第65話

ー/ー



「リリィ...リリィ...」

「うーん、私を呼ぶのは誰?」

「リリィ...lily...Lily...」

「誰なの?」

「百合!」

リリィー百合ーは、ハッとして目を覚ました。

周りの生徒がクスクス笑っている。
百合の目の前には、英語の先生が立っている。

「野原さん、Lilyは日本語で何と言いますか?」
百合は、頭をフル回転させて今の状況を理解しようとした。
ここは、学校だ。いまは英語の授業中。私は野原百合。高校生。

「野原さん?Lilyは日本語で?」
「ゆりです。」
「OK!正解です。」

先生は教壇に戻った。

百合は、全身に冷や汗をビッショリとかいていた。

周りの生徒は、まだクスクス笑っている。

百合は、赤くなって目を伏せた。

チャイムが鳴った。

「今日の授業はここまで。」

「起立」「礼」

昼休みになり、ガヤガヤと賑やかになる。同級生たちは、友達同士で連れ立って売店に行ったり、机を付けて一緒に弁当を広げたり...楽しそうだ。

百合は...独りきりだった。持ってきた弁当を蓋で隠しながら食べ始める。

「百合ちゃーん、今日も独りなのー?」
同級生のあかりだ。女子グループのリーダーで、百合に事あるごとにチョッカイを出してくる。
「あ、あかりちゃん。」
百合はか細い声で応える。心の奥では【私に構わないで!】と叫んでいる。
だが、その声は誰にも届かない。
「百合ちゃん、隠さないでお弁当見せてよ?」
あかりが無理やり百合の手から弁当箱を奪う。
「あかりちゃん、やめて...!」
「うわっ、気持ち悪い。今時キャラ弁?」
「返して。私のお弁当!」
あかりはニヤニヤしながら、百合の顔を覗き込んだ。そして、持っていた百合の弁当をひっくり返して床にぶち撒けた。
「私のお弁当...!!」
「ごめーん!手が滑っちゃった。床が汚れたから百合ちゃん、掃除しておいてね。」
「......」
百合は、黙って箒とちりとりを取りに行き、床を掃除した。
何で私はこんな事をしているんだろう?悔しくて涙が出そうだったが、涙はとっくに枯れ果てていた。
だだ黙々と床を綺麗に掃除した。

同級生たちは、その光景をただ笑って見ているだけで、何もしてくれない。
みんな、嫌いだ。
私が何をしたと言うのだ?
百合は、ただ悲しかった。


放課後。

百合は、いつも通り独りで帰り支度をして教室を出た。
下駄箱で靴を履き替えようとすると、中から沢山のゴミが出てきた。
またか...
いつものルーティン。
ゴミをゴミ箱に捨てて、周りの子に笑われるまでがセットだ。

靴を履き替えて、校庭に出る。

「ゆーりーちゃん!」

ドンッと背中を押されて前のめりに転んだ。

「ごめーん!百合。大丈夫?」
あかりが笑いながら言う。
百合の心配など微塵もしていない。

右手に妙な感触を感じた。柔らかくて生暖かい。そして、とても臭い。

「やだ!百合!それ、うんちじゃない!?」

百合の右手は、犬のフンの上にあった。慌てて手を引っ込めるが、べっとりとこびり付いている。嫌な感触だ。

「野原だけに野糞が似合うわね、百合。キャハハ!」
あかりが指でバツを作りながら嘲笑った。

百合は、黙って立ち上がると水飲み場まで行って手を洗った。洗っても洗っても、臭いが取れない。そんな気がした。ただただ悲しかった。

小学校の頃から、こんな事が続いている。百合は、ずっと独りだった。それももう慣れた。自分の感情は心の奥底にずっとしまったままだ。

でも、それも限界に近づこうとしていた。
数日前、ホームセンターでロープを買った。
使い道は一つしかない。
その夜、百合は計画を実行に移した。
いや、実行しようとしてロープの輪に首をかけたが、急に怖くなって止めたのだ。
その夜、百合は布団にくるまって泣き続けた。こんなに自分の体に涙が残っていたのかと思うほど泣き続けた。

もう、消えてしまいたい。

生きていても、きっといい事なんかない。

百合の中でとっくに何かの糸が切れていた。神様が居るのなら、早く私を天国に連れて行って欲しい。そればかり考えていた。

ボーっと考え事をしながら歩いているといつの間にか家に近づいている。
一匹の猫が百合の足元にいる事に気づいた。その猫は真っ黒で不気味だが人懐っこい。

「お前も独りなの?」
自分でも驚くような言葉が百合の口から溢れ出た。

黒猫は、そうだよ。とでも言うように百合の顔を見ると、急に走り出した。

「またね。」
百合は呟いた。

黒猫が飛び出した方を見ると、猛スピードでトラックが走って来ているのが視界に入った。

次の瞬間。

百合の足が無意識に動いていた。車道の真ん中で立ち止まっている黒猫を救い上げて、反対側の歩道に両手で投げた。

クラクションの音がして、

ドンッ!と言う音と、全身を引き裂くような痛みが百合を襲った。

痛い。私、死ぬのかな?でも、最後にあの子を救えて良かった。
百合は、遠のく意識の中で、そんな事を考えていた。

これで楽になれる。

友達、欲しかったな......

百合の視界が真っ白になり、暖かい光に包まれた。

来世では、幸せになりたいな.....

百合の意識は途切れ、ただ闇が残された。




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みんなのリアクション

「リリィ...リリィ...」
「うーん、私を呼ぶのは誰?」
「リリィ...lily...Lily...」
「誰なの?」
「百合!」
リリィー百合ーは、ハッとして目を覚ました。
周りの生徒がクスクス笑っている。
百合の目の前には、英語の先生が立っている。
「野原さん、Lilyは日本語で何と言いますか?」
百合は、頭をフル回転させて今の状況を理解しようとした。
ここは、学校だ。いまは英語の授業中。私は野原百合。高校生。
「野原さん?Lilyは日本語で?」
「ゆりです。」
「OK!正解です。」
先生は教壇に戻った。
百合は、全身に冷や汗をビッショリとかいていた。
周りの生徒は、まだクスクス笑っている。
百合は、赤くなって目を伏せた。
チャイムが鳴った。
「今日の授業はここまで。」
「起立」「礼」
昼休みになり、ガヤガヤと賑やかになる。同級生たちは、友達同士で連れ立って売店に行ったり、机を付けて一緒に弁当を広げたり...楽しそうだ。
百合は...独りきりだった。持ってきた弁当を蓋で隠しながら食べ始める。
「百合ちゃーん、今日も独りなのー?」
同級生のあかりだ。女子グループのリーダーで、百合に事あるごとにチョッカイを出してくる。
「あ、あかりちゃん。」
百合はか細い声で応える。心の奥では【私に構わないで!】と叫んでいる。
だが、その声は誰にも届かない。
「百合ちゃん、隠さないでお弁当見せてよ?」
あかりが無理やり百合の手から弁当箱を奪う。
「あかりちゃん、やめて...!」
「うわっ、気持ち悪い。今時キャラ弁?」
「返して。私のお弁当!」
あかりはニヤニヤしながら、百合の顔を覗き込んだ。そして、持っていた百合の弁当をひっくり返して床にぶち撒けた。
「私のお弁当...!!」
「ごめーん!手が滑っちゃった。床が汚れたから百合ちゃん、掃除しておいてね。」
「......」
百合は、黙って箒とちりとりを取りに行き、床を掃除した。
何で私はこんな事をしているんだろう?悔しくて涙が出そうだったが、涙はとっくに枯れ果てていた。
だだ黙々と床を綺麗に掃除した。
同級生たちは、その光景をただ笑って見ているだけで、何もしてくれない。
みんな、嫌いだ。
私が何をしたと言うのだ?
百合は、ただ悲しかった。
放課後。
百合は、いつも通り独りで帰り支度をして教室を出た。
下駄箱で靴を履き替えようとすると、中から沢山のゴミが出てきた。
またか...
いつものルーティン。
ゴミをゴミ箱に捨てて、周りの子に笑われるまでがセットだ。
靴を履き替えて、校庭に出る。
「ゆーりーちゃん!」
ドンッと背中を押されて前のめりに転んだ。
「ごめーん!百合。大丈夫?」
あかりが笑いながら言う。
百合の心配など微塵もしていない。
右手に妙な感触を感じた。柔らかくて生暖かい。そして、とても臭い。
「やだ!百合!それ、うんちじゃない!?」
百合の右手は、犬のフンの上にあった。慌てて手を引っ込めるが、べっとりとこびり付いている。嫌な感触だ。
「野原だけに野糞が似合うわね、百合。キャハハ!」
あかりが指でバツを作りながら嘲笑った。
百合は、黙って立ち上がると水飲み場まで行って手を洗った。洗っても洗っても、臭いが取れない。そんな気がした。ただただ悲しかった。
小学校の頃から、こんな事が続いている。百合は、ずっと独りだった。それももう慣れた。自分の感情は心の奥底にずっとしまったままだ。
でも、それも限界に近づこうとしていた。
数日前、ホームセンターでロープを買った。
使い道は一つしかない。
その夜、百合は計画を実行に移した。
いや、実行しようとしてロープの輪に首をかけたが、急に怖くなって止めたのだ。
その夜、百合は布団にくるまって泣き続けた。こんなに自分の体に涙が残っていたのかと思うほど泣き続けた。
もう、消えてしまいたい。
生きていても、きっといい事なんかない。
百合の中でとっくに何かの糸が切れていた。神様が居るのなら、早く私を天国に連れて行って欲しい。そればかり考えていた。
ボーっと考え事をしながら歩いているといつの間にか家に近づいている。
一匹の猫が百合の足元にいる事に気づいた。その猫は真っ黒で不気味だが人懐っこい。
「お前も独りなの?」
自分でも驚くような言葉が百合の口から溢れ出た。
黒猫は、そうだよ。とでも言うように百合の顔を見ると、急に走り出した。
「またね。」
百合は呟いた。
黒猫が飛び出した方を見ると、猛スピードでトラックが走って来ているのが視界に入った。
次の瞬間。
百合の足が無意識に動いていた。車道の真ん中で立ち止まっている黒猫を救い上げて、反対側の歩道に両手で投げた。
クラクションの音がして、
ドンッ!と言う音と、全身を引き裂くような痛みが百合を襲った。
痛い。私、死ぬのかな?でも、最後にあの子を救えて良かった。
百合は、遠のく意識の中で、そんな事を考えていた。
これで楽になれる。
友達、欲しかったな......
百合の視界が真っ白になり、暖かい光に包まれた。
来世では、幸せになりたいな.....
百合の意識は途切れ、ただ闇が残された。