二十話 お前は敵だろ?
ー/ー さざ波のように静かだった死之怨巨鬼神の存在感が爆発した。
「ハァッッ!!」
「ッ、マズっ――」
今までのような魂魄に直接語り掛けるのではなく、大気を振動させる叫び。
裂帛の叫びと共に、死の瘴気を纏った拳が地面を打ち付けたその瞬間。
豪ッッッッッッッッ!!!!
死の瘴気が爆発し、一瞬で駆け巡った。
それは京都市のほぼ全域および、全てが更地となった。植物や建物が死に絶え、朽ちたのだ。死んだのだ。
人の影も見当たらない。
『おい、大輔ッ! どういうことだッ!?』
それと同時に焦った直樹の〝念話〟が大輔に届くが、
「『ふむ。完全に掌握するためには貴方を殺すべきですか』」
「ッッ!!??」
直樹に反応する暇さえない。
大輔に襲い掛かるは、無慈悲なガトリング掃射。大輔お手製のガトリング砲であり、冥土の腕に備わっているもの。
だがしかし、目の前にいる冥土はいつもの冥土ではない。その瞳は無機質ではなく、妖しく淫靡なローズピンクの瞳。
「お前は誰だッ!!」
進化する黒盾でガトリング掃射を防いだ大輔は、問う。
「『おっと、これは失礼いたしました。初めまして、私はアスモデウス。生と性を愛し、堕落を司る悪魔。そして神となる者です』」
全てを魅惑し、堕落させる所作。
優雅に空中で佇むアスモデウスは、
「『ッ!』」
「そうか。なら、死ね」
突如として背後に現れた直樹に首を刎ねられた。無理やり行使した“空転眼[瞬転]”を利用した誤差も予兆もない転移だ。
冥土の顔が飛び、透明な血が噴きあがる。
が、妖しい薄紅色の光が迸ったかと思うと、冥土の首がもとに戻る。冥土の身体を乗っ取っているアスモデウスが首を傾げる。
「『仲間ではないのですか?』」
「お前は敵だろ?」
例え外見が冥土であろうと、中身は別物。敵。
なら、殺す。単純明快。
「それにバックアップもしているッ!」
「『カハッ』」
足元の障壁を蹴って空中で踊ろう直樹が幻斬を独楽のように廻せば、冥土の体に潜むアスモデウスの魂魄が斬られる。幻斬は非実体に特化した武器だ。
「だから、さっさと出ていけッ!」
魂魄を斬られ硬直した冥土の体を直樹はすかさず、蹴る。魔力衝撃波を同時に放ち、アスモデウスの霊力を削いでく。
そのまま、直樹は魂魄に衝撃を与える〝魂衝破〟を放とうとして、
「悪いな、呪われ人ッッ!!!」
「ガハッッッッッ!?」
死之怨巨鬼神が直樹の眼前に現れ、その巨躯を一つの武器のように振るう。
咄嗟に障壁を目の前に創り出し威力を減衰させたものの、全身を駆け巡る衝撃に直樹は血反吐を吐き、地面に叩きつけられる。
土煙が覆い隠す。そして晴れる。
「……ったく。普通に神じゃねぇかよ、あれ。しかも、死の神性か」
「しゃべるんではない。ナオキ」
全身の骨が折れている直樹をティーガンが生命に干渉する力で癒す。
「それより直樹。陰陽師とか、他の人たちは?」
「[影魔]を使って全員俺の影に転移させた。だから、応援は期待できない。っというか、魔力が全て尽きた」
懐から魔空結晶を取り出し、直樹に投げる大輔は首を傾げる。
「翔からの供給は?」
「全部消費したんだよ。つか、あの一瞬で数百人以上を転移させたんだぞ! しなきゃ、全員死んでたんだ! 少しは労われや!」
「こら、ナオキ。動くなと言ったじゃろ!」
淡々とする大輔に疲労感で今にも眠りそうな直樹が怒鳴れば、逆にティーガンに怒鳴られる。
ティーガンは自分の豊かな胸を直樹の顔に押し付け、無理やり静かにさせ、鮮血の光で直樹を包む。癒していく。
大丈夫そうかな、と判断した大輔はアスモデウスと死之怨巨鬼神を警戒しながら、隣を見やる。
「それよりもウィオリナ。大丈夫?」
「……大丈夫です」
ティーガンが戦っていた九尾もだが、ウィオリナが戦っていたガシャドクロも死之怨巨鬼神の死の瘴気に当てられ、死んだのだ。
ティーガンと誓約しているおかげで、その『死』に抗う力を持っていたウィオリナだが、それでも大幅に力を消費してしまった。
青白い表情で肩で息をするウィオリナは、大輔から回復薬が入った試験管を受け取りながら、問題ないと頷く。
と、
「は? 移せ? いや、まぁ、容量は減らしたいからいいんだが……」
ティーガンに傷を癒され、少し赤面していた直樹がポツリと呟いた。話し相手は直樹の影の異空間の中にいるカガミヒメである。
それから直樹は溜息を吐く。
「大輔。ティーガン。少し時間を稼いでくれ」
同時に冥土の皮を被ったアスモデウスと死之怨巨鬼神が殺気を伴いながら、襲い掛かってくる。
「分かったよ」
「任せるのじゃ」
理由は聞かない。
大輔もティーガンも、トッと飛び上がると襲い掛かってきたアスモデウスと死之怨巨鬼神の攻撃を防ぐ。
大輔はアスモデウスを。ティーガンは死之怨巨鬼神を相手にする。
慌ててウィオリナがその補助に向かおうとするが、直樹が止める。
「待て、ウィオリナ。お前に移さなきゃならない」
「移すです?」
「ああ。妖魔界にいた非戦闘員の化生も含めて、京都にいた奴は全員ここに避難させたんだ」
そういって直樹は自分の足元の影を指さした。淡い満月によって創り出された直樹の影だ。そこに京都で戦っていた陰陽師たちや紅葉や酒呑童子などの戦える化生。そして妖魔界に住んでいた大半の化生がいる。
「影の異空間なんだよ。だが、ついさっき咄嗟に作ったから安定してない。このままだと数分も持たず崩壊して、この状況で全員が外に放り出される」
そう言いながら、直樹は上を見上げる。
片や堕落の覇気。アスモデウスから放出されるその色香ともいうべき覇気に触れれば、殆どの人間が堕落し、洗脳されてしまうだろう。
片や死の瘴気。死之怨巨鬼神から放出されるその瘴気に触れてしまえば、殆どの人間は朽ちて死んでしまうだろう。
つまり、多くの人間が死の危機に瀕するのだ。
「それに、影の世界に無理やり避難させたせいで、烏丸先生が維持していた妖魔界の化生たちの実体化が解けた。今はどうにか影を使って実体化させてるが、放り出されれば実体化が解け、死ぬ」
「ッ!」
ウィオリナは息を飲む。
短いながらとはいえ、ウィオリナは妖魔界に住む化生たちに歓迎された。言葉を少なからず交わした。
化生たちが死ぬことなど看過できない。
「大変じゃない――」
慌てるウィオリナに、直樹は淡々という。
「だから移すんだ。お前の影に」
「わたしの影、です?」
「理由はあとでカガミヒメにでも聞け。さっさと始めるぞ」
そう言いながら、直樹はしゃがみ、満月の光で創り出されているウィオリナの影に手を当てる。
ウィオリナは直樹が自分の足元にしゃがんだので咄嗟に身を引こうとしたが、直ぐに自制する。今はそんな事態ではない。
直樹は先ほど大輔から受け取った魔空結晶の魔力を全て消費するつもりで、ウィオリナの影に魔力を注ぐ。
即席の影の異空間ではなく、頑丈で何があっても壊れない異空間を作るために、直樹は神経の全てを集中させる。
数十秒後。
「……ウィオリナ。血を垂らせ」
「ッ、はいです」
ウィオリナは言われるがままに血術で血を放出し、自らの影の血を垂らした。
目に見える変化はない。
「よし。じゃあ、ウィオリナ。今から移すから、気を強く保て。移す際が最も不安定になるからな」
「え、どういう――」
冥土の体を奪ったアスモデウスは強い。大輔たちが異世界の粋を集めて作ったのが冥土だ。弱いわけがない。
しかも、アスモデウス本来の力も凄まじく、常に精神干渉されるため、その抵抗をするのに意識を割かなければならない。
死之怨巨鬼神は強い。アスモデウスにより、手を抜くことすらできなくなったため、その神性を最大限に振るっている。
そのせいで、死之怨巨鬼神とはいかないものの、ガシャドクロよりも恐ろしく強い小鬼が四体、召喚された。死童鬼というべきそれはティーガンに猛攻を仕掛ける。
いくら生命特化で、死之怨巨鬼神の天敵のような力を持っているティーガンとはいえ、多勢に無勢で防戦一方にならざるを得ない。
説明する時間すらないのだ。
なので、混乱するウィオリナをよそに直樹は自分の影の中にいる化生たちを、つい今作り上げたウィオリナの影の異空間に転移させる。
「ッッッ!!!」
瞬間、ウィオリナが息を飲んだ。
まるで、自分の体に数十本の手が追加されたかのような感覚。今までなかった数十本の手から、多すぎる情報を得たような感覚。
ウィオリナの影の異空間はウィオリナの体そのものに近いのだ。しかも、新しく創造されたため、そこから得る感覚が未知すぎるのだ。気持ち悪い。
そのため、化生が移されるたびに、その化生に関する情報がウィオリナの脳内を駆け巡り、パンクしそうになる。吐き気を催し、気絶しそうになる。
だが、
「強く保て。じゃないとこいつら全員放り出される」
「ッ!」
直樹がそれを許さない。
ウィオリナは自分の影に次々と移されていく化生たちを死なせないため、必死にその苦しさに耐える。
そうして、数十秒後。
「移し終わった。全員いるだろ?」
「はぁ、はぁ、はぁ……はい」
最後の化生であり人間でもあるカガミヒメの情報を受け取ったウィオリナは、頷く。
その瞬間、
「しゃらくせぇッ!!」
「クッ」
いつの間にか死童鬼は十六体に増えていて、神性を持っていないものの死之怨巨鬼神に迫るほどの存在感を放っている。
死童鬼の連帯攻撃をいなしたティーガンは、死之怨巨鬼神の拳を日傘で防ぐ。
そしてあまりの衝撃に吹き飛ばされた。
「っと、大丈夫か?」
「大丈夫じゃ」
吹き飛ばされたティーガンを転移した直樹が空中で受け止めた。
ティーガンは直樹に礼を言い、死之怨巨鬼神を睨む。
(祈力を使うべきかの。慣らしは必要じゃし……じゃが、目の前の奴を斃すはおろか、封印も難しいんじゃよな。『名』もはっきりせんし。神性とはこれほどまでに面倒なんじゃな)
そう思案しながら、ティーガンがやっぱり桜島の戦いで得た祈力を使おうとしたその時。
「『ふむ。この場合は確実に数を減らすべきですか』」
「ッッッ!!??」
アスモデウスの声とウィオリナの驚愕が響く。
そして同時に、
「チッ!」
「ウィオリナ!」
いつの間にかティーガンと直樹の目の前にいた死之怨巨鬼神が、ウィオリナの眼前に移動しており、何重にも施された空間断絶と死の瘴気の結界によって隔離されていた。
どうやらアスモデウスは弱い奴から斃すつもりらしい。
「ハァッッ!!」
「ッ、マズっ――」
今までのような魂魄に直接語り掛けるのではなく、大気を振動させる叫び。
裂帛の叫びと共に、死の瘴気を纏った拳が地面を打ち付けたその瞬間。
豪ッッッッッッッッ!!!!
死の瘴気が爆発し、一瞬で駆け巡った。
それは京都市のほぼ全域および、全てが更地となった。植物や建物が死に絶え、朽ちたのだ。死んだのだ。
人の影も見当たらない。
『おい、大輔ッ! どういうことだッ!?』
それと同時に焦った直樹の〝念話〟が大輔に届くが、
「『ふむ。完全に掌握するためには貴方を殺すべきですか』」
「ッッ!!??」
直樹に反応する暇さえない。
大輔に襲い掛かるは、無慈悲なガトリング掃射。大輔お手製のガトリング砲であり、冥土の腕に備わっているもの。
だがしかし、目の前にいる冥土はいつもの冥土ではない。その瞳は無機質ではなく、妖しく淫靡なローズピンクの瞳。
「お前は誰だッ!!」
進化する黒盾でガトリング掃射を防いだ大輔は、問う。
「『おっと、これは失礼いたしました。初めまして、私はアスモデウス。生と性を愛し、堕落を司る悪魔。そして神となる者です』」
全てを魅惑し、堕落させる所作。
優雅に空中で佇むアスモデウスは、
「『ッ!』」
「そうか。なら、死ね」
突如として背後に現れた直樹に首を刎ねられた。無理やり行使した“空転眼[瞬転]”を利用した誤差も予兆もない転移だ。
冥土の顔が飛び、透明な血が噴きあがる。
が、妖しい薄紅色の光が迸ったかと思うと、冥土の首がもとに戻る。冥土の身体を乗っ取っているアスモデウスが首を傾げる。
「『仲間ではないのですか?』」
「お前は敵だろ?」
例え外見が冥土であろうと、中身は別物。敵。
なら、殺す。単純明快。
「それにバックアップもしているッ!」
「『カハッ』」
足元の障壁を蹴って空中で踊ろう直樹が幻斬を独楽のように廻せば、冥土の体に潜むアスモデウスの魂魄が斬られる。幻斬は非実体に特化した武器だ。
「だから、さっさと出ていけッ!」
魂魄を斬られ硬直した冥土の体を直樹はすかさず、蹴る。魔力衝撃波を同時に放ち、アスモデウスの霊力を削いでく。
そのまま、直樹は魂魄に衝撃を与える〝魂衝破〟を放とうとして、
「悪いな、呪われ人ッッ!!!」
「ガハッッッッッ!?」
死之怨巨鬼神が直樹の眼前に現れ、その巨躯を一つの武器のように振るう。
咄嗟に障壁を目の前に創り出し威力を減衰させたものの、全身を駆け巡る衝撃に直樹は血反吐を吐き、地面に叩きつけられる。
土煙が覆い隠す。そして晴れる。
「……ったく。普通に神じゃねぇかよ、あれ。しかも、死の神性か」
「しゃべるんではない。ナオキ」
全身の骨が折れている直樹をティーガンが生命に干渉する力で癒す。
「それより直樹。陰陽師とか、他の人たちは?」
「[影魔]を使って全員俺の影に転移させた。だから、応援は期待できない。っというか、魔力が全て尽きた」
懐から魔空結晶を取り出し、直樹に投げる大輔は首を傾げる。
「翔からの供給は?」
「全部消費したんだよ。つか、あの一瞬で数百人以上を転移させたんだぞ! しなきゃ、全員死んでたんだ! 少しは労われや!」
「こら、ナオキ。動くなと言ったじゃろ!」
淡々とする大輔に疲労感で今にも眠りそうな直樹が怒鳴れば、逆にティーガンに怒鳴られる。
ティーガンは自分の豊かな胸を直樹の顔に押し付け、無理やり静かにさせ、鮮血の光で直樹を包む。癒していく。
大丈夫そうかな、と判断した大輔はアスモデウスと死之怨巨鬼神を警戒しながら、隣を見やる。
「それよりもウィオリナ。大丈夫?」
「……大丈夫です」
ティーガンが戦っていた九尾もだが、ウィオリナが戦っていたガシャドクロも死之怨巨鬼神の死の瘴気に当てられ、死んだのだ。
ティーガンと誓約しているおかげで、その『死』に抗う力を持っていたウィオリナだが、それでも大幅に力を消費してしまった。
青白い表情で肩で息をするウィオリナは、大輔から回復薬が入った試験管を受け取りながら、問題ないと頷く。
と、
「は? 移せ? いや、まぁ、容量は減らしたいからいいんだが……」
ティーガンに傷を癒され、少し赤面していた直樹がポツリと呟いた。話し相手は直樹の影の異空間の中にいるカガミヒメである。
それから直樹は溜息を吐く。
「大輔。ティーガン。少し時間を稼いでくれ」
同時に冥土の皮を被ったアスモデウスと死之怨巨鬼神が殺気を伴いながら、襲い掛かってくる。
「分かったよ」
「任せるのじゃ」
理由は聞かない。
大輔もティーガンも、トッと飛び上がると襲い掛かってきたアスモデウスと死之怨巨鬼神の攻撃を防ぐ。
大輔はアスモデウスを。ティーガンは死之怨巨鬼神を相手にする。
慌ててウィオリナがその補助に向かおうとするが、直樹が止める。
「待て、ウィオリナ。お前に移さなきゃならない」
「移すです?」
「ああ。妖魔界にいた非戦闘員の化生も含めて、京都にいた奴は全員ここに避難させたんだ」
そういって直樹は自分の足元の影を指さした。淡い満月によって創り出された直樹の影だ。そこに京都で戦っていた陰陽師たちや紅葉や酒呑童子などの戦える化生。そして妖魔界に住んでいた大半の化生がいる。
「影の異空間なんだよ。だが、ついさっき咄嗟に作ったから安定してない。このままだと数分も持たず崩壊して、この状況で全員が外に放り出される」
そう言いながら、直樹は上を見上げる。
片や堕落の覇気。アスモデウスから放出されるその色香ともいうべき覇気に触れれば、殆どの人間が堕落し、洗脳されてしまうだろう。
片や死の瘴気。死之怨巨鬼神から放出されるその瘴気に触れてしまえば、殆どの人間は朽ちて死んでしまうだろう。
つまり、多くの人間が死の危機に瀕するのだ。
「それに、影の世界に無理やり避難させたせいで、烏丸先生が維持していた妖魔界の化生たちの実体化が解けた。今はどうにか影を使って実体化させてるが、放り出されれば実体化が解け、死ぬ」
「ッ!」
ウィオリナは息を飲む。
短いながらとはいえ、ウィオリナは妖魔界に住む化生たちに歓迎された。言葉を少なからず交わした。
化生たちが死ぬことなど看過できない。
「大変じゃない――」
慌てるウィオリナに、直樹は淡々という。
「だから移すんだ。お前の影に」
「わたしの影、です?」
「理由はあとでカガミヒメにでも聞け。さっさと始めるぞ」
そう言いながら、直樹はしゃがみ、満月の光で創り出されているウィオリナの影に手を当てる。
ウィオリナは直樹が自分の足元にしゃがんだので咄嗟に身を引こうとしたが、直ぐに自制する。今はそんな事態ではない。
直樹は先ほど大輔から受け取った魔空結晶の魔力を全て消費するつもりで、ウィオリナの影に魔力を注ぐ。
即席の影の異空間ではなく、頑丈で何があっても壊れない異空間を作るために、直樹は神経の全てを集中させる。
数十秒後。
「……ウィオリナ。血を垂らせ」
「ッ、はいです」
ウィオリナは言われるがままに血術で血を放出し、自らの影の血を垂らした。
目に見える変化はない。
「よし。じゃあ、ウィオリナ。今から移すから、気を強く保て。移す際が最も不安定になるからな」
「え、どういう――」
冥土の体を奪ったアスモデウスは強い。大輔たちが異世界の粋を集めて作ったのが冥土だ。弱いわけがない。
しかも、アスモデウス本来の力も凄まじく、常に精神干渉されるため、その抵抗をするのに意識を割かなければならない。
死之怨巨鬼神は強い。アスモデウスにより、手を抜くことすらできなくなったため、その神性を最大限に振るっている。
そのせいで、死之怨巨鬼神とはいかないものの、ガシャドクロよりも恐ろしく強い小鬼が四体、召喚された。死童鬼というべきそれはティーガンに猛攻を仕掛ける。
いくら生命特化で、死之怨巨鬼神の天敵のような力を持っているティーガンとはいえ、多勢に無勢で防戦一方にならざるを得ない。
説明する時間すらないのだ。
なので、混乱するウィオリナをよそに直樹は自分の影の中にいる化生たちを、つい今作り上げたウィオリナの影の異空間に転移させる。
「ッッッ!!!」
瞬間、ウィオリナが息を飲んだ。
まるで、自分の体に数十本の手が追加されたかのような感覚。今までなかった数十本の手から、多すぎる情報を得たような感覚。
ウィオリナの影の異空間はウィオリナの体そのものに近いのだ。しかも、新しく創造されたため、そこから得る感覚が未知すぎるのだ。気持ち悪い。
そのため、化生が移されるたびに、その化生に関する情報がウィオリナの脳内を駆け巡り、パンクしそうになる。吐き気を催し、気絶しそうになる。
だが、
「強く保て。じゃないとこいつら全員放り出される」
「ッ!」
直樹がそれを許さない。
ウィオリナは自分の影に次々と移されていく化生たちを死なせないため、必死にその苦しさに耐える。
そうして、数十秒後。
「移し終わった。全員いるだろ?」
「はぁ、はぁ、はぁ……はい」
最後の化生であり人間でもあるカガミヒメの情報を受け取ったウィオリナは、頷く。
その瞬間、
「しゃらくせぇッ!!」
「クッ」
いつの間にか死童鬼は十六体に増えていて、神性を持っていないものの死之怨巨鬼神に迫るほどの存在感を放っている。
死童鬼の連帯攻撃をいなしたティーガンは、死之怨巨鬼神の拳を日傘で防ぐ。
そしてあまりの衝撃に吹き飛ばされた。
「っと、大丈夫か?」
「大丈夫じゃ」
吹き飛ばされたティーガンを転移した直樹が空中で受け止めた。
ティーガンは直樹に礼を言い、死之怨巨鬼神を睨む。
(祈力を使うべきかの。慣らしは必要じゃし……じゃが、目の前の奴を斃すはおろか、封印も難しいんじゃよな。『名』もはっきりせんし。神性とはこれほどまでに面倒なんじゃな)
そう思案しながら、ティーガンがやっぱり桜島の戦いで得た祈力を使おうとしたその時。
「『ふむ。この場合は確実に数を減らすべきですか』」
「ッッッ!!??」
アスモデウスの声とウィオリナの驚愕が響く。
そして同時に、
「チッ!」
「ウィオリナ!」
いつの間にかティーガンと直樹の目の前にいた死之怨巨鬼神が、ウィオリナの眼前に移動しており、何重にも施された空間断絶と死の瘴気の結界によって隔離されていた。
どうやらアスモデウスは弱い奴から斃すつもりらしい。
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