第15話:セバスチャンの告告と古代の血統
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1. 総帥室での謁見と執事の告白
ドクター・ヴァイス戦と、それに続く機密漏洩(E14)の危機を受け、M.A.の実戦指揮官であるセバスチャン・グレイが、悠真に面会を求めた。
場所は、M.A.本部。総帥エレノアの優雅な執務室だ。
エレノアは不在。完璧な燕尾服を纏い、オールバックに整えられた髪のセバスチャンだけが、悠真をソファに案内した。彼の立ち姿には一切の無駄がなく、まるで一枚の絵画のようだ。エレノアの執務室は、豪華な調度品に囲まれ、バレット隊のセーフハウスとは格の違う、高貴で厳粛な空気が漂っていた。
「志藤悠真様。改めてご挨拶申し上げます。メゾネット・アームズの実戦指揮官、セバスチャン・グレイと申します。ルナやほかのメイドたちからは、私のことをただの『執事』だと聞かされているでしょう」
セバスチャンは、銀のトレイに載せた紅茶を悠真の前に、寸分違わぬ正確さで置いた。彼の物腰は完璧で、一切の隙がない。その冷徹ながらも礼儀正しい口調が、悠真に緊張を強いる。
「ですが、今回の機密データ複製の危機を受け、総帥のご指示により、あなたにM.A.の真の起源と、あなたの使命をお話しさせていただきます」
悠真は緊張した面持ちでセバスチャンの目を見た。
「セバスチャンさん……。ルナたちから、俺が『抑止力』の特殊体質を持っていることは聞きました。でも、ミストが、どうしてそこまで俺の力を欲しがるのかが、まだわかりません」
セバスチャンは、悠真の疑問に静かに頷いた。
「当然の疑問です。ご説明しましょう。まず、M.A.とミストの歴史は、分かたれてしまった双子のようなものです」
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2. M.A.とミストの真の起源
セバスチャンは、紅茶を一口飲むと、その口調に感情を一切滲ませず、静かに語り始めた。
「ミストの起源は、約300年以上前に遡ります。当初はイギリスの秘密結社として発足しました。目的は、異形の存在に対抗するための人類の進化を促すこと。そして、その中心にいたのが、あなた方の『古代の血統』を持つ一族でした」
「300年も前から……。そして『古代の血統』というのが、俺の力なんですね?」
「そうです。彼らは、表向きは『人類進化研究機構』という名で、世界的な組織として活動を広げ、あなたの祖先の力を解析し、人工的に能力を複製しようと試みたのです」
悠真は、自分の祖先が、世界の歴史の根幹に関わっていたという事実に、息を呑んだ。
「その研究の過程で、倫理観を無視した人体実験、そして非人道的なサイボーグ化計画が始まりました」
「その、人体実験というのは……」
悠真は、恐る恐る尋ねた。
セバスチャンは一瞬言葉を詰まらせ、燕尾服の袖口を整えるという、わずかな仕草を見せた。
「志藤様。この話は非常に答えにくいものです。ですが、あなたが使命を全うするため、全てをお話しします」
おそらくアリスたちの身体の秘密と関係があるはずだ。彼女たちと一緒にいるために、悠真は、この事実を知らなければならない。
「あなたがこれまで戦ってきた、グールのような下級モンスター。彼らは、異形の存在ではありません。元々は、ミストの人体実験の失敗作、あるいは副産物です。彼らは、囚人、身寄りのない人間、行き場のない人々……ミストに利用された、成れの果てです」
悠真は、全身の血の気が引くのを感じた。
「彼らは、人だったのか……?」
悠真は、全身を震わせた。目の前で戦ったグールの姿が、元は人間だったという事実に、吐き気を覚える。
セバスチャンは静かに紅茶を一口飲んだ。その表情は、依然として冷静そのものだ。
「そして……あなたの護衛であるバレット隊の娘たちも、もともとはそうしたミストの非人道的な計画の犠牲者でした。彼女たちもまた、同様の出自を持つ人々から、『戦う乙女(バトルメイド)』として造られたのです」
「やっぱり……。ルナも、アリスも、みんな……」
悠真は、絶句した。メイドたちの秘密が、これほど重い真実を伴っていたとは。
「エレノア総帥は、その非人道的な計画に反対した穏健派のリーダーでした。彼女はミストから離反し、志藤様の一族を護衛するために『メゾネット・アームズ』を立ち上げたのです」
セバスチャンは続けた。
「私たちは、あなたの一族の力を悪用しようとするミストから、あなたを護り、あなたの能力を世界の安定のために維持することを唯一の使命としています」
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3. 「抑止力」の真実と使命
セバスチャンは、紅茶のカップをソーサーに戻した。その静かな音が、悠真の耳に強く響く。
「あなたの特殊フェロモンは、単なるバリアではありません。それは、異形の存在を『抑え込み、服従させるための強制的な信号』です。ゾルゲ戦で発現した『支配力(テイマー能力)』は、その信号を『命令』へと転換させたもの」
「俺の、支配力……」
悠真は自分の手に視線を落とした。
「ミストが狙うのは、そのフェロモンを抽出・解析し、完全に制御下に置くこと。彼らは、あなたの力を全世界の異形の存在を支配するための『最終兵器』として利用しようとしています」
「最終兵器……」
悠真は、その言葉の重さに戦慄した。
「もしミストがあなたの力を完全に制御すれば、世界は彼らの『人類進化計画』という名の独裁下に置かれるでしょう」
セバスチャンの言葉は、悠真の存在が単なる護衛対象ではなく、世界の命運を握る覚醒者であることを、改めて自覚させた。
「俺は……こんな、恐ろしい力を持っているのか……」
「はい。だからこそ、あなたは今、受動的な『護衛対象』から、『世界の運命を握る覚醒者』へと立場を変えなければなりません。メイドたちは、あなたを護る『盾』から、あなたと共に戦う『剣』へと役割を切り替える準備を始めています」
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4. エレノア総帥の「格上の嫉妬」の真意
セバスチャンは、話題をエレノア総帥に戻した。
「総帥は、あなたに特別な感情を抱いています。それは、ルナ隊長たちバレット隊の隊員が抱く『独占欲』とは、少々質の違うものです」
「総帥の『嫉妬』……」
悠真は、エレノアがルナやアリスに向けていた「格上の高貴な嫉妬」を思い出した。
「総帥は、あなたを護るための組織のリーダーであるため、常に最前線から離れ、あなたに直接触れることが許されません。彼女の『愛』は、あなたを護るという使命として昇華されており、個人的な感情を抱くことが許されない」
「そして、彼女の理性的な苦悩こそが、バレット隊の感情的な揺れ、すなわち独占欲を志藤様の能力の安定度を測るセンサーとして利用するという、冷徹な戦略を生み出しました」
「ラブコメが……センサー……」
悠真は、メイドたちのラブコメのような日常が、実はM.A.本部にとっての高度なセンサーとして利用されていたという事実に、再び衝撃を受けた。
「総帥は、あなたと日常を共にできるメイドたちを羨んでいる。それが、総帥の『格上の高貴な嫉妬』の真意です」
5. マヤへの警戒と司令塔の決意
セバスチャンは、最後にマヤの話題に戻した。
「今回の機密漏洩は、マヤという人物の仕業が濃厚です。彼女はあなたの優しさを利用し、メイドたちとの間に静かな亀裂を入れるという、非常に巧妙な手法を取りました」
「志藤様。あなたは、あなたの優しさが招いた結果を、深く認識しなければなりません。優しさだけでは、世界を護ることはできません」
セバスチャンは、紅茶を一口飲むと、静かに告げた。
「ルナ隊長は、あなたを護るため、そしてあなたの優しさを護るため、マヤへの拘束作戦を決行する準備に入っています」
「拘束作戦……マヤを、捕まえるのか?」
悠真は、その事実に心が痛む。
「そうです。メイドたちは、あなたの無自覚なラブコメを演出しながらも、裏では命がけであなたを護る決意を固めているのです。あなたには、彼らを信じ、そして彼らの行動を信頼するという、ヒーローとしての覚悟が求められています」
悠真は、セバスチャンの重い言葉を受け止め、自分の運命と、メイドたちの使命を改めて自覚した。
(俺は、もう迷っている場合じゃない。俺を信じ、俺を愛してくれるこの子たちを、命がけで護らなければ……)
悠真は、孤独な司令塔であるルナの決意、そしてメイドたちとの任務を越えた愛と絆を胸に、世界の命運を握る覚醒者として、新たな決意を固めるのだった。
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1. 総帥室での謁見と執事の告白
ドクター・ヴァイス戦と、それに続く機密漏洩(E14)の危機を受け、M.A.の実戦指揮官であるセバスチャン・グレイが、悠真に面会を求めた。
場所は、M.A.本部。総帥エレノアの優雅な執務室だ。
エレノアは不在。完璧な燕尾服を纏い、オールバックに整えられた髪のセバスチャンだけが、悠真をソファに案内した。彼の立ち姿には一切の無駄がなく、まるで一枚の絵画のようだ。エレノアの執務室は、豪華な調度品に囲まれ、バレット隊のセーフハウスとは格の違う、高貴で厳粛な空気が漂っていた。
「志藤悠真様。改めてご挨拶申し上げます。メゾネット・アームズの実戦指揮官、セバスチャン・グレイと申します。ルナやほかのメイドたちからは、私のことをただの『執事』だと聞かされているでしょう」
セバスチャンは、銀のトレイに載せた紅茶を悠真の前に、寸分違わぬ正確さで置いた。彼の物腰は完璧で、一切の隙がない。その冷徹ながらも礼儀正しい口調が、悠真に緊張を強いる。
「ですが、今回の機密データ複製の危機を受け、総帥のご指示により、あなたにM.A.の真の起源と、あなたの使命をお話しさせていただきます」
悠真は緊張した面持ちでセバスチャンの目を見た。
「セバスチャンさん……。ルナたちから、俺が『抑止力』の特殊体質を持っていることは聞きました。でも、ミストが、どうしてそこまで俺の力を欲しがるのかが、まだわかりません」
セバスチャンは、悠真の疑問に静かに頷いた。
「当然の疑問です。ご説明しましょう。まず、M.A.とミストの歴史は、分かたれてしまった双子のようなものです」
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2. M.A.とミストの真の起源
セバスチャンは、紅茶を一口飲むと、その口調に感情を一切滲ませず、静かに語り始めた。
「ミストの起源は、約300年以上前に遡ります。当初はイギリスの秘密結社として発足しました。目的は、異形の存在に対抗するための人類の進化を促すこと。そして、その中心にいたのが、あなた方の『古代の血統』を持つ一族でした」
「300年も前から……。そして『古代の血統』というのが、俺の力なんですね?」
「そうです。彼らは、表向きは『人類進化研究機構』という名で、世界的な組織として活動を広げ、あなたの祖先の力を解析し、人工的に能力を複製しようと試みたのです」
悠真は、自分の祖先が、世界の歴史の根幹に関わっていたという事実に、息を呑んだ。
「その研究の過程で、倫理観を無視した人体実験、そして非人道的なサイボーグ化計画が始まりました」
「その、人体実験というのは……」
悠真は、恐る恐る尋ねた。
セバスチャンは一瞬言葉を詰まらせ、燕尾服の袖口を整えるという、わずかな仕草を見せた。
「志藤様。この話は非常に答えにくいものです。ですが、あなたが使命を全うするため、全てをお話しします」
おそらくアリスたちの身体の秘密と関係があるはずだ。彼女たちと一緒にいるために、悠真は、この事実を知らなければならない。
「あなたがこれまで戦ってきた、グールのような下級モンスター。彼らは、異形の存在ではありません。元々は、ミストの人体実験の失敗作、あるいは副産物です。彼らは、囚人、身寄りのない人間、行き場のない人々……ミストに利用された、成れの果てです」
悠真は、全身の血の気が引くのを感じた。
「彼らは、人だったのか……?」
悠真は、全身を震わせた。目の前で戦ったグールの姿が、元は人間だったという事実に、吐き気を覚える。
セバスチャンは静かに紅茶を一口飲んだ。その表情は、依然として冷静そのものだ。
「そして……あなたの護衛であるバレット隊の娘たちも、もともとはそうしたミストの非人道的な計画の犠牲者でした。彼女たちもまた、同様の出自を持つ人々から、『戦う乙女(バトルメイド)』として造られたのです」
「やっぱり……。ルナも、アリスも、みんな……」
悠真は、絶句した。メイドたちの秘密が、これほど重い真実を伴っていたとは。
「エレノア総帥は、その非人道的な計画に反対した穏健派のリーダーでした。彼女はミストから離反し、志藤様の一族を護衛するために『メゾネット・アームズ』を立ち上げたのです」
セバスチャンは続けた。
「私たちは、あなたの一族の力を悪用しようとするミストから、あなたを護り、あなたの能力を世界の安定のために維持することを唯一の使命としています」
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3. 「抑止力」の真実と使命
セバスチャンは、紅茶のカップをソーサーに戻した。その静かな音が、悠真の耳に強く響く。
「あなたの特殊フェロモンは、単なるバリアではありません。それは、異形の存在を『抑え込み、服従させるための強制的な信号』です。ゾルゲ戦で発現した『支配力(テイマー能力)』は、その信号を『命令』へと転換させたもの」
「俺の、支配力……」
悠真は自分の手に視線を落とした。
「ミストが狙うのは、そのフェロモンを抽出・解析し、完全に制御下に置くこと。彼らは、あなたの力を全世界の異形の存在を支配するための『最終兵器』として利用しようとしています」
「最終兵器……」
悠真は、その言葉の重さに戦慄した。
「もしミストがあなたの力を完全に制御すれば、世界は彼らの『人類進化計画』という名の独裁下に置かれるでしょう」
セバスチャンの言葉は、悠真の存在が単なる護衛対象ではなく、世界の命運を握る覚醒者であることを、改めて自覚させた。
「俺は……こんな、恐ろしい力を持っているのか……」
「はい。だからこそ、あなたは今、受動的な『護衛対象』から、『世界の運命を握る覚醒者』へと立場を変えなければなりません。メイドたちは、あなたを護る『盾』から、あなたと共に戦う『剣』へと役割を切り替える準備を始めています」
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4. エレノア総帥の「格上の嫉妬」の真意
セバスチャンは、話題をエレノア総帥に戻した。
「総帥は、あなたに特別な感情を抱いています。それは、ルナ隊長たちバレット隊の隊員が抱く『独占欲』とは、少々質の違うものです」
「総帥の『嫉妬』……」
悠真は、エレノアがルナやアリスに向けていた「格上の高貴な嫉妬」を思い出した。
「総帥は、あなたを護るための組織のリーダーであるため、常に最前線から離れ、あなたに直接触れることが許されません。彼女の『愛』は、あなたを護るという使命として昇華されており、個人的な感情を抱くことが許されない」
「そして、彼女の理性的な苦悩こそが、バレット隊の感情的な揺れ、すなわち独占欲を志藤様の能力の安定度を測るセンサーとして利用するという、冷徹な戦略を生み出しました」
「ラブコメが……センサー……」
悠真は、メイドたちのラブコメのような日常が、実はM.A.本部にとっての高度なセンサーとして利用されていたという事実に、再び衝撃を受けた。
「総帥は、あなたと日常を共にできるメイドたちを羨んでいる。それが、総帥の『格上の高貴な嫉妬』の真意です」
5. マヤへの警戒と司令塔の決意
セバスチャンは、最後にマヤの話題に戻した。
「今回の機密漏洩は、マヤという人物の仕業が濃厚です。彼女はあなたの優しさを利用し、メイドたちとの間に静かな亀裂を入れるという、非常に巧妙な手法を取りました」
「志藤様。あなたは、あなたの優しさが招いた結果を、深く認識しなければなりません。優しさだけでは、世界を護ることはできません」
セバスチャンは、紅茶を一口飲むと、静かに告げた。
「ルナ隊長は、あなたを護るため、そしてあなたの優しさを護るため、マヤへの拘束作戦を決行する準備に入っています」
「拘束作戦……マヤを、捕まえるのか?」
悠真は、その事実に心が痛む。
「そうです。メイドたちは、あなたの無自覚なラブコメを演出しながらも、裏では命がけであなたを護る決意を固めているのです。あなたには、彼らを信じ、そして彼らの行動を信頼するという、ヒーローとしての覚悟が求められています」
悠真は、セバスチャンの重い言葉を受け止め、自分の運命と、メイドたちの使命を改めて自覚した。
(俺は、もう迷っている場合じゃない。俺を信じ、俺を愛してくれるこの子たちを、命がけで護らなければ……)
悠真は、孤独な司令塔であるルナの決意、そしてメイドたちとの任務を越えた愛と絆を胸に、世界の命運を握る覚醒者として、新たな決意を固めるのだった。