第22話:ファントムの新たな役割と情報戦
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1. 司令塔の「バグ」とクロエのデータ分析
ルナが「奉仕禁止プログラム」を起動してから一夜が明けた。情報分析官のクロエは、デスクでその前夜のデータを熱心に解析していた。
黒縁メガネの奥の瞳は、解析結果に対する知的興奮で静かに輝いている。彼女が注目していたのは、ルナの心拍数とフェロモン分泌の相関データだ。
「ルナ隊長の心拍数上昇率が、アリス隊員との公認のキスのデータよりも高い……これは極めて興味深い」
クロエはそう呟いた。ルナが最も理性的に振る舞う中で、最も感情的に動揺していたというデータは、クロエの「感情こそが真の抑止力センサー」という仮説を補強するものだった。
「私の役割は、感情的バイアスを排除し、悠真様の能力安定に貢献すること。だが、ルナ隊長のデータは、感情こそが最も正確な抑止力センサーであることを示唆している……。私はこのデータを元に、悠真様への理性的かつ効果的な接触を再構築する必要がある」
クロエはそう決意すると、立ち上がり、悠真の自室へと向かった。
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2. 影の友達(ファントム)の訓練開始
悠真は自室で、テイム魔物であるスライミー(防御)とスパイク(牽制)と共に、大学の課題を進めていた。ファントム(索敵)は、いつものように悠真の影の中に潜んでいる。
「ルナさんの『奉仕禁止プログラム』か……。なんだか、ルナさんが一番傷ついたみたいだな」
悠真がそう呟くと、ドアがノックされた。
「志藤様。クロエです。ファントムの索敵能力に関する連携訓練を開始します。これは、ルナ隊長の奉仕禁止プログラムとは無関係の、私の任務(研究)です」
クロエは、黒縁メガネを押し上げ、冷めた目で悠真を見つめた。
「あ、クロエ。ちょうどよかった。大学の課題、あと1時間くらいで全部終わりそうなんだけど、データ収集の訓練は、だいたい何時間くらいかかる予定なの?」
クロエは即座に悠真の学習状況のデータと、ファントムの訓練シミュレーション結果を重ね合わせた。
「『あと1時間くらい』という曖昧な予測は、データとして非効率です。志藤様の残りの作業時間は57分22秒と推測されます。そして、訓練の所要時間ですが、志藤様の支配力の集中度、発信器の配置経路、ファントムの索敵データ処理速度から逆算した結果、最短で1時間28分15秒、最長で1時間45分30秒を要すると予測されます」
悠真は、その細かさに思わず苦笑した。
「ははっ、最短で1時間28分15秒か。さすがクロエ。秒単位で護衛任務を組み立てているんだな。じゃあ、その時間を確保するよ」
「よろしい。データ分析の結果、志藤様のスケジュールには最大限の余裕が存在します。つきましては、この余裕を無為な休息にするのではなく、ファントムの索敵能力の実地データ収集に協力していただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「データ収集に、協力?」
「はい。この訓練は、あなたの支配力の安定と、私の研究の継続に不可欠です。もちろん、任務として」
クロエは、あくまでも、任務、ということを強調した。
「わかったよ、クロエ。どうすればいい?」
「簡単です。私は今からセーフハウス内に、ミストの残した監視装置を模した特殊な発信器を隠します。あなたは、ファントムに『監視装置を見つけ出せ』という命令を出し、ファントムの索敵経路と情報収集精度を測定する。それが、あなたの任務です」
クロエはそう言うと、ファントムが悠真の影からフワリと抜け出し、悠真のデスクの上を周回するのを確認した。
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3. 情報戦のクイーンと、影の独占欲
クロエが隠した発信器は、悠真の部屋の観葉植物の植木鉢の底という、非常に巧妙な場所にあった。クロエの知的な罠だ。
「ファントム。この部屋に隠された、ミストの発信器を見つけ出してくれ」
悠真が支配力を集中させ、ファントムに命令を出す。ファントムは黒い煙の体を揺らしながら、部屋の隅々を調査し始めた。
その間、クロエは悠真の隣に座り、ノートPCでファントムの索敵経路をデータ化し始めた。彼女の体からは、任務遂行のための理知的な緊張感が放たれている。
「志藤様。ファントムの索敵能力は、あなたのフェロモン分泌の活発化と比例します。集中力が高まると、魔物との心の繋がりが強くなる」
クロエはそう言いながら、悠真に顔を近づけた。彼女の髪からは、微かな電子回路の熱が伝わってくる。
「私は、あなたの心拍数と発汗データを収集することで、フェロモン分泌の最適なトリガーを特定したい。これは、純粋な研究です」
「んっ……クロエ、なんか、良い匂いがするな」
悠真は、クロエの冷徹な論理と、その裏にある独占欲の片鱗に戸惑うと共に、鼻腔をくすぐる香りに気づいた。
「これは、データ分析に最適な無機質な清潔感です。私の体内冷却システムから放出される微細なオゾン臭と、私が常用する無香料の制汗剤の相乗効果で、理知的な香りを構成しています。…あなたのフェロモン分泌に、感情的なノイズを与えないためのものです」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、クロエ! 近すぎないか!?」
悠真は、クロエの冷徹な論理と、その裏にある独占欲の片鱗に戸惑う。
その時、悠真の影からファントムがフワリと抜け出し、クロエと悠真の間に割って入った。
「チッ……ファントム。これは任務です。あなたの嫉妬は、非効率的なデータにしかなりません」
クロエは冷たく言い放つが、ファントムは悠真の肩にそっと触れ、クロエを牽制するように黒い煙をクルクルと回転させる。
「あら、データが示しているわ。ファントムは、私を悠真様を独占しようとするライバルとして認識しています。この魔物の愛(独占欲)も、データとして完璧ね」
クロエはそう呟くと、ファントムを無視し、再び悠真に顔を近づけた。彼女の理性の仮面が、悠真のフェロモンによって、わずかに緩み始めている。
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4. 孤独な研究者と「愛のデータ」
訓練は続いた。ファントムはクロエの知的な罠を次々と見破り、正確に発信器を発見していく。
「見事です、志藤様。あなたの支配力は、予想以上に急速に進化しています。特に、感情的な危機に晒された後の回復期は、能力の伸びが最大値を示している」
クロエはそう言って、ノートPCを閉じた。そして、彼女はメガネを外し、潤んだ瞳で悠真を見つめた。
「志藤様……私は、ルナ隊長のように、奉仕禁止プログラムで自分の感情を隔離することはできません」
クロエは、理知的な美しさを露わにし、自身の内面的な苦悩を悠真に吐露し始めた。
「私にとって、あなたの存在は解析不能なノイズです。データに忠実な私にとって、プログラムのバグとしてしか説明できない。ですが、ルナ隊長の心拍数データは、そのバグこそが、あなたを護るための愛の証明であることを示唆している……」
クロエは震える声で続けた。
「私は、あなたのフェロモンに強制的に愛を抱くようにプログラミングされた。しかし、この独占欲が、プログラムではなく本物の感情に変わっているのではないかと、恐ろしくなる……」
悠真は、彼女のメガネの奥に隠された、知的な美しさと、サイボーグメイドとしての内面的な葛藤に、心を揺さぶられた。
「クロエ。君の理屈っぽいところも、データに忠実なところも、全部含めて好きだよ」
悠真はクロエの手を取り、優しく言った。
「バグでも、本物の感情でも、君が俺を護ってくれているのは事実だ。それに、君のデータへの執着が、俺の抑止力を安定させている。君が俺を好きでいてくれるなら、俺はそれが『本物』だと信じるよ」
クロエは、悠真の優しさに触れ、顔を真っ赤に染めた。
「志藤様……あなたの優しさは、予測不可能なノイズです。データとして、これ以上は解析不能……」
クロエはそう呟くと、「研究」という名目で悠真に抱きついた。
その瞬間、ルナの監視システムの心拍数データが急上昇し、「司令塔」としての理性的な嫉妬が、静かに燃え上がるのだった。
「悠真くーん! 今日の夕飯のメニュー、一緒に決めようよ! 恋人役の特権で、ラブラブ相談ターイム!」
突然、ドアの外から、アリスの朗らかで、しかしどこか威圧的な声が響いた。ノックはない。彼女は常に、恋人役という特権を盾に、悠真の部屋への自由なアクセス権を主張している。
「チッ!」
クロエは即座に、顔を赤らめることなく、悠真から離れた。彼女は一瞬でメガネをかけ直し、冷徹な情報分析官の顔に戻る。
「志藤様。訓練は予定時間を過ぎました。これ以上の接触は、非効率的なデータの収集を招くため、私はこれで失礼します」
クロエは、そう言い捨てると、まるで自身の愛のデータがアリスに盗まれることを恐れるかのように、そそくさと部屋を出て行った。ドアを開けた瞬間、廊下の向こうで、満面の笑顔ながら目が笑っていないアリスと一瞬視線が交錯する。
「あら、クロエ先輩。研究、お疲れ様。熱心だね、最近」
「……任務の遂行は、司令塔の安定に不可欠です。有栖川隊員」
クロエは感情を完全に排した声でそう返し、アリスの追及を振り切るように、超高速で自室へと退避した。悠真は、アリスの笑顔の裏に潜む本気の独占欲を感じ取り、背筋が凍るのだった。
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5. クロエの勝利と新たな研究課題
クロエは、悠真への抱擁を「愛のデータ収集」として強引に正当化すると、すぐに理性的な顔に戻り、メガネをかけ直した。
「志藤様。今回の訓練と接触により、極めて重要なデータが収集できました。ルナ隊長の奉仕禁止プログラムは、私たちバレット隊全員にとって、『感情を抑制する訓練』として利用可能です」
「ルナさんの苦悩を、訓練に利用するのか……」
「ええ。ですが、このデータは、あなたへの愛の証明としても利用できます」
クロエは、そう言って静かに笑った。彼女の理性の仮面は、任務と愛という二つの大義名分を得て、さらに強固になった。
「そして、ルナ隊長、アリス、メイ、ソフィア、そして私の心拍数とフェロモンの相関データを分析した結果、新たな研究テーマが浮上しました」
クロエはノートPCを叩き、一つのデータ表を悠真に見せた。
「あなたの支配力は、私たちの感情の揺れに最も強く反応する。しかし、その感情がネストリングの完璧さによって揺らいでいる。つまり、私たちの不完全な人間性こそが、あなたの力を安定させる鍵である」
「私の次なる研究課題は、『バレット隊の人間性の非効率的な部分を最大化させるプログラム』です。これが、あなたへの愛を、理性的かつ効果的な独占へと昇華させる、最善の戦略です」
悠真は、クロエの知的な独占欲の恐ろしさに、内心冷や汗をかいた。メイドたちを護るためのヒーローになろうと覚悟を決めたが、その道のりは、彼女たちの独占欲の嵐によって、さらに複雑になっていくのだった。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
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1. 司令塔の「バグ」とクロエのデータ分析
ルナが「奉仕禁止プログラム」を起動してから一夜が明けた。情報分析官のクロエは、デスクでその前夜のデータを熱心に解析していた。
黒縁メガネの奥の瞳は、解析結果に対する知的興奮で静かに輝いている。彼女が注目していたのは、ルナの心拍数とフェロモン分泌の相関データだ。
「ルナ隊長の心拍数上昇率が、アリス隊員との公認のキスのデータよりも高い……これは極めて興味深い」
クロエはそう呟いた。ルナが最も理性的に振る舞う中で、最も感情的に動揺していたというデータは、クロエの「感情こそが真の抑止力センサー」という仮説を補強するものだった。
「私の役割は、感情的バイアスを排除し、悠真様の能力安定に貢献すること。だが、ルナ隊長のデータは、感情こそが最も正確な抑止力センサーであることを示唆している……。私はこのデータを元に、悠真様への理性的かつ効果的な接触を再構築する必要がある」
クロエはそう決意すると、立ち上がり、悠真の自室へと向かった。
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2. 影の友達(ファントム)の訓練開始
悠真は自室で、テイム魔物であるスライミー(防御)とスパイク(牽制)と共に、大学の課題を進めていた。ファントム(索敵)は、いつものように悠真の影の中に潜んでいる。
「ルナさんの『奉仕禁止プログラム』か……。なんだか、ルナさんが一番傷ついたみたいだな」
悠真がそう呟くと、ドアがノックされた。
「志藤様。クロエです。ファントムの索敵能力に関する連携訓練を開始します。これは、ルナ隊長の奉仕禁止プログラムとは無関係の、私の任務(研究)です」
クロエは、黒縁メガネを押し上げ、冷めた目で悠真を見つめた。
「あ、クロエ。ちょうどよかった。大学の課題、あと1時間くらいで全部終わりそうなんだけど、データ収集の訓練は、だいたい何時間くらいかかる予定なの?」
クロエは即座に悠真の学習状況のデータと、ファントムの訓練シミュレーション結果を重ね合わせた。
「『あと1時間くらい』という曖昧な予測は、データとして非効率です。志藤様の残りの作業時間は57分22秒と推測されます。そして、訓練の所要時間ですが、志藤様の支配力の集中度、発信器の配置経路、ファントムの索敵データ処理速度から逆算した結果、最短で1時間28分15秒、最長で1時間45分30秒を要すると予測されます」
悠真は、その細かさに思わず苦笑した。
「ははっ、最短で1時間28分15秒か。さすがクロエ。秒単位で護衛任務を組み立てているんだな。じゃあ、その時間を確保するよ」
「よろしい。データ分析の結果、志藤様のスケジュールには最大限の余裕が存在します。つきましては、この余裕を無為な休息にするのではなく、ファントムの索敵能力の実地データ収集に協力していただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「データ収集に、協力?」
「はい。この訓練は、あなたの支配力の安定と、私の研究の継続に不可欠です。もちろん、任務として」
クロエは、あくまでも、任務、ということを強調した。
「わかったよ、クロエ。どうすればいい?」
「簡単です。私は今からセーフハウス内に、ミストの残した監視装置を模した特殊な発信器を隠します。あなたは、ファントムに『監視装置を見つけ出せ』という命令を出し、ファントムの索敵経路と情報収集精度を測定する。それが、あなたの任務です」
クロエはそう言うと、ファントムが悠真の影からフワリと抜け出し、悠真のデスクの上を周回するのを確認した。
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3. 情報戦のクイーンと、影の独占欲
クロエが隠した発信器は、悠真の部屋の観葉植物の植木鉢の底という、非常に巧妙な場所にあった。クロエの知的な罠だ。
「ファントム。この部屋に隠された、ミストの発信器を見つけ出してくれ」
悠真が支配力を集中させ、ファントムに命令を出す。ファントムは黒い煙の体を揺らしながら、部屋の隅々を調査し始めた。
その間、クロエは悠真の隣に座り、ノートPCでファントムの索敵経路をデータ化し始めた。彼女の体からは、任務遂行のための理知的な緊張感が放たれている。
「志藤様。ファントムの索敵能力は、あなたのフェロモン分泌の活発化と比例します。集中力が高まると、魔物との心の繋がりが強くなる」
クロエはそう言いながら、悠真に顔を近づけた。彼女の髪からは、微かな電子回路の熱が伝わってくる。
「私は、あなたの心拍数と発汗データを収集することで、フェロモン分泌の最適なトリガーを特定したい。これは、純粋な研究です」
「んっ……クロエ、なんか、良い匂いがするな」
悠真は、クロエの冷徹な論理と、その裏にある独占欲の片鱗に戸惑うと共に、鼻腔をくすぐる香りに気づいた。
「これは、データ分析に最適な無機質な清潔感です。私の体内冷却システムから放出される微細なオゾン臭と、私が常用する無香料の制汗剤の相乗効果で、理知的な香りを構成しています。…あなたのフェロモン分泌に、感情的なノイズを与えないためのものです」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、クロエ! 近すぎないか!?」
悠真は、クロエの冷徹な論理と、その裏にある独占欲の片鱗に戸惑う。
その時、悠真の影からファントムがフワリと抜け出し、クロエと悠真の間に割って入った。
「チッ……ファントム。これは任務です。あなたの嫉妬は、非効率的なデータにしかなりません」
クロエは冷たく言い放つが、ファントムは悠真の肩にそっと触れ、クロエを牽制するように黒い煙をクルクルと回転させる。
「あら、データが示しているわ。ファントムは、私を悠真様を独占しようとするライバルとして認識しています。この魔物の愛(独占欲)も、データとして完璧ね」
クロエはそう呟くと、ファントムを無視し、再び悠真に顔を近づけた。彼女の理性の仮面が、悠真のフェロモンによって、わずかに緩み始めている。
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4. 孤独な研究者と「愛のデータ」
訓練は続いた。ファントムはクロエの知的な罠を次々と見破り、正確に発信器を発見していく。
「見事です、志藤様。あなたの支配力は、予想以上に急速に進化しています。特に、感情的な危機に晒された後の回復期は、能力の伸びが最大値を示している」
クロエはそう言って、ノートPCを閉じた。そして、彼女はメガネを外し、潤んだ瞳で悠真を見つめた。
「志藤様……私は、ルナ隊長のように、奉仕禁止プログラムで自分の感情を隔離することはできません」
クロエは、理知的な美しさを露わにし、自身の内面的な苦悩を悠真に吐露し始めた。
「私にとって、あなたの存在は解析不能なノイズです。データに忠実な私にとって、プログラムのバグとしてしか説明できない。ですが、ルナ隊長の心拍数データは、そのバグこそが、あなたを護るための愛の証明であることを示唆している……」
クロエは震える声で続けた。
「私は、あなたのフェロモンに強制的に愛を抱くようにプログラミングされた。しかし、この独占欲が、プログラムではなく本物の感情に変わっているのではないかと、恐ろしくなる……」
悠真は、彼女のメガネの奥に隠された、知的な美しさと、サイボーグメイドとしての内面的な葛藤に、心を揺さぶられた。
「クロエ。君の理屈っぽいところも、データに忠実なところも、全部含めて好きだよ」
悠真はクロエの手を取り、優しく言った。
「バグでも、本物の感情でも、君が俺を護ってくれているのは事実だ。それに、君のデータへの執着が、俺の抑止力を安定させている。君が俺を好きでいてくれるなら、俺はそれが『本物』だと信じるよ」
クロエは、悠真の優しさに触れ、顔を真っ赤に染めた。
「志藤様……あなたの優しさは、予測不可能なノイズです。データとして、これ以上は解析不能……」
クロエはそう呟くと、「研究」という名目で悠真に抱きついた。
その瞬間、ルナの監視システムの心拍数データが急上昇し、「司令塔」としての理性的な嫉妬が、静かに燃え上がるのだった。
「悠真くーん! 今日の夕飯のメニュー、一緒に決めようよ! 恋人役の特権で、ラブラブ相談ターイム!」
突然、ドアの外から、アリスの朗らかで、しかしどこか威圧的な声が響いた。ノックはない。彼女は常に、恋人役という特権を盾に、悠真の部屋への自由なアクセス権を主張している。
「チッ!」
クロエは即座に、顔を赤らめることなく、悠真から離れた。彼女は一瞬でメガネをかけ直し、冷徹な情報分析官の顔に戻る。
「志藤様。訓練は予定時間を過ぎました。これ以上の接触は、非効率的なデータの収集を招くため、私はこれで失礼します」
クロエは、そう言い捨てると、まるで自身の愛のデータがアリスに盗まれることを恐れるかのように、そそくさと部屋を出て行った。ドアを開けた瞬間、廊下の向こうで、満面の笑顔ながら目が笑っていないアリスと一瞬視線が交錯する。
「あら、クロエ先輩。研究、お疲れ様。熱心だね、最近」
「……任務の遂行は、司令塔の安定に不可欠です。有栖川隊員」
クロエは感情を完全に排した声でそう返し、アリスの追及を振り切るように、超高速で自室へと退避した。悠真は、アリスの笑顔の裏に潜む本気の独占欲を感じ取り、背筋が凍るのだった。
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5. クロエの勝利と新たな研究課題
クロエは、悠真への抱擁を「愛のデータ収集」として強引に正当化すると、すぐに理性的な顔に戻り、メガネをかけ直した。
「志藤様。今回の訓練と接触により、極めて重要なデータが収集できました。ルナ隊長の奉仕禁止プログラムは、私たちバレット隊全員にとって、『感情を抑制する訓練』として利用可能です」
「ルナさんの苦悩を、訓練に利用するのか……」
「ええ。ですが、このデータは、あなたへの愛の証明としても利用できます」
クロエは、そう言って静かに笑った。彼女の理性の仮面は、任務と愛という二つの大義名分を得て、さらに強固になった。
「そして、ルナ隊長、アリス、メイ、ソフィア、そして私の心拍数とフェロモンの相関データを分析した結果、新たな研究テーマが浮上しました」
クロエはノートPCを叩き、一つのデータ表を悠真に見せた。
「あなたの支配力は、私たちの感情の揺れに最も強く反応する。しかし、その感情がネストリングの完璧さによって揺らいでいる。つまり、私たちの不完全な人間性こそが、あなたの力を安定させる鍵である」
「私の次なる研究課題は、『バレット隊の人間性の非効率的な部分を最大化させるプログラム』です。これが、あなたへの愛を、理性的かつ効果的な独占へと昇華させる、最善の戦略です」
悠真は、クロエの知的な独占欲の恐ろしさに、内心冷や汗をかいた。メイドたちを護るためのヒーローになろうと覚悟を決めたが、その道のりは、彼女たちの独占欲の嵐によって、さらに複雑になっていくのだった。