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第29話:宇宙観光客と失くした思い出(前編)

ー/ー



 ダブルデートから数日後、森野悠希はいつものように、地上駅のコンシェルジュカウンターに立っていた。

 制服に身を包み、背筋を伸ばし、満面の笑顔で客を迎える。しかし、彼女の心の中には、これまでとは違う、確かな自信と誇りが宿っていた。

「おはようございます!いってらっしゃいませ!」

 ユウキは、宇宙へと向かう乗客に、心からの笑顔を向けた。彼女の瞳は、エレベーターの先にある、見えない宇宙の日常を、鮮明に捉えているかのようだった。

「…ユウキさん、なんか、今日、すごくいい顔してますね」

 同僚のベテランコンシェルジュ、サトウが、ユウキに声をかけた。

「そうですか?なんだか、そう言われると、ちょっと照れちゃいます」

 ユウキは、そう言って、頬を赤らめた。

「いつもは、お客様の夢を乗せて、って言ってますけど、今日は、なんだか、ユウキさん自身が、夢を乗せてるみたいに見えますよ」

 サトウの言葉に、ユウキは、静かに微笑んだ。

 サトウには、まだ話していない、あの夜の出来事が、彼女の心を大きく変えたのだ。


 あの夜、宇宙レストランで突然の停電に見舞われた時、ユウキは、パニック寸前だった。

 けれども、アキが立ち上がり、プロの運行管理者としてトラブルに立ち向かう姿を見て、ユウキは、自分の恐怖心を乗り越えることができた。

 アキが守っているのは、ただのエレベーターの安全だけじゃない。そこにいる人々の、そして地上にいる人々の、何気ない日常と、未来への夢を守っている。

 ユウキは、そのことを、改めて、肌で感じたのだ。

「…私、この間、アキくんの仕事の、ほんの一部に触れたんです。そしたら、なんだか、私の仕事も、もっともっと大切なものに思えてきて…」

 ユウキがそう言うと、サトウは、優しい眼差しでユウキを見つめた。

「そうですね。私たちコンシェルジュは、お客様の一番近くで、その夢を応援する仕事です。でも、運行管理室にいる彼らは、その夢を、絶対に壊さないように、見えないところで、必死に守ってくれているんですから」

 サトウは、そう言って、ユウキの肩に手を置いた。





 その日の午後、ユウキのカウンターに、一組の老夫婦がやってきた。

 二人は、ユウキの故郷の星から来た観光客で、少しだけ寂しそうな顔をしていた。

「あの…すみません、コンシェルジュさん」

 おじいさんが、ユウキに声をかけた。

「どうかなさいましたか?」

 ユウキが優しく尋ねると、おばあさんが、俯きながら小さな声で答えた。

「たぶんなんですが、宇宙エレベーターの中で、大切なものを失くしてしまったようなんです…」

「大切なもの…?」

「はい、私たちが故郷を出る前に撮った、最後の写真なんです。この写真が、私たちにとって、故郷の星と地球を繋ぐ、たった一つの思い出で…」

 おじいさんの言葉に、ユウキは、胸が締め付けられるのを感じた。

 宇宙で働く人々にとって、故郷の星は、遠い遠い場所にある。その故郷との唯一の繋がりを失った二人の悲しみが、痛いほど伝わってきた。

「…見つけます。私が、必ず、その写真を見つけ出しますから!」

 ユウキは、二人の手を握りしめ、力強く言った。

「…ありがとうございます。でも、この巨大なエレベーターの中で、どうやって…」

 おじいさんが不安そうに尋ねる。

「大丈夫です。私には、心強い味方がいますから」

 ユウキは、そう言って、アキに連絡を取るため、スマートフォンを取り出した。

 写真が撮影された場所が、地上からエレベーターが見える「丘」だったことを、ユウキは老夫婦から聞き出す。

 アキとユウキの思い出の丘。
 ユウキは、アキの力を借りれば、必ず写真を見つけられると信じていた。




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 ダブルデートから数日後、森野悠希はいつものように、地上駅のコンシェルジュカウンターに立っていた。
 制服に身を包み、背筋を伸ばし、満面の笑顔で客を迎える。しかし、彼女の心の中には、これまでとは違う、確かな自信と誇りが宿っていた。
「おはようございます!いってらっしゃいませ!」
 ユウキは、宇宙へと向かう乗客に、心からの笑顔を向けた。彼女の瞳は、エレベーターの先にある、見えない宇宙の日常を、鮮明に捉えているかのようだった。
「…ユウキさん、なんか、今日、すごくいい顔してますね」
 同僚のベテランコンシェルジュ、サトウが、ユウキに声をかけた。
「そうですか?なんだか、そう言われると、ちょっと照れちゃいます」
 ユウキは、そう言って、頬を赤らめた。
「いつもは、お客様の夢を乗せて、って言ってますけど、今日は、なんだか、ユウキさん自身が、夢を乗せてるみたいに見えますよ」
 サトウの言葉に、ユウキは、静かに微笑んだ。
 サトウには、まだ話していない、あの夜の出来事が、彼女の心を大きく変えたのだ。
 あの夜、宇宙レストランで突然の停電に見舞われた時、ユウキは、パニック寸前だった。
 けれども、アキが立ち上がり、プロの運行管理者としてトラブルに立ち向かう姿を見て、ユウキは、自分の恐怖心を乗り越えることができた。
 アキが守っているのは、ただのエレベーターの安全だけじゃない。そこにいる人々の、そして地上にいる人々の、何気ない日常と、未来への夢を守っている。
 ユウキは、そのことを、改めて、肌で感じたのだ。
「…私、この間、アキくんの仕事の、ほんの一部に触れたんです。そしたら、なんだか、私の仕事も、もっともっと大切なものに思えてきて…」
 ユウキがそう言うと、サトウは、優しい眼差しでユウキを見つめた。
「そうですね。私たちコンシェルジュは、お客様の一番近くで、その夢を応援する仕事です。でも、運行管理室にいる彼らは、その夢を、絶対に壊さないように、見えないところで、必死に守ってくれているんですから」
 サトウは、そう言って、ユウキの肩に手を置いた。
 その日の午後、ユウキのカウンターに、一組の老夫婦がやってきた。
 二人は、ユウキの故郷の星から来た観光客で、少しだけ寂しそうな顔をしていた。
「あの…すみません、コンシェルジュさん」
 おじいさんが、ユウキに声をかけた。
「どうかなさいましたか?」
 ユウキが優しく尋ねると、おばあさんが、俯きながら小さな声で答えた。
「たぶんなんですが、宇宙エレベーターの中で、大切なものを失くしてしまったようなんです…」
「大切なもの…?」
「はい、私たちが故郷を出る前に撮った、最後の写真なんです。この写真が、私たちにとって、故郷の星と地球を繋ぐ、たった一つの思い出で…」
 おじいさんの言葉に、ユウキは、胸が締め付けられるのを感じた。
 宇宙で働く人々にとって、故郷の星は、遠い遠い場所にある。その故郷との唯一の繋がりを失った二人の悲しみが、痛いほど伝わってきた。
「…見つけます。私が、必ず、その写真を見つけ出しますから!」
 ユウキは、二人の手を握りしめ、力強く言った。
「…ありがとうございます。でも、この巨大なエレベーターの中で、どうやって…」
 おじいさんが不安そうに尋ねる。
「大丈夫です。私には、心強い味方がいますから」
 ユウキは、そう言って、アキに連絡を取るため、スマートフォンを取り出した。
 写真が撮影された場所が、地上からエレベーターが見える「丘」だったことを、ユウキは老夫婦から聞き出す。
 アキとユウキの思い出の丘。
 ユウキは、アキの力を借りれば、必ず写真を見つけられると信じていた。