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第四十五話 咲季ちゃん強制脱出大作戦

ー/ー



「……………………」

「………………」

「…………」


 殺風景なリビングに置かれた円状の折りたたみテーブル。
 地面に正座してそれを囲む三人の男女。
 俺――片桐秋春と赤坂さん、そして櫻井さんだ。
 客観的に見てかなりの謎メンバーである。このメンツで顔を突き合わせるなんて想像もしなかったから、めっちゃ気まずかった。
 …………いや、気まずいのはそれだけが理由じゃない。

「……………」

 櫻井さんがすっごい睨んでいるのだ。主に俺を。無言でひたすら数分間。
 理由は何となく分かってる。分かっているし、自覚があるからこそ言い訳をする余地がなくて俺も黙るしかない。
 俺は咲季に数週間会いに行かなかった。両親の強要があったとは言え、素直にそれに従ったのは咲季の兄貴として失格だろう。それを責めているんだ。

「ええと、看護師さんですよね。咲季ちゃんの病院で時々見かける。改めまして赤坂結愛です」

 一向に話が進まないからか、赤坂さんが助け舟を出してくれた。こいつに助けられるとは。
 対して櫻井さんは「こ、これはご丁寧に」と赤坂さんに頭を下げてから俺へと近づいてガシっと肩を組み、

「片桐君……」
「な、なんですか?」

 凄い形相で耳元に口を近づけた。

「どうしよう、この子間近で見たらめっさ美人……!緊張するんだけど!どうしよう!」
「…………は?」
「すっごい、すっごいよ」
「えと、なんですかそのテンション」
「こんな美人いたら緊張するよ普通!」

 俺の想像、全然違かった。この人思春期の男子学生みたいな思考巡らせてただけだった。ただ緊張で固まってただけだった。

「いい匂いするよ!女子女子しい香りが鼻をくすぐるよ!髪さらっさら!肌もっちもち!」
「いやあなたも女子ですって櫻井さん」
「いやいや私はもう女子なんて年じゃ無……くないわボケェ!しばくぞ!」

 久し振りのセルフブチ切れが出た。
 思わず「出たー」と苦笑。

「ていうか片桐君あんた今まで咲季ちゃん放っておいてこの超絶美人とよろしくやってたワケ!?」
「はい?」
「幼馴染なんだっけ?こんな美人が幼馴染で妹もあんなに可愛くて……なんて贅沢なのさキミは!感覚狂うぞ!」
「あの、話が色んな方向飛んでってますよ戻ってきてください。それとこの人と仲良いとか思われるの心外なんで。仲良く無いんで」
「あらあらアキ君ったら照れ屋さん」
「あんたは黙ってろ」
「わーーー!〝アキ君〟だって!幼馴染っぽい特別感!」
「櫻井さんは何をそんなに興奮してるんですか……」
「幼馴染が大人になってもあだ名で呼んでくれるなんてロマンがあるじゃない」

 何だそりゃ。
 どこにロマンがあるんだと眇めつつコップを傾けてお茶を飲んでると、赤坂さんが微笑ましいと言わんばかりにクスクス笑って俺を見ていた。
 何見てんだ気持ち悪い。
 睨みつけると軽いウインクで返された。何の合図だよ。思ったが、続いた言葉で話の軌道修正をするのだと分かった。

「それで櫻井さん、私に何かご用事があるんですよね?」
「えっ、おっ、う、うん!」

 赤坂さんに対する反応が思春期の男子。
 とはいえ、やっと櫻井さんがここに来た要件を聞けるみたいだ。

「ご、ご相伴にお預かりします櫻井デス!」

 …………聞ける、よね?大丈夫か櫻井さん。言動が意味不明過ぎる。こんなのにどんだけ緊張してるんだするだけ無駄だぞ。

 結局数分の時間を要してやっと落ち着いた櫻井さんは一つ咳払いをして、

「いやね、要件って言っても、もう要件は終わっちゃったんですよねぇ」

 俺を流し見た。

「なんですか?」

 俺が首を傾げると、櫻井さんは身を乗り出して軽くデコピン。痛い。

「片桐君の居場所、赤坂さんなら知ってるんじゃないかなって思ったの。咲季ちゃんからキミの幼馴染だって聞いてたから」
「なんで俺の居場所を?」
「咲季ちゃんを元気づけるために決まってんでしょーに」

 そう言いながらポケットからスマホを取り出して見せてくる櫻井さん。

「私が咲季ちゃんのスマホの電話番号登録したから、咲季ちゃんと話す準備は出来てるの。だから片桐君見つけて咲季ちゃんに繋ごうって思ってね。あの子今食事も全然摂らないわ元気もめちゃくちゃ無いわで、見ててこっちが辛いのよ」
「あいつ……」
「ま、私が個人的に心配だったってのもあるけどね。元気で何より」

 俺の頭を鷲掴むように撫でて櫻井さんはニカッと笑った。
 子供じゃ無いんだから止めて欲しかったけど、嫌な気分では無かった。


「――とまあ、それはそれとして、片桐君はなに、赤坂さんと遊んでたの?」
「そう見えますか?」

 俺が視線をまっさらな室内に向けると櫻井さんも改めて部屋を見渡して「ん〜」と困った顔で唸った。

「引っ越しの手伝い?」

 そう思うのも無理はないだろう。誰がこんな落ち着かない部屋で遊ぶというんだ。
 赤坂さんはあれだけ友人に囲まれているのに自分の家に誰か連れてきたりしていないのか?
 ああ、けどさっき「お客さん呼ぶの初めて」みたいな事言ってたっけ?流石にこの部屋に呼んだら引かれるわ。

「ふふっ、秘密のお話をしてたんですよ」
「秘密……」

 赤坂さんの軽口に櫻井は顔を赤くした。何を想像したんだか。

「どうやったら父さん達を黙らせられるかって話です」

 妙な妄想をされるのは非常に不愉快だったので食い気味に言うと、今度は打って変わって神妙な顔付きに。

「……なるほどねぇ、片桐君はあれだけされてもまだ諦めて無いのかぁ」
「往生際が悪いし、可能性が低いのは分かってますけどね」
「それでも咲季ちゃんのために頑張ろうっていうんでしょ」

 ばしばし。

「最高のお兄ちゃんじゃないのさ」
「恥ずかしいんでやめてください……」
「何がよ?事実でしょ?」

 真顔で言われるもんだから向けられた純粋な視線から目を逸らすしか無かった。本当にこの人は地で良い人で、面映いセリフをさも当然のようにポンと出す。

 ていうか嬉しそうに肩を組んでくるのはいいんですけど、あの、胸が当たってるんですが。前も同じような事があったけど、何なのこの人はわざとやってんの?
 ドキドキとかよりも気まずさが勝つんだって。非常に申し訳ない気持ちになるからやめてくれ。

「それで?具体案は出てるの?」

 俺の複雑な心境も露知らず、肩を組むのをやめた櫻井さんは居住まいを正して問いかけた。

 出ていないと首を振ったと同時、今度は俺達のやり取りを静観していた赤坂さんが口を開き、

「その話なんですけど、実は櫻井さんとアキ君に確認したい事があるんです」
「「確認?」」

 ハモってしまった。
 櫻井さんがマンションのロビーにやって来た時に櫻井さんが何かを知っている的な事を言ってたからそっちは分かるけど、俺も?

「うん、アキ君のお父さんは曲がった事が嫌いだけど正当な事は好き。だから誰もが認めるような理由があれば退院を認めてくれるかもしれないんだよね?」
「まあ、うん」

 さっき赤坂さんに話した事の確認だった。間違い無いので頷く。
 それを確認すると赤坂さんは視線を俺から櫻井さんへ。

「では櫻井さん、咲季ちゃんのお見舞いに行った時に耳にしたのですけど、灯火病院の病室が満床なのは本当ですか?」

 問われた櫻井さんはきょとんとして「は、ハイ、そうです」と肯定。
 すると赤坂さんは口に弧を作った。「じゃあもっとやりやすくなるね」と。
 ぞくりと背筋が粟立つ感覚。
 赤坂さんが笑っている。つまり何かを企んでいる。相手はおそらく父さん。そして何を企んでいるのかと言えば……

「あっ」

 そこで俺は気付いた。赤坂さんの言いたいことが分かったのだ。
 そうか、少し考えれば思い付くような事なのになんで今まで気づかなかったのだろう。

 俺が赤坂さんが意図しているであろう事を言葉にすると、首肯が返ってきた。
 櫻井さんも待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑む。
 やっと本題に移れるとでもいうような態度だ。

「そういう事なら、アキ君に会えたら提案しようと思ってた作戦があるんだけど、聞いてみる?」

 予想外の申し出。正直櫻井さんから意見が貰えるとは思ってもみなかった。赤坂さんも俺と同様の反応で驚いたふうに固まる。
〝アキ君〟って言い方真似しないでくれという文句は今は置いておく。

「作戦ですか?」

「うん。名付けて『咲季ちゃん強制脱出大作戦』!」








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「……………………」
「………………」
「…………」
 殺風景なリビングに置かれた円状の折りたたみテーブル。
 地面に正座してそれを囲む三人の男女。
 俺――片桐秋春と赤坂さん、そして櫻井さんだ。
 客観的に見てかなりの謎メンバーである。このメンツで顔を突き合わせるなんて想像もしなかったから、めっちゃ気まずかった。
 …………いや、気まずいのはそれだけが理由じゃない。
「……………」
 櫻井さんがすっごい睨んでいるのだ。主に俺を。無言でひたすら数分間。
 理由は何となく分かってる。分かっているし、自覚があるからこそ言い訳をする余地がなくて俺も黙るしかない。
 俺は咲季に数週間会いに行かなかった。両親の強要があったとは言え、素直にそれに従ったのは咲季の兄貴として失格だろう。それを責めているんだ。
「ええと、看護師さんですよね。咲季ちゃんの病院で時々見かける。改めまして赤坂結愛です」
 一向に話が進まないからか、赤坂さんが助け舟を出してくれた。こいつに助けられるとは。
 対して櫻井さんは「こ、これはご丁寧に」と赤坂さんに頭を下げてから俺へと近づいてガシっと肩を組み、
「片桐君……」
「な、なんですか?」
 凄い形相で耳元に口を近づけた。
「どうしよう、この子間近で見たらめっさ美人……!緊張するんだけど!どうしよう!」
「…………は?」
「すっごい、すっごいよ」
「えと、なんですかそのテンション」
「こんな美人いたら緊張するよ普通!」
 俺の想像、全然違かった。この人思春期の男子学生みたいな思考巡らせてただけだった。ただ緊張で固まってただけだった。
「いい匂いするよ!女子女子しい香りが鼻をくすぐるよ!髪さらっさら!肌もっちもち!」
「いやあなたも女子ですって櫻井さん」
「いやいや私はもう女子なんて年じゃ無……くないわボケェ!しばくぞ!」
 久し振りのセルフブチ切れが出た。
 思わず「出たー」と苦笑。
「ていうか片桐君あんた今まで咲季ちゃん放っておいてこの超絶美人とよろしくやってたワケ!?」
「はい?」
「幼馴染なんだっけ?こんな美人が幼馴染で妹もあんなに可愛くて……なんて贅沢なのさキミは!感覚狂うぞ!」
「あの、話が色んな方向飛んでってますよ戻ってきてください。それとこの人と仲良いとか思われるの心外なんで。仲良く無いんで」
「あらあらアキ君ったら照れ屋さん」
「あんたは黙ってろ」
「わーーー!〝アキ君〟だって!幼馴染っぽい特別感!」
「櫻井さんは何をそんなに興奮してるんですか……」
「幼馴染が大人になってもあだ名で呼んでくれるなんてロマンがあるじゃない」
 何だそりゃ。
 どこにロマンがあるんだと眇めつつコップを傾けてお茶を飲んでると、赤坂さんが微笑ましいと言わんばかりにクスクス笑って俺を見ていた。
 何見てんだ気持ち悪い。
 睨みつけると軽いウインクで返された。何の合図だよ。思ったが、続いた言葉で話の軌道修正をするのだと分かった。
「それで櫻井さん、私に何かご用事があるんですよね?」
「えっ、おっ、う、うん!」
 赤坂さんに対する反応が思春期の男子。
 とはいえ、やっと櫻井さんがここに来た要件を聞けるみたいだ。
「ご、ご相伴にお預かりします櫻井デス!」
 …………聞ける、よね?大丈夫か櫻井さん。言動が意味不明過ぎる。こんなのにどんだけ緊張してるんだするだけ無駄だぞ。
 結局数分の時間を要してやっと落ち着いた櫻井さんは一つ咳払いをして、
「いやね、要件って言っても、もう要件は終わっちゃったんですよねぇ」
 俺を流し見た。
「なんですか?」
 俺が首を傾げると、櫻井さんは身を乗り出して軽くデコピン。痛い。
「片桐君の居場所、赤坂さんなら知ってるんじゃないかなって思ったの。咲季ちゃんからキミの幼馴染だって聞いてたから」
「なんで俺の居場所を?」
「咲季ちゃんを元気づけるために決まってんでしょーに」
 そう言いながらポケットからスマホを取り出して見せてくる櫻井さん。
「私が咲季ちゃんのスマホの電話番号登録したから、咲季ちゃんと話す準備は出来てるの。だから片桐君見つけて咲季ちゃんに繋ごうって思ってね。あの子今食事も全然摂らないわ元気もめちゃくちゃ無いわで、見ててこっちが辛いのよ」
「あいつ……」
「ま、私が個人的に心配だったってのもあるけどね。元気で何より」
 俺の頭を鷲掴むように撫でて櫻井さんはニカッと笑った。
 子供じゃ無いんだから止めて欲しかったけど、嫌な気分では無かった。
「――とまあ、それはそれとして、片桐君はなに、赤坂さんと遊んでたの?」
「そう見えますか?」
 俺が視線をまっさらな室内に向けると櫻井さんも改めて部屋を見渡して「ん〜」と困った顔で唸った。
「引っ越しの手伝い?」
 そう思うのも無理はないだろう。誰がこんな落ち着かない部屋で遊ぶというんだ。
 赤坂さんはあれだけ友人に囲まれているのに自分の家に誰か連れてきたりしていないのか?
 ああ、けどさっき「お客さん呼ぶの初めて」みたいな事言ってたっけ?流石にこの部屋に呼んだら引かれるわ。
「ふふっ、秘密のお話をしてたんですよ」
「秘密……」
 赤坂さんの軽口に櫻井は顔を赤くした。何を想像したんだか。
「どうやったら父さん達を黙らせられるかって話です」
 妙な妄想をされるのは非常に不愉快だったので食い気味に言うと、今度は打って変わって神妙な顔付きに。
「……なるほどねぇ、片桐君はあれだけされてもまだ諦めて無いのかぁ」
「往生際が悪いし、可能性が低いのは分かってますけどね」
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 ばしばし。
「最高のお兄ちゃんじゃないのさ」
「恥ずかしいんでやめてください……」
「何がよ?事実でしょ?」
 真顔で言われるもんだから向けられた純粋な視線から目を逸らすしか無かった。本当にこの人は地で良い人で、面映いセリフをさも当然のようにポンと出す。
 ていうか嬉しそうに肩を組んでくるのはいいんですけど、あの、胸が当たってるんですが。前も同じような事があったけど、何なのこの人はわざとやってんの?
 ドキドキとかよりも気まずさが勝つんだって。非常に申し訳ない気持ちになるからやめてくれ。
「それで?具体案は出てるの?」
 俺の複雑な心境も露知らず、肩を組むのをやめた櫻井さんは居住まいを正して問いかけた。
 出ていないと首を振ったと同時、今度は俺達のやり取りを静観していた赤坂さんが口を開き、
「その話なんですけど、実は櫻井さんとアキ君に確認したい事があるんです」
「「確認?」」
 ハモってしまった。
 櫻井さんがマンションのロビーにやって来た時に櫻井さんが何かを知っている的な事を言ってたからそっちは分かるけど、俺も?
「うん、アキ君のお父さんは曲がった事が嫌いだけど正当な事は好き。だから誰もが認めるような理由があれば退院を認めてくれるかもしれないんだよね?」
「まあ、うん」
 さっき赤坂さんに話した事の確認だった。間違い無いので頷く。
 それを確認すると赤坂さんは視線を俺から櫻井さんへ。
「では櫻井さん、咲季ちゃんのお見舞いに行った時に耳にしたのですけど、灯火病院の病室が満床なのは本当ですか?」
 問われた櫻井さんはきょとんとして「は、ハイ、そうです」と肯定。
 すると赤坂さんは口に弧を作った。「じゃあもっとやりやすくなるね」と。
 ぞくりと背筋が粟立つ感覚。
 赤坂さんが笑っている。つまり何かを企んでいる。相手はおそらく父さん。そして何を企んでいるのかと言えば……
「あっ」
 そこで俺は気付いた。赤坂さんの言いたいことが分かったのだ。
 そうか、少し考えれば思い付くような事なのになんで今まで気づかなかったのだろう。
 俺が赤坂さんが意図しているであろう事を言葉にすると、首肯が返ってきた。
 櫻井さんも待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑む。
 やっと本題に移れるとでもいうような態度だ。
「そういう事なら、アキ君に会えたら提案しようと思ってた作戦があるんだけど、聞いてみる?」
 予想外の申し出。正直櫻井さんから意見が貰えるとは思ってもみなかった。赤坂さんも俺と同様の反応で驚いたふうに固まる。
〝アキ君〟って言い方真似しないでくれという文句は今は置いておく。
「作戦ですか?」
「うん。名付けて『咲季ちゃん強制脱出大作戦』!」