第34話 避けられない戦い
ー/ー
クロナはホッパーと、ブラナはシュヴァルツと向かい合う。
「魔性に堕ちた侍女など、恐るるに足らず。この俺の剣の錆にしてくれよう!」
「言ってくれますね。確かに下半身がクモの体となって、前とは感覚が違いますけれど、未熟な坊ちゃまにとってはいいハンデだと思いますよ」
「言わせておけば!」
魔族として生まれ変わったブラナは、シュヴァルツを挑発している。
まだまだ十三歳と未熟である上に、クロナに対して一方的な憎悪を燃やしているシュヴァルツは、このちょっとした挑発にも簡単に乗ってしまう。未熟さというものが分かるくらいに見て取れる。
ブラナは元暗殺者ということに加え、クロナの侍女としての経験が加わり、より一層人心の掌握のし方を心得ているようなのだ。
そのブラナの挑発に、シュヴァルツは簡単に乗ってしまっている。
(さて、こんな感じであるなら、シュヴァルツ坊ちゃまをあしらうのは簡単のようですね。問題は生かして帰すべきか、それとも……というところでしょうかね)
ブラナはつい悩んでしまうようだった。
悩みの原因は、言うまでもなくクロナの存在である。
クロナは聖女であることに加えて、そもそも人を傷つけることを嫌がる心優しい人物である。そのクロナの存在が、ブラナの判断を鈍らせているというわけなのだ。
しかし、このまま放っておけば、間違いなくクロナに危害が及ぶ。ゆえに、ブラナは心を鬼にして、最低限シュヴァルツの心を折りにいくことにした。
「お嬢様を危険にさらすわけには参りません。坊ちゃまには悪いですが、私も手加減はできませんよ」
「うるさい! お前も裏切り者として、あの魔族ともどもあの世に送ってやる!」
できる限り優しくしようと思うブラナではあるが、シュヴァルツにはどう言葉をかけても、まともに話は通じそうになかった。
(なるほど、洗脳ではありますけれど、これは呪いといった方がよさそうですね。お嬢様に対して、憎悪を駆り立てる呪い……。なんて恐ろしいことなのでしょうか)
ブラナは思わず目を伏してしまう。
その隙を、シュヴァルツは見逃さなかった。
「戦いにおいてよそ見をするとは、実に余裕のようだな!」
シュヴァルツがブラナに斬りかかる。
だが、ブラナは余裕でその剣を防いでいる。
「この程度で虚を突けたと思わないことですね。私にとってしてみれば、坊ちゃまの剣技などまだまだ児戯。及第点すらもあげられませんよ」
ブラナの目はとても冷め切っていた。その目つきの鋭さに、シュヴァルツには寒気が走る。思わず剣を弾いて離れてしまうくらいにだ。
(な、なんだ今の感覚は……。あのままいたら、殺されていたんじゃないかという妙な錯覚……、これが暗殺者の威圧なのか?)
シュヴァルツの剣を持つ手が震えている。
しかし、ようやく討伐対象であるクロナを見つけたのだ。シュヴァルツはこのまま引き下がれるわけもなかった。
「お前がどれほどの強さかは知らない。だが、そいつをかばう以上はお前も討伐対象だ。目的を達するまで、俺は、退けないっ!」
シュヴァルツは剣を構え、ブラナへと高らかに宣言する。
ブラナは双剣を構え直し、シュヴァルツの顔を見る。
「そうですか。ならば、私も少し本気でお相手しましょう。アサシンスパイダーの力を得た私の実力、とくと見せてあげましょう!」
ブラナの声が響き渡ると、両者が動き始める。
クロナの兄と侍女による死闘が、幕を開けたのだ。
一方のクロナも、ホッパーとじっと睨み合っている。
聖女としての力はあるものの、戦いというものには不慣れなクロナは、うまく動けずにいる。不慣れな上に、攻撃対象が自分なのだから、体が震え上がってしまって思うように力を発揮できない。
『くそっ、この人間、弱いくせにちょこまかと!』
アサシンスパイダーがホッパーの動きに翻弄されている。
アサシンスパイダーは音もなく忍び寄って獲物をしとめるところから名前がついている。そのため、素早い動きについていけるかといったら、そういうわけでもなかった。
『おい、アリども。聖女様をしっかりとお守りしろ!』
『分かっていますよ。あなたもでかい口を叩いていないで、その敵をとっとと倒して下さい』
『うるさい! 私は素早い動きには対処できないのだよ』
アサシンスパイダーがスチールアントたちと口げんかをしている。
スチールアントたちはクロナを囲むように陣取ってはいるものの、やはりホッパーの動きにはついていけていない。
『聖女様、我らが守りますが、念のため、防御魔法を展開しておいて下さい』
「は、はいっ」
スチールアントたちの言葉に、クロナは自分の周りを覆う透明なシールドを展開する。
その瞬間だった。ホッパーが動きを見せる。
「もらった!」
素早い動きでクロナの上空へと移動する。
実はクロナの防御魔法には弱点があり、頭上に魔法が展開されていない。このクロナの魔法の穴である頭上から攻撃をするためである。
だが、この行動を読んでいた者がいた。
『そう来ると思ったよ。くらえっ!』
アサシンスパイダーが大きく体を動かし、クロナの頭上に向けて大量の糸を吐き出したのだった。
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「魔性に堕ちた侍女など、恐るるに足らず。この俺の剣の錆にしてくれよう!」
「言ってくれますね。確かに下半身がクモの体となって、前とは感覚が違いますけれど、未熟な坊ちゃまにとってはいいハンデだと思いますよ」
「言わせておけば!」
魔族として生まれ変わったブラナは、シュヴァルツを挑発している。
まだまだ十三歳と未熟である上に、クロナに対して一方的な憎悪を燃やしているシュヴァルツは、このちょっとした挑発にも簡単に乗ってしまう。未熟さというものが分かるくらいに見て取れる。
ブラナは元暗殺者ということに加え、クロナの侍女としての経験が加わり、より一層人心の掌握のし方を心得ているようなのだ。
そのブラナの挑発に、シュヴァルツは簡単に乗ってしまっている。
(さて、こんな感じであるなら、シュヴァルツ坊ちゃまをあしらうのは簡単のようですね。問題は生かして帰すべきか、それとも……というところでしょうかね)
ブラナはつい悩んでしまうようだった。
悩みの原因は、言うまでもなくクロナの存在である。
クロナは聖女であることに加えて、そもそも人を傷つけることを嫌がる心優しい人物である。そのクロナの存在が、ブラナの判断を鈍らせているというわけなのだ。
しかし、このまま放っておけば、間違いなくクロナに危害が及ぶ。ゆえに、ブラナは心を鬼にして、最低限シュヴァルツの心を折りにいくことにした。
「お嬢様を危険にさらすわけには参りません。坊ちゃまには悪いですが、私も手加減はできませんよ」
「うるさい! お前も裏切り者として、あの魔族ともどもあの世に送ってやる!」
できる限り優しくしようと思うブラナではあるが、シュヴァルツにはどう言葉をかけても、まともに話は通じそうになかった。
(なるほど、洗脳ではありますけれど、これは呪いといった方がよさそうですね。お嬢様に対して、憎悪を駆り立てる呪い……。なんて恐ろしいことなのでしょうか)
ブラナは思わず目を伏してしまう。
その隙を、シュヴァルツは見逃さなかった。
「戦いにおいてよそ見をするとは、実に余裕のようだな!」
シュヴァルツがブラナに斬りかかる。
だが、ブラナは余裕でその剣を防いでいる。
「この程度で虚を突けたと思わないことですね。私にとってしてみれば、坊ちゃまの剣技などまだまだ児戯。及第点すらもあげられませんよ」
ブラナの目はとても冷め切っていた。その目つきの鋭さに、シュヴァルツには寒気が走る。思わず剣を弾いて離れてしまうくらいにだ。
(な、なんだ今の感覚は……。あのままいたら、殺されていたんじゃないかという妙な錯覚……、これが暗殺者の威圧なのか?)
シュヴァルツの剣を持つ手が震えている。
しかし、ようやく討伐対象であるクロナを見つけたのだ。シュヴァルツはこのまま引き下がれるわけもなかった。
「お前がどれほどの強さかは知らない。だが、そいつをかばう以上はお前も討伐対象だ。目的を達するまで、俺は、退けないっ!」
シュヴァルツは剣を構え、ブラナへと高らかに宣言する。
ブラナは双剣を構え直し、シュヴァルツの顔を見る。
「そうですか。ならば、私も少し本気でお相手しましょう。アサシンスパイダーの力を得た私の実力、とくと見せてあげましょう!」
ブラナの声が響き渡ると、両者が動き始める。
クロナの兄と侍女による死闘が、幕を開けたのだ。
一方のクロナも、ホッパーとじっと睨み合っている。
聖女としての力はあるものの、戦いというものには不慣れなクロナは、うまく動けずにいる。不慣れな上に、攻撃対象が自分なのだから、体が震え上がってしまって思うように力を発揮できない。
『くそっ、この人間、弱いくせにちょこまかと!』
アサシンスパイダーがホッパーの動きに翻弄されている。
アサシンスパイダーは音もなく忍び寄って獲物をしとめるところから名前がついている。そのため、素早い動きについていけるかといったら、そういうわけでもなかった。
『おい、アリども。聖女様をしっかりとお守りしろ!』
『分かっていますよ。あなたもでかい口を叩いていないで、その敵をとっとと倒して下さい』
『うるさい! 私は素早い動きには対処できないのだよ』
アサシンスパイダーがスチールアントたちと口げんかをしている。
スチールアントたちはクロナを囲むように陣取ってはいるものの、やはりホッパーの動きにはついていけていない。
『聖女様、我らが守りますが、念のため、防御魔法を展開しておいて下さい』
「は、はいっ」
スチールアントたちの言葉に、クロナは自分の周りを覆う透明なシールドを展開する。
その瞬間だった。ホッパーが動きを見せる。
「もらった!」
素早い動きでクロナの上空へと移動する。
実はクロナの防御魔法には弱点があり、頭上に魔法が展開されていない。このクロナの魔法の穴である頭上から攻撃をするためである。
だが、この行動を読んでいた者がいた。
『そう来ると思ったよ。くらえっ!』
アサシンスパイダーが大きく体を動かし、クロナの頭上に向けて大量の糸を吐き出したのだった。