優しいんですね」

『意外とではありませんわ。トップに立つ者、そのくらいの慈悲を持っていて当然というものですわよ』

 ああ、怒られちゃったや。
 でも、僕のイメージからするとモンスターって無慈悲なイメージしかないからなぁ。うん、やっぱり意外でしかないよ。

『そちらでダンジョンというものを体験した探索者たちを、あたしのダンジョンに実戦投入するというものですわ。実にいいシステムだと思いませんこと?』

「あ、うん。いいと思うよ」

 ちょっと気が逸れてしまっていたので、なんとも気の抜けた返事になってしまった。

『まったく、ちゃんと聞いて下さいませんこと?』

 うわぁ、ものすごく普通にばれてた。
 さすが、本物のダンジョンマスターっていうのは違うなぁ。

「こういうのって、大丈夫なのかな」

『何がですの? こちらの世界で何をしていようと、異界のダンジョン管理局には何も分かりませんわよ。あたしたちを競わせて、強い統治者を残すことくらいしか考えていませんもの』

「そうなんだ」

『このダンジョンシステムを作った連中からすれば、あたしたちのしていることなんて余興にすぎませんわ。でも、やるからにはどういう方法を使ってもトップに立ち続けてやりますわよ』

 セイレーンさんはものすごく気合いの入った感じで、僕に説明をしてくれていた。
 それにしても、こうやって聞いているとこのダンジョンというものは、異界にとってしてみればゲームみたいなものに聞こえてくる。なんともいえない気持ち悪さを感じるよ。

『それではお伝えることはしましたので、探索者の見習いの方々の育成、頼みましたわよ。せいぜい、あたしのダンジョンポイントの肥やしを育てて下さいませ。おほほほほほ』

 セイレーンさんはそう言うと、通話を切ってしまった。
 確かに、このままだと僕のダンジョンはセイレーンさんがポイントを稼ぐための踏み台にされてしまうだけだ。
 弱肉強食の世界だから、それはまあ仕方のないことなんだろうけど、実際に言われてしまうと釈然としないものだと思う。

「バトラー、今日はもう休むね。あとはよろしく」

「プリンセス? ……承知致しました、ゆっくりお休みください」

 なんだか気持ちが悶々としてきてしまったものだから、この日の僕は気を紛らわせるためにさっさと寝てしまうことにしたのだった。


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む SCENE066 ダンジョンのお悩み


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 その日の僕は暇を持て余していた。
 ダンジョンには衣織お姉さんもダンジョン管理局の人たちもやって来ない。
 ダンジョンマスターをしている以上は、ダンジョンから外にも出られないので、僕はただただ暇を持て余している状況だった。
「まったく、プリンセスはちょっとだらけすぎておりませぬか?」
 バトラーのお小言が飛んでくる。
「うん、分かっているよ。でも、こうもすべての時間が自由に使えるとなると、勉強にも身が入らないんだなって思ってね」
 僕は隠し部屋の方をじっと見つめる。この間持ってきてもらった勉強道具があの部屋の中には置かれているからだ。
 だけど、視線を向けた僕は、大きくため息をついて視線をダンジョンの外の方向へと向けた。
 その時だった。
 いきなり僕の携帯電話の着信音が鳴り始めた。
 一体誰からなんだろうか。
 液晶画面を見てみると、それはセイレーンさんからの着信だった。お互いに携帯電話を手にしてからというもの、時々こうやって連絡をやり取りするようになっていた。セイレーンさんもきっと暇なんだろうな。
「はい、ウィンクです」
 通話を押して、僕は電話に出る。
『ようやく出ましたわね。ウィンクさん、お話、よろしいかしら?』
「はい、いいですよ。僕のダンジョン、探索者の出入りを管理局が完全にコントロールしちゃっているので、誰も来なくて暇なんですよ」
『あらあら、それは大変ですわね。そんなことでポイント稼げますのかしら』
 僕が暇な理由を答えていると、セイレーンさんってば心配してくれちゃっている。ダンジョンマスターとはいっても、やっぱり交流がないと寂しいのかな。
「一応、僕は定期的に配信してますので、それでポイントは稼げていますね。さすがにセイレーンさんのように大きなポイントは稼げませんけれど、僕みたいな弱いマスターはそれでもいいと思うんです」
『まったく、向上心のないことですわね。まあ、あなたがそう仰られるのでしたら、それでもいいのでしょうけれど』
 セイレーンさんは、ずいぶんと僕のことを心配しているような言い方をしている気がする。
 とはいっても、探索者が入ってこない以上は、本当に配信でどうにかするわけしかない。ダンジョンの拡張をどうにかして行わないとなぁ。
『そうそう、あたしのダンジョンでは新たな取り組みを始めることにしましたわ』
「なにを始めるつもりなんですか?」
 セイレーンさんがいきなり楽しそうに話し始めたので、僕は思い切りそれに食いついてしまう。ちょうど暇で仕方なかったこともあるとはいえ、ちょっと過剰に反応し過ぎたかもしれない。
『聞いて驚きなさい。あたしのダンジョンも、探索者育成のために第一階層を育成用に開放しましたのよ』
「えっ、ええ?!」
 セイレーンさんの話に、僕はものすごく驚いてしまった。
「あ、でも、そうか……。セイレーンさんのダンジョンって、復活機能があるんだっけか」
 僕は、バトラーから聞いていた不死機能のことを思い出した。セイレーンさんのダンジョンでは、戦闘で死んでも罠で死んでも復活できるようになっているって話だったね。
『そうですわよ。ダンジョンのどこで死んでも、一階層の入口で復活できますからね。しばらくデバフがつきますけれど』
「あ、そうなんだ。復活してすぐ突撃できないんだ」
『そうですわね。本来なら死んだところで終わりですもの。復活できるからといって、あんまり無茶はして欲しくありませんもの。命あってこそですわ』
「意外と、セイレーンさんって優しいんですね」
『意外とではありませんわ。トップに立つ者、そのくらいの慈悲を持っていて当然というものですわよ』
 ああ、怒られちゃったや。
 でも、僕のイメージからするとモンスターって無慈悲なイメージしかないからなぁ。うん、やっぱり意外でしかないよ。
『そちらでダンジョンというものを体験した探索者たちを、あたしのダンジョンに実戦投入するというものですわ。実にいいシステムだと思いませんこと?』
「あ、うん。いいと思うよ」
 ちょっと気が逸れてしまっていたので、なんとも気の抜けた返事になってしまった。
『まったく、ちゃんと聞いて下さいませんこと?』
 うわぁ、ものすごく普通にばれてた。
 さすが、本物のダンジョンマスターっていうのは違うなぁ。
「こういうのって、大丈夫なのかな」
『何がですの? こちらの世界で何をしていようと、異界のダンジョン管理局には何も分かりませんわよ。あたしたちを競わせて、強い統治者を残すことくらいしか考えていませんもの』
「そうなんだ」
『このダンジョンシステムを作った連中からすれば、あたしたちのしていることなんて余興にすぎませんわ。でも、やるからにはどういう方法を使ってもトップに立ち続けてやりますわよ』
 セイレーンさんはものすごく気合いの入った感じで、僕に説明をしてくれていた。
 それにしても、こうやって聞いているとこのダンジョンというものは、異界にとってしてみればゲームみたいなものに聞こえてくる。なんともいえない気持ち悪さを感じるよ。
『それではお伝えることはしましたので、探索者の見習いの方々の育成、頼みましたわよ。せいぜい、あたしのダンジョンポイントの肥やしを育てて下さいませ。おほほほほほ』
 セイレーンさんはそう言うと、通話を切ってしまった。
 確かに、このままだと僕のダンジョンはセイレーンさんがポイントを稼ぐための踏み台にされてしまうだけだ。
 弱肉強食の世界だから、それはまあ仕方のないことなんだろうけど、実際に言われてしまうと釈然としないものだと思う。
「バトラー、今日はもう休むね。あとはよろしく」
「プリンセス? ……承知致しました、ゆっくりお休みください」
 なんだか気持ちが悶々としてきてしまったものだから、この日の僕は気を紛らわせるためにさっさと寝てしまうことにしたのだった。