ep43 謎の男②
ー/ー
「これ」
「あ、ありがとうございます!」
ぼくは銀髪の人からノートを受け取りました。
銀髪の人は軽くオジサンを一瞥してから「気にすんな」とぼくに言って、戻っていこうとしました。
何だかぼくはいてもたってもいられない気持ちになり、去っていこうとする銀髪の人を呼び止めてしまいます。
「あ、あの!」
「?」
「ぼ、ぼくは、シヒロ・モリセッドと申します! 貴方は…」
「ただの旅人だよ」
「そ、そうですか。あ、あの、その…」
「?」
ぼくは必死に銀髪の人を引き止めようとしました。どうしてかそうせずにはいられなかったからです。直感的に、この人ともっとお話してみたい、と思ったからでしょうか。でも、何を言えばいいのかわかりません。
「ええと、あの、その……」
ぼくがグズグズしていると、望まない展開が始まってしまいました。
「オイ。テメー何者だ? なんか気に入らねーなぁ」
髭面の太ったオジサンが、銀髪の人に絡み始めてしまったのです。
オジサンはズイっと銀髪の人に迫ると、濁った眼でギロリと睨みながら粘ついた口をひらきます。
「おれの邪魔するんじゃねーよ」
「邪魔?」
「なんでノートを娘に返した?」
「いけないのか?」
「オイオイまさかテメー。この娘が、作家とやらになれるとでも思ってんのか? テメーの頭もお花畑ってか? 夢に夢見るおバカちゃんってか! ギャッハッハ!」
ぼくは、ぼく自身がなにも言い返せないでいることに、悔しくてたまりませんでした。ぼくを助けてくれた銀髪の人も、心の底ではどう思っているのでしょう……。
「頭の中がお花畑……か。確かにそうかもしれない」
銀髪の人が、ハッキリとそう言いました。その言葉を聞き、ぼくはガクッと肩を落としてしまいました。自分でも、わかってはいたことだけど……。
「お? なんだよ、わかってるじゃねえかテメーも」
オジサンは嘲笑感たっぷりの顔でニヤけました。
銀髪の人は続けます。
「夢に夢見るおバカちゃん……。確かにそうかもしれない」
「よくわかってるじゃねえかテメー! ギャッハッハ!」
「だが」
「?」
「お前に言われる筋合いはない」
「あ?」
「アンタ、暇人だな」
「ああ? どーいう意味だ、テメぇ」
オジサンは銀髪の人に向かって凄みました。だけど銀髪の人は睨み返しもせず、まったく意にも介していない様子でした。しばらくガンつけていたオジサンも、次第に相手のやる気の無さにバカバカしくなったのか、クルッときびすを返しました。
「チッ。なんなんだテメーは。もうどーでもいいや」
「……」
銀髪の人も背を向けて歩き出そうとした時です。
「バカが! オラぁ!」
やにわにオジサンはバッと振り向いて怒鳴り声を上げながら銀髪の人の背中へ乱暴に蹴りを放ちました。
ところがです。銀髪の人は、攻撃をスルッとすり抜けるようにかわして一息でぼくへ近寄ってくるなり「一緒に出たほうがいい」と囁いてきました。
「あ、は、はい!」
銀髪の人に従うがまま、彼と一緒にぼくはそそくさとお店を退散していきました。
「オイ! テメー待て! 逃げんのか!」
店を出るまでの間ずっとオジサンが怒鳴り散らしていたと思いますが、ぼくは銀髪の人に夢中でよく聞こえませんでした。
店を離れるようにしばらく街路を進むと、彼が振り返って話しかけてきました。
「宿はどこなんだ?」
「あ、ええと、それは反対の方向で…」
「そうか。ならさっきの店前を通らないように回り道をして宿まで戻るといい」
「えっ? あ、はい」
「まあ、実害は与えていないから、そこまで警戒する必要はないのかもしれないが、慎重になるにこしたことはない」
「わ、わかりました」
「じゃあ」
「あ、あの!」
「?」
「本当に、ありがとうございました! その、お礼とか…」
「いらない。じゃあ」
「あっ! あの、冒険者の方なんですか?」
「そんなところ…かな」
「ぼ、ぼくは、西の方にあるアラニスっていう所の小さな村から来まして……あ、貴方はどちらから?」
「東の、クオリーメンの方から……じゃあ」
「あの! お名前は!」
銀髪の人は行ってしまいました。彼の背中はあっという間に夜の雑踏の中へと消えていきました。
「もう、戻ろう……」
仕方なく、銀髪の人の指示通りに、ぼくは宿への道を戻っていきました。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
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「あ、ありがとうございます!」
ぼくは銀髪の人からノートを受け取りました。
銀髪の人は軽くオジサンを一瞥してから「気にすんな」とぼくに言って、戻っていこうとしました。
何だかぼくはいてもたってもいられない気持ちになり、去っていこうとする銀髪の人を呼び止めてしまいます。
「あ、あの!」
「?」
「ぼ、ぼくは、シヒロ・モリセッドと申します! 貴方は…」
「ただの旅人だよ」
「そ、そうですか。あ、あの、その…」
「?」
ぼくは必死に銀髪の人を引き止めようとしました。どうしてかそうせずにはいられなかったからです。直感的に、この人ともっとお話してみたい、と思ったからでしょうか。でも、何を言えばいいのかわかりません。
「ええと、あの、その……」
ぼくがグズグズしていると、望まない展開が始まってしまいました。
「オイ。テメー何者だ? なんか気に入らねーなぁ」
髭面の太ったオジサンが、銀髪の人に絡み始めてしまったのです。
オジサンはズイっと銀髪の人に迫ると、濁った眼でギロリと睨みながら粘ついた口をひらきます。
「おれの邪魔するんじゃねーよ」
「邪魔?」
「なんでノートを娘に返した?」
「いけないのか?」
「オイオイまさかテメー。この娘が、作家とやらになれるとでも思ってんのか? テメーの頭もお花畑ってか? 夢に夢見るおバカちゃんってか! ギャッハッハ!」
ぼくは、ぼく自身がなにも言い返せないでいることに、悔しくてたまりませんでした。ぼくを助けてくれた銀髪の人も、心の底ではどう思っているのでしょう……。
「頭の中がお花畑……か。確かにそうかもしれない」
銀髪の人が、ハッキリとそう言いました。その言葉を聞き、ぼくはガクッと肩を落としてしまいました。自分でも、わかってはいたことだけど……。
「お? なんだよ、わかってるじゃねえかテメーも」
オジサンは嘲笑感たっぷりの顔でニヤけました。
銀髪の人は続けます。
「夢に夢見るおバカちゃん……。確かにそうかもしれない」
「よくわかってるじゃねえかテメー! ギャッハッハ!」
「だが」
「?」
「お前に言われる筋合いはない」
「あ?」
「アンタ、暇人だな」
「ああ? どーいう意味だ、テメぇ」
オジサンは銀髪の人に向かって凄みました。だけど銀髪の人は睨み返しもせず、まったく意にも介していない様子でした。しばらくガンつけていたオジサンも、次第に相手のやる気の無さにバカバカしくなったのか、クルッときびすを返しました。
「チッ。なんなんだテメーは。もうどーでもいいや」
「……」
銀髪の人も背を向けて歩き出そうとした時です。
「バカが! オラぁ!」
やにわにオジサンはバッと振り向いて怒鳴り声を上げながら銀髪の人の背中へ乱暴に蹴りを放ちました。
ところがです。銀髪の人は、攻撃をスルッとすり抜けるようにかわして一息でぼくへ近寄ってくるなり「一緒に出たほうがいい」と囁いてきました。
「あ、は、はい!」
銀髪の人に従うがまま、彼と一緒にぼくはそそくさとお店を退散していきました。
「オイ! テメー待て! 逃げんのか!」
店を出るまでの間ずっとオジサンが怒鳴り散らしていたと思いますが、ぼくは銀髪の人に夢中でよく聞こえませんでした。
店を離れるようにしばらく街路を進むと、彼が振り返って話しかけてきました。
「宿はどこなんだ?」
「あ、ええと、それは反対の方向で…」
「そうか。ならさっきの店前を通らないように回り道をして宿まで戻るといい」
「えっ? あ、はい」
「まあ、実害は与えていないから、そこまで警戒する必要はないのかもしれないが、慎重になるにこしたことはない」
「わ、わかりました」
「じゃあ」
「あ、あの!」
「?」
「本当に、ありがとうございました! その、お礼とか…」
「いらない。じゃあ」
「あっ! あの、冒険者の方なんですか?」
「そんなところ…かな」
「ぼ、ぼくは、西の方にあるアラニスっていう所の小さな村から来まして……あ、貴方はどちらから?」
「東の、クオリーメンの方から……じゃあ」
「あの! お名前は!」
銀髪の人は行ってしまいました。彼の背中はあっという間に夜の雑踏の中へと消えていきました。
「もう、戻ろう……」
仕方なく、銀髪の人の指示通りに、ぼくは宿への道を戻っていきました。