第18話:理性の忠誠とミストの深謀
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1. M.A.本部:ベアトリスによるゾルゲの尋問
ゾルゲがM.A.本部の地下深くに位置する特別拘束室に収容された数時間後。ベアトリスは、白い手術着に似た尋問用のユニフォームに着替え、ゾルゲと対峙していた。拘束されたゾルゲは、重力操作ナックルを破壊され、全身を特殊な合金で固定されている。
ベアトリスはメガネを押し上げ、感情の揺らぎを一切見せない、理知的な声で尋問を開始した。
「ゾルゲ。ミストの『人類進化計画』の最終的な目的を答えなさい。志藤悠真の『支配力』を、どのように利用するつもりだった?」
ゾルゲは拘束されながらも、嘲笑を浮かべた。
「フン……M.A.の隊長格、ベアトリスか。お前のその理性の仮面を見るのは久しぶりだ、我が血を引く娘よ」
ゾルゲの言葉が、ベアトリスの顔を、一瞬だけ、微かに強張らせた。ゾルゲの言葉は、単なる皮肉ではなく、二人が共有する重い過去を突きつけるものだった。しかし、彼女はすぐにそれを理性で押し殺した。
「無駄な抵抗よ。あなたの重力操作は封じられている。情報は、いずれ我々が全て引き出すことになる」
ゾルゲは、皮肉に満ちた笑みを深めた。
「お前は、エレノアに尽くすことで、ミスト時代の過去を清算したつもりか? あの女(母)を見捨て、ミストを去ったのは、お前自身だろう。その罪悪感から逃げたのが、お前の『忠誠心』という名の逃げ場か?」
ベアトリスの表情が微かに固まる。
「ゾルゲ、黙れ! それ以上の言動は許可しない!!」
ベアトリスの理知的な口調が一瞬崩れ、鋭い怒りを滲ませた声が響いた。彼女は手に持っていたデータパッドをテーブルに叩きつけ、その光波ブレードを起動させるかのように、メイド服の下でわずかに体を震わせた。
しかし、その怒りは一瞬で収束する。ベアトリスは深く息を吐き、再びメガネを押し上げた。
「……エレノア総帥への忠誠は、私自身の意志よ。過去の清算などではない。母を顧みず、ミストの狂気に走ったあなたとあの過去を共有していることは、私の使命の妨げにならない。だが、私はあなたを許さない。あなたは、私の使命を理解する必要はない」
「『真の力』……?」
ゾルゲは、苦痛に歪んだ顔にも関わらず、狂信的な笑みを浮かべた。
「そうだ。そして志藤悠真は、俺の重力に怯える護衛対象ではなくなった。あの瞬間、戦場を完全に支配したあいつの力は、我々の計画の核となり得る。だが、計画は止まらん。俺の拘束など、些細な遅延だ」
ベアトリスは冷静にゾルゲの心理を分析した。
「あなたは、自分が囮であったことを認めているのね。ミストの真の幹部は誰? レディ・クロウか、それとも──」
ゾルゲは、ベアトリスの尋問を遮り、皮肉な笑みを浮かべた。
「おしゃべりは終わりだ、我が娘よ。その『娘』という言葉に、そんなにも腹を立てるな。お前たちM.A.が、その『忠誠心』という名の檻の中で、どれだけ踊り続けられるか、せいぜい見物させてもらおう」
ベアトリスはゾルゲの皮肉を聞き、ギリリと奥歯を噛みしめた。彼女の顔は一瞬、怒りと憎悪に歪んだが、すぐにプロフェッショナルの冷徹な表情に戻る。
ベアトリスはゾルゲから視線を外し、耳元に装着された極小のインカムに触れた。
「……エレノア総帥。ゾルゲは、志藤悠真の能力が『真の力』として進化していることを示唆しました。そして、彼の拘束は計画の『些細な遅延』だと断言しています」
ベアトリスは情報を得ることを諦め、尋問を切り上げた。
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2. ミストの隠された拠点:幹部たちの緊急会議
同じ頃、人知れぬ場所にあるミストの隠された拠点では、幹部たちが緊急会議を開いていた。ホログラムで投影されたのは、ゾルゲの敗北とM.A.による回収の映像だ。
会議の席で、知性派のヴァイスが、冷静な声でデータを報告する。彼は白衣を着ており、常に何かの計算をしているような雰囲気を漂わせている。
「ゾルゲの敗北は想定内です。彼は武力の象徴。しかし、志藤悠真の『支配力』の完全覚醒は、少々早すぎた」
長身で優雅なドレスを纏った暗殺者、レディ・クロウが、その言葉に苛立ちを露わにし、静かに口を開いた。
「そんな軟弱な分析はどうでもいい! ヴァイス、すぐにでも次の部隊を派遣すべきだ。志藤悠真の覚醒など、武力でねじ伏せればいい!」
レディ・クロウの隣に座る、黒い戦闘服を纏ったリーダー、マナが、冷静な声でレディ・クロウを一瞥した。
「レディ・クロウ、待ちなさい。暴力は最後の手段です。志藤悠真の能力の進化は、我々の予測値を大きく上回った。テイム魔物三体を完璧に連携させ、戦場全体の重力操作を無効化した。これは、もはや単なるフェロモン制御能力ではありません」
マナはさらに続けた。彼女こそが、この場を支配する理性の持ち主だった。
「ヴァイスのデータ分析の結果、彼の力の覚醒には、護衛対象であるメイドたちの『危機』と『独占欲のベクトル』が深く関与していると推測されます。メイドたちの愛(感情)が、彼の力のセンサーとして機能している可能性が高い」
マナは口元に薄い笑みを浮かべた。
「志藤悠真が覚醒した今、彼の力を完全に制御する方法を考えなければ。ヴァイス、あなたの提案は?」
「はい。次は、メイドたちの『感情』を直接揺さぶる戦略です。バレット隊の『愛と使命』の葛藤を最大化させる。彼らの内部から崩壊させれば、志藤悠真の制御も不可能になるでしょう」
レディ・クロウは悔しそうに拳を握りしめたが、マナの理性的な判断には抗えなかった。
マナは静かに命じた。
「面白い。M.A.の忠誠心(理性)と、バレット隊の愛(感情)の衝突。それが、我々の計画を加速させる鍵となる。ヴァイス、あなたは早速その戦略を実行しなさい」
「御意」
ミスト幹部たちの会議は終了した。彼らは悠真を単なる『抑止力』ではなく、『真の力』を秘めた最終兵器の素体として扱い、次の行動に移り始めていた。
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3. セーフハウス:ルナの理性と愛の葛藤
ゾルゲ戦を終え、セーフハウスに戻ったバレット隊は、一時的な安堵と達成感に包まれていた。しかし、ルナの表情は晴れない。
ルナは自室で、ベアトリスから受けた警告を反芻していた。
(ベアトリス先輩の言った通りだわ。『愛(独占欲)』が任務を脅かす……)
ルナのサイボーグボディは、志藤悠真のフェロモンを浴びることで、既に任務(理性)と愛(感情)の板挟みに陥っている。
「志藤様を護る。それは私の使命。でも、彼の隣にいたい。それは私の愛……」
ルナは自分の胸元にある、超硬度アーマーの下に隠された駆動部をそっと押さえた。任務に忠実なはずの機械の心臓が、微かに、そして確かに高鳴っている。
その時、ルナの部屋のドアがノックされた。
「ルナ先輩! 今夜の悠真せんぱいの護衛は、ジャンケンでメイが勝ち取りました!」
メイがツインテールを揺らしながら、誇らしげに報告する。メイの隣では、アリスが不満そうに頬を膨らませていた。
「ずるいよ、メイ。私は公認の恋人なのに! 悠真くんを独占する権利があるのに!」
「公認だなんて、聞いてません! 勝負は実力です!」
ルナは、冷静なメイド長として二人に声をかけた。
「静かにしなさい、アリス、メイ。志藤様を巡る独占欲の競い合いは、今は任務に集中しなさい」
アリスとメイは顔を見合わせ、どちらも一歩も引かないというように、ルナの部屋のドア前で火花を散らす。
「はい! でも、悠真くんのベッドの横で待機する権利は、絶対に譲りません!」
「そうですよ、ルナ先輩! メイの体調管理プログラムは、至近距離でのバイタルサイン収集を最優先としています!」
二人が激しく口論していると、廊下の奥から、グラマラスなソフィアが、悠真の腕を優しく抱きかかえて現れた。
「あらあら、まあまあ。二人とも、元気ねぇ」
ソフィアは母性的な微笑みを浮かべ、悠真に優しく語りかける。
「志藤様はゾルゲ戦の疲労で、心身の栄養補給が必要です。ルナ隊長も、『母性的な包容力による精神安定の提供』は、任務として容認しているはずですよ。さあ、私と一緒にお布団のチェックをしましょうね」
ソフィアは、アリスとメイが競い合っている一瞬の隙を突き、悠真を連れ出していたのだ。
「ええっ!?」
アリスとメイは、顔を真っ赤にしてソフィアに駆け寄った。
「ソフィアさん! ずるいです! それは『母性』じゃなくて『格上の色気牽制』でしょう!」
「ソフィアせんぱい! 私たちのジャンケン勝負は、一体なんだったんですか~~~!」
ルナは、冷静さを保とうと努めたが、思わず声を荒らげた。
「ソフィア! あなたの『母性的な愛』は、任務の抜け道として悪用されているわ! 全員、志藤様から離れなさい!」
しかし、ソフィアは母性的な笑顔を崩さない。彼女は悠真に優しく寄り添ったまま、ルナに図星を突く言葉を返した。
「ふふっ。そんなこと言って、悠真様を独り占めしたいのは、ルナ、あなたも、でしょう?」
「な、何を言っているのかしら、ソフィア!?」
ルナは、その図星に言葉を失い、銀色のモノクルの奥で顔を紅潮させた。彼女の理性的な嫉妬は、ソフィアの母性的な独占という攻撃の前に、完全に機能不全に陥った。
「素直になりなさいな、ルナ。これも、志藤様の抑止力を安定させるための、最も非効率的で、最も効果的な方法ですよ。そして、あなたは、私の『母性』まで制御することはできないわ」
ソフィアは悠真を連れて、そのまま廊下の奥へと消えていった。
ルナは、後輩たちを見送りながら、決意を新たにした。
(私自身の感情が、志藤様の力を不安定にさせるわけにはいかない。私は、冷静なメイド長として、誰よりも志藤様への忠誠心を、理性で示し続ける……!)
しかし、そのルナの理性の裏側で、彼女の愛は、他のメイドたちよりも深く、そして複雑な形で志藤悠真への独占欲を強めていくのだった。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
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1. M.A.本部:ベアトリスによるゾルゲの尋問
ゾルゲがM.A.本部の地下深くに位置する特別拘束室に収容された数時間後。ベアトリスは、白い手術着に似た尋問用のユニフォームに着替え、ゾルゲと対峙していた。拘束されたゾルゲは、重力操作ナックルを破壊され、全身を特殊な合金で固定されている。
ベアトリスはメガネを押し上げ、感情の揺らぎを一切見せない、理知的な声で尋問を開始した。
「ゾルゲ。ミストの『人類進化計画』の最終的な目的を答えなさい。志藤悠真の『支配力』を、どのように利用するつもりだった?」
ゾルゲは拘束されながらも、嘲笑を浮かべた。
「フン……M.A.の隊長格、ベアトリスか。お前のその理性の仮面を見るのは久しぶりだ、我が血を引く娘よ」
ゾルゲの言葉が、ベアトリスの顔を、一瞬だけ、微かに強張らせた。ゾルゲの言葉は、単なる皮肉ではなく、二人が共有する重い過去を突きつけるものだった。しかし、彼女はすぐにそれを理性で押し殺した。
「無駄な抵抗よ。あなたの重力操作は封じられている。情報は、いずれ我々が全て引き出すことになる」
ゾルゲは、皮肉に満ちた笑みを深めた。
「お前は、エレノアに尽くすことで、ミスト時代の過去を清算したつもりか? あの女(母)を見捨て、ミストを去ったのは、お前自身だろう。その罪悪感から逃げたのが、お前の『忠誠心』という名の逃げ場か?」
ベアトリスの表情が微かに固まる。
「ゾルゲ、黙れ! それ以上の言動は許可しない!!」
ベアトリスの理知的な口調が一瞬崩れ、鋭い怒りを滲ませた声が響いた。彼女は手に持っていたデータパッドをテーブルに叩きつけ、その光波ブレードを起動させるかのように、メイド服の下でわずかに体を震わせた。
しかし、その怒りは一瞬で収束する。ベアトリスは深く息を吐き、再びメガネを押し上げた。
「……エレノア総帥への忠誠は、私自身の意志よ。過去の清算などではない。母を顧みず、ミストの狂気に走ったあなたとあの過去を共有していることは、私の使命の妨げにならない。だが、私はあなたを許さない。あなたは、私の使命を理解する必要はない」
「『真の力』……?」
ゾルゲは、苦痛に歪んだ顔にも関わらず、狂信的な笑みを浮かべた。
「そうだ。そして志藤悠真は、俺の重力に怯える護衛対象ではなくなった。あの瞬間、戦場を完全に支配したあいつの力は、我々の計画の核となり得る。だが、計画は止まらん。俺の拘束など、些細な遅延だ」
ベアトリスは冷静にゾルゲの心理を分析した。
「あなたは、自分が囮であったことを認めているのね。ミストの真の幹部は誰? レディ・クロウか、それとも──」
ゾルゲは、ベアトリスの尋問を遮り、皮肉な笑みを浮かべた。
「おしゃべりは終わりだ、我が娘よ。その『娘』という言葉に、そんなにも腹を立てるな。お前たちM.A.が、その『忠誠心』という名の檻の中で、どれだけ踊り続けられるか、せいぜい見物させてもらおう」
ベアトリスはゾルゲの皮肉を聞き、ギリリと奥歯を噛みしめた。彼女の顔は一瞬、怒りと憎悪に歪んだが、すぐにプロフェッショナルの冷徹な表情に戻る。
ベアトリスはゾルゲから視線を外し、耳元に装着された極小のインカムに触れた。
「……エレノア総帥。ゾルゲは、志藤悠真の能力が『真の力』として進化していることを示唆しました。そして、彼の拘束は計画の『些細な遅延』だと断言しています」
ベアトリスは情報を得ることを諦め、尋問を切り上げた。
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2. ミストの隠された拠点:幹部たちの緊急会議
同じ頃、人知れぬ場所にあるミストの隠された拠点では、幹部たちが緊急会議を開いていた。ホログラムで投影されたのは、ゾルゲの敗北とM.A.による回収の映像だ。
会議の席で、知性派のヴァイスが、冷静な声でデータを報告する。彼は白衣を着ており、常に何かの計算をしているような雰囲気を漂わせている。
「ゾルゲの敗北は想定内です。彼は武力の象徴。しかし、志藤悠真の『支配力』の完全覚醒は、少々早すぎた」
長身で優雅なドレスを纏った暗殺者、レディ・クロウが、その言葉に苛立ちを露わにし、静かに口を開いた。
「そんな軟弱な分析はどうでもいい! ヴァイス、すぐにでも次の部隊を派遣すべきだ。志藤悠真の覚醒など、武力でねじ伏せればいい!」
レディ・クロウの隣に座る、黒い戦闘服を纏ったリーダー、マナが、冷静な声でレディ・クロウを一瞥した。
「レディ・クロウ、待ちなさい。暴力は最後の手段です。志藤悠真の能力の進化は、我々の予測値を大きく上回った。テイム魔物三体を完璧に連携させ、戦場全体の重力操作を無効化した。これは、もはや単なるフェロモン制御能力ではありません」
マナはさらに続けた。彼女こそが、この場を支配する理性の持ち主だった。
「ヴァイスのデータ分析の結果、彼の力の覚醒には、護衛対象であるメイドたちの『危機』と『独占欲のベクトル』が深く関与していると推測されます。メイドたちの愛(感情)が、彼の力のセンサーとして機能している可能性が高い」
マナは口元に薄い笑みを浮かべた。
「志藤悠真が覚醒した今、彼の力を完全に制御する方法を考えなければ。ヴァイス、あなたの提案は?」
「はい。次は、メイドたちの『感情』を直接揺さぶる戦略です。バレット隊の『愛と使命』の葛藤を最大化させる。彼らの内部から崩壊させれば、志藤悠真の制御も不可能になるでしょう」
レディ・クロウは悔しそうに拳を握りしめたが、マナの理性的な判断には抗えなかった。
マナは静かに命じた。
「面白い。M.A.の忠誠心(理性)と、バレット隊の愛(感情)の衝突。それが、我々の計画を加速させる鍵となる。ヴァイス、あなたは早速その戦略を実行しなさい」
「御意」
ミスト幹部たちの会議は終了した。彼らは悠真を単なる『抑止力』ではなく、『真の力』を秘めた最終兵器の素体として扱い、次の行動に移り始めていた。
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3. セーフハウス:ルナの理性と愛の葛藤
ゾルゲ戦を終え、セーフハウスに戻ったバレット隊は、一時的な安堵と達成感に包まれていた。しかし、ルナの表情は晴れない。
ルナは自室で、ベアトリスから受けた警告を反芻していた。
(ベアトリス先輩の言った通りだわ。『愛(独占欲)』が任務を脅かす……)
ルナのサイボーグボディは、志藤悠真のフェロモンを浴びることで、既に任務(理性)と愛(感情)の板挟みに陥っている。
「志藤様を護る。それは私の使命。でも、彼の隣にいたい。それは私の愛……」
ルナは自分の胸元にある、超硬度アーマーの下に隠された駆動部をそっと押さえた。任務に忠実なはずの機械の心臓が、微かに、そして確かに高鳴っている。
その時、ルナの部屋のドアがノックされた。
「ルナ先輩! 今夜の悠真せんぱいの護衛は、ジャンケンでメイが勝ち取りました!」
メイがツインテールを揺らしながら、誇らしげに報告する。メイの隣では、アリスが不満そうに頬を膨らませていた。
「ずるいよ、メイ。私は公認の恋人なのに! 悠真くんを独占する権利があるのに!」
「公認だなんて、聞いてません! 勝負は実力です!」
ルナは、冷静なメイド長として二人に声をかけた。
「静かにしなさい、アリス、メイ。志藤様を巡る独占欲の競い合いは、今は任務に集中しなさい」
アリスとメイは顔を見合わせ、どちらも一歩も引かないというように、ルナの部屋のドア前で火花を散らす。
「はい! でも、悠真くんのベッドの横で待機する権利は、絶対に譲りません!」
「そうですよ、ルナ先輩! メイの体調管理プログラムは、至近距離でのバイタルサイン収集を最優先としています!」
二人が激しく口論していると、廊下の奥から、グラマラスなソフィアが、悠真の腕を優しく抱きかかえて現れた。
「あらあら、まあまあ。二人とも、元気ねぇ」
ソフィアは母性的な微笑みを浮かべ、悠真に優しく語りかける。
「志藤様はゾルゲ戦の疲労で、心身の栄養補給が必要です。ルナ隊長も、『母性的な包容力による精神安定の提供』は、任務として容認しているはずですよ。さあ、私と一緒にお布団のチェックをしましょうね」
ソフィアは、アリスとメイが競い合っている一瞬の隙を突き、悠真を連れ出していたのだ。
「ええっ!?」
アリスとメイは、顔を真っ赤にしてソフィアに駆け寄った。
「ソフィアさん! ずるいです! それは『母性』じゃなくて『格上の色気牽制』でしょう!」
「ソフィアせんぱい! 私たちのジャンケン勝負は、一体なんだったんですか~~~!」
ルナは、冷静さを保とうと努めたが、思わず声を荒らげた。
「ソフィア! あなたの『母性的な愛』は、任務の抜け道として悪用されているわ! 全員、志藤様から離れなさい!」
しかし、ソフィアは母性的な笑顔を崩さない。彼女は悠真に優しく寄り添ったまま、ルナに図星を突く言葉を返した。
「ふふっ。そんなこと言って、悠真様を独り占めしたいのは、ルナ、あなたも、でしょう?」
「な、何を言っているのかしら、ソフィア!?」
ルナは、その図星に言葉を失い、銀色のモノクルの奥で顔を紅潮させた。彼女の理性的な嫉妬は、ソフィアの母性的な独占という攻撃の前に、完全に機能不全に陥った。
「素直になりなさいな、ルナ。これも、志藤様の抑止力を安定させるための、最も非効率的で、最も効果的な方法ですよ。そして、あなたは、私の『母性』まで制御することはできないわ」
ソフィアは悠真を連れて、そのまま廊下の奥へと消えていった。
ルナは、後輩たちを見送りながら、決意を新たにした。
(私自身の感情が、志藤様の力を不安定にさせるわけにはいかない。私は、冷静なメイド長として、誰よりも志藤様への忠誠心を、理性で示し続ける……!)
しかし、そのルナの理性の裏側で、彼女の愛は、他のメイドたちよりも深く、そして複雑な形で志藤悠真への独占欲を強めていくのだった。