第40話 迫りくる次の刺客
ー/ー
新しい拠点に移ってからというもの、しばらくの間は平穏に過ごすことができた。
ただ、クロナの状態は思わしくなく、ぼーっとした様子で毎日を過ごしている。
兄であるシュヴァルツを失ったショックはかなり強いようで、そのために何もする気力が起きないようだった。
食事こそかろうじて取ってはいるものの、ブラナもアサシンスパイダーたちもその様子を心配そうに眺めている状況だった。
「お嬢様、もっとしっかり食べませんと、体に悪いですよ」
「……あまり食べたくありません」
ブラナが一生懸命食べさせようとするものの、せいぜい食べて二口くらいという小食っぷりだった。
クロナが死ねば世界も滅びるというのに、この状況はブラナたちにとっても頭の痛い問題だった。
これだけブラナが悩むのも無理もないことだ。
なにせ邪神による洗脳が入る前は、クロナとシュヴァルツは仲睦まじい兄妹だったのだから。将来的には聖女となるクロナを守るための騎士になると、シュヴァルツは意気込んでいたのだ。
そう、シュヴァルツが強いのは必然の結果だったのだ。
だが、そのシュヴァルツも同じくクロナを守ろうとするブラナの前に、その身を散らしてしまった。クロナもそうだが、ブラナとしても心苦しいのは間違いない話だ。
(クロナお嬢様がここまで衰弱してしまっています。お嬢様をここまで苦しめておきながら、その姿を見せない邪神はとても許せた存在ではありませんね)
ブラナは、邪神に対してその怒りを募らせていっている。
だが、どこにいるかも分からぬ相手ゆえ、もどかしさも増していく。
やりきれない気持ちを抱えたまま、ブラナはクロナのことを守り続けているのだ。
ところが、新しい拠点での平和もあまり長続きしなかった。
見回りに出ていたスチールアントたちが、大騒ぎで戻ってきた。
『大変だ。人間たちが攻めてきたぞ!』
『なんですと!?』
唐突な報告に、アサシンスパイダーが慌てている。
「人間たちがここを探り当てたというのですか? それで数はどのくらいでしょうか」
『分からない。とにかくかなり数がいると思われる。このままでは、前の時のようにいぶり出されるのは間違いない』
「ええ、そうでしょうね。となると、ここを背にして、クロナお嬢様をお守りするしかないようですね」
話を聞いていたブラナが、険しい顔をして作戦を立てている。
クロナにはこのまま穴の中に残ってもらい、入口を自分たちで死守するような形がいいだろう。ブラナが出した作戦の内容というのがそのような内容だった。
「確認しますが、旗のようなものは見えませんでしたかね」
『風にバタバタとするものならあった。変な図柄が描かれていたが』
「その紋様は?」
『なんかこう、真ん中に一本の直線があって、よっつ変な丸い図形が並んでいたよ』
スチールアントから聞いたブラナは、すぐに向かってくる軍勢の正体の目星がついたようだ。
「……ホーネット伯爵家ですか。シュヴァルツ坊ちゃまの敵討ちのつもりでしょうか」
ギリッと歯を食いしばるブラナである。
「しかし、困りましたね。ホーネット伯爵家のメープルお嬢様は、シュヴァルツ坊ちゃまの婚約者であり、お嬢様の大切なお友だちです。……好意が強いほど憎悪が増すというのは事実のようですね」
ホーネット伯爵家の登場に、ブラナの表情は険しくなる。
そこで、ブラナはメープルの特徴をスチールアントに伝えて確認を取る。
混ざっていないことを祈るばかりだったが、その願いはもろくも砕かれてしまう。
集団の先頭に立っていたのは、ホーネット伯爵とメープルだったのだ。
伯爵まで出てきているということは、明確なシュヴァルツの敵討ちだろう。ブラナの表情はますます険しくなっていた。
「仕方ありませんね。私たちとしてはクロナお嬢様を守らねばならないのです。あちらがこちらに攻め入ってくるというのでしたら、全力で対応せざるを得ませんね」
ブラナはちらりとクロナの方を見ながら話をしている。
かつての親友と敵対しなければならないのだ。そのような場面にさせないためにも、精一杯に気を遣っているのである。
「あなたたち二人は、お嬢様とご一緒していて下さい。……ホーネット伯爵家の軍勢は、私とアサシンスパイダーで迎え撃ちます」
『任された。聖女様をお守りするため、死ぬ気で戦いましょう』
アサシンスパイダーはとても気合いが入っていた。
「スチールアントたちも補佐をお願いします。メープルお嬢様は魔法の天才です。私たちだけでは対処しきれないかもしれませんのでね。あなた方の使うシールドがきっと役に立つはずです」
『承知した』
クロナの元にはスチールアントを二匹残し、ブラナはアサシンスパイダーたちを引き連れて、アジトの外へと向かっていく。
この悲しい戦いは避けられないのだろうか。
クロナの兄に引き続き、親友とまで戦わなければならないとは、ブラナとしてもとても心苦しいのである。
しかし、真っすぐこちらに向かってきている軍勢を放置することはできない。
「まったく、どうやってかぎつけたか知りませんが、面倒なかぎりです」
ブラナはイラつきながらも、アジトの通路の入口付近まで移動する。
迫りくるホーネット伯爵家の軍勢。その動向を息を殺して見守るのだった。
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ただ、クロナの状態は思わしくなく、ぼーっとした様子で毎日を過ごしている。
兄であるシュヴァルツを失ったショックはかなり強いようで、そのために何もする気力が起きないようだった。
食事こそかろうじて取ってはいるものの、ブラナもアサシンスパイダーたちもその様子を心配そうに眺めている状況だった。
「お嬢様、もっとしっかり食べませんと、体に悪いですよ」
「……あまり食べたくありません」
ブラナが一生懸命食べさせようとするものの、せいぜい食べて二口くらいという小食っぷりだった。
クロナが死ねば世界も滅びるというのに、この状況はブラナたちにとっても頭の痛い問題だった。
これだけブラナが悩むのも無理もないことだ。
なにせ邪神による洗脳が入る前は、クロナとシュヴァルツは仲睦まじい兄妹だったのだから。将来的には聖女となるクロナを守るための騎士になると、シュヴァルツは意気込んでいたのだ。
そう、シュヴァルツが強いのは必然の結果だったのだ。
だが、そのシュヴァルツも同じくクロナを守ろうとするブラナの前に、その身を散らしてしまった。クロナもそうだが、ブラナとしても心苦しいのは間違いない話だ。
(クロナお嬢様がここまで衰弱してしまっています。お嬢様をここまで苦しめておきながら、その姿を見せない邪神はとても許せた存在ではありませんね)
ブラナは、邪神に対してその怒りを募らせていっている。
だが、どこにいるかも分からぬ相手ゆえ、もどかしさも増していく。
やりきれない気持ちを抱えたまま、ブラナはクロナのことを守り続けているのだ。
ところが、新しい拠点での平和もあまり長続きしなかった。
見回りに出ていたスチールアントたちが、大騒ぎで戻ってきた。
『大変だ。人間たちが攻めてきたぞ!』
『なんですと!?』
唐突な報告に、アサシンスパイダーが慌てている。
「人間たちがここを探り当てたというのですか? それで数はどのくらいでしょうか」
『分からない。とにかくかなり数がいると思われる。このままでは、前の時のようにいぶり出されるのは間違いない』
「ええ、そうでしょうね。となると、ここを背にして、クロナお嬢様をお守りするしかないようですね」
話を聞いていたブラナが、険しい顔をして作戦を立てている。
クロナにはこのまま穴の中に残ってもらい、入口を自分たちで死守するような形がいいだろう。ブラナが出した作戦の内容というのがそのような内容だった。
「確認しますが、旗のようなものは見えませんでしたかね」
『風にバタバタとするものならあった。変な図柄が描かれていたが』
「その紋様は?」
『なんかこう、真ん中に一本の直線があって、よっつ変な丸い図形が並んでいたよ』
スチールアントから聞いたブラナは、すぐに向かってくる軍勢の正体の目星がついたようだ。
「……ホーネット伯爵家ですか。シュヴァルツ坊ちゃまの敵討ちのつもりでしょうか」
ギリッと歯を食いしばるブラナである。
「しかし、困りましたね。ホーネット伯爵家のメープルお嬢様は、シュヴァルツ坊ちゃまの婚約者であり、お嬢様の大切なお友だちです。……好意が強いほど憎悪が増すというのは事実のようですね」
ホーネット伯爵家の登場に、ブラナの表情は険しくなる。
そこで、ブラナはメープルの特徴をスチールアントに伝えて確認を取る。
混ざっていないことを祈るばかりだったが、その願いはもろくも砕かれてしまう。
集団の先頭に立っていたのは、ホーネット伯爵とメープルだったのだ。
伯爵まで出てきているということは、明確なシュヴァルツの敵討ちだろう。ブラナの表情はますます険しくなっていた。
「仕方ありませんね。私たちとしてはクロナお嬢様を守らねばならないのです。あちらがこちらに攻め入ってくるというのでしたら、全力で対応せざるを得ませんね」
ブラナはちらりとクロナの方を見ながら話をしている。
かつての親友と敵対しなければならないのだ。そのような場面にさせないためにも、精一杯に気を遣っているのである。
「あなたたち二人は、お嬢様とご一緒していて下さい。……ホーネット伯爵家の軍勢は、私とアサシンスパイダーで迎え撃ちます」
『任された。聖女様をお守りするため、死ぬ気で戦いましょう』
アサシンスパイダーはとても気合いが入っていた。
「スチールアントたちも補佐をお願いします。メープルお嬢様は魔法の天才です。私たちだけでは対処しきれないかもしれませんのでね。あなた方の使うシールドがきっと役に立つはずです」
『承知した』
クロナの元にはスチールアントを二匹残し、ブラナはアサシンスパイダーたちを引き連れて、アジトの外へと向かっていく。
この悲しい戦いは避けられないのだろうか。
クロナの兄に引き続き、親友とまで戦わなければならないとは、ブラナとしてもとても心苦しいのである。
しかし、真っすぐこちらに向かってきている軍勢を放置することはできない。
「まったく、どうやってかぎつけたか知りませんが、面倒なかぎりです」
ブラナはイラつきながらも、アジトの通路の入口付近まで移動する。
迫りくるホーネット伯爵家の軍勢。その動向を息を殺して見守るのだった。