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第24話_突き放し

ー/ー



「……っ」

喉がひくりと鳴るだけで、言葉にならない。
胸の奥がぎゅっと掴まれたように締めつけられ、息が浅く、速くなる。

(えっ……?帰るって……)

頭が追いつかない。

次の瞬間――
管理人は無言のまま一歩踏み出し、強引に燈の腕を掴んだ。

「さぁ来い。駅に戻って、お前を現世へ返す」

拒否を許さない力だった。
指が食い込み、骨がきしむ。

「い、痛いっ……!離してっ……!」

悲鳴に近い声を上げ、燈は反射的に身を引く。
床に足を踏ん張り、必死に腕を振りほどこうとするが――

掴まれた腕は、微動だにしない。

「燈、約束したよな?」

管理人の声が、すぐ耳元に落ちる。

「『私の言うことに逆らったら、無理やり現世へ返す』……文句はないな?」

その言葉が、胸を貫いた。

燈はバランスを崩しかけながらも、必死に声を絞り出す。

「私、まだ……ここにいたい……!」

か細く、震えた声だった。
だが、その一言に込めた思いは、紛れもなく本心だった。

その瞬間、ぎり、と。
掴む力がさらに強まる。

燈の視界が滲む。
痛みと恐怖と、置いていかれるかもしれないという焦燥が混ざり合う。

次の瞬間――

イナバが駆け寄り、管理人の腕に必死にしがみつく。

「もうやめて!!」

声が裏返る。

「あかりん嫌がってるでしょ!?そんな、無理やり連れていくなんて……!」

管理人は視線すら向けず、低く言い放つ。

「こいつは私との約束を違えた。それに対して適切な処置を加えているだけだ」

その声に、感情は含まれていなかった。

その時――
イナバの中で、何かが切れた。

パン、と乾いた音が店内に響く。

「……っ」

管理人の頬が、わずかに横を向いた。

「これで……すっきりした?」

イナバの声は震えていた。
怒りと、悲しみと、悔しさが混ざり合っている。

「さっきからおかしいよ、つきちゃん」

沈黙――

管理人はしばらく動かず、やがて小さく舌打ちをする。

「もういい……」

燈の腕を、乱暴に放した。

力が抜けた瞬間、燈はよろめき、数歩後ずさる。
掴まれていた部分がじんじんと熱を帯びていた。

「勝手にしろ」

吐き捨てるように言い、管理人は踵を返す。

「その代わり――」

足を止め、振り返らずに言葉を続ける。

「最後の約束だけ守れ」

「や、約束……?」

燈の声は、かすれていた。

「二度と駅に帰ってくるな」

淡々と、残酷な宣告。

「私の言うことを聞けない奴は……うちの駅にはいらない」

最後にそう言い残し、引き戸がガラッと乱暴に閉まった。

燈は、力が抜けたようにその場へ崩れ落ちる。

(駅に……帰ってくるな?)

胸が、ひどく痛む。

(それって、もう……つきちゃんと会えないってこと……?)

この世界でようやく見つけた、生きる意味。
選別を手伝い、隣に立つこと。
管理人を助けること。

それが、無慈悲にも奪われた。

「ちょっと待ってよ!つきちゃん!!」

イナバが叫び、管理人の後を追うように路地裏へ飛び出していく。

その背中を――
燈は追えなかった。

指先が震える。
立ち上がろうとしても、膝に力が入らない。

床を見つめ、ただ、自責と喪失感に押し潰されながら、動けずにいた。


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「……っ」
喉がひくりと鳴るだけで、言葉にならない。
胸の奥がぎゅっと掴まれたように締めつけられ、息が浅く、速くなる。
(えっ……?帰るって……)
頭が追いつかない。
次の瞬間――
管理人は無言のまま一歩踏み出し、強引に燈の腕を掴んだ。
「さぁ来い。駅に戻って、お前を現世へ返す」
拒否を許さない力だった。
指が食い込み、骨がきしむ。
「い、痛いっ……!離してっ……!」
悲鳴に近い声を上げ、燈は反射的に身を引く。
床に足を踏ん張り、必死に腕を振りほどこうとするが――
掴まれた腕は、微動だにしない。
「燈、約束したよな?」
管理人の声が、すぐ耳元に落ちる。
「『私の言うことに逆らったら、無理やり現世へ返す』……文句はないな?」
その言葉が、胸を貫いた。
燈はバランスを崩しかけながらも、必死に声を絞り出す。
「私、まだ……ここにいたい……!」
か細く、震えた声だった。
だが、その一言に込めた思いは、紛れもなく本心だった。
その瞬間、ぎり、と。
掴む力がさらに強まる。
燈の視界が滲む。
痛みと恐怖と、置いていかれるかもしれないという焦燥が混ざり合う。
次の瞬間――
イナバが駆け寄り、管理人の腕に必死にしがみつく。
「もうやめて!!」
声が裏返る。
「あかりん嫌がってるでしょ!?そんな、無理やり連れていくなんて……!」
管理人は視線すら向けず、低く言い放つ。
「こいつは私との約束を違えた。それに対して適切な処置を加えているだけだ」
その声に、感情は含まれていなかった。
その時――
イナバの中で、何かが切れた。
パン、と乾いた音が店内に響く。
「……っ」
管理人の頬が、わずかに横を向いた。
「これで……すっきりした?」
イナバの声は震えていた。
怒りと、悲しみと、悔しさが混ざり合っている。
「さっきからおかしいよ、つきちゃん」
沈黙――
管理人はしばらく動かず、やがて小さく舌打ちをする。
「もういい……」
燈の腕を、乱暴に放した。
力が抜けた瞬間、燈はよろめき、数歩後ずさる。
掴まれていた部分がじんじんと熱を帯びていた。
「勝手にしろ」
吐き捨てるように言い、管理人は踵を返す。
「その代わり――」
足を止め、振り返らずに言葉を続ける。
「最後の約束だけ守れ」
「や、約束……?」
燈の声は、かすれていた。
「二度と駅に帰ってくるな」
淡々と、残酷な宣告。
「私の言うことを聞けない奴は……うちの駅にはいらない」
最後にそう言い残し、引き戸がガラッと乱暴に閉まった。
燈は、力が抜けたようにその場へ崩れ落ちる。
(駅に……帰ってくるな?)
胸が、ひどく痛む。
(それって、もう……つきちゃんと会えないってこと……?)
この世界でようやく見つけた、生きる意味。
選別を手伝い、隣に立つこと。
管理人を助けること。
それが、無慈悲にも奪われた。
「ちょっと待ってよ!つきちゃん!!」
イナバが叫び、管理人の後を追うように路地裏へ飛び出していく。
その背中を――
燈は追えなかった。
指先が震える。
立ち上がろうとしても、膝に力が入らない。
床を見つめ、ただ、自責と喪失感に押し潰されながら、動けずにいた。