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SCENE049 遠い青

ー/ー



「あたたたた……」

 まったくもってしくってしまったな。
 私は横浜ダンジョンの第七階層に到達したのはいいものの、入ってすぐにあったトラップにかかり、ダンジョン入口に死に戻っていた。
 それにしても、この死ぬ時の感覚というのは探索者を長くしてもいても慣れないものだ。
 なんといっても、この横浜ダンジョン以外で死に戻りのできるようなダンジョンは存在していない。私が把握しているものがそれだけかもしれないが、他に聞いた覚えがない。他の有名な新宿ダンジョンや梅田ダンジョンでもそのようなものは存在していないからね。

「まぁ、ほどほどの収穫があったからいいとしようか。六階層の突破方法もほぼ確立できてきたわけだしな」

 瞬に横浜ダンジョンのダンジョンマスターのことを聞かされて、私は会いに行こうと最奥を目指したのだが、結果はこのざまだ。このまま突破できないようでは、トップの探索者としては情けないかぎりだな。
 しかし、さすがに死に戻りの後は能力に大幅な下方修正が入る。ここは一度引き返した方がいいだろう。
 そう考えた私は、一度、自分の所属ギルドの百鬼夜行の事務所に引き揚げることにした。

 百鬼夜行に戻ってくると、剛力さんと色、それと他にも数名のギルドのメンバーがそろっていた。しかも何かを食い入るように見ている。どうしたというのだろうか。

「剛力さん、今、戻りました。どうしたんですか、みんなそろって真剣に画面を眺めて」

「おう、衣織か。ちょうどいい、この配信を見てくれ」

「配信?」

 そろいもそろって何を見ているのかと思ったら配信か。とはいえ、剛力さんたちがこれだけ真剣ということは何かがあるということ。私は、みんながいるパソコンの前までやって来る。

「こ、これは……」

 画面に映し出されていたのは、青髪青目であちこちのひれのような装飾品のついた女性の姿だった。

「これって、横浜ダンジョンのセイレーンですか」

「ああ、さっきからまた配信が始まったんだ。どうやら今日は横浜ダンジョンの十階層を見せてくれるらしい」

 なんとも余裕な話だ。
 しかし、横浜ダンジョンは先程私がようやく七階層にたどり着いたばかり。まだ攻略できているのは六階層までだから、未知の階層の話に、みんな食い入るように見ているというわけだった。
 私もついつい目を向けてしまう。

『どうですかしら、この真っ青な海が続く十階層の景色は』

 セイレーンはとても自慢げに自分のダンジョンを紹介している。でも、セイレーンはモンスターである以上、これを撮影しているドローンを持っている冒険者が近くにいるはず。
 瞬から聞いたが、スキルのおかげでたどり着けたらしい。見つけたらなんとしても仲間に入れてみたいものだな。
 それにしても、十階層の景色はどこまでいっても青い海が広がっている。これがあのコンクリートジャングルや岩肌に包まれているダンジョンの最奥部なのか疑いたくなる。
 景色に見とれていた時だった。ザバンと何かが姿を見せた。

『この十階層の番人である、あたしの可愛いペットを紹介しますわね』

 ペット?!
 セイレーンがそう言って抱えているのは、頭がふたつあるサメのモンスターだった。

「あれはツーヘッドシャークじゃないか。水辺のダンジョンの中にはほぼ確実に生息している、海のハンターだぞ」

 剛力さんが反応しているけれど、確かにツーヘッドシャークだ。
 二つの頭を持つサメで、静かに近付いてきて冒険者たちを真っ二つにして食い殺すという海の暗殺者だ。
 それにしてもかなりでかいな、このサメは。

『ツーヘッドジャイアントシーシャークですわ。そこんじゅそこらのツーヘッドシャークとはわけが違いましてよ』

 上位種か。それならあのでかさも頷ける。

『実はこの十階層は、九階層からの階段を降りて一直線になっていますのよ。ただ、この可愛いペットたちの攻撃を躱せますかしらね?』

 セイレーンがにこやかに笑って話すものだから、私はついカチンときてしまった。

「いつか、あそこも攻略して泣かしてやる……」

「お、おう……。衣織、やる気十分だな」

 私が静かに闘志を燃やすと、剛力さんがなぜか引いてしまっていた。どうしてだ。
 それにしても、セイレーンのやつ、これだけ手の内を明かすということは、七階層から九階層も相当に凝りに凝ったダンジョンになっているということだな。これは相当に気合いを入れないと、あいつのところにはたどり着けそうにない。
 待っていろ。私の目が黒いうちに、絶対泣かしてやるからな。

 私が燃えている間に、セイレーンの今日の配信は終わったようだった。

「それにしても、あれが地底の奥深くだっていうんだから驚きだな」

「でも、横浜ダンジョンっぽくていいじゃないですか。港町なんですから、海が広がっていてぴったりですよ。……サメは要りませんけど」

「確かにな。あれでは海洋版美女と野獣だよ」

「面白いこと言いますね、剛力さん」

 私は笑えなかったが、確かにそんな感じだったな。

「ところで、衣織。なんでここにやって来たんだ」

「あっ、そうでした。セイレーンの配信のせいで忘れるところでした。実はですね……」

 私はさっき、七階層に到達したことを報告する。もちろん、入ってすぐに即死級の罠があるということも。
 剛力さんは横浜ダンジョンの攻略が一歩進んだと言って喜んではいたが、私は配信のせいで喜びは吹き飛んでしまったな。
 必ずあの青い海を眺めに、一番奥までたどり着く。私は新たな目標を立てたのだった。


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「あたたたた……」
 まったくもってしくってしまったな。
 私は横浜ダンジョンの第七階層に到達したのはいいものの、入ってすぐにあったトラップにかかり、ダンジョン入口に死に戻っていた。
 それにしても、この死ぬ時の感覚というのは探索者を長くしてもいても慣れないものだ。
 なんといっても、この横浜ダンジョン以外で死に戻りのできるようなダンジョンは存在していない。私が把握しているものがそれだけかもしれないが、他に聞いた覚えがない。他の有名な新宿ダンジョンや梅田ダンジョンでもそのようなものは存在していないからね。
「まぁ、ほどほどの収穫があったからいいとしようか。六階層の突破方法もほぼ確立できてきたわけだしな」
 瞬に横浜ダンジョンのダンジョンマスターのことを聞かされて、私は会いに行こうと最奥を目指したのだが、結果はこのざまだ。このまま突破できないようでは、トップの探索者としては情けないかぎりだな。
 しかし、さすがに死に戻りの後は能力に大幅な下方修正が入る。ここは一度引き返した方がいいだろう。
 そう考えた私は、一度、自分の所属ギルドの百鬼夜行の事務所に引き揚げることにした。
 百鬼夜行に戻ってくると、剛力さんと色、それと他にも数名のギルドのメンバーがそろっていた。しかも何かを食い入るように見ている。どうしたというのだろうか。
「剛力さん、今、戻りました。どうしたんですか、みんなそろって真剣に画面を眺めて」
「おう、衣織か。ちょうどいい、この配信を見てくれ」
「配信?」
 そろいもそろって何を見ているのかと思ったら配信か。とはいえ、剛力さんたちがこれだけ真剣ということは何かがあるということ。私は、みんながいるパソコンの前までやって来る。
「こ、これは……」
 画面に映し出されていたのは、青髪青目であちこちのひれのような装飾品のついた女性の姿だった。
「これって、横浜ダンジョンのセイレーンですか」
「ああ、さっきからまた配信が始まったんだ。どうやら今日は横浜ダンジョンの十階層を見せてくれるらしい」
 なんとも余裕な話だ。
 しかし、横浜ダンジョンは先程私がようやく七階層にたどり着いたばかり。まだ攻略できているのは六階層までだから、未知の階層の話に、みんな食い入るように見ているというわけだった。
 私もついつい目を向けてしまう。
『どうですかしら、この真っ青な海が続く十階層の景色は』
 セイレーンはとても自慢げに自分のダンジョンを紹介している。でも、セイレーンはモンスターである以上、これを撮影しているドローンを持っている冒険者が近くにいるはず。
 瞬から聞いたが、スキルのおかげでたどり着けたらしい。見つけたらなんとしても仲間に入れてみたいものだな。
 それにしても、十階層の景色はどこまでいっても青い海が広がっている。これがあのコンクリートジャングルや岩肌に包まれているダンジョンの最奥部なのか疑いたくなる。
 景色に見とれていた時だった。ザバンと何かが姿を見せた。
『この十階層の番人である、あたしの可愛いペットを紹介しますわね』
 ペット?!
 セイレーンがそう言って抱えているのは、頭がふたつあるサメのモンスターだった。
「あれはツーヘッドシャークじゃないか。水辺のダンジョンの中にはほぼ確実に生息している、海のハンターだぞ」
 剛力さんが反応しているけれど、確かにツーヘッドシャークだ。
 二つの頭を持つサメで、静かに近付いてきて冒険者たちを真っ二つにして食い殺すという海の暗殺者だ。
 それにしてもかなりでかいな、このサメは。
『ツーヘッドジャイアントシーシャークですわ。そこんじゅそこらのツーヘッドシャークとはわけが違いましてよ』
 上位種か。それならあのでかさも頷ける。
『実はこの十階層は、九階層からの階段を降りて一直線になっていますのよ。ただ、この可愛いペットたちの攻撃を躱せますかしらね?』
 セイレーンがにこやかに笑って話すものだから、私はついカチンときてしまった。
「いつか、あそこも攻略して泣かしてやる……」
「お、おう……。衣織、やる気十分だな」
 私が静かに闘志を燃やすと、剛力さんがなぜか引いてしまっていた。どうしてだ。
 それにしても、セイレーンのやつ、これだけ手の内を明かすということは、七階層から九階層も相当に凝りに凝ったダンジョンになっているということだな。これは相当に気合いを入れないと、あいつのところにはたどり着けそうにない。
 待っていろ。私の目が黒いうちに、絶対泣かしてやるからな。
 私が燃えている間に、セイレーンの今日の配信は終わったようだった。
「それにしても、あれが地底の奥深くだっていうんだから驚きだな」
「でも、横浜ダンジョンっぽくていいじゃないですか。港町なんですから、海が広がっていてぴったりですよ。……サメは要りませんけど」
「確かにな。あれでは海洋版美女と野獣だよ」
「面白いこと言いますね、剛力さん」
 私は笑えなかったが、確かにそんな感じだったな。
「ところで、衣織。なんでここにやって来たんだ」
「あっ、そうでした。セイレーンの配信のせいで忘れるところでした。実はですね……」
 私はさっき、七階層に到達したことを報告する。もちろん、入ってすぐに即死級の罠があるということも。
 剛力さんは横浜ダンジョンの攻略が一歩進んだと言って喜んではいたが、私は配信のせいで喜びは吹き飛んでしまったな。
 必ずあの青い海を眺めに、一番奥までたどり着く。私は新たな目標を立てたのだった。