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第39話 人の子など孕みとうないわ!

ー/ー



「おい、ロータス! これは一体どういうことだ!?」
 我は、勇者どもが拠点にしているパエデロスの教会へと足を運び、一仕事終えてくったりと疲れた顔をしているロータスを前に、テーブルをバンと叩く。

「俺も予想していなかった。レッドアイズ国がそこまで考えていたとはね」
 グラスに水を注ぎ、喉を潤しながらロータスが溜め息をつく。
 もう大体の話は把握している様子だ。

 どうしてこの我が激おこプンプンしているのか分かるか?
 魔王であるこの我が、人間に、しかも我に敵対していたあのレッドアイズ国の王子に求婚されてしまったからだ。

「あはは~、事情は知らなかったとはいえ、面白い展開になっちゃったねこりゃ」
 ダリアめ。他人事だと思って笑いおって。全然我にとっては笑い事ではないぞ。

「これも平穏のため、和平のためなのです。フィーちゃん、どうかその辺りの事情も汲んでいただけませんか……? ええと、婚約、ということに関しては保留で」
 何故か顔をポッと赤らめながらもマルペルが伏し目がちに言う。

「ぐぬぬ……我は断固として人間と結婚などせぬぞ!」
「どうどう、フィー、どうどう」
 我を犬みたいに扱うな、ダリア。

「確かに俺はパエデロスが国家として認可されるために様々な働きかけをしてきた。それも偏に人間社会の秩序のためだ。ソレノス王子も言っていた通り、種族間の差別問題は深刻なのは俺もよく知っている。パエデロスはそのわだかまりを解く礎にするつもりでいたんだ」

「色んな種族も仲良しこよしをよしとする国を作ると? まったく浅はかよの」
「いやいやフィー、アンタもその中に含まれてるって自覚してる?」
「ぐっ……!」
 否定する言葉も出てこない。

「確かにレッドアイズ国の王子がパエデロスを象徴する亜人と結婚すれば政治アピールとしては強いだろうな」
「魔王と、敵対していた軍事国家の子息が結婚。世界が平和になりそうね」
 笑いを堪えながら言うな! 冗談ではないぞ!

「だが、それは全てが上手く収まった場合の話であろう? レッドアイズ国と、国家となったパエデロスの両国間でかえって差別的思想に火を付けるかもしれん。なんだったら他国からも批難を浴びる可能性だってゼロではないぞ」

「まあ。フィーちゃん、私たちの国際問題について懸念してくださるのですね?」
 どうしてそこで食いついてくる、マルペル。
「結婚したくないから必死に逃げ道探してるだけよ」
 うっさいわ、ダリア。

「フィーの言い分もあながち的外れではない。リスクが大きいことも十分承知の上だろう」
「どうするのだ、ロータス? キサマの計画も時期尚早すぎたのではないか?」

 それだけパエデロスも近隣国家から見ても無視できないほどに発展していったとも言えるのだろうが。
 移民をホイホイ受け入れる街などそう多くはないし、あったとしても治安の悪さ故に発展する前に潰れてしまうものだ。

 ましてや国になるなんて誰も考えもしないだろう。
 この世界、大抵の国は種族単位でまとまっておるしな。
 だからこそ種族差別意識が高いわけだが。

 パエデロスほどの何でもかんでも受け入れる街がここまで順当に成長していったのは、ロータスたちの功績があってのこと。
 種族差別のない街の治安を守り続けて今日(こんにち)まで大きく築き上げてきた努力は評価されて然るべきなのだろうが……。

「このパエデロスが国となる必要性などあるのか。我にはレッドアイズ国が搾取を目的としているように思えるのだがな」
「搾取というのは人聞きが悪いが無論、レッドアイズの財政難に関する動きは俺も承服している」
 そらまあそうだろな。利害の一致でなきゃ支援してくれるはずもない。

「いいから結婚しちゃいなよ、フィー。亜人代表として末永くこの地に腰を据えてさ。パエデロスの平和の象徴になればいいじゃない」
「なんでよりにもよって我が平和の象徴なんぞにならねばならぬのだ。我は人間の敵で、人間は我の敵ぞ。今は停戦しているに過ぎん」

「でも形式上の結婚なのですよね? だとしたら停戦の延長線なのではないでしょうか? このままレッドアイズ国の認可の下、パエデロスが国家となれば向こうの予見している通り、フィーちゃんたちを含む異種族の方々は差別的思想に排他されるかもしれませんし、しれないかもしれません。でしたら、フィーちゃんも承服することに何ら問題はないと思うのですが……」
 いや、その理屈はおかしい。

「その形式上ってのが嫌な言い回しよね。結婚といったら夫婦仲良くしてさ、子供を産んで家庭を築くものじゃない。王族だからって、ちょっと体面気にしすぎなんじゃないのって、思うんだけど」
 お前の理想の結婚も大概なのだが、今は言うまい。

「王子の言葉通りに受け取るなら、二つ返事で成立して、生活はこれまで通りなのですよね?」
「う、うむ。まあ、直ちに妃になるという話ではないと言っていたな。レッドアイズ国の王家に嫁ぐとなったら尚のこと我は断固として拒否するぞ」

「いいじゃない別に。普通に結婚して、王子との子供を育んでも」
「って、うおいっ! 人の子など孕みとうないわ!」
「というか、フィーって子供産めるんだっけ?」
「産めるわ! アホタレ! いつまでも子供扱いするでないわ!」

「まあ、待て。少し話が脱線している」
 ロータスが冷静に、制止を入れる。そしてまた水を飲み、ふぅーと息をこぼす。

「俺はこの街が、種族差別のない国になることを望んでいる。そしてレッドアイズ国はそれをより根強い思想にするべくフィー、キミとの結婚を重要なものだと考えている。その点においては俺も反論しかねる。根底は一緒だからな」
 そこはすっぱりと反対してくれよ、頼むから。
 我、結婚なんてしたくないぞ。しかもレッドアイズ国の王子なんて。

「キミの意見は尤もだ。向こうもまさかかつて敵対していた魔王だとは考えていないだろうし、キミ自身、例え形式上、建前上のものであったとしても婚約を結ぶことは耐えがたいことなのだというのは分かる」
「まったく……よりにもよって我を選ぶことがおかしいのだ」

 我が下手なことをしてパエデロスの令嬢という立場で目立ってしまっていたことが要因と考えればその実、自業自得ではあるのだが。

「そうだな。とはいえ、この件はキミの他に適任がいないこともまた事実だ。このパエデロスにおいて、王族と婚約するに値する資産家であり、かつレッドアイズ国が目論んでいるであろう亜人なんていないんだよ」

 ぐむぅ……。冒険者や流れ者ならまだしも、富豪のエルフとか金持ちのオーガなんて聞いたことないしな。
 身近に近々金持ちになりうる技術を持った凄腕のエルフならいるんだが。

「適任であろうがなかろうが、我は意見を変えんぞ。人間との結婚なんぞ認めるわけにはいかん。そもそも結婚なんぞでアピールを図らずともいいではないか。元よりパエデロスはそういう土地で、そういう認識があるのだからな」
「でもね、フィー。王様の言葉一つじゃあ人間の心ってそこまで動かせないものなんだよ? やっぱり行動で示さないと」

 レッドアイズ国にできる行動とは何だろうな。軍事国家で、今は貧乏で、しかも国民の中には種族間の差別思想がある。国民のみんな! 今日から差別やめるぞ! ウェーイ! で、どうにかなるならそもそも何の問題にもならんちゅーに。

「それもキサマの仕事だろう、ロータス」
「ああ、その通りだよ、フィー」

 結局その場で結論が出ないまま、我は勇者たちの拠点を後にすることとなった。




みんなのリアクション

「おい、ロータス! これは一体どういうことだ!?」
 我は、勇者どもが拠点にしているパエデロスの教会へと足を運び、一仕事終えてくったりと疲れた顔をしているロータスを前に、テーブルをバンと叩く。
「俺も予想していなかった。レッドアイズ国がそこまで考えていたとはね」
 グラスに水を注ぎ、喉を潤しながらロータスが溜め息をつく。
 もう大体の話は把握している様子だ。
 どうしてこの我が激おこプンプンしているのか分かるか?
 魔王であるこの我が、人間に、しかも我に敵対していたあのレッドアイズ国の王子に求婚されてしまったからだ。
「あはは~、事情は知らなかったとはいえ、面白い展開になっちゃったねこりゃ」
 ダリアめ。他人事だと思って笑いおって。全然我にとっては笑い事ではないぞ。
「これも平穏のため、和平のためなのです。フィーちゃん、どうかその辺りの事情も汲んでいただけませんか……? ええと、婚約、ということに関しては保留で」
 何故か顔をポッと赤らめながらもマルペルが伏し目がちに言う。
「ぐぬぬ……我は断固として人間と結婚などせぬぞ!」
「どうどう、フィー、どうどう」
 我を犬みたいに扱うな、ダリア。
「確かに俺はパエデロスが国家として認可されるために様々な働きかけをしてきた。それも偏に人間社会の秩序のためだ。ソレノス王子も言っていた通り、種族間の差別問題は深刻なのは俺もよく知っている。パエデロスはそのわだかまりを解く礎にするつもりでいたんだ」
「色んな種族も仲良しこよしをよしとする国を作ると? まったく浅はかよの」
「いやいやフィー、アンタもその中に含まれてるって自覚してる?」
「ぐっ……!」
 否定する言葉も出てこない。
「確かにレッドアイズ国の王子がパエデロスを象徴する亜人と結婚すれば政治アピールとしては強いだろうな」
「魔王と、敵対していた軍事国家の子息が結婚。世界が平和になりそうね」
 笑いを堪えながら言うな! 冗談ではないぞ!
「だが、それは全てが上手く収まった場合の話であろう? レッドアイズ国と、国家となったパエデロスの両国間でかえって差別的思想に火を付けるかもしれん。なんだったら他国からも批難を浴びる可能性だってゼロではないぞ」
「まあ。フィーちゃん、私たちの国際問題について懸念してくださるのですね?」
 どうしてそこで食いついてくる、マルペル。
「結婚したくないから必死に逃げ道探してるだけよ」
 うっさいわ、ダリア。
「フィーの言い分もあながち的外れではない。リスクが大きいことも十分承知の上だろう」
「どうするのだ、ロータス? キサマの計画も時期尚早すぎたのではないか?」
 それだけパエデロスも近隣国家から見ても無視できないほどに発展していったとも言えるのだろうが。
 移民をホイホイ受け入れる街などそう多くはないし、あったとしても治安の悪さ故に発展する前に潰れてしまうものだ。
 ましてや国になるなんて誰も考えもしないだろう。
 この世界、大抵の国は種族単位でまとまっておるしな。
 だからこそ種族差別意識が高いわけだが。
 パエデロスほどの何でもかんでも受け入れる街がここまで順当に成長していったのは、ロータスたちの功績があってのこと。
 種族差別のない街の治安を守り続けて今日《こんにち》まで大きく築き上げてきた努力は評価されて然るべきなのだろうが……。
「このパエデロスが国となる必要性などあるのか。我にはレッドアイズ国が搾取を目的としているように思えるのだがな」
「搾取というのは人聞きが悪いが無論、レッドアイズの財政難に関する動きは俺も承服している」
 そらまあそうだろな。利害の一致でなきゃ支援してくれるはずもない。
「いいから結婚しちゃいなよ、フィー。亜人代表として末永くこの地に腰を据えてさ。パエデロスの平和の象徴になればいいじゃない」
「なんでよりにもよって我が平和の象徴なんぞにならねばならぬのだ。我は人間の敵で、人間は我の敵ぞ。今は停戦しているに過ぎん」
「でも形式上の結婚なのですよね? だとしたら停戦の延長線なのではないでしょうか? このままレッドアイズ国の認可の下、パエデロスが国家となれば向こうの予見している通り、フィーちゃんたちを含む異種族の方々は差別的思想に排他されるかもしれませんし、しれないかもしれません。でしたら、フィーちゃんも承服することに何ら問題はないと思うのですが……」
 いや、その理屈はおかしい。
「その形式上ってのが嫌な言い回しよね。結婚といったら夫婦仲良くしてさ、子供を産んで家庭を築くものじゃない。王族だからって、ちょっと体面気にしすぎなんじゃないのって、思うんだけど」
 お前の理想の結婚も大概なのだが、今は言うまい。
「王子の言葉通りに受け取るなら、二つ返事で成立して、生活はこれまで通りなのですよね?」
「う、うむ。まあ、直ちに妃になるという話ではないと言っていたな。レッドアイズ国の王家に嫁ぐとなったら尚のこと我は断固として拒否するぞ」
「いいじゃない別に。普通に結婚して、王子との子供を育んでも」
「って、うおいっ! 人の子など孕みとうないわ!」
「というか、フィーって子供産めるんだっけ?」
「産めるわ! アホタレ! いつまでも子供扱いするでないわ!」
「まあ、待て。少し話が脱線している」
 ロータスが冷静に、制止を入れる。そしてまた水を飲み、ふぅーと息をこぼす。
「俺はこの街が、種族差別のない国になることを望んでいる。そしてレッドアイズ国はそれをより根強い思想にするべくフィー、キミとの結婚を重要なものだと考えている。その点においては俺も反論しかねる。根底は一緒だからな」
 そこはすっぱりと反対してくれよ、頼むから。
 我、結婚なんてしたくないぞ。しかもレッドアイズ国の王子なんて。
「キミの意見は尤もだ。向こうもまさかかつて敵対していた魔王だとは考えていないだろうし、キミ自身、例え形式上、建前上のものであったとしても婚約を結ぶことは耐えがたいことなのだというのは分かる」
「まったく……よりにもよって我を選ぶことがおかしいのだ」
 我が下手なことをしてパエデロスの令嬢という立場で目立ってしまっていたことが要因と考えればその実、自業自得ではあるのだが。
「そうだな。とはいえ、この件はキミの他に適任がいないこともまた事実だ。このパエデロスにおいて、王族と婚約するに値する資産家であり、かつレッドアイズ国が目論んでいるであろう亜人なんていないんだよ」
 ぐむぅ……。冒険者や流れ者ならまだしも、富豪のエルフとか金持ちのオーガなんて聞いたことないしな。
 身近に近々金持ちになりうる技術を持った凄腕のエルフならいるんだが。
「適任であろうがなかろうが、我は意見を変えんぞ。人間との結婚なんぞ認めるわけにはいかん。そもそも結婚なんぞでアピールを図らずともいいではないか。元よりパエデロスはそういう土地で、そういう認識があるのだからな」
「でもね、フィー。王様の言葉一つじゃあ人間の心ってそこまで動かせないものなんだよ? やっぱり行動で示さないと」
 レッドアイズ国にできる行動とは何だろうな。軍事国家で、今は貧乏で、しかも国民の中には種族間の差別思想がある。国民のみんな! 今日から差別やめるぞ! ウェーイ! で、どうにかなるならそもそも何の問題にもならんちゅーに。
「それもキサマの仕事だろう、ロータス」
「ああ、その通りだよ、フィー」
 結局その場で結論が出ないまま、我は勇者たちの拠点を後にすることとなった。