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第10話:遠隔からの贖罪とバリアの限界

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 _____________________
 1. 静寂を破る遠隔狙撃

 メゾン・ド・バレットのセーフハウスは、静かな日曜の昼を迎えていた。

 ファントムとスライミーは、悠真のデスクの周りで黒い煙と水色のゼリーを揺らしながら、お互いを牽制し合っている。

 悠真は、そんなコミカルな日常に安堵していた。

「平和だなぁ……」

 ルナはリビングで端末を操作し、優雅に紅茶を飲んでいた。いつものメイド服にモノクル。銀髪のロングヘアが、彼女の冷徹な美しさを際立たせている。

 その時、ルナのモノクルが不規則に点滅を始めた。
 直後、セーフハウス全体を覆う高出力の防護シールドが稼働し、金属が不気味に共鳴するような高周波音が響き渡った。

「志藤様! 危険です! 全員、戦闘態勢!」

 ルナの冷徹な司令が、セーフハウス全体に響き渡った。

「これは、ドクター・ヴァイスの超音波ライフルによる遠隔狙撃です!セーフハウスの防護シールドは物理攻撃には強いが、このタイプの透過攻撃には弱点がある!」

 ルナは即座に立ち上がった。

「ヴァイスの狙撃は連射性能に優れているが、それゆえに狙撃位置を特定しやすい。防御担当はソフィア!」
「アリス、メイ、クロエは志藤様の周囲へ急行し、周囲を固めなさい。私は司令塔(コマンドタワー)としてゾルゲ戦と同じく遠隔指示を行う!」

 ルナの指示が飛ぶや否や、メイド服姿のアリスとソフィアが、悠真を庇うように飛び込んできた。

 アリスはライトニング-ケインを構え、小型のラウンドシールドを前面に突き出した。

「くっ! 遠距離からの狙撃なんて、卑怯だわ!」
「志藤様、お任せください!」

 クロエとメイも、それぞれの部屋から瞬時にリビングへ駆けつけてきた。

 クロエは即座にドローン『クインテット・スワーム』五機を悠真の頭上に集中させた。

「私とメイは志藤様の周囲を固めます。ドローンを集中させ、簡易的な電磁バリアを形成!」
「ク、クロエ、これで安心だよな?」
「いえ……これで防げるかは、データがないので断言できません!」

 クロエはそうコメントしつつも、悠真を護るために必死だった。

 ソフィアはグラマラスな体型を揺らし、即座にアルカナ・シールドを最大出力で展開した。

 青く輝くシールドが、リビング全体を覆い尽くす。

「これで大丈夫です。私のシールドは魔道エネルギー駆動。物理的な衝撃だけでなく、音波や高周波にも耐性があります」

 ソフィアは包容力のある笑顔を見せた。

 _____________________
 2. バリアの限界とソフィアの献身

 だが、ソフィアの自信は、すぐに打ち砕かれた。

 キィィィィィィン!

 超音波ライフルの一撃がシールドに叩きつけられた瞬間、シールドは凄まじい振動に襲われた。

 防御面は歪まなかった。
 だが、その高周波はバリアを透過し、内部の空気を振動させた。

「ッ! バリアが……音波を透過する!?」

 悠真は全身の鼓膜が破れるかのような激しい頭痛に襲われる。

「うぐっ……! なんだ、これ!」

 悠真の膝元にいたスライミーは、激しい音波に呼応するように、水色の全身を震わせ、悠真の体を覆うように小さな防護バリアを展開した。

 また、ファントムも黒い煙の体を激しく揺らし、超音波の発生源を探るように、部屋の四隅に情報索敵の煙を広げ始めた。

 ドォン、ドォン、ドォン

 砲撃は鳴りやまない、そして確実にピンポイントをついてくる。
 ソフィアの体も激しく震え始める。サイボーグボディは衝撃に強いが、内部の駆動部や精密機器が共鳴し、機能不全を起こしかねない。

 ソフィアは苦痛に顔を歪ませた。

「確実に効いています! ドクター・ヴァイスはゾルゲ戦のデータを分析し、防御特化の私たちを内部から破壊しようとしている!」

 ルナは冷静に司令を続ける。

「ソフィア! バリアを維持しなさい!」
「やってるわよ!!」
「クロエ、超音波の周波数を解析! 索敵ドローンを最大出力で展開し、ドクター・ヴァイスの狙撃地点を特定する!」
「了解!」

 クロエはノートPCを叩きながら、超高速で解析を進める。

 ソフィアは必死にバリアを維持した。彼女の額からは、人間の汗とは違う、オイルのような液体が滲み出ている。

「志藤様……わ、私は……この体と、この母性で……あ、あなたを……」

 ソフィアのグラマラスな体型が、極限の献身により、悲劇的なほどに美しく見えた。

 _____________________
 3. ルナの孤独な決断とエンジェル・ガードの連携

 超音波による攻撃は止まらない。バリアの警告音が悲鳴を上げ、ソフィアは限界を悟る。

「ルナ隊長! シールドの防御限界まで、あと5秒!ソフィアの生体部にも損傷が出ています!」

 ルナは即座に立ち上がった。銀髪を揺らし、モノクルの奥で状況を分析する。

「クロエ! 狙撃地点は!?」

 クロエが即座にデータを提示する。

「ルナ隊長! 無駄です! 狙撃地点は特定しましたが、距離11.5キロ。そして超音波による空気の強烈な乱れが、弾道を大きく変えます。理論上、有効なのはオリヴィア先輩のアーク・ホープによる『対重力高火力支援』だけです!」

 ルナは対物ライフル「ホーリー・シェル」の銃口を、窓の外の遥か遠くへ向けたが、クロエがそれを制止した。

「待ってください、ルナ隊長! 隊長の射撃精度をもってしても、弾道が逸れる可能性98パーセント。無駄弾です!」

 ルナは一瞬、駆動部の共鳴による激痛に顔を歪ませたが、司令塔としての意地でライフルの引き金を引いた。

「ッ……!それでも、司令塔としての一発!」

 ドドォンッ!

 対物ライフル『ホーリー・シェル』の聖水弾が発射された。しかし、超音波による空気の強烈な乱れが弾道を変える。弾丸はターゲットから大きく逸れ、虚空に消えた。

「データ通り、弾道制御不能! ルナ隊長、無駄弾です!」

 ルナは射撃を断念した。モノクルの奥に、悔しさが滲んだ。

「くそ……私の腕が、これほどまでに無力だとは」

「クロエ。これ以上リスクは負えない。超音波による共鳴で、私の駆動部も正常な動作を維持できない。本部へ支援要請を出すわ!」

 ルナは即座に、エンジェル・ガードの三人に要請した。

「ベアトリス先輩! ヴァイスの狙撃地点へ『鉄壁の秘書(ガーディアン)』を最大速度で展開! バレット隊のカバーをお願いします!」
「了解、ルナ。バレット隊のカバーは私たちの任務よ。アリスに顔向けできなくなるような失態は犯せないわ!」

「イヴ先輩! ヴァイスのライフルと周辺の電子機器へ『ジャマー』をかけ、弾道と索敵機能を乱して!軌道妨害と電子戦を要請する!」
「クロエのデータを常にチェックしているわ、ルナ。任せてちょうだい。私の弟子も頑張ってるようだしね!」

 ――その時、ルナの要請を待たずして、オリヴィアから通信が入る。

「了解、ルナ。判断が早くて助かるわ。オリヴィアよ。今の『試射』は無駄じゃなかったわよ。おかげで狙撃地点が絞り込めたわ!」
「さすがオリヴィア姉さん! あとはお願いします!!」
「こちらエンジェル・ガード、オリヴィア。M.A.総帥の指令に基づき、遠距離から援護射撃を開始する!」

 キィィィィィン!

 青い光の線が、セーフハウス上空を通過し、遥か遠くの狙撃地点へ向かう。
 11.5キロメートルをわずか0.04秒で到達する、電磁投射砲「アーク・ホープ」の強烈な一撃だ。

「ぐっ……! バカな、数的不利だ! 電子戦と同時攻撃だと!? てっ撤退、撤退だ!」

 ドクター・ヴァイスの叫びが、インカム越しに一瞬だけ聞こえる。

 エンジェル・ガードの同時攻撃により、ヴァイスは数的不利から撤退を決定した。

 彼の狙撃が途絶える。

 _____________________
 4. 戦闘後の再認識とマヤへの警戒

 超音波の共鳴が止み、セーフハウスに静寂が戻った。

 ソフィアは膝から崩れ落ちた。アルカナ・シールドのバリア発生器は、超音波攻撃により内部の魔力炉が完全に破損。彼女の脇腹の生体部にも、高周波による内側からの損傷が見える。

「ソフィアさん!」

 悠真はソフィアを抱き起こした。
 彼女のサイボーグボディは無事だが、駆動部の疲労と生体部の損傷は深刻だ。

「大丈夫です、志藤様……あなたの安全が確保できたなら、それで……」

 彼女の母性的な愛情は、任務を越えて悠真に注がれている。

 ルナは素早く報告を続ける。

「ドクター・ヴァイスは撤退。狙撃は精密かつ長距離。ゾルゲ戦以上に、私たちの情報が敵に漏洩している疑いが強いわ」

 クロエは冷徹な瞳で悠真を見つめる。

「志藤様。この一連の襲撃は、あなたが『支配力』を覚醒させたことへのミストの焦りです。そして、狙撃地点は、マヤという人物の大学の行動範囲と接続するエリアです。この偶然は、もう偶然ではない」

 悠真は、マヤの優しさを信じる心と、メイドたちが命がけで護ってくれている現実との間で、激しく揺れていた。

(俺を護るために、ソフィアさんがこんなに傷ついた。彼女たちのプロとしての覚悟は、疑う余地がない。でも、マヤは……)

 ルナの冷静な声が、悠真の苦悩を断ち切った。

「志藤様。ソフィアを地下のメンテナンスルームへ運びます。応急処置を優先。そして、『アルカナ・シールド』の破壊と、超音波による駆動部への損傷の有無を、緊急で確認しなければなりません」

 _____________________
 5. ルナの秘密と悠真の視線

 その日の深夜。悠真はルナに呼び出された。場所はセーフハウスの地下にある、高度なセキュリティに守られたメンテナンスルームだ。

 ソフィアはすでに、イヴ(理系オタク/ジャマー)の指示のもと、アリスやメイ、クロエが手伝いながら応急処置を受けている。

 イヴは白衣姿で、複数の精密機器を操り、ルナやクロエとはまた違う、理知的な緊張感を放っていた。

 ルナは静かに、そして事務的な声で告げた。

「志藤様。狙撃による駆動部への損傷は、私たちサイボーグメイドの致命的な弱点です。特に、司令塔である私の体は、精密なセンサーと通信機器が内蔵されています」
「私も超音波の共鳴による微細な損傷を確認する必要があります。これは任務の一環です。あなたは、外部の人間として、私の損傷確認の補助をしていただきます」

 ルナは、感情を一切見せずに、メイド服のファスナーに手をかけた。

 銀色のモノクルを外し、タイトな下着姿になる。その完璧なプロポーションと、白い肌の脇腹から背中にかけて走る、精密な駆動部の接合部が、悠真の視界に飛び込んできた。

「ッ……ルナ、その、そんな格好で……!」

 悠真は、超硬度アーマーが外された後の、完璧な女性の体が持つ色気と、その体に隠された精密機械の無機質な秘密の対比に、息を呑んだ。

 ルナは悠真の動揺を無視し、冷徹に語る。

「現実から目を背けないでください、志藤様。これは任務です。ゾルゲ戦の制裁の時にもお話ししたはずです。私たちは、あなたを護るために、自らの体の一部を機械に換装したサイボーグです」

 その時、イヴが悠真に指示を出した。

「志藤様。この小型スキャナーを、ルナの背中、特に駆動部の接続部に沿ってゆっくり動かしてください。ミリ単位の損傷が、私の弟子(クロエ)が収集したデータに影響を及ぼします」
「は、はい……」

 悠真は緊張しながら、イヴの指示に従おうとする。

 イヴはクロエを振り返り、白衣のポケットから電子ペンを取り出した。

「クロエ。ソフィアのバリア発生器の破損データと、ルナの駆動部の共鳴データをリンクさせなさい。私たちは常にデータを最優先する。この損傷確認も、極めて重要な研究の一環よ」
「はい、師匠」

「ルナ先輩! 待ってください! 私も今回の超音波攻撃で駆動部に微細なノイズを検知しました! わ、私も恋人役として、悠真くんにチェックしてもらう特権があります!」

 アリスが、ソフィアの脇腹を縫い合わせる手を止め、嫉妬の声を上げた。

「そーですよ、ルナせんぱい! メイだって超高速体術のせいで、駆動部の接合部に負荷がかかってるデータがあります! 悠真せんぱいに『優しく』点検してもらわないと、任務に支障が出ます!」
「ちょっと、メイ! あんた、さっきの戦闘で、自分の得意なことで何もできてないじゃない! 壁になっただけで、敵に有効打を与えてないくせに、便乗しないで!」

 アリスが鋭いツッコミを入れると、メイはすぐに反論できず、ぷぅっと頬を膨らませて俯いた。

 クロエは冷静に答え、自らの師であるイヴの指示に従い、分析を再開した。

 ルナは悠真に背を向けた。

「あなたたちの感情的な独占欲は、後のデータ収集に回しなさい。これは、司令塔(私)と護衛対象(志藤様)の、プロフェッショナルな任務です」

 そして、淡々と続けた。

「あなたは、私たちのプロフェッショナルな『秘密』を垣間見てしまった。これは、私たちを信じ、あなた自身の優柔不断さを乗り越えるための贖罪(あがない)でもあります。背中の駆動部を点検してください。微細な傷でも、私の司令機能に影響を及ぼします。これは、あなたの命に関わることです」

 ルナの言葉は、冷徹で事務的だったが、悠真は感じた。
 この「秘密」を悠真だけに晒すこと。それは、ルナの理性的な嫉妬と不器用な忠誠心の、任務を装った「独占欲の片鱗」ではないかと。

 悠真は、ルナの背中と、そこに隠された機械の秘密を、震える指先でなぞるのだった。






みんなのリアクション

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 1. 静寂を破る遠隔狙撃
 メゾン・ド・バレットのセーフハウスは、静かな日曜の昼を迎えていた。
 ファントムとスライミーは、悠真のデスクの周りで黒い煙と水色のゼリーを揺らしながら、お互いを牽制し合っている。
 悠真は、そんなコミカルな日常に安堵していた。
「平和だなぁ……」
 ルナはリビングで端末を操作し、優雅に紅茶を飲んでいた。いつものメイド服にモノクル。銀髪のロングヘアが、彼女の冷徹な美しさを際立たせている。
 その時、ルナのモノクルが不規則に点滅を始めた。
 直後、セーフハウス全体を覆う高出力の防護シールドが稼働し、金属が不気味に共鳴するような高周波音が響き渡った。
「志藤様! 危険です! 全員、戦闘態勢!」
 ルナの冷徹な司令が、セーフハウス全体に響き渡った。
「これは、ドクター・ヴァイスの超音波ライフルによる遠隔狙撃です!セーフハウスの防護シールドは物理攻撃には強いが、このタイプの透過攻撃には弱点がある!」
 ルナは即座に立ち上がった。
「ヴァイスの狙撃は連射性能に優れているが、それゆえに狙撃位置を特定しやすい。防御担当はソフィア!」
「アリス、メイ、クロエは志藤様の周囲へ急行し、周囲を固めなさい。私は司令塔(コマンドタワー)としてゾルゲ戦と同じく遠隔指示を行う!」
 ルナの指示が飛ぶや否や、メイド服姿のアリスとソフィアが、悠真を庇うように飛び込んできた。
 アリスはライトニング-ケインを構え、小型のラウンドシールドを前面に突き出した。
「くっ! 遠距離からの狙撃なんて、卑怯だわ!」
「志藤様、お任せください!」
 クロエとメイも、それぞれの部屋から瞬時にリビングへ駆けつけてきた。
 クロエは即座にドローン『クインテット・スワーム』五機を悠真の頭上に集中させた。
「私とメイは志藤様の周囲を固めます。ドローンを集中させ、簡易的な電磁バリアを形成!」
「ク、クロエ、これで安心だよな?」
「いえ……これで防げるかは、データがないので断言できません!」
 クロエはそうコメントしつつも、悠真を護るために必死だった。
 ソフィアはグラマラスな体型を揺らし、即座にアルカナ・シールドを最大出力で展開した。
 青く輝くシールドが、リビング全体を覆い尽くす。
「これで大丈夫です。私のシールドは魔道エネルギー駆動。物理的な衝撃だけでなく、音波や高周波にも耐性があります」
 ソフィアは包容力のある笑顔を見せた。
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 2. バリアの限界とソフィアの献身
 だが、ソフィアの自信は、すぐに打ち砕かれた。
 キィィィィィィン!
 超音波ライフルの一撃がシールドに叩きつけられた瞬間、シールドは凄まじい振動に襲われた。
 防御面は歪まなかった。
 だが、その高周波はバリアを透過し、内部の空気を振動させた。
「ッ! バリアが……音波を透過する!?」
 悠真は全身の鼓膜が破れるかのような激しい頭痛に襲われる。
「うぐっ……! なんだ、これ!」
 悠真の膝元にいたスライミーは、激しい音波に呼応するように、水色の全身を震わせ、悠真の体を覆うように小さな防護バリアを展開した。
 また、ファントムも黒い煙の体を激しく揺らし、超音波の発生源を探るように、部屋の四隅に情報索敵の煙を広げ始めた。
 ドォン、ドォン、ドォン
 砲撃は鳴りやまない、そして確実にピンポイントをついてくる。
 ソフィアの体も激しく震え始める。サイボーグボディは衝撃に強いが、内部の駆動部や精密機器が共鳴し、機能不全を起こしかねない。
 ソフィアは苦痛に顔を歪ませた。
「確実に効いています! ドクター・ヴァイスはゾルゲ戦のデータを分析し、防御特化の私たちを内部から破壊しようとしている!」
 ルナは冷静に司令を続ける。
「ソフィア! バリアを維持しなさい!」
「やってるわよ!!」
「クロエ、超音波の周波数を解析! 索敵ドローンを最大出力で展開し、ドクター・ヴァイスの狙撃地点を特定する!」
「了解!」
 クロエはノートPCを叩きながら、超高速で解析を進める。
 ソフィアは必死にバリアを維持した。彼女の額からは、人間の汗とは違う、オイルのような液体が滲み出ている。
「志藤様……わ、私は……この体と、この母性で……あ、あなたを……」
 ソフィアのグラマラスな体型が、極限の献身により、悲劇的なほどに美しく見えた。
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 3. ルナの孤独な決断とエンジェル・ガードの連携
 超音波による攻撃は止まらない。バリアの警告音が悲鳴を上げ、ソフィアは限界を悟る。
「ルナ隊長! シールドの防御限界まで、あと5秒!ソフィアの生体部にも損傷が出ています!」
 ルナは即座に立ち上がった。銀髪を揺らし、モノクルの奥で状況を分析する。
「クロエ! 狙撃地点は!?」
 クロエが即座にデータを提示する。
「ルナ隊長! 無駄です! 狙撃地点は特定しましたが、距離11.5キロ。そして超音波による空気の強烈な乱れが、弾道を大きく変えます。理論上、有効なのはオリヴィア先輩のアーク・ホープによる『対重力高火力支援』だけです!」
 ルナは対物ライフル「ホーリー・シェル」の銃口を、窓の外の遥か遠くへ向けたが、クロエがそれを制止した。
「待ってください、ルナ隊長! 隊長の射撃精度をもってしても、弾道が逸れる可能性98パーセント。無駄弾です!」
 ルナは一瞬、駆動部の共鳴による激痛に顔を歪ませたが、司令塔としての意地でライフルの引き金を引いた。
「ッ……!それでも、司令塔としての一発!」
 ドドォンッ!
 対物ライフル『ホーリー・シェル』の聖水弾が発射された。しかし、超音波による空気の強烈な乱れが弾道を変える。弾丸はターゲットから大きく逸れ、虚空に消えた。
「データ通り、弾道制御不能! ルナ隊長、無駄弾です!」
 ルナは射撃を断念した。モノクルの奥に、悔しさが滲んだ。
「くそ……私の腕が、これほどまでに無力だとは」
「クロエ。これ以上リスクは負えない。超音波による共鳴で、私の駆動部も正常な動作を維持できない。本部へ支援要請を出すわ!」
 ルナは即座に、エンジェル・ガードの三人に要請した。
「ベアトリス先輩! ヴァイスの狙撃地点へ『鉄壁の秘書(ガーディアン)』を最大速度で展開! バレット隊のカバーをお願いします!」
「了解、ルナ。バレット隊のカバーは私たちの任務よ。アリスに顔向けできなくなるような失態は犯せないわ!」
「イヴ先輩! ヴァイスのライフルと周辺の電子機器へ『ジャマー』をかけ、弾道と索敵機能を乱して!軌道妨害と電子戦を要請する!」
「クロエのデータを常にチェックしているわ、ルナ。任せてちょうだい。私の弟子も頑張ってるようだしね!」
 ――その時、ルナの要請を待たずして、オリヴィアから通信が入る。
「了解、ルナ。判断が早くて助かるわ。オリヴィアよ。今の『試射』は無駄じゃなかったわよ。おかげで狙撃地点が絞り込めたわ!」
「さすがオリヴィア姉さん! あとはお願いします!!」
「こちらエンジェル・ガード、オリヴィア。M.A.総帥の指令に基づき、遠距離から援護射撃を開始する!」
 キィィィィィン!
 青い光の線が、セーフハウス上空を通過し、遥か遠くの狙撃地点へ向かう。
 11.5キロメートルをわずか0.04秒で到達する、電磁投射砲「アーク・ホープ」の強烈な一撃だ。
「ぐっ……! バカな、数的不利だ! 電子戦と同時攻撃だと!? てっ撤退、撤退だ!」
 ドクター・ヴァイスの叫びが、インカム越しに一瞬だけ聞こえる。
 エンジェル・ガードの同時攻撃により、ヴァイスは数的不利から撤退を決定した。
 彼の狙撃が途絶える。
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 4. 戦闘後の再認識とマヤへの警戒
 超音波の共鳴が止み、セーフハウスに静寂が戻った。
 ソフィアは膝から崩れ落ちた。アルカナ・シールドのバリア発生器は、超音波攻撃により内部の魔力炉が完全に破損。彼女の脇腹の生体部にも、高周波による内側からの損傷が見える。
「ソフィアさん!」
 悠真はソフィアを抱き起こした。
 彼女のサイボーグボディは無事だが、駆動部の疲労と生体部の損傷は深刻だ。
「大丈夫です、志藤様……あなたの安全が確保できたなら、それで……」
 彼女の母性的な愛情は、任務を越えて悠真に注がれている。
 ルナは素早く報告を続ける。
「ドクター・ヴァイスは撤退。狙撃は精密かつ長距離。ゾルゲ戦以上に、私たちの情報が敵に漏洩している疑いが強いわ」
 クロエは冷徹な瞳で悠真を見つめる。
「志藤様。この一連の襲撃は、あなたが『支配力』を覚醒させたことへのミストの焦りです。そして、狙撃地点は、マヤという人物の大学の行動範囲と接続するエリアです。この偶然は、もう偶然ではない」
 悠真は、マヤの優しさを信じる心と、メイドたちが命がけで護ってくれている現実との間で、激しく揺れていた。
(俺を護るために、ソフィアさんがこんなに傷ついた。彼女たちのプロとしての覚悟は、疑う余地がない。でも、マヤは……)
 ルナの冷静な声が、悠真の苦悩を断ち切った。
「志藤様。ソフィアを地下のメンテナンスルームへ運びます。応急処置を優先。そして、『アルカナ・シールド』の破壊と、超音波による駆動部への損傷の有無を、緊急で確認しなければなりません」
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 5. ルナの秘密と悠真の視線
 その日の深夜。悠真はルナに呼び出された。場所はセーフハウスの地下にある、高度なセキュリティに守られたメンテナンスルームだ。
 ソフィアはすでに、イヴ(理系オタク/ジャマー)の指示のもと、アリスやメイ、クロエが手伝いながら応急処置を受けている。
 イヴは白衣姿で、複数の精密機器を操り、ルナやクロエとはまた違う、理知的な緊張感を放っていた。
 ルナは静かに、そして事務的な声で告げた。
「志藤様。狙撃による駆動部への損傷は、私たちサイボーグメイドの致命的な弱点です。特に、司令塔である私の体は、精密なセンサーと通信機器が内蔵されています」
「私も超音波の共鳴による微細な損傷を確認する必要があります。これは任務の一環です。あなたは、外部の人間として、私の損傷確認の補助をしていただきます」
 ルナは、感情を一切見せずに、メイド服のファスナーに手をかけた。
 銀色のモノクルを外し、タイトな下着姿になる。その完璧なプロポーションと、白い肌の脇腹から背中にかけて走る、精密な駆動部の接合部が、悠真の視界に飛び込んできた。
「ッ……ルナ、その、そんな格好で……!」
 悠真は、超硬度アーマーが外された後の、完璧な女性の体が持つ色気と、その体に隠された精密機械の無機質な秘密の対比に、息を呑んだ。
 ルナは悠真の動揺を無視し、冷徹に語る。
「現実から目を背けないでください、志藤様。これは任務です。ゾルゲ戦の制裁の時にもお話ししたはずです。私たちは、あなたを護るために、自らの体の一部を機械に換装したサイボーグです」
 その時、イヴが悠真に指示を出した。
「志藤様。この小型スキャナーを、ルナの背中、特に駆動部の接続部に沿ってゆっくり動かしてください。ミリ単位の損傷が、私の弟子(クロエ)が収集したデータに影響を及ぼします」
「は、はい……」
 悠真は緊張しながら、イヴの指示に従おうとする。
 イヴはクロエを振り返り、白衣のポケットから電子ペンを取り出した。
「クロエ。ソフィアのバリア発生器の破損データと、ルナの駆動部の共鳴データをリンクさせなさい。私たちは常にデータを最優先する。この損傷確認も、極めて重要な研究の一環よ」
「はい、師匠」
「ルナ先輩! 待ってください! 私も今回の超音波攻撃で駆動部に微細なノイズを検知しました! わ、私も恋人役として、悠真くんにチェックしてもらう特権があります!」
 アリスが、ソフィアの脇腹を縫い合わせる手を止め、嫉妬の声を上げた。
「そーですよ、ルナせんぱい! メイだって超高速体術のせいで、駆動部の接合部に負荷がかかってるデータがあります! 悠真せんぱいに『優しく』点検してもらわないと、任務に支障が出ます!」
「ちょっと、メイ! あんた、さっきの戦闘で、自分の得意なことで何もできてないじゃない! 壁になっただけで、敵に有効打を与えてないくせに、便乗しないで!」
 アリスが鋭いツッコミを入れると、メイはすぐに反論できず、ぷぅっと頬を膨らませて俯いた。
 クロエは冷静に答え、自らの師であるイヴの指示に従い、分析を再開した。
 ルナは悠真に背を向けた。
「あなたたちの感情的な独占欲は、後のデータ収集に回しなさい。これは、司令塔(私)と護衛対象(志藤様)の、プロフェッショナルな任務です」
 そして、淡々と続けた。
「あなたは、私たちのプロフェッショナルな『秘密』を垣間見てしまった。これは、私たちを信じ、あなた自身の優柔不断さを乗り越えるための贖罪(あがない)でもあります。背中の駆動部を点検してください。微細な傷でも、私の司令機能に影響を及ぼします。これは、あなたの命に関わることです」
 ルナの言葉は、冷徹で事務的だったが、悠真は感じた。
 この「秘密」を悠真だけに晒すこと。それは、ルナの理性的な嫉妬と不器用な忠誠心の、任務を装った「独占欲の片鱗」ではないかと。
 悠真は、ルナの背中と、そこに隠された機械の秘密を、震える指先でなぞるのだった。