温泉旅行から戻ってきて数日、アキとユウキの関係は、より一層温かいものになったように見えた。
けれども、ユウキの心には、小さなモヤモヤが募り始めていた。
アキが、スマートフォンを触る回数が、前にも増して多くなったのだ。
しかも、ユウキが画面を覗き込もうとすると、慌てて隠すような仕草をする。
「ねぇ、アキくん。最近、誰と連絡してるの?」
ある日の朝、ユウキがそう尋ねると、アキは、朝食のパンを口に運びながら、少しだけ表情を硬くした。
「…仕事だよ。運行システムで、少しだけ気になる点があって…」
アキは、そう言って、スマホの画面を裏返しにした。彼の言葉は、いつだって真実を語っている。
しかし、ユウキには、アキの言葉が、どこか嘘のように聞こえた。仕事の話なのに、なぜ、そんなに慌てて隠すのだろう。
その日の夜、ユウキは、会社の同僚たちと食事をすることになった、とアキに告げた。本当は、アキと二人で、ゆっくりと夕食を取りたかった。
だが、最近のアキの態度に、ユウキは、少しだけ拗ねていた。
「…そうか。分かった。あまり遅くならないようにしろよ」
アキは、そう言って、ユウキの頭を優しく撫でた。
ユウキは、アキの言葉に、少しだけ心が揺らいだ。
しかし、ユウキは、アキのスマホの画面を、もう一度、裏返す。
「…うん、分かった」
ユウキは、そう言って、家を出た。
ユウキが家を出て数分後、アキは、リズを起動させた。
「リズ、プランBの詳細を」
「承知しました。マスター。ユウキさんの好むロマンチックな演出を、より個人的なものに再構築しました。星空の再現プログラムに、思い出の写真を投影するモードを追加します」
アキは、リズの言葉に、満足そうに頷いた。
「よし。これで、完璧だ」
アキは、そう言って、部屋の明かりを消した。すると、部屋の壁一面に、満天の星空が広がった。アキは、その星空の中に、ユウキとの思い出の写真を映し出し、プロポーズの練習を始めた。
その頃、ユウキは、同僚との食事を早めに切り上げ、家へと戻っていた。
やはり、アキのことが気になって仕方なかったのだ。
「アキくん…ただいま…!」
ユウキは、そう言って、部屋のドアを開けた。
すると、部屋には、アキが、一人で、部屋の壁に向かって、何かを喋っている姿があった。ユウキは、アキの姿に、思わず息をのむ。
「…アキくん、何してるの?」
ユウキの問いかけに、アキは、ハッと振り返った。その顔は、ユウキの想像をはるかに超えるほど、驚きと動揺に満ちていた。
「…ユウキ…なんで、こんなに早く…?」
アキは、そう言って、慌ててリズの電源を落とそうとする。
だが、リズは、アキの指示を無視し、機械的な音声で、ユウキに話しかけた。
「マスターの感情を認識。混乱と羞恥心を検出しました。現在、愛の告白リハーサル中に、ユウキさんが帰宅したため、プロポーズが中断されました」
リズの言葉に、ユウキは、目を丸くした。アキは、顔を真っ赤にして、リズの電源を、必死に落とそうとする。
「…アキくん、プロポーズ…?」
ユウキは、そう言って、アキに近づいた。
「…違うんだ。これは…」
アキは、そう言って、ユウキから顔を背けた。ユウキは、そんなアキの姿に、胸が締め付けられるような思いがした。
「…ねぇ、アキくん。私、何も聞かないから…」
ユウキは、そう言って、アキの顔を覗き込んだ。
アキは、ユウキの優しい瞳に、観念したかのように、深々とため息をついた。
「…ああ、分かった。全部、話すよ…」
しかし、ユウキの目に、アキの戸惑った顔が、少しだけ面白く見えてきた。
「…嘘だよ!アキくん、慌てすぎだよ!」
ユウキは、そう言って、アキの胸に顔をうずめて、笑い出した。
「もう!アキくんのサプライズ、全部台無しになっちゃったね!」
「…ユウキ」
アキは、そう言って、ユウキの頭を優しく撫でた。
「…ごめん、ユウキ。でも、これだけは、言わせてくれ」
アキは、そう言って、ユウキの手を強く握りしめた。
「…俺は、お前を、宇宙に連れていく」
アキの言葉に、ユウキは、涙がこぼれそうになるのを必死でこらえた。
アキは、プロポーズの言葉を口にすることはなかったが、その言葉には、プロポーズ以上の、二人の未来への決意が込められていた。
「うん…!アキくん…!」
ユウキは、そう言って、アキの腕の中で、静かに泣いた。
そして、二人の絆は、この小さなケンカを通して、さらに深く、強く結びついたのだった。