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第3楽章〜メヌエット〜①

ー/ー



 8月12日(土)  午前6時すぎ〜

 〜黄瀬壮馬の見解〜

 合宿3日目の朝もボクらが寝泊まりする宿舎施設には、まぶしいくらい真っ青な空から明るい陽射しが降り注いだ。今日も、暑い一日になりそうだ。

 ===============
 明日の午前中に佐倉さんが取材に
 合流することになりました

 対応をよろしくお願いね
 ===============

 鳳花部長から届いたメッセージを見返して、ボクはスマホを脇に置く。
 
(これは、また別の意味で気を使うなぁ……)
 
 ため息をつき、窓から差し込む朝日に目を細めたあと、ボクは隣のベッドで寝ている親友のようすをそっとうかがいながら、昨夜のクラスメートの女子生徒との会話をあらためて思い返してみる。

「実は、私も最近―――もしかしたら、これが、みんなの言う幽霊が見えるってことなのかな? って経験があったんだ。でも、初めての経験だから、どうして良いかわからなくて……私は、どうすれば良いんだろう、って悩んでいるところなんだ」

 紅野さんは、()()()()()()というやつに戸惑いながらも、自分の口で、たしかにそう語った。

(白草さんや佐倉さんのように強烈な個性を持っているタイプは別にして―――紅野さんみたいな女子の初恋の相手になるなんて……なんて、幸せなヤツなんだ……)

 気持ち良さそうに寝顔を横目に見ながら、ボクの中にそんな感情が湧き上がってくる。

 そんなことを思いながらも、昨夜、自分自身が彼女に伝えた言葉が与える影響をあらためて自分なりに考えてみた。

「上手く言えないけど、紅野さんがいま感じている想いを相手に伝えるのも悪くないと思う。ボクの見立てでは、紅野さんの目の前に居る幽霊らしき者は、そんなに悪いヤツじゃないと思うよ」

「そっか……黄瀬くんにそう言ってもらえるなら、ちょっと、勇気が出るな」

 ボクの言葉に、彼女は、こう答えたけれど――――――。

 もしかすると、紅野さんは、この合宿中、竜司に対して何らかのアクションを起こすつもりなのだろうか?

 思えば、合宿前日に寿先輩から、軽いノリで相談を持ちかけられたときに、ボクが、過去の競馬のレース映像をオススメしたことが、昨日の紅野さんの行動や言葉に影響を与えているんじゃないだろうか?

 普段からとらえどころの無い言動が多い寿先輩の真意は、まだわからないことが多いけど……。

 もし、自分の行為が上級生やクラスメートに影響を及ぼしているのだとすれば、直接的かつ具体的なアドバイスをした訳ではなくても、さすがに責任を感じてしまう。

 しかも、それが、親友の交際相手となるかも知れない……と考えれば、なおさらのことだ。

 昨夜も、翌日のために撮影の準備を進めながら、色々と頭を巡らせたとおり、冷静に考えれば、ボクの良く知っている異性という条件をつけるなら、紅野さんは、親友にとってもっとも相応しい交際相手になるんじゃないか、という気はする。

 彼女の性格や、お互いの将来を見据えた場合、これ以上、最適な相手は居ないとさえ思える。

 ただ、気になるのは、紅野さんの気持ちが、竜司の告白を断った春休みの頃から、「なぜ」「どのように」変わっていったのか、ということだ。

 もちろん、個人的な興味・関心ということも無いわけではないけれど―――。

 それ以上に、一度、交際の申込みを断った相手に告白をするのなら、自分の気持ちが、どうして変化したのかを伝えた方が良いと、個人的には感じるからだ。竜司でなくとも、さすがに、その点は気になるんじゃないかと思うし……。

 ここまで考えて、また自分の至らなさに気分が落ち込む。

(せっかくなら、昨日の夜に、紅野さんにこのことを伝えてあげれば良かったな……)

 昨日の夜に聞かせてもらった相談内容はたとえ話から始まったので、その内容に合わせようとして話をひねろうとすると、ボクがいま考えていることをどこまで伝えられるか、わからないけれど……。

 せっかく、彼女の話を聞く機会があったのだから、もう少し、有効なアドバイスをすれば良かった……と、いまになって思う。

(やっぱり、()()()()()()に慣れていない人間はダメだなぁ……)

 自分の不甲斐なさに軽くため息を漏らしつつ、ふたたび親友のことを考える。

 たしか、新学期が始まったころ、転校してきたばかりの白草さんは、紅野さんにフラれたばかりの竜司に対して、
 
「今回みたいなケースの場合、告白を断ったあとで、相手のことが気になり始めた……って、ケースも少なくないから! たとえば、『フッてから異性として見るようになった』ってこともあるし、『相手が自分好みの容姿に変化した』って場合や、『告白のあとでも、変わらない優しさに惹かれた』ってこともね!」

と、彼女にしては珍しく(?)優しい言葉でアドバイスを送っていた。

 もしかすると、それは、竜司をハメるための罠だったのかも知れないけど、なにせ、白草さんは、恋愛相談のエキスパートでもあるので、この助言には、かなりの部分に真実が含まれているんじゃないか、といまになって思う。

 はたして、紅野さんが竜司に惹かれたのは、どんなことがキッカケだったんだろう?

 『フッてから異性として見るようになった』のか?
 『相手が自分好みの容姿に変化した』のか(いや、この可能性は無さそうだけど……)?
 
 それとも、『告白のあとでも、変わらない優しさに惹かれた』のだろうか?

 お悩み相談の聞き手としては、初心者の自分にとって同級生のカリスマ女子はもちろん、こうしたことに親身になって応えそうな親友の姿が、ボクにはとても大人びて感じられた。


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 8月12日(土)  午前6時すぎ〜
 〜黄瀬壮馬の見解〜
 合宿3日目の朝もボクらが寝泊まりする宿舎施設には、まぶしいくらい真っ青な空から明るい陽射しが降り注いだ。今日も、暑い一日になりそうだ。
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 明日の午前中に佐倉さんが取材に
 合流することになりました
 対応をよろしくお願いね
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 鳳花部長から届いたメッセージを見返して、ボクはスマホを脇に置く。
(これは、また別の意味で気を使うなぁ……)
 ため息をつき、窓から差し込む朝日に目を細めたあと、ボクは隣のベッドで寝ている親友のようすをそっとうかがいながら、昨夜のクラスメートの女子生徒との会話をあらためて思い返してみる。
「実は、私も最近―――もしかしたら、これが、みんなの言う幽霊が見えるってことなのかな? って経験があったんだ。でも、初めての経験だから、どうして良いかわからなくて……私は、どうすれば良いんだろう、って悩んでいるところなんだ」
 紅野さんは、|初《・》|め《・》|て《・》|の《・》|経《・》|験《・》というやつに戸惑いながらも、自分の口で、たしかにそう語った。
(白草さんや佐倉さんのように強烈な個性を持っているタイプは別にして―――紅野さんみたいな女子の初恋の相手になるなんて……なんて、幸せなヤツなんだ……)
 気持ち良さそうに寝顔を横目に見ながら、ボクの中にそんな感情が湧き上がってくる。
 そんなことを思いながらも、昨夜、自分自身が彼女に伝えた言葉が与える影響をあらためて自分なりに考えてみた。
「上手く言えないけど、紅野さんがいま感じている想いを相手に伝えるのも悪くないと思う。ボクの見立てでは、紅野さんの目の前に居る幽霊らしき者は、そんなに悪いヤツじゃないと思うよ」
「そっか……黄瀬くんにそう言ってもらえるなら、ちょっと、勇気が出るな」
 ボクの言葉に、彼女は、こう答えたけれど――――――。
 もしかすると、紅野さんは、この合宿中、竜司に対して何らかのアクションを起こすつもりなのだろうか?
 思えば、合宿前日に寿先輩から、軽いノリで相談を持ちかけられたときに、ボクが、過去の競馬のレース映像をオススメしたことが、昨日の紅野さんの行動や言葉に影響を与えているんじゃないだろうか?
 普段からとらえどころの無い言動が多い寿先輩の真意は、まだわからないことが多いけど……。
 もし、自分の行為が上級生やクラスメートに影響を及ぼしているのだとすれば、直接的かつ具体的なアドバイスをした訳ではなくても、さすがに責任を感じてしまう。
 しかも、それが、親友の交際相手となるかも知れない……と考えれば、なおさらのことだ。
 昨夜も、翌日のために撮影の準備を進めながら、色々と頭を巡らせたとおり、冷静に考えれば、ボクの良く知っている異性という条件をつけるなら、紅野さんは、親友にとってもっとも相応しい交際相手になるんじゃないか、という気はする。
 彼女の性格や、お互いの将来を見据えた場合、これ以上、最適な相手は居ないとさえ思える。
 ただ、気になるのは、紅野さんの気持ちが、竜司の告白を断った春休みの頃から、「なぜ」「どのように」変わっていったのか、ということだ。
 もちろん、個人的な興味・関心ということも無いわけではないけれど―――。
 それ以上に、一度、交際の申込みを断った相手に告白をするのなら、自分の気持ちが、どうして変化したのかを伝えた方が良いと、個人的には感じるからだ。竜司でなくとも、さすがに、その点は気になるんじゃないかと思うし……。
 ここまで考えて、また自分の至らなさに気分が落ち込む。
(せっかくなら、昨日の夜に、紅野さんにこのことを伝えてあげれば良かったな……)
 昨日の夜に聞かせてもらった相談内容はたとえ話から始まったので、その内容に合わせようとして話をひねろうとすると、ボクがいま考えていることをどこまで伝えられるか、わからないけれど……。
 せっかく、彼女の話を聞く機会があったのだから、もう少し、有効なアドバイスをすれば良かった……と、いまになって思う。
(やっぱり、|こ《・》|う《・》|い《・》|う《・》|こ《・》|と《・》に慣れていない人間はダメだなぁ……)
 自分の不甲斐なさに軽くため息を漏らしつつ、ふたたび親友のことを考える。
 たしか、新学期が始まったころ、転校してきたばかりの白草さんは、紅野さんにフラれたばかりの竜司に対して、
「今回みたいなケースの場合、告白を断ったあとで、相手のことが気になり始めた……って、ケースも少なくないから! たとえば、『フッてから異性として見るようになった』ってこともあるし、『相手が自分好みの容姿に変化した』って場合や、『告白のあとでも、変わらない優しさに惹かれた』ってこともね!」
と、彼女にしては珍しく(?)優しい言葉でアドバイスを送っていた。
 もしかすると、それは、竜司をハメるための罠だったのかも知れないけど、なにせ、白草さんは、恋愛相談のエキスパートでもあるので、この助言には、かなりの部分に真実が含まれているんじゃないか、といまになって思う。
 はたして、紅野さんが竜司に惹かれたのは、どんなことがキッカケだったんだろう?
 『フッてから異性として見るようになった』のか?
 『相手が自分好みの容姿に変化した』のか(いや、この可能性は無さそうだけど……)?
 それとも、『告白のあとでも、変わらない優しさに惹かれた』のだろうか?
 お悩み相談の聞き手としては、初心者の自分にとって同級生のカリスマ女子はもちろん、こうしたことに親身になって応えそうな親友の姿が、ボクにはとても大人びて感じられた。