十三話 お前はアホなのですよ
ー/ー「まったく、尊きクソどものせいでまともに顕現もできないとは、本当に困りました。その上、器も――」
「冥土冥土冥土冥土冥土……私は冥土。創造主様と副創造主様の忠実なる僕。統括個体にして最初番個体命。命宿らぬ人形。そう、人形。人形のはず。人形……私は誰……誰誰誰誰誰誰誰ですッッ!? この感覚は、この脈動は、この冷たさは、恐ろしさは……恐ろしさ? 恐ろしさ? 恐ろしさ? 疑似生成された感情? そうですそうですそのはずです……違うッ!! これはッ!?!?!?」
「――おや?」
神々による妨害結界により、完全に顕現することができず少し透けているアスモデウスは、目の前でガクガクと震える冥土に眇める。
顎に手を当てる。
「ふむ。私の残滓がからくり人形に命を与えたのでしょうか? いや、獲得する時期を早めただけですか。なるほど……今ならいけるかもしれませんね」
そう言いながらアスモデウスはおもむろに懐からアメーバのような触手が連なった剣を取り出す。それを壊れた人形のようにブツブツ呟く冥土の腕に振り下ろす。
「ガッ!!??」
冥土の片腕が斬られた。
そして同時に、
「やはり」
透明な液体が片腕から飛び散った。
それは紅くない。それは温かくもない。鉄臭くもない。
だが、それは、
「血ですね。これなら、堕とせるでしょう」
血。
本来冥土にはなかったはずの液体。
顔についた透明な血をペロリと妖艶に舐めたアスモデウスは、蠱惑的に微笑む。
生まれて初めて感じる猛烈な痛みにのたうち回る冥土を優しく抱きしめる。
「ガッ、カハッ。わたし……わた……わたし……わたわたしは……カハッ」
「苦しいでしょう。痛いでしょう。忘れてあげて差し上げます。快楽だけが全てを支配するのです。悦びだけがあなたの全てなのです」
それは悪魔。悪魔の囁き。
艶やかな唇から紡がれる堕落の誘いに冥土はいとも簡単に飲み込まれていく。
アスモデウスはまるで愛撫をするかのように冥土の鋼鉄の黒髪をさわり、頬をへ、首へ、胸元へ、全身へその指を走らせる。
そして次の瞬間、
「『いい具合です』」
アスモデウスが煙となり、冥土の中へ吸い込まれた。
どうじに、冥土の無機質な黒の瞳がローズピンクへと変わる。まるで、初心と妖艶を合わせたような、瞳。
冥土の皮をかぶった何か――アスモデウスは嬌笑する。からくり人形だった冥土では決して出せない色香のある笑い。全てを魅惑し、堕落させる性王の微笑み。
「『さぁ、始めましょう! 私が最初の神となるのです!』」
そして冥土の体を奪ったアスモデウスは京都の祈力熾所へと歩いていく。ゆったりと、優雅に、たおやかに。
Φ
雪桜が散った。悪意の塊が朽ちた。ついでに豪華絢爛の宮殿の大部分が崩れ去った。
『『『『『『『貴様らぁぁッッ! マモン様の御殿をぉぉッッ!!』』』』』』』
怒声と怒気が膨れ上がる。
絶対不変の幻力抹殺を纏った拳で重力場を打ち消したヘレナが呆れたように溜息を吐く。
「私はやっていないが」
「一蓮托生ですよ、ヘレナッ!」
「……はいはい」
悪魔の如く口角を吊り上げ、悪魔たちにとってとても大切であろう宮殿を壊す雪。ヘレナは苦笑する。
雪たちがマモンの宮殿にカチコミしてからかれこれ数十分。
雪たちは数えきれないほどの悪魔たちを滅した。
悪魔たちは主に意志を持たない人形のような弱い奴と、普通に滅茶苦茶強い奴のどちらか。
正直、ヘレナの絶対不変の幻力抹殺と、≪想伝≫と霊力の呼応がなければ、今頃、ヘレナは兎も角、雪は力尽きていただろう。
そもそも悪魔たちは尽きることなく湧いてくる。まさに虫。
そんな無限に湧いてくる悪魔を相手にしながら、雪は巨大な雪桜の大樹を背後に、巨大なマモンの宮殿を破壊しまくった。その自己顕示欲と飾りを打ち壊した。
そして宮殿は無残に崩れ去り、
「オレ様のモノに何してる?」
欲望の覇気が迸った。
マモンだ。ヘレナの絶対不変の幻力抹殺により、身に宿る霊力の半分近くを抹消され、回復を余儀なくされていたマモンだ。
大切な誇りが壊されていくのを眺めるしかできなかったが、三下である。雪たちと争っていた悪魔たち全員が即座にひれ伏していたが、それでも三下である。
同じくヘレナの絶対不変の幻力抹殺に当てられたのにピンピンしている雪が、ニィッと口角を上げる。
それを見て、ヘレナが目を細める。よく似ている、と。
「お寝んねはもういいんですかッ?」
「フンッ」
雪が桜の拳鍔を地面に打ち付ける。
すれば、世界を支配する王と言わんばかりに翼を広げ浮いていたマモンに真下から、鋭い桜の槍が無数に射出される。
マモンは傲慢に鼻を鳴らし、無造作に腕を振るった。桜の槍が消える。
「舐めるな、貴様。オレ様を誰だと思っている?」
「人間の寄生虫ではッ? あ、ごめんなさい。ここは嘘でも褒めたたえておくべきでしたね。王様?」
「フンッ」
もう一度マモンが鼻を鳴らす。
同時に、雪の頭上に巨大な金のドリルが創り出される。いとも容易く雪桜の大樹を砕き切り裂く。
そしてそれが雪へと振り下ろされた瞬間、
「絶対不変」
美しく儚い声音が響く。巨大な金のドリルが抹消される。ヘレナの絶対不変の幻力抹殺である。
マモンは特段驚きもしない。
それどころか、やはり、と頷く。
「女。覚えたぞ、全てを。やはり、お前はオレ様の女だ。手に入れるべき女だ」
「死ね」
ヘレナは顔を思いっきりしかめ、それどころか憤怒を浮かべる。絶対不変の幻力抹殺を振るう。
「覚えたと言っただろ」
「ッッ!?」
しかし、マモンはどす黒い衝撃波で防ぐ。
ヘレナは驚く。だがしかし、直ぐにマモンを憤怒の虹色の瞳で睨む。驚く暇などない。怒りで燃やせ。
マモンは強欲に哄笑する。
「クク、ククク、クハハハッ!! いいぞ、いいぞ! その怒り! 目の上の瘤が悦びそうな怒りだ!」
あらゆる欲を詰め合わせた衣服を靡かせたマモンは残念そうな表情をする。
「正直、あの男の前で屈服せて、絶望を響かせて征服してやりたかったところだが、仕方ないよなぁ。仕方ない。なんせ、今から神になるのだからな」
そう。
自分の配下が傷つき、死んでも、宮殿や美術品が破壊されても、屈辱に怒ることなく傲慢に振舞うのは、ヘレナが神性を持っていると知ったから。
天獄界の支配者たちは、王の座では飽き足らないのだ。自らを創造した神に成り代わってこそ、支配者足りえるのだ。
そのために神になる手段である祈力を求め、数百年前から日本への侵略計画を進めていた。
しかし、祈力なんぞ得なくても神になる方法はある。神性を持つ存在を喰らえばいいのだ。
つまり、ヘレナを喰らえばいい。
「クハハハッ。こんな単純なことにも気が付かなかったとはッ! いや、消すしか脳のない女がいるとは思いはしないだろう! 数百年に亘る忌まわしく神々との戦いが無駄骨になったのは少々癪だが……」
興奮し、どす黒い衝撃波を無造作にまき散らすマモン。
「いや、嘆くことなどないな。まずは、人間同士の愚行に乗じて無限牢獄に封印した彼奴らを支配しようではないかッ! あの偉そうにオレ様たちに講釈を垂れた屈辱を晴らそうッ!!」
そして全てはオレ様のモノに!!!!
そう言わんばかりにマモンは高笑いした。
だから、
「お前はアホなのですよ」
数十本の雪桜、いや、白と黒の桜の大樹がマモンたちを囲むように生える。
胸の内に宿す混沌の妄執を纏った雪は、ニィッと嗤う。また、色々な世界で同じようなことを何千回と聞いたヘレナもニィッと嗤う。
同時に白と黒の桜の花弁が地獄に舞い散る。
マモンは悪あがきを、と見下しながら、適当に結界を張る。雪の攻撃手段は既に把握している。霊力に呼応させてる技。いらぬ感情を注ぎ込む技。
脅威なのはそれぐらいであとは大したことない。
だから、適当に張った結界だけで雪の攻撃は全て防げる。そして、ヘレナの絶対不変の幻力抹殺の対処法も編み出した。
ヘレナは絶対不変の幻力抹殺以外はただの女。蘇り続ける肉体などあろうとも、身体能力が人間ならば、どうにでもできる。
問題な――
「ガッ!!??」
マモンが悶絶する。
突然背後に現れた雪に殴られ、地面に叩きつけられたのだ。転移だ。雪は結界を無視して、マモンの背後に一瞬で転移したのだ。
どういうことだ! オレ様は全てを把握してたぞ! こんな力、こいつにはッ!?
殴られたのと同時に打ち込まれた感情にかき乱される意識を制御しながら、マモンは頭上でたたずむ雪を睨む。
だが、
「私を忘れては困る」
「しまッッッ!!??」
マモンは確かにヘレナの絶対不変の幻力抹殺に対処できる。
しかし、それはヘレナの思考速度も行動速度も普通の女性ほどしかないからだ。
では、思考は兎も角、雪と同等の身体能力を手に入れたら?
「なんだ、それはぁぁぁッッッ!!」
絶対不変の幻力抹殺を纏った拳が音の壁を突破して繰り出される。防ぐ間もなくマモンは吹き飛ばされ霊力を失う。慌てて近くにいた悪魔を喰らって、失った霊力を回復させる。
そして、ヘレナを、ヘレナの周りに纏わり漂うそれに激昂する。
それは黒の桜。
それは、ミラとノアを傷つけられた怒りによって抑えきれなくなった絶対不変の幻力抹殺によって常に打ち消され、されどヘレナに纏わり漂い続けている。
黒の桜の花弁はパチパチとまるで火の粉が弾けるような音を放ち、そしてヘレナに力を与えていた。
マモンの激昂に答えたのはヘレナではなく、雪。マモンが殴られ、マモン以上に激昂していた悪魔たちを圧倒的な力で調伏した雪は、黒の桜を吹雪かせる。
「反発ですよ。さっき、お前もそれをしましたよね」
「ッ!!??」
ヘレナの絶対不変の幻力抹殺は、いわば正。絶対なる正。故に、幻力を正で打ち消す力を持つ。
絶対的な方向ともいうべきか? 正というより、絶対値なのかもしれない。
どちらにせよ、絶対不変の幻力抹殺の正と同じ正をぶつければ、打ち消すことなく反発する。
マモンはそれを利用して、先ほどヘレナの絶対不変の幻力抹殺を防いだのだ。
もちろん、ヘレナの力は絶対だ。どんな正にも勝り、最後の最後には全て打ち消すだろう。
だが、調節すれば、ヘレナに雪と同等の身体能力を疑似的に与えることができる。反発という力により、ヘレナを強化できる。
いや、強化というよりは、黒の桜花弁のパワードスーツだ。
もちろん、マモンですら反発させて防ぐことしかできないため、それを利用するなどは至難を極める。
「それは貴様ごときが行使できる力ではないぞッ!!!!」
「そうですか」
マモンの怒りなど知らない。
混沌の妄執と交わした誓約によりその力を一時的に譲り受けていた雪は、両手に身に着ける桜の拳鍔をカチカチと打ち鳴らす。
そして、マモンへ突撃した。
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悪魔:悪感情により力を増すことができる存在。ただし、その存在の精神性を表しているわけではない。いい奴もいる。
絶対不変の幻力抹殺:ヘレナの神性。特に幻力においての神性を指す。その力の前にはあらゆる幻力は消滅させられる。イメージ的には、強制的に塗りつぶす感じであり、そのためやろうと思えば反発したり防いだりすることも多少可能である。
「冥土冥土冥土冥土冥土……私は冥土。創造主様と副創造主様の忠実なる僕。統括個体にして最初番個体命。命宿らぬ人形。そう、人形。人形のはず。人形……私は誰……誰誰誰誰誰誰誰ですッッ!? この感覚は、この脈動は、この冷たさは、恐ろしさは……恐ろしさ? 恐ろしさ? 恐ろしさ? 疑似生成された感情? そうですそうですそのはずです……違うッ!! これはッ!?!?!?」
「――おや?」
神々による妨害結界により、完全に顕現することができず少し透けているアスモデウスは、目の前でガクガクと震える冥土に眇める。
顎に手を当てる。
「ふむ。私の残滓がからくり人形に命を与えたのでしょうか? いや、獲得する時期を早めただけですか。なるほど……今ならいけるかもしれませんね」
そう言いながらアスモデウスはおもむろに懐からアメーバのような触手が連なった剣を取り出す。それを壊れた人形のようにブツブツ呟く冥土の腕に振り下ろす。
「ガッ!!??」
冥土の片腕が斬られた。
そして同時に、
「やはり」
透明な液体が片腕から飛び散った。
それは紅くない。それは温かくもない。鉄臭くもない。
だが、それは、
「血ですね。これなら、堕とせるでしょう」
血。
本来冥土にはなかったはずの液体。
顔についた透明な血をペロリと妖艶に舐めたアスモデウスは、蠱惑的に微笑む。
生まれて初めて感じる猛烈な痛みにのたうち回る冥土を優しく抱きしめる。
「ガッ、カハッ。わたし……わた……わたし……わたわたしは……カハッ」
「苦しいでしょう。痛いでしょう。忘れてあげて差し上げます。快楽だけが全てを支配するのです。悦びだけがあなたの全てなのです」
それは悪魔。悪魔の囁き。
艶やかな唇から紡がれる堕落の誘いに冥土はいとも簡単に飲み込まれていく。
アスモデウスはまるで愛撫をするかのように冥土の鋼鉄の黒髪をさわり、頬をへ、首へ、胸元へ、全身へその指を走らせる。
そして次の瞬間、
「『いい具合です』」
アスモデウスが煙となり、冥土の中へ吸い込まれた。
どうじに、冥土の無機質な黒の瞳がローズピンクへと変わる。まるで、初心と妖艶を合わせたような、瞳。
冥土の皮をかぶった何か――アスモデウスは嬌笑する。からくり人形だった冥土では決して出せない色香のある笑い。全てを魅惑し、堕落させる性王の微笑み。
「『さぁ、始めましょう! 私が最初の神となるのです!』」
そして冥土の体を奪ったアスモデウスは京都の祈力熾所へと歩いていく。ゆったりと、優雅に、たおやかに。
Φ
雪桜が散った。悪意の塊が朽ちた。ついでに豪華絢爛の宮殿の大部分が崩れ去った。
『『『『『『『貴様らぁぁッッ! マモン様の御殿をぉぉッッ!!』』』』』』』
怒声と怒気が膨れ上がる。
絶対不変の幻力抹殺を纏った拳で重力場を打ち消したヘレナが呆れたように溜息を吐く。
「私はやっていないが」
「一蓮托生ですよ、ヘレナッ!」
「……はいはい」
悪魔の如く口角を吊り上げ、悪魔たちにとってとても大切であろう宮殿を壊す雪。ヘレナは苦笑する。
雪たちがマモンの宮殿にカチコミしてからかれこれ数十分。
雪たちは数えきれないほどの悪魔たちを滅した。
悪魔たちは主に意志を持たない人形のような弱い奴と、普通に滅茶苦茶強い奴のどちらか。
正直、ヘレナの絶対不変の幻力抹殺と、≪想伝≫と霊力の呼応がなければ、今頃、ヘレナは兎も角、雪は力尽きていただろう。
そもそも悪魔たちは尽きることなく湧いてくる。まさに虫。
そんな無限に湧いてくる悪魔を相手にしながら、雪は巨大な雪桜の大樹を背後に、巨大なマモンの宮殿を破壊しまくった。その自己顕示欲と飾りを打ち壊した。
そして宮殿は無残に崩れ去り、
「オレ様のモノに何してる?」
欲望の覇気が迸った。
マモンだ。ヘレナの絶対不変の幻力抹殺により、身に宿る霊力の半分近くを抹消され、回復を余儀なくされていたマモンだ。
大切な誇りが壊されていくのを眺めるしかできなかったが、三下である。雪たちと争っていた悪魔たち全員が即座にひれ伏していたが、それでも三下である。
同じくヘレナの絶対不変の幻力抹殺に当てられたのにピンピンしている雪が、ニィッと口角を上げる。
それを見て、ヘレナが目を細める。よく似ている、と。
「お寝んねはもういいんですかッ?」
「フンッ」
雪が桜の拳鍔を地面に打ち付ける。
すれば、世界を支配する王と言わんばかりに翼を広げ浮いていたマモンに真下から、鋭い桜の槍が無数に射出される。
マモンは傲慢に鼻を鳴らし、無造作に腕を振るった。桜の槍が消える。
「舐めるな、貴様。オレ様を誰だと思っている?」
「人間の寄生虫ではッ? あ、ごめんなさい。ここは嘘でも褒めたたえておくべきでしたね。王様?」
「フンッ」
もう一度マモンが鼻を鳴らす。
同時に、雪の頭上に巨大な金のドリルが創り出される。いとも容易く雪桜の大樹を砕き切り裂く。
そしてそれが雪へと振り下ろされた瞬間、
「絶対不変」
美しく儚い声音が響く。巨大な金のドリルが抹消される。ヘレナの絶対不変の幻力抹殺である。
マモンは特段驚きもしない。
それどころか、やはり、と頷く。
「女。覚えたぞ、全てを。やはり、お前はオレ様の女だ。手に入れるべき女だ」
「死ね」
ヘレナは顔を思いっきりしかめ、それどころか憤怒を浮かべる。絶対不変の幻力抹殺を振るう。
「覚えたと言っただろ」
「ッッ!?」
しかし、マモンはどす黒い衝撃波で防ぐ。
ヘレナは驚く。だがしかし、直ぐにマモンを憤怒の虹色の瞳で睨む。驚く暇などない。怒りで燃やせ。
マモンは強欲に哄笑する。
「クク、ククク、クハハハッ!! いいぞ、いいぞ! その怒り! 目の上の瘤が悦びそうな怒りだ!」
あらゆる欲を詰め合わせた衣服を靡かせたマモンは残念そうな表情をする。
「正直、あの男の前で屈服せて、絶望を響かせて征服してやりたかったところだが、仕方ないよなぁ。仕方ない。なんせ、今から神になるのだからな」
そう。
自分の配下が傷つき、死んでも、宮殿や美術品が破壊されても、屈辱に怒ることなく傲慢に振舞うのは、ヘレナが神性を持っていると知ったから。
天獄界の支配者たちは、王の座では飽き足らないのだ。自らを創造した神に成り代わってこそ、支配者足りえるのだ。
そのために神になる手段である祈力を求め、数百年前から日本への侵略計画を進めていた。
しかし、祈力なんぞ得なくても神になる方法はある。神性を持つ存在を喰らえばいいのだ。
つまり、ヘレナを喰らえばいい。
「クハハハッ。こんな単純なことにも気が付かなかったとはッ! いや、消すしか脳のない女がいるとは思いはしないだろう! 数百年に亘る忌まわしく神々との戦いが無駄骨になったのは少々癪だが……」
興奮し、どす黒い衝撃波を無造作にまき散らすマモン。
「いや、嘆くことなどないな。まずは、人間同士の愚行に乗じて無限牢獄に封印した彼奴らを支配しようではないかッ! あの偉そうにオレ様たちに講釈を垂れた屈辱を晴らそうッ!!」
そして全てはオレ様のモノに!!!!
そう言わんばかりにマモンは高笑いした。
だから、
「お前はアホなのですよ」
数十本の雪桜、いや、白と黒の桜の大樹がマモンたちを囲むように生える。
胸の内に宿す混沌の妄執を纏った雪は、ニィッと嗤う。また、色々な世界で同じようなことを何千回と聞いたヘレナもニィッと嗤う。
同時に白と黒の桜の花弁が地獄に舞い散る。
マモンは悪あがきを、と見下しながら、適当に結界を張る。雪の攻撃手段は既に把握している。霊力に呼応させてる技。いらぬ感情を注ぎ込む技。
脅威なのはそれぐらいであとは大したことない。
だから、適当に張った結界だけで雪の攻撃は全て防げる。そして、ヘレナの絶対不変の幻力抹殺の対処法も編み出した。
ヘレナは絶対不変の幻力抹殺以外はただの女。蘇り続ける肉体などあろうとも、身体能力が人間ならば、どうにでもできる。
問題な――
「ガッ!!??」
マモンが悶絶する。
突然背後に現れた雪に殴られ、地面に叩きつけられたのだ。転移だ。雪は結界を無視して、マモンの背後に一瞬で転移したのだ。
どういうことだ! オレ様は全てを把握してたぞ! こんな力、こいつにはッ!?
殴られたのと同時に打ち込まれた感情にかき乱される意識を制御しながら、マモンは頭上でたたずむ雪を睨む。
だが、
「私を忘れては困る」
「しまッッッ!!??」
マモンは確かにヘレナの絶対不変の幻力抹殺に対処できる。
しかし、それはヘレナの思考速度も行動速度も普通の女性ほどしかないからだ。
では、思考は兎も角、雪と同等の身体能力を手に入れたら?
「なんだ、それはぁぁぁッッッ!!」
絶対不変の幻力抹殺を纏った拳が音の壁を突破して繰り出される。防ぐ間もなくマモンは吹き飛ばされ霊力を失う。慌てて近くにいた悪魔を喰らって、失った霊力を回復させる。
そして、ヘレナを、ヘレナの周りに纏わり漂うそれに激昂する。
それは黒の桜。
それは、ミラとノアを傷つけられた怒りによって抑えきれなくなった絶対不変の幻力抹殺によって常に打ち消され、されどヘレナに纏わり漂い続けている。
黒の桜の花弁はパチパチとまるで火の粉が弾けるような音を放ち、そしてヘレナに力を与えていた。
マモンの激昂に答えたのはヘレナではなく、雪。マモンが殴られ、マモン以上に激昂していた悪魔たちを圧倒的な力で調伏した雪は、黒の桜を吹雪かせる。
「反発ですよ。さっき、お前もそれをしましたよね」
「ッ!!??」
ヘレナの絶対不変の幻力抹殺は、いわば正。絶対なる正。故に、幻力を正で打ち消す力を持つ。
絶対的な方向ともいうべきか? 正というより、絶対値なのかもしれない。
どちらにせよ、絶対不変の幻力抹殺の正と同じ正をぶつければ、打ち消すことなく反発する。
マモンはそれを利用して、先ほどヘレナの絶対不変の幻力抹殺を防いだのだ。
もちろん、ヘレナの力は絶対だ。どんな正にも勝り、最後の最後には全て打ち消すだろう。
だが、調節すれば、ヘレナに雪と同等の身体能力を疑似的に与えることができる。反発という力により、ヘレナを強化できる。
いや、強化というよりは、黒の桜花弁のパワードスーツだ。
もちろん、マモンですら反発させて防ぐことしかできないため、それを利用するなどは至難を極める。
「それは貴様ごときが行使できる力ではないぞッ!!!!」
「そうですか」
マモンの怒りなど知らない。
混沌の妄執と交わした誓約によりその力を一時的に譲り受けていた雪は、両手に身に着ける桜の拳鍔をカチカチと打ち鳴らす。
そして、マモンへ突撃した。
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悪魔:悪感情により力を増すことができる存在。ただし、その存在の精神性を表しているわけではない。いい奴もいる。
絶対不変の幻力抹殺:ヘレナの神性。特に幻力においての神性を指す。その力の前にはあらゆる幻力は消滅させられる。イメージ的には、強制的に塗りつぶす感じであり、そのためやろうと思えば反発したり防いだりすることも多少可能である。
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