第36話:最終決戦プランと『愛の独占欲』の証明
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1.メゾン・ド・バレット 地下司令室にて
地下司令室は、最終決戦を前にした、張り詰めた静寂に支配されていた。室内の空調音だけが、不気味なほどの規則正しさを保って響いている。
司令塔ルナは、メインモニターに映し出されたミストの最終戦力――ジーナの魔力吸収結界の解析データと、最強モンスターの予想図――を、モノクルの奥の瞳で冷徹に見つめていた。クロエの情報分析とオリヴィアの特訓により、戦術的なピースはすべて揃っている。しかし、ルナの不安は、その作戦の「核(コア)」、すなわち、志藤悠真自身にあった。
(愛は非効率。感情はエラーを生むノイズ。しかし、ミストの狂気に抗うには、志藤様の抑止力を最大化する、この「ノイズ」こそが唯一の鍵……。私は司令塔として、愛する者を戦場という地獄に送り出す。この孤独な使命を、理性の限界まで保てるのか)
ルナは、対結界戦術特化型にアップデートされた狙撃ライフルを無意識に握りしめた。ジーナという「仏頂面の戦闘狂」の規格外の力は、ルナの理性が設定した「勝利確率」の数値を、常に微かに下回らせていた。
バレット隊の全員(アリス、クロエ、ソフィア、ララ、アベル)が司令室の席につく。ルナは立ち上がり、冷徹な声音で最終決戦のプランを説明する。
「ターゲットは、ジーナの結界と最強モンスター。ミストがこの戦いのために用意した、切り札です」
ルナがモニターを切り替えると、作戦図の核心に、悠真が一人、巨大な魔力渦の中心に立つ図が描かれていた。
「戦略の核心は、志藤様が自ら『囮』となり、自身の支配力を極限まで暴走させることにあります。結界の魔力吸収を意図的にオーバーフローさせ、ノイズを生じさせる。その一瞬の隙を突き、私が対結界狙撃で結界を破壊する。そこが、メイド隊が一斉に攻撃を仕掛ける、唯一の、命懸けのチャンスです」
重い沈黙が、バレット隊員たちを圧し潰した。全員がルナの提案に息を呑む中、悠真はゆっくりと立ち上がった。その穏やかな瞳には、迷いではなく、強い決意の炎が宿っている。
「この提案は、俺自身が、ルナと相談して決めたことなんだ」
悠真の声は、静かだが、皆の心に深く響いた。
「この一週間、ずっと考えていた。護られているだけの俺じゃ、大切なみんなを護れない。俺の優しさは、決して弱点なんかじゃない。俺がみんなのためにできること――それは、抑止力として、みんなの独占欲を最大限に引き出す『鍵』になることだと思った。俺の命は、みんなの愛の独占欲を安定させるために使う。ルナ、作戦を皆に伝えてくれ」
悠真の覚悟を受け、ルナは冷徹な司令塔の仮面を戻した。
「聞きましたね。この作戦は、悠真さんの命を危険に晒します。しかし、ミストの狂気に抗うには、私たち全員の愛(独占欲)を、悠真さんの支配力と連動させる必要がある。悠真さんへの愛の独占欲を、理性の限界まで解放しなさい。それが、司令塔からの最終命令です」
その命令に、最も激しく、そして本能的に反応したのはアリスだった。双剣での特訓を終え、戦闘的な愛に目覚めたばかりの彼女にとって、悠真を囮にする作戦は、「公認の恋人役」という使命を完全に超える動揺だった。
「ルナ! 悠真くんを囮にするなんて、絶対に許されないわ! なんで私に相談もしてくれなかったのよ!」
アリスは席を蹴るように立ち上がり、ルナと悠真に詰め寄った。瞳は激しく動揺し、涙が滲む。
「私は公認の恋人役として、彼の命を護るためにここにいるのよ! それが、私の……! 私の気持ちなんて、所詮『任務』だと、あなたは思っていたんでしょう!?」
ルナは、感情を一切含まない声で一蹴した。
「有栖川隊員。感情はノイズです。あなたの公認の恋人役というタスクは、悠真さんの抑止力安定のためのセンサーに過ぎません。任務を遂行しなさい」
悠真は、ルナの言葉に遮られる前に、アリスの涙を拭うように、静かに、だが真剣に言葉を返した。
「アリス、聞いてくれ。俺がお前に相談しなかったのは、お前が絶対に反対すると知っていたからだ。お前の愛が、どれだけ本物で、どれだけ俺を護ろうとしているか、俺が一番よく知っている。だからこそ、俺は、お前と同じくらい、お前を護りたいと思った」
悠真は、アリスの手を取り、その瞳をまっすぐに見つめた。
「俺は、お前を『恋人役』だなんて一度も思ったことはない。俺にとって、アリスは、命を懸けて護りたい、俺の(本物の)大切な人だ。俺が命を懸けるのは、世界のためだけじゃない。お前たちを護るためだ。だから、頼む。俺の決意を信じて、俺を護ってくれないか」
「違うっ!」
ルナの冷徹な言葉は、アリスの理性を完全に打ち砕いた。彼女は堰を切ったように涙を流しながら、「公認の恋人役」という嘘の肩書きを投げ捨てた。
「私の悠真くんへの愛は、任務なんかじゃない! 公認の恋人役なんて、もうどうでもいいわ! 私は、悠真くんの本物の大切な人として、誰にも彼を渡したくない! 独占したい! 命を懸けて、彼を護るわ!」
その激情は、フェロモンや任務を超えた「本物の独占欲」への進化を、涙をもって証明していた。
ソフィアが静かに、だが強い意志をもって口を開いた。彼女の表情は穏やかだが、瞳の奥に強い炎を宿している。
「私もよ、アリス。私の『心のバリア』は、悠真さんの命を護るためにある。それ以外の理由は、もう不要。私は悠真さんを護る。バレット隊にいるのは、その一つだけよ」
防御特化型サイボーグであるアベルは、隣のソフィアを熱心に見つめ、その言葉に深く賛同した。
「ソフィア隊員に賛同します。私とララは防御と回復。志藤様の命を、物理的に、絶対に護り抜く。それが、私の駆動原理です」
続いて、ララが冷静に、だが明瞭に自身の役割を宣言する。
「わたくしの高精度魔道回復能力は、この作戦において最大の時間的効率性を生み出す。志藤様の安全確保のため、わたくしのできることを、全力のサポートで遂行します」
そして、情報分析担当のクロエ。彼女は作戦の危険性を誰よりも理解していたためか、その口調は慎重だった。
(この作戦の成功確率は、極めて不安定な変数、志藤様の感情に依存する。司令塔のルナ隊長でさえ、理性が崩壊寸前だ。危険極まりない)
「私は、この危険な『愛のデータ』を、最後まで正確に解析し、勝利に繋げます。それが、私の抑止力への知的独占欲です」
悠真は、アリスの真実の涙と、仲間たち(ソフィア、アベル、ララ、そしてクロエ)の静かな覚悟の炎を、正面から受け止めた。
「アリス、ありがとう。みんなも。俺の優しさは、弱点なんかじゃない。みんなの愛の独占欲こそが、俺の支配力を安定させる、最強の鍵だ。俺は、みんなを護るために、この戦いに挑む」
悠真の揺るぎない覚悟は、司令室全体を包み込む絶対的な力となり、メイドたちを護るという彼の意志が、抑止力の「愛のトリガー」として機能した。
その瞬間、司令塔ルナの理性の防壁は、音を立てて崩壊した。
(アリスの愛は、データではない。ノイズではない、本物だ。そして、志藤様は、そのノイズを、自分の命と引き換えに受け入れた。私が抱える、司令塔としての孤独な愛は……一体、何なのだ?)
ルナのモノクルが不規則に点滅し、データは制御不能なエラーコードを吐き出す。しかし、そのエラーコードの先に、ルナは最も非効率で、最も人間的な感情のデータを発見した。それは「愛の独占欲の最大値」。
ルナは、理性の仮面の下で、自分自身もまた、アリスと同じように悠真を深く愛し、誰にも彼を渡したくないという、抑え込んでいた本音に初めて気が付いた。
彼女は、その愛を誰にも悟らせない、「孤独な愛」として胸に秘めることを選んだ。ルナの愛は、司令塔の役割と一体となり、悠真の抑止力を護り続ける使命として昇華される。
(私は司令塔だ。愛をノイズとして処理することはできない。ならば、この愛を、最強の抑止力として機能させる)
ルナは、深く息を吸い、司令室に響き渡る声で厳命した。その声には、冷徹さだけでなく、初めて愛の決意が宿っていた。
「全員、志藤様の覚悟を胸に、作戦を遂行しなさい。私たちバレット隊の愛が、ミストの狂気に打ち勝つ、最強の力だということを証明するわ」
全員が静かに敬礼する中、司令室の隅で、微かな、しかし規則正しい機械の駆動音が鳴り響いた。長期療養中だったメイの「愛のトリガー」が、最終決戦の開始を告げるように、再起動した音だった。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
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1.メゾン・ド・バレット 地下司令室にて
地下司令室は、最終決戦を前にした、張り詰めた静寂に支配されていた。室内の空調音だけが、不気味なほどの規則正しさを保って響いている。
司令塔ルナは、メインモニターに映し出されたミストの最終戦力――ジーナの魔力吸収結界の解析データと、最強モンスターの予想図――を、モノクルの奥の瞳で冷徹に見つめていた。クロエの情報分析とオリヴィアの特訓により、戦術的なピースはすべて揃っている。しかし、ルナの不安は、その作戦の「核(コア)」、すなわち、志藤悠真自身にあった。
(愛は非効率。感情はエラーを生むノイズ。しかし、ミストの狂気に抗うには、志藤様の抑止力を最大化する、この「ノイズ」こそが唯一の鍵……。私は司令塔として、愛する者を戦場という地獄に送り出す。この孤独な使命を、理性の限界まで保てるのか)
ルナは、対結界戦術特化型にアップデートされた狙撃ライフルを無意識に握りしめた。ジーナという「仏頂面の戦闘狂」の規格外の力は、ルナの理性が設定した「勝利確率」の数値を、常に微かに下回らせていた。
バレット隊の全員(アリス、クロエ、ソフィア、ララ、アベル)が司令室の席につく。ルナは立ち上がり、冷徹な声音で最終決戦のプランを説明する。
「ターゲットは、ジーナの結界と最強モンスター。ミストがこの戦いのために用意した、切り札です」
ルナがモニターを切り替えると、作戦図の核心に、悠真が一人、巨大な魔力渦の中心に立つ図が描かれていた。
「戦略の核心は、志藤様が自ら『囮』となり、自身の支配力を極限まで暴走させることにあります。結界の魔力吸収を意図的にオーバーフローさせ、ノイズを生じさせる。その一瞬の隙を突き、私が対結界狙撃で結界を破壊する。そこが、メイド隊が一斉に攻撃を仕掛ける、唯一の、命懸けのチャンスです」
重い沈黙が、バレット隊員たちを圧し潰した。全員がルナの提案に息を呑む中、悠真はゆっくりと立ち上がった。その穏やかな瞳には、迷いではなく、強い決意の炎が宿っている。
「この提案は、俺自身が、ルナと相談して決めたことなんだ」
悠真の声は、静かだが、皆の心に深く響いた。
「この一週間、ずっと考えていた。護られているだけの俺じゃ、大切なみんなを護れない。俺の優しさは、決して弱点なんかじゃない。俺がみんなのためにできること――それは、抑止力として、みんなの独占欲を最大限に引き出す『鍵』になることだと思った。俺の命は、みんなの愛の独占欲を安定させるために使う。ルナ、作戦を皆に伝えてくれ」
悠真の覚悟を受け、ルナは冷徹な司令塔の仮面を戻した。
「聞きましたね。この作戦は、悠真さんの命を危険に晒します。しかし、ミストの狂気に抗うには、私たち全員の愛(独占欲)を、悠真さんの支配力と連動させる必要がある。悠真さんへの愛の独占欲を、理性の限界まで解放しなさい。それが、司令塔からの最終命令です」
その命令に、最も激しく、そして本能的に反応したのはアリスだった。双剣での特訓を終え、戦闘的な愛に目覚めたばかりの彼女にとって、悠真を囮にする作戦は、「公認の恋人役」という使命を完全に超える動揺だった。
「ルナ! 悠真くんを囮にするなんて、絶対に許されないわ! なんで私に相談もしてくれなかったのよ!」
アリスは席を蹴るように立ち上がり、ルナと悠真に詰め寄った。瞳は激しく動揺し、涙が滲む。
「私は公認の恋人役として、彼の命を護るためにここにいるのよ! それが、私の……! 私の気持ちなんて、所詮『任務』だと、あなたは思っていたんでしょう!?」
ルナは、感情を一切含まない声で一蹴した。
「有栖川隊員。感情はノイズです。あなたの公認の恋人役というタスクは、悠真さんの抑止力安定のためのセンサーに過ぎません。任務を遂行しなさい」
悠真は、ルナの言葉に遮られる前に、アリスの涙を拭うように、静かに、だが真剣に言葉を返した。
「アリス、聞いてくれ。俺がお前に相談しなかったのは、お前が絶対に反対すると知っていたからだ。お前の愛が、どれだけ本物で、どれだけ俺を護ろうとしているか、俺が一番よく知っている。だからこそ、俺は、お前と同じくらい、お前を護りたいと思った」
悠真は、アリスの手を取り、その瞳をまっすぐに見つめた。
「俺は、お前を『恋人役』だなんて一度も思ったことはない。俺にとって、アリスは、命を懸けて護りたい、俺の(本物の)大切な人だ。俺が命を懸けるのは、世界のためだけじゃない。お前たちを護るためだ。だから、頼む。俺の決意を信じて、俺を護ってくれないか」
「違うっ!」
ルナの冷徹な言葉は、アリスの理性を完全に打ち砕いた。彼女は堰を切ったように涙を流しながら、「公認の恋人役」という嘘の肩書きを投げ捨てた。
「私の悠真くんへの愛は、任務なんかじゃない! 公認の恋人役なんて、もうどうでもいいわ! 私は、悠真くんの本物の大切な人として、誰にも彼を渡したくない! 独占したい! 命を懸けて、彼を護るわ!」
その激情は、フェロモンや任務を超えた「本物の独占欲」への進化を、涙をもって証明していた。
ソフィアが静かに、だが強い意志をもって口を開いた。彼女の表情は穏やかだが、瞳の奥に強い炎を宿している。
「私もよ、アリス。私の『心のバリア』は、悠真さんの命を護るためにある。それ以外の理由は、もう不要。私は悠真さんを護る。バレット隊にいるのは、その一つだけよ」
防御特化型サイボーグであるアベルは、隣のソフィアを熱心に見つめ、その言葉に深く賛同した。
「ソフィア隊員に賛同します。私とララは防御と回復。志藤様の命を、物理的に、絶対に護り抜く。それが、私の駆動原理です」
続いて、ララが冷静に、だが明瞭に自身の役割を宣言する。
「わたくしの高精度魔道回復能力は、この作戦において最大の時間的効率性を生み出す。志藤様の安全確保のため、わたくしのできることを、全力のサポートで遂行します」
そして、情報分析担当のクロエ。彼女は作戦の危険性を誰よりも理解していたためか、その口調は慎重だった。
(この作戦の成功確率は、極めて不安定な変数、志藤様の感情に依存する。司令塔のルナ隊長でさえ、理性が崩壊寸前だ。危険極まりない)
「私は、この危険な『愛のデータ』を、最後まで正確に解析し、勝利に繋げます。それが、私の抑止力への知的独占欲です」
悠真は、アリスの真実の涙と、仲間たち(ソフィア、アベル、ララ、そしてクロエ)の静かな覚悟の炎を、正面から受け止めた。
「アリス、ありがとう。みんなも。俺の優しさは、弱点なんかじゃない。みんなの愛の独占欲こそが、俺の支配力を安定させる、最強の鍵だ。俺は、みんなを護るために、この戦いに挑む」
悠真の揺るぎない覚悟は、司令室全体を包み込む絶対的な力となり、メイドたちを護るという彼の意志が、抑止力の「愛のトリガー」として機能した。
その瞬間、司令塔ルナの理性の防壁は、音を立てて崩壊した。
(アリスの愛は、データではない。ノイズではない、本物だ。そして、志藤様は、そのノイズを、自分の命と引き換えに受け入れた。私が抱える、司令塔としての孤独な愛は……一体、何なのだ?)
ルナのモノクルが不規則に点滅し、データは制御不能なエラーコードを吐き出す。しかし、そのエラーコードの先に、ルナは最も非効率で、最も人間的な感情のデータを発見した。それは「愛の独占欲の最大値」。
ルナは、理性の仮面の下で、自分自身もまた、アリスと同じように悠真を深く愛し、誰にも彼を渡したくないという、抑え込んでいた本音に初めて気が付いた。
彼女は、その愛を誰にも悟らせない、「孤独な愛」として胸に秘めることを選んだ。ルナの愛は、司令塔の役割と一体となり、悠真の抑止力を護り続ける使命として昇華される。
(私は司令塔だ。愛をノイズとして処理することはできない。ならば、この愛を、最強の抑止力として機能させる)
ルナは、深く息を吸い、司令室に響き渡る声で厳命した。その声には、冷徹さだけでなく、初めて愛の決意が宿っていた。
「全員、志藤様の覚悟を胸に、作戦を遂行しなさい。私たちバレット隊の愛が、ミストの狂気に打ち勝つ、最強の力だということを証明するわ」
全員が静かに敬礼する中、司令室の隅で、微かな、しかし規則正しい機械の駆動音が鳴り響いた。長期療養中だったメイの「愛のトリガー」が、最終決戦の開始を告げるように、再起動した音だった。