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第37話 執念の兄

ー/ー



「さあ、終わりですよ、坊ちゃま」

 ブラナの短剣が、シュヴァルツののど元に突きつけられている。
 少しでも動こうものなら、簡単に切れてしまいそうなくらいの距離にその切っ先は接していた。

「お兄様! ブラナ!」

 クロナが叫んでいる。
 ブラナはクロナのことが心配なので、ちょっと表情が曇っている。
 ところが、シュヴァルツの方はそうでもなかった。

「兄と呼ぶな! この魔族風情が!」

 厳しい表情で、シュヴァルツは大声でクロナに吐き捨てる。
 あまりにも怒りの感情の乗った声だったので、クロナは体を震わせてよろめいてしまった。

『聖女様、私たちが支えております』

 足が震えて立てそうにないクロナを、アサシンスパイダーがしっかりと支えている。
 クロナはアサシンスパイダーに礼を言いながらも、シュヴァルツの方をしっかりと見つめて目を離そうとしなかった。自分の命を狙われたというのに、実の兄を心配してしまう。実に心優しい少女なのだ。
 ところが、クロナの視線に気が付いたのか、シュヴァルツは歯を思いっきり食いしばり始める。

「やめろ! そんな目で見るんじゃない!」

 大きな声でわめき始めるシュヴァルツの姿に、クロナの体がびくっと震える。

「魔族風情に情けをかけられるくらいなら……」

 シュヴァルツは少し下を向いたかと思うと、再びクロナを睨み付けて叫ぶ。

「名誉ある死を選ぶだけだ!」

 目を見開いたかと思うと、ブラナの一瞬の隙をついてブラナを蹴り飛ばしていた。

「くっ、坊ちゃま!」

「死ねっ! この妹のふりをしていた魔族め!」

 ブラナを怯ませると、隠し持っていたナイフを取り出し、シュヴァルツはクロナへと飛び掛かっていく。

『そうはさせませんぞ』

 立ちふさがるのはアサシンスパイダーだ。

「邪魔だ、どけっ!」

 自分の体並みにでかいアサシンスパイダーが現れても、シュヴァルツはまったく怯みやしない。むしろ、視界に入れていない感じだ。
 アサシンスパイダーは攻撃を防ぐために、糸をシュヴァルツに向かって吐き出す。

「無駄だ!」

 シュヴァルツはナイフに火をまとわせて、アサシンスパイダーの糸を燃やしてしまっている。
 とっさながらにも、なんという威力なのだろうか。

『聖女様には指ひとつ触れさせない!』

 アサシンスパイダーも、クロナを守る者として退くわけにはいかない。諦めずにもう一度糸を吐き出す。

「無駄だと言っているだろうが!」

 二発目もシュヴァルツはあっさりと焼き払ってしまう。

『くっ、なんてことなんだ。私の攻撃がこれほどまでに簡単に無力化されるとは……。さすがは聖女様の兄君だ』

「死ねえっ!」

 シュヴァルツのナイフが、アサシンスパイダーを襲う。さすがに邪魔と判断したのだろう。

 ガキーン!

 ところが、大きな金属音が響き、シュヴァルツはアサシンスパイダーを攻撃できなかった。

「さ、させませんよ、お兄様」

「魔族がぁっ! 殺してやる!」

 クロナの防御魔法によって、シュヴァルツの攻撃が防がれていたのだ。
 そのことに気が付いたシュヴァルツは、すぐさまクロナへと標的を変える。
 クロナは兄の表情に怯えてしまい、死を覚悟した。
 しかし、シュヴァルツの攻撃はクロナには届かなかった。

「か……は……」

「申し訳ございません、坊ちゃま」

 クロナの危機を救ったのは、ブラナだった。
 二人の間に割って入り、シュヴァルツの腹を短剣で突き刺していたのだ。
 ブラナとしては、シュヴァルツを傷つけるつもりはなかった。だけども、こうでもしないと止められないと判断せざるを得なかったのだ。
 シュヴァルツのクロナへの感情は、もうかなり根深いところまで操られてしまっていると。

「この……裏切り者があっ!」

 血を吐きながらも、シュヴァルツはブラナに攻撃を仕掛けようとする。
 ブラナはそれよりも早く、シュヴァルツに体当たりをかまし、短剣を引き抜いていた。

「ぐはっ!」

 シュヴァルツの体からは、真っ赤なしぶきが上がる。
 もう助からないだろう。ブラナは罪悪感を感じていた。
 元暗殺者ならば、人を殺めることには慣れているはずだ。しかし、クロナの護衛兼侍女として長らく過ごしていたこともあり、コークロッチヌス子爵家の人たちには、それなりに情が湧いていたのである。

「坊ちゃま。せめて止血くらいは……」

 ブラナが糸を使って応急処置をしようとするが、シュヴァルツは大きな笑い声をあげていた。

「ふは、ふはははははっ! この俺が死ぬというのか」

 とても危険な状態にある人物とは思えない余裕である。
 クロナは完全に体が震えていて、シュヴァルツに対して回復魔法を使える状態になかった。いや、使おうとしても、今のシュヴァルツならあの状態からでも殺しにかかってくるだろう。アサシンスパイダーもクロナを止めているくらいだ。

「ふっ。俺は役目を果たせなかったが、お前を殺しにいろんな連中がやってくることになる。せいぜい、わずかな平和を楽しむんだな!」

 そういったかと思うと、シュヴァルツはなにやら魔法を使い始める。

「はっ、この魔法は!」

 シュヴァルツの魔力に気が付いたブラナは、一気にシュヴァルツから距離を取る。

「お嬢様、防御魔法を、強力な防御魔法を展開して下さい!」

 ブラナの叫び声に、クロナははっとする。

「わ、わ、分かりました」

 慌てて魔法を使い始めるクロナ。
 その時だった。

 ドォーンッ!!

 その場に大きな爆発音が響き渡ったのだった。


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「さあ、終わりですよ、坊ちゃま」
 ブラナの短剣が、シュヴァルツののど元に突きつけられている。
 少しでも動こうものなら、簡単に切れてしまいそうなくらいの距離にその切っ先は接していた。
「お兄様! ブラナ!」
 クロナが叫んでいる。
 ブラナはクロナのことが心配なので、ちょっと表情が曇っている。
 ところが、シュヴァルツの方はそうでもなかった。
「兄と呼ぶな! この魔族風情が!」
 厳しい表情で、シュヴァルツは大声でクロナに吐き捨てる。
 あまりにも怒りの感情の乗った声だったので、クロナは体を震わせてよろめいてしまった。
『聖女様、私たちが支えております』
 足が震えて立てそうにないクロナを、アサシンスパイダーがしっかりと支えている。
 クロナはアサシンスパイダーに礼を言いながらも、シュヴァルツの方をしっかりと見つめて目を離そうとしなかった。自分の命を狙われたというのに、実の兄を心配してしまう。実に心優しい少女なのだ。
 ところが、クロナの視線に気が付いたのか、シュヴァルツは歯を思いっきり食いしばり始める。
「やめろ! そんな目で見るんじゃない!」
 大きな声でわめき始めるシュヴァルツの姿に、クロナの体がびくっと震える。
「魔族風情に情けをかけられるくらいなら……」
 シュヴァルツは少し下を向いたかと思うと、再びクロナを睨み付けて叫ぶ。
「名誉ある死を選ぶだけだ!」
 目を見開いたかと思うと、ブラナの一瞬の隙をついてブラナを蹴り飛ばしていた。
「くっ、坊ちゃま!」
「死ねっ! この妹のふりをしていた魔族め!」
 ブラナを怯ませると、隠し持っていたナイフを取り出し、シュヴァルツはクロナへと飛び掛かっていく。
『そうはさせませんぞ』
 立ちふさがるのはアサシンスパイダーだ。
「邪魔だ、どけっ!」
 自分の体並みにでかいアサシンスパイダーが現れても、シュヴァルツはまったく怯みやしない。むしろ、視界に入れていない感じだ。
 アサシンスパイダーは攻撃を防ぐために、糸をシュヴァルツに向かって吐き出す。
「無駄だ!」
 シュヴァルツはナイフに火をまとわせて、アサシンスパイダーの糸を燃やしてしまっている。
 とっさながらにも、なんという威力なのだろうか。
『聖女様には指ひとつ触れさせない!』
 アサシンスパイダーも、クロナを守る者として退くわけにはいかない。諦めずにもう一度糸を吐き出す。
「無駄だと言っているだろうが!」
 二発目もシュヴァルツはあっさりと焼き払ってしまう。
『くっ、なんてことなんだ。私の攻撃がこれほどまでに簡単に無力化されるとは……。さすがは聖女様の兄君だ』
「死ねえっ!」
 シュヴァルツのナイフが、アサシンスパイダーを襲う。さすがに邪魔と判断したのだろう。
 ガキーン!
 ところが、大きな金属音が響き、シュヴァルツはアサシンスパイダーを攻撃できなかった。
「さ、させませんよ、お兄様」
「魔族がぁっ! 殺してやる!」
 クロナの防御魔法によって、シュヴァルツの攻撃が防がれていたのだ。
 そのことに気が付いたシュヴァルツは、すぐさまクロナへと標的を変える。
 クロナは兄の表情に怯えてしまい、死を覚悟した。
 しかし、シュヴァルツの攻撃はクロナには届かなかった。
「か……は……」
「申し訳ございません、坊ちゃま」
 クロナの危機を救ったのは、ブラナだった。
 二人の間に割って入り、シュヴァルツの腹を短剣で突き刺していたのだ。
 ブラナとしては、シュヴァルツを傷つけるつもりはなかった。だけども、こうでもしないと止められないと判断せざるを得なかったのだ。
 シュヴァルツのクロナへの感情は、もうかなり根深いところまで操られてしまっていると。
「この……裏切り者があっ!」
 血を吐きながらも、シュヴァルツはブラナに攻撃を仕掛けようとする。
 ブラナはそれよりも早く、シュヴァルツに体当たりをかまし、短剣を引き抜いていた。
「ぐはっ!」
 シュヴァルツの体からは、真っ赤なしぶきが上がる。
 もう助からないだろう。ブラナは罪悪感を感じていた。
 元暗殺者ならば、人を殺めることには慣れているはずだ。しかし、クロナの護衛兼侍女として長らく過ごしていたこともあり、コークロッチヌス子爵家の人たちには、それなりに情が湧いていたのである。
「坊ちゃま。せめて止血くらいは……」
 ブラナが糸を使って応急処置をしようとするが、シュヴァルツは大きな笑い声をあげていた。
「ふは、ふはははははっ! この俺が死ぬというのか」
 とても危険な状態にある人物とは思えない余裕である。
 クロナは完全に体が震えていて、シュヴァルツに対して回復魔法を使える状態になかった。いや、使おうとしても、今のシュヴァルツならあの状態からでも殺しにかかってくるだろう。アサシンスパイダーもクロナを止めているくらいだ。
「ふっ。俺は役目を果たせなかったが、お前を殺しにいろんな連中がやってくることになる。せいぜい、わずかな平和を楽しむんだな!」
 そういったかと思うと、シュヴァルツはなにやら魔法を使い始める。
「はっ、この魔法は!」
 シュヴァルツの魔力に気が付いたブラナは、一気にシュヴァルツから距離を取る。
「お嬢様、防御魔法を、強力な防御魔法を展開して下さい!」
 ブラナの叫び声に、クロナははっとする。
「わ、わ、分かりました」
 慌てて魔法を使い始めるクロナ。
 その時だった。
 ドォーンッ!!
 その場に大きな爆発音が響き渡ったのだった。