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第39話 新たな拠点

ー/ー



 兄であるシュヴァルツを失い、失意に落ち込むクロナ。
 アサシンスパイダーやブラナは、そのクロナのことをかなり心配しているようだ。

『ブラナといったな。聖女様は大丈夫だと思うか?』

「分かりません。お嬢様にとってシュヴァルツ坊ちゃまは頼りにしているお兄様でしたからね。命を狙われただけでも相当のショックでしたが、あのような最期を迎えられましたので、おそらくしばらくは立ち直れないかと思います」

『そうか。聖女様はあなたのことをずいぶんと慕ってらっしゃるようだ。周囲の警戒は私が行うので、聖女様のことを頼むぞ』

「言われなくても」

 ブラナも気に入っていたアジトを失い、山脈のすそ野をさらに王都から離れるように進んでいく。
 クロナは相変わらずブラナの背中でずっと泣いたままだ。兄であるシュヴァルツを失った悲しみは、それだけ大きいということである。

(一刻も早く、お嬢様をしっかりと休ませねばなりませんね。このままではお嬢様の精神状態がとても心配です)

 ブラナはかなり焦りを覚えているようだった。

「スチールアントのみなさん」

 ブラナは一度休憩を入れようと立ち止まると、ついてきているスチールアントに声をかける。

『なんでしょうか、ブラナの姐さん』

 敵として戦った時に圧倒的な力の差に潰されていたスチールアントは、味方となった今はすっかりブラナのことを慕っているようである。ブラナの言葉に、すんなりと応じている。

「この辺りで山肌を削っていただけないでしょうか。元のアジトよりかなり距離を取りましたし、まさか同じ山の中にもう一度アジトを構えるなど、思ってもいないでしょうからね」

『分かりました、姐さん』

 スチールアントたちは、ブラナの指示に従って山に穴を開け始める。

『いいんですかね、これで』

「ええ、いいんです。この森はあなたを含めてかなり強い魔物がうろついています。私の敵ではありませんが、よっぽどでない限りはそう簡単にこの森は突破できないでしょう」

 アサシンスパイダーが確認するように問い掛けると、ブラナは推測ではあるものの断言に近い物言いをしていた。

「傭兵ギルドのホッパーをしっかり痛めつけて森の外に捨ててきました。あの姿を見れば、大抵の連中は怖がって森に近付かなくなるはずです。時間稼ぎにはなるでしょう」

『分かった。私もブラナの意見に乗ろうではないか』

 アサシンスパイダーはブラナの意見に賛同してくれたようだった。
 ブラナをはじめとして、全員がクロナの状態を心配しているのだ。だからこそ、できるだけ早めに休める状態を作りたい。そういうこともあって、前のアジトから程よく離れた山中で、新しいアジトを作ることに決めたのだった。

 クロナを心配するあまり、アサシンスパイダーの体を得て地獄から舞い戻ってきたブラナは、スチールアントたちが掘った穴の中を糸で器用に飾り立てていく。

『まったく、その体になって間もないというのに、ずいぶんと使いこなしているようだな』

「はい。私はそもそも暗殺者でしたし、自分のことは自分でやってきておりました。今はクロナお嬢様の専属メイドです。その二つが合わされば、この程度のこと、まったく造作もないんですよ」

 アサシンスパイダーに声をかけられて、はにかみながらブラナは答えている。

「クロナお嬢様にお仕えするようになってからというもの、私は昔に比べて笑顔が増えたと思っています。暗殺者には必要のないものですからね」

『それは確かに』

「私に人間らしい心を取り戻してくれたお嬢様のため、私は命すらも投げ出せる覚悟がございます」

『なるほど。それであの不可解な動きがあったというわけか。私をあれだけ追い詰めながらもとどめを刺さなかったり、聖女様を殺そうとしながらも自害をしたり。まったく、あなたの忠誠心には頭が下がるばかりだ』

 魔物であるはずのアサシンスパイダーにすらこんなことを言わせるブラナ。それほどまでに、クロナとブラナの間の絆が強いということなのだろう。

「ですが、シュヴァルツ坊ちゃまをお救いできなかったのは、とても残念でなりません」

『あの小僧か。そこまで救いたくなるようなやつではなかったと思うがな』

 ブラナの話に、アサシンスパイダーは疑問を投げかけている。

「いいえ。シュヴァルツ坊ちゃまはクロナお嬢様のことをとても大切に思っておりました。ですが、邪神のせいで感情が反転をして、あそこまでの憎悪を抱くようになったのです。ただ、私のように常に一緒だったわけではないですし、王国最優先なところがございました。私との決定的な違いはそこでしょうね」

『なるほどな。王国を優先するあまり、聖女様にあそこまで強い殺意を向け続けたというわけか。お優しい聖女様ですから、さぞおつらいでしょうな』

「はい、その通りだと思います」

 ブラナとアサシンスパイダーは、ブラナが作ったクモ糸のベッドの方へと視線を向ける。そこには、すっかり精神的に滅入っているクロナが眠っている。

「泣き疲れて眠っておりますので、今はそのままそっとしておきましょう」

『うむ、そうだな。ならば、私は何か食べ物を探してくる。聖女様のことを頼んだぞ』

「はい、お気をつけて」

 スチールアントが掘ったひとまずの仮の居住で腰を落ち着けるブラナたち。クロナのことは気になるが、ここもいつ攻められるか分かったものではない。
 三年という長い期間を無事に過ごせるかどうか。シュヴァルツの死によって、不安ばかりが募るブラナたちなのであった。


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 兄であるシュヴァルツを失い、失意に落ち込むクロナ。
 アサシンスパイダーやブラナは、そのクロナのことをかなり心配しているようだ。
『ブラナといったな。聖女様は大丈夫だと思うか?』
「分かりません。お嬢様にとってシュヴァルツ坊ちゃまは頼りにしているお兄様でしたからね。命を狙われただけでも相当のショックでしたが、あのような最期を迎えられましたので、おそらくしばらくは立ち直れないかと思います」
『そうか。聖女様はあなたのことをずいぶんと慕ってらっしゃるようだ。周囲の警戒は私が行うので、聖女様のことを頼むぞ』
「言われなくても」
 ブラナも気に入っていたアジトを失い、山脈のすそ野をさらに王都から離れるように進んでいく。
 クロナは相変わらずブラナの背中でずっと泣いたままだ。兄であるシュヴァルツを失った悲しみは、それだけ大きいということである。
(一刻も早く、お嬢様をしっかりと休ませねばなりませんね。このままではお嬢様の精神状態がとても心配です)
 ブラナはかなり焦りを覚えているようだった。
「スチールアントのみなさん」
 ブラナは一度休憩を入れようと立ち止まると、ついてきているスチールアントに声をかける。
『なんでしょうか、ブラナの姐さん』
 敵として戦った時に圧倒的な力の差に潰されていたスチールアントは、味方となった今はすっかりブラナのことを慕っているようである。ブラナの言葉に、すんなりと応じている。
「この辺りで山肌を削っていただけないでしょうか。元のアジトよりかなり距離を取りましたし、まさか同じ山の中にもう一度アジトを構えるなど、思ってもいないでしょうからね」
『分かりました、姐さん』
 スチールアントたちは、ブラナの指示に従って山に穴を開け始める。
『いいんですかね、これで』
「ええ、いいんです。この森はあなたを含めてかなり強い魔物がうろついています。私の敵ではありませんが、よっぽどでない限りはそう簡単にこの森は突破できないでしょう」
 アサシンスパイダーが確認するように問い掛けると、ブラナは推測ではあるものの断言に近い物言いをしていた。
「傭兵ギルドのホッパーをしっかり痛めつけて森の外に捨ててきました。あの姿を見れば、大抵の連中は怖がって森に近付かなくなるはずです。時間稼ぎにはなるでしょう」
『分かった。私もブラナの意見に乗ろうではないか』
 アサシンスパイダーはブラナの意見に賛同してくれたようだった。
 ブラナをはじめとして、全員がクロナの状態を心配しているのだ。だからこそ、できるだけ早めに休める状態を作りたい。そういうこともあって、前のアジトから程よく離れた山中で、新しいアジトを作ることに決めたのだった。
 クロナを心配するあまり、アサシンスパイダーの体を得て地獄から舞い戻ってきたブラナは、スチールアントたちが掘った穴の中を糸で器用に飾り立てていく。
『まったく、その体になって間もないというのに、ずいぶんと使いこなしているようだな』
「はい。私はそもそも暗殺者でしたし、自分のことは自分でやってきておりました。今はクロナお嬢様の専属メイドです。その二つが合わされば、この程度のこと、まったく造作もないんですよ」
 アサシンスパイダーに声をかけられて、はにかみながらブラナは答えている。
「クロナお嬢様にお仕えするようになってからというもの、私は昔に比べて笑顔が増えたと思っています。暗殺者には必要のないものですからね」
『それは確かに』
「私に人間らしい心を取り戻してくれたお嬢様のため、私は命すらも投げ出せる覚悟がございます」
『なるほど。それであの不可解な動きがあったというわけか。私をあれだけ追い詰めながらもとどめを刺さなかったり、聖女様を殺そうとしながらも自害をしたり。まったく、あなたの忠誠心には頭が下がるばかりだ』
 魔物であるはずのアサシンスパイダーにすらこんなことを言わせるブラナ。それほどまでに、クロナとブラナの間の絆が強いということなのだろう。
「ですが、シュヴァルツ坊ちゃまをお救いできなかったのは、とても残念でなりません」
『あの小僧か。そこまで救いたくなるようなやつではなかったと思うがな』
 ブラナの話に、アサシンスパイダーは疑問を投げかけている。
「いいえ。シュヴァルツ坊ちゃまはクロナお嬢様のことをとても大切に思っておりました。ですが、邪神のせいで感情が反転をして、あそこまでの憎悪を抱くようになったのです。ただ、私のように常に一緒だったわけではないですし、王国最優先なところがございました。私との決定的な違いはそこでしょうね」
『なるほどな。王国を優先するあまり、聖女様にあそこまで強い殺意を向け続けたというわけか。お優しい聖女様ですから、さぞおつらいでしょうな』
「はい、その通りだと思います」
 ブラナとアサシンスパイダーは、ブラナが作ったクモ糸のベッドの方へと視線を向ける。そこには、すっかり精神的に滅入っているクロナが眠っている。
「泣き疲れて眠っておりますので、今はそのままそっとしておきましょう」
『うむ、そうだな。ならば、私は何か食べ物を探してくる。聖女様のことを頼んだぞ』
「はい、お気をつけて」
 スチールアントが掘ったひとまずの仮の居住で腰を落ち着けるブラナたち。クロナのことは気になるが、ここもいつ攻められるか分かったものではない。
 三年という長い期間を無事に過ごせるかどうか。シュヴァルツの死によって、不安ばかりが募るブラナたちなのであった。